耳なし芳一を作らねば
耳なし芳一の話の内容はみなさんご存じだと思うので詳細は割愛するが(忘れちゃったよという方は
こちら)、琵琶法師が怨霊に耳をとられてしまうというストーリーだ。
耳だけ般若心経を書き忘れるといううっかりミスが原因の、悲しい話である。
なんの罪もない芳一の耳がとられてしまうという理不尽さに、思わず同情してしまう。
そんなかわいそうな芳一に耳を足してあげたい、と思うに至った。
我ながらなんと人道に篤いことか。
困っている人には手をさしのべたい。
ほういち君の素
というわけで、耳なし芳一に耳を足すには、まずは耳なし芳一を作らねばなるまい。
そこで向かったのが100円ショップのダイソー。
ここに発泡スチロール製の頭部マネキンが売られているのだ。
お値段は630円。
だれがこんな物買うんだろうと思いつつ陳列棚にずらり並んだ頭のうちの一頭(という単位でいいのか)をカゴに入れて売り場を歩いていると、見知らぬおばさんから声をかけられた。
「その頭、どこにあるんですか?」
ずっと欲しくて探していたんだそうだ。
需要と供給という言葉を改めて深くかみしめた。
わかりにくいが、和紙を全面に貼った
作成にとりかかる
買ってきた発泡スチロールの頭。
このままでは塗料が乗らないので、和紙をちぎり、水で薄めた木工用ボンドで全面に貼った。
そして乾いたらその上からポスターカラーで色を塗る。
ざっと2行で説明してしまったが、ここまでの工程で2日かかった。
お経でメイクする前のほういち君ができました
色は塗り直した
最初はもっと暗い色で塗ったのだが、ちょっとしゃれにならん感じの不気味さになってしまったので、もうすこしポップなように塗り直した。
絵の苦手な僕は、直接これに顔を描いてしまって失敗して2日間の努力が無駄になってやけくそになってビールを飲んでふて寝してしまうのがいやなので、別の紙に書いて貼ることにした。
芳一はたぶん目を閉じているはずだけれども、閉じた目がうまく描けなかったので、かっと見開いたかたちとなってしまっている。
失敗してもいいように、目と口は別の紙に書いて貼った
お経を書かなくちゃ
ベースとなる芳一ができた。
表情がつくと愛着が湧くもので、いつのまにか彼をほういち君と呼んでいた。
ほういち君にお経を書かねばならない。
画像検索したら、おでこにはこんな「引」みたいな模様が書いてあったのでまねした
また詳しい工程は省くが、お経を書くのがとってもたいへんだった。
般若心経を2回半ほど書いたのだが、般若心経というのは似たような文字列の繰り返しで、途中でどこまで書いたかわからなくなるのだ。
知らない字もいっぱいでてくるし画数は多いし途中で誤字に気づくし、耳を書き残したのは、あれはうっかりミスじゃなくて、書き忘れに気づいたけど書き足すのが面倒だから気づかなかったことにしたんじゃないか、と思ってしまった。
書き始めたけど
まちがえちゃったりしてもう面倒なんだから
写経
いちおう写経ってことで、精神統一になるかと思ったけど、どうもこういう単純作業をしているとあっちこっちに思考が飛んでしまい、まったく集中できなかった。
たぶん写経むいてないな、俺。
途中から一杯やりながらの作業で、ばちあたりだったかもね
ほういち君完成
いっそのことテプラで出力して貼ってしまおうかと思ったけど、さすがにほういち君に悪い気がするのでがんばって書いて、ほういち君を完成させた。
ほういち君完成しました
やはり不気味だ
できあがったほういち君を連れて散歩をしてみたのだが、やはり不気味さは否めない。
一刻も早く耳を足してあげなければ。
公園のベンチで休憩するほういち君
くつろぐなあ
ブランコに乗るほういち君
公園っていいよね
耳を足してあげよう
このままではかわいそうなほういち君。
耳を足してみよう。
ネズ耳ほういち君
ブタ耳ほういち君
サル耳ほういち君
何がしたかったのか
…。
なんだろうかこれは。
僕は何がしたかったんだろう。
暗闇の方が耳なし芳一っぽさが醸し出せるかと思い、夜中の3時にベランダで三脚を据えて撮影しているのだが、思わずこれまでの僕の来し方行く末を考えてしまいそうなほどの虚脱感にとらわれた。
あまりにも不毛だな、この作業。
ウサ耳ほういち君はちょっとキュートで逆に引いた
8月27日のエキスポで展示します
ウサギの耳を足してあげたらちょっとかわいくなったほういち君。
8月27日(土)に開催のイベント
「恐怖!デイリーポータルZエキスポ」にほういち君を展示します。
みなさんもお好きな耳を足してほういち君と記念写真を撮ってください。