警告ダイアログをより警告っぽく
会員登録フォームなんかを入力していて、入力忘れがあると警告のポップアップ画面が出てくることがある。あれが警告ダイアログだ。
こういうやつ
「これ、警告なのに可愛すぎない?」というのが、発表者の問題提起である。プレゼン冒頭でいきなり、だ。
たぶん読者の皆様はぜんぜん共感できていないことだと思う。でもこの時点では僕も、聴衆も同じで、みんな「いや、べつに……」という感じなので安心してほしい。
ちなみに会場は大学の講堂で、めちゃくちゃ広い。
そんな広い会場を置いてきぼりのまま、プレゼンは動作デモに突入する。実際に動作している様子をどうぞ。
けたたましい警告音とともに画面を覆いつくす警告表示。今までの警告がいかに手ぬるいものであったか思い知らされる。
これは明治大学理工学部の松井集さんの作品。「可愛すぎない?」という問題提起に賛同できなかった方も、今これと比べてみると「たしかに…」という気分になっているのではないか。
こういう一発ネタっぽいプログラムが30本以上、続々登場するイベントなのである。
そのペース、3~5分に1本。休憩なんかも挟むけど、瞬間最大風速で時速20ネタ出てくる。
すごい情報量。
いちおう技術的な内容も登場するが、わからなくても差し支えない
ちなみに上の警告ダイアログ、ブラウザのアドオンになっており、同じタイプの警告を出すすべてのサイトで有効になる。邪魔くせえ。
音ゲー激戦区
つづいてもどんどん作品を紹介していこう。音ゲー(音楽ゲーム。ビートマニアとか太鼓の達人みたいなやつ)ネタがなぜか激戦区で、秀逸な作品が2つ登場したのでご紹介したい。
流しそうめんで音ゲー
音ゲーの基本ルールはこうだ。
・上からなんかバー(とか矢印とか)が落ちてくる。
・バーが画面下部にあるラインと重なった瞬間に
・バーに対応するボタンを押す
スライドより、音ゲーの画面
これが音楽のリズムに乗せて行われるので、音ゲーと呼ばれる。
ここでおもむろに、「バー」を「そうめん」に、「対応するボタンを押す」を「食べる」に置換してみよう。
・上からなんかそうめんが落ちてくる。
・そうめんが画面下部にあるラインと重なった瞬間に
・そうめんを食べる
これが流しそうめん音ゲーである。
この共通点に気づいたのは天才的
ここまできくと、画面の上からそうめんのCGが落ちてくる音ゲーでも作ったのかと予想してしまうが、彼はもう一歩先を行っている。
なんと実機です
そうめんはオートメーション化されており、音ゲーのタイミングに合わせて自動的にレーンに投入される。
その様子は、会場でも上映されたこの動画に収められている。
作者は@gutugutu3030さん。
4レーンはめまぐるしすぎて人間が到底キャッチできるレベルではないし、流すほうも、機械の投入ペースが早すぎて麺の補充が間に合わないなど、突っ込みどころは山ほどある。しかし、その突っ込みどころの多い荒削り感までひっくるめて、この発表会の魅力なのである。
振り向きを取り入れた音ゲー
もうひとつは、音ゲーのボタンを押す動きに加えて、振り向きの要素を取り入れたものだ。明治大学宮下研究室、金井達巳さんの作品。
ボタンを押すバーのほかに振り向きバーが落ちてくる
振り向きバーが落ちてきたら、後ろを振り向かないとミスになってしまう。
なぜ「振り向き」かというと、一般的に音ゲーは画面のほうを見てプレイするが、難所をうまく切り抜けた後などは、後ろを振り向いてオーディエンスにアピールしたくなるものらしい。そこで実際に振り向いてしまうと自意識過剰であるとしてウザがられるのだが、このゲームならそんな振り向き欲求も自然に満たすことができるというわけだ。
画面左上のアスキーアートには、振り向いている様子がカメラの映像で合成される
ちなみに振り向いたかどうかは、振り向いた先にあるカメラの画像を、顔認識することで判定しているらしい。
この人たち、笑いをとるために、高度な技術を惜しげなく投入しているぞ。
と同時にスライドにはこういうプリミティブなギャグも混ぜ込まれてくる
テトリスで3Dモデリング
音ゲーに続きテトリスを使ったネタも多かったのだが、僕がとくに気になったのは、津田塾大学 栗原准教授のこの作品。
テトリス3Dモデラ
3Dプリンタがもてはやされ始めて久しいけど、あれって結局3Dモデルを作らないと印刷できない。
でもモデリングのソフトは難しくて、素人が簡単に手を出せるものではない。
そこで、誰でも簡単に3Dモデリングができるようにしたのがこちらの作品だ。
3D版のテトリスになっていて、ブロックを積むとそのまま3Dモデルとして保存できる
そんなの、絶対思いどおりの形が作れなくて実用性ないだろ!というのが笑いどころなのだが、このプレゼンのすごいところは、ちゃんとおしゃれっぽくプロダクトを作っちゃったところである。
ペンたて
コースター
壁掛けフック
箸置き
しかも売ってる
ふつうにほしいレベルでいいものができてる!
