ほんとにかわいすぎる軽便鉄道
とにかく、どれぐらいかわいいのか、まずは写真を見ていただきたい。
色づかいがファンシー!
ほら、かわいいでしょう。
ぼく自身の写真技術の拙さを差し引いてもそのかわいさはご了解いただけるものと思う。
ぼくは鉄道に関しては実際に乗ったり、路線図を眺めたりするほうがすきで、いままで電車の車両そのものにはあまり興味がなかったのだが、この通勤電車を見た時は不覚にも「かわいい!」と思ってしまった。
青くてかわいい
いやほんと、どこから見てもかわいい。こんなかわいい通勤電車がコトコトと町の中を縫うように走ってるわけで、これがかわいくなくてなにがかわいいというのか。
細いのは特殊狭軌だから
で、このかわいい通勤電車、なぜこんなにほっそいのか?
実はこの通勤電車「特殊狭軌」とよばれる特殊な軌間の路線なのだ。
電車の幅は、レールの幅によって決まる。レールの幅が広ければ大きな車体になるし、狭ければ細くなる。
このレールの幅のことを軌間(きかん)といい、日本の鉄道は1067mmの「狭軌」と呼ばれる軌間を採用している鉄道が多く、ついで新幹線や私鉄、地下鉄など、一部の鉄道に1435mmの「標準軌」と呼ばれるものが使われている。
幅が1435mmの標準軌(近鉄)
幅が762mmの特殊狭軌(内部・八王子線)
そして、1067mmよりもさらに狭い762mmしかないものが「特殊狭軌」で一般的に「ナローゲージ」「軽便鉄道」などともよばれている。
気軽に乗れる軽便鉄道は三重県にある2ヶ所だけ
こんなにかわいい軽便鉄道。敷設にお金がかからなかったこともあり、昔は日本各地に存在した。
しかし1960年ごろからモータリゼーションの波におされ、どんどんなくなっていき、現在、旅客営業をしている軽便鉄道は、三重県にある近鉄内部・八王子線と三岐鉄道北勢線、富山県の黒部峡谷鉄道本線の3ヶ所しか残ってない。
しかも、そのうち通勤通学などで使われる軽便鉄道は三重県の2ヶ所だけだ。今回、その2ヶ所を訪ねて実際に乗ってきた。
田園風景の中を走る「北勢線」
まず向かったのは三岐鉄道北勢線。
三岐鉄道は以前、
当サイトでも取り上げた貨物鉄道博物館がある三岐線と、北勢線のあるローカル鉄道だ。2路線あるうち、ナローゲージなのは北勢線の方だ。
三岐線とバスを使って北勢線の終点阿下喜駅に向かう。
こざっぱりとしたきれいな駅だ
駅にはすでに細面の車両が発車を待っていた。どうですこのほそおもて。
夏目漱石の「坊っちゃん」に出てくる「マッチ箱のような汽車」というのは軽便鉄道の汽車をたとえたものらしいけど、確かにマッチ箱みたいでかわいい。
かわいいなー
かわいいにもいろいろあるけれど、七五三でカッコイイスーツを着た子供のようなかわいさがある。
緑とクリーム色のツートンカラーもかわいい
見た目が細いので、中もどんだけ狭いんだ。と思いきや、人が乗っていないとそれほど狭くは感じない。
人がいないとそんなに狭くは感じない
足をなげだすと、前に座っている人の足にぶつかりそうにはなる
しかし、好きになったらあばたもえくぼ。そんな窮屈な車内でさえチャーミングに見えてきてしまう。
能年玲奈のへんなしゃべり方だって「そこがかわいいじゃないか」となるようなもので、軽便鉄道は車内がせまいのがかわいいところじゃないか、と。そういうことです。
車両のすみにトイレが……と思ったら冷房だった
軽便鉄道はレールの軌間が特殊で、ほかの鉄道路線で使っていた車両のお古を持ってきて使う……みたいなことができないため、車両の更新などもなかなか難しいところがある。
しかし、北勢線は車内にかなりでかい冷房設備をつけるなどして、なかなか健気に頑張っている。トイレかと思ったけれど。
阿下喜駅から西桑名駅まで46分ほどで到着する
そもそも近鉄の路線だった北勢線は赤字のため廃止寸前だった。ところが、地元住民の貴重な移動手段でもある鉄道をなくしたら困る、ということで住民や自治体がなんやかんやでふんばったおかげで、三岐鉄道に運営が移管され、ひとまず廃止されずに済んだ。
このエピソードさえかわいく思えてくる。
もう、人気が無くなったからと事務所をクビになったアイドル(野球選手でも可)が、ファンに支えられ、再起を図ろうと奮闘している……とっても胸打つエピソードじゃないですか?