これらの作品には会場から「おー」という声が漏れた。
従来のモデリングソフトと比べてこの3Dテトリスモデリングを使うメリットは、「アンドゥ機能がないので作業時間短縮になる」とのこと。後戻りできない、スタジオ一発録りみたいな感じか。豪快。
プロジェクションマッピング2選
話題のプロジェクションマッピングもフィーチャーされていた。
こちらは明治大学の湯村翼さんの作品で、キーボードにプロジェクションマッピングをして、かっこよくタイピングできるというもの。
キーボード自体が光り、キーをタイプするとエフェクトが表示されるのに加え、打ったキーワードによってキー自体の色が変わる。手軽にサイバー気分に浸れるが、キーの印字が見えないためブラインドタッチができないとだいぶ厳しいことになりそうである。
そしてこちらはミニ四駆にプロジェクションマッピング。明治大学 宮下研究室の加藤邦拓さん作。
ミニ四駆の塗装をする前に、プロジェクションマッピングで色を確かめられる
写真ではわかりにくいので、加藤さん製作の動画もご覧ください。塗るだけでなく色調を調整したり、保存しておいて後で呼び出したりできる。
プロジェクションマッピングというと東京駅やらディズニーランドやら大物のイメージがあるけど、実はツールとしてもかなり有用なのかもしれない。しかしそれをミニ四駆に使ってしまうのが、無駄感あふれていてよかった。
普通のテーマでも一筋縄ではいかない
たとえば、明治大学物理学科の若林裕太さんによる、今日のランチのお店を決めてくれるシステム。
自分の位置情報をもとに近くの飲食店を探してくれる、という一見実用的なものなのだが…
ヒットした店が自動的にツイートされる
こちらの選択の余地はなく、勝手に、ヒットした店で自分が食事したことにされてしまう。みんなに言いふらした手前、結局その店で食べるしかない、というわけだ。
このように、コンセプト(今日のランチのお店を決めてくれる)自体は一見便利そうなプログラムも発表されたりするのだが、よく聞いてみるとこれが一筋縄ではいかない内容だったりする。
デスクトップでアニメーション
たとえば動画ひとつ再生するのにも、このイベントでは動画プレーヤーを開いたりしない。
Windows標準搭載のメモ帳を500個開き、ウィンドウを出したり消したりして、画面上でアニメーションを再生する
作者は明治大学の山中祥太さん。出たり消えたりしてるのは全部メモ帳のウィンドウのタイトルバーだ。
数の暴力で攻めるタイプの動画プレーヤー。個人的に、今回一番「普通じゃない!」と感じた作品です。
手に汗握るハックの応酬
そんな感じでアブノーマルなプログラムがたくさん発表されて、発表会はそれだけで十分面白い。しかしこの発表会の醍醐味は、さらにもうひとつあるのだ。それが、飛び入り参加が可能という点。
飛び入り歓迎
ということは、つまりその場で即興で作った作品も発表できるということ。
そうすると、何が起こるのか。
たとえば、下の写真は発表会序盤に登場した作品。画面に表示された色を見て、RGBのカラーコードを当てるゲームだ。作者は明治大学理工学研究科 小池達也さん
はっきりいって人間が解くのは無理
この無理ゲーぶりがこの作品の笑いどころでもあるのだが、発表者は発表の締めに「正解したい人はハッキングしてください」と発言。
そしてそのわずか30分後、飛び入りの発表者が登壇した。明治大学FMS2年 宮代理弘さん。
ハックしてきました
不可能はなずの問題、みごとに正解!
こうしたハックの応酬が展開されるのである。これはほんと手に汗握る。
もう一例、見てみよう。
イベント序盤、明治大学宮下研究室 高橋治輝さんの発表
写真は、アクセスすると光るランプつきのUSBメモリ。このUSBメモリを自在に光らせるために、プログラムから時間制御でファイルを書き込んでやる仕組みが発表される。
(説明でピンと来ない方は動画でどうぞ→
Youtube)
これが、午後の部に突入した段階で応用編登場
次に、先の発表の応用で、USBメモリのランプでモールス信号をおくる仕組みが発表される。明治大学 宮下研究室OB 永瀬さんによるもの。この間、わずか2時間ちょっと。
そしてさらに2時間後、今度はその逆で、USBメモリから送られたモールス信号を読み取って、テキストを復元するプログラムまで作られてしまった。最初はUSBメモリの光を操るだけだったのに、あっという間に通信手段として確立されてしまったのである。
瞬時にこういうものが作れてしまう技術力もすごいのだが、それをその場で発表できてしまうこの会の自由さもすごいではないか。
来年も絶対見る
この発表会は、明治大学の宮下研究室が主催で毎年開催しているもの。
最後に、研究室の宮下先生と、運営委員長の高橋さんにうかがったお話を。
もともとは、市販本のサンプルプログラムから離れてオリジナルのプログラムを自由に作ってほしいという思いから、宮下先生が「普通でないものを発表する」という課題を出したのが発端だったそうだ。それが好評だったため、翌年からイベント化されたとのこと。
発表内容に加えて、さっき僕が「ハックの応酬」としてご紹介したようなコール・アンド・レスポンスもABProの醍醐味で、発表しながらも皆さらに実装を続けている、というのも面白いところ。
発表内容は毎年バラエティに富んでいて、新技術や話題のガジェットもすぐに投入される。と同時に、Wordのマクロでマリオを作るとか、今年なら音楽制作用のソフトでゲームを作るとか、動作環境自体も「普通じゃない」の要素の一環になってきているそうだ。
そういうわけで、もはやその「普通じゃない」のあり方すら「普通じゃない」感じになってきているこの発表会、来年はどんな異常なプログラムが出てくるか、絶対にまた見に行きたい。
FLStudioという音楽ソフト上で動くゲーム(フォルダアイコンを動かして上から降ってくるりんごをキャッチする)。明治大学FMS1年、小渕さん作