じっさい、阿下喜駅前の和菓子店では「軽便煎餅」を売っていたり、駅でグッズの販売に力を入れていたりと、地元のひとたちは日本でも珍しいナローゲージの鉄道をなんとか盛り上げようとしていた。
軽便煎餅。プリンターでプリントアウトした自家製包装紙が泣かせる!
軽便鉄道がかわいいということがもっとちゃんと周知されれば、この電車自体が観光資源になる可能性もあるかもしれないのだ。
そう、ダイヤの原石かもしれないんです、この子たちは!
パステルカラーが映える「内部・八王子線」
さて、冒頭で写真をいくつか紹介した内部・八王子線。これがまた北勢線を上まわるかわいさを持っているのだ。
内部・八王子線は本来、内部線と八王子線の2路線に別れるのだが、途中まで同じなので内部・八王子線とまとめて呼称されることが多い。
近鉄四日市駅から市内の内部駅まで行くのが内部線。西日野駅まで行くのが八王子線だ。
そんな内部八王子線のホームは、湯の山線の高架の下にひっそりとある。
かわいさの中にもなにか物憂げな雰囲気がある
周りのコンクリートの灰色に、車体のパステルカラーがいっそう引き立ってみえる。写真集でいうと和室で水着を着ている写真である。
来年、近鉄から独立します
「すぐ横が自転車駐輪場」というところもなぜかかわいく思えてしまう
いってきまーす
内部・八王子線は、現在近鉄の路線ではあるものの、来年から近鉄から経営分離され「四日市あすなろう鉄道」がスタートすることになっている。
寒色系の色使いもかわいい
近鉄は、路線廃止したうえで、バス高速輸送システムに変更したかったらしいのだが、地元住民と四日市市が鉄道での存続を要望したため、公有民営という方式で存続することになった。
日永駅での内部線と八王子線のすれ違い
車両のこの色は、沿線に住む子供たちの意見を取り入れて2004年からこのカラーリングになったらしい。さすが子供のセンスは侮れない。
かわいいなー
パステルカラーで色がうるさくないので、意外と街の風景にも溶け込んでいる。
日永駅に車両が並んでるところは本当にかわいい
車乗ってるから、普段使わない
泊駅にいた熟年夫婦に話をきいてみた
実際、沿線に住んでいる人は内部・八王子線についてどう思っているのか? 泊駅の待合室で電車を待っていた年配の夫婦に話を聞いてみた。
――内部・八王子線はよく利用されるんですか?
「いやぁー、しないね!」
――しないんですか?
「しないね、みんな車のってるから……」
――今日はどうして、電車乗るんですか?
「ぎっくり腰になっちゃって、だから隣駅までなんだけどね、病院行った帰りなんだわ」
――そうですか、地元の人はあまり乗らないんですかね?
「だろうね、みんな自動車乗っちゃうから」
――電車がかわいいなーと思って写真撮りにきたんですが、おすすめの場所とかありますか?
「……さぁ?」
――そうですか……。
地元の、特に車に乗ってる人はあまり電車に興味がないらしい。しかたのないことでもあるけれど、それがまた内部・八王子線のかわいいところでもあるのだ。
このキュートさが身近すぎて気づかない。幼なじみだけど……よく見るとお前かわいいじゃん。みたいな。
よくみるとかわいいじゃん
自分の価値にまだ気づいてないダイヤの原石。四日市にもありました。ぜったい、バスよりも電車のままのほうがかわいい。
今後が楽しみだ
内部・八王子線は、赤字路線とは言うものの、実際に乗った所そこそこ乗客が多く、本当に赤字なの? というぐらいは人が乗っていた。
ただ、それだけにこの電車自体が観光資源になりそうという意識もあまりなく、北勢線ほど熱心な売り込みはなかった。
今後、経営母体が代わるとその辺も変わってくるかもしれない。
いずれにしろ、ナローゲージの通勤電車は貴重なので、ぜひこのまま残って欲しいと切に願うばかりです。