編集部古賀さんの日記の本が売れている。
このツイートをきっかけにまた売れているらしい。
・日記は1日のことをまるまる書こうとせずに5秒のことを200字かけて書くと良い
・感想禁止
これが古賀さんの日記の書き方だそうだ。
編集部内の個人活動についてはあまり触れてこなかったが、売れているので安易に尻馬に乗ることにしたい。
デイリーポータルZ読者にはおなじみの古賀テンションだが、日記本で古賀さんを知った人にはこのテンションで良いのか不安になる。
だって本ではこんな感じである。
PCのファンの音がとまり、IHコンロのファンの音もとまり、私以外には誰もおらず、すると一気に静かになった。うるさく感じていたわけでもなかった音がやむ、その瞬間の雰囲気が好きだ。 (「ちょっと踊ったりすぐにかけだす」 p.236)
生活のなかの一瞬を描写している。
この日記の書き方を習うために散歩してその様子を書くことにしたい。習うのは林。編集部の橋田さんにも話し相手として散歩に同行してもらった。
まずは散歩の様子をいつものデイリーポータルZ風にざざっと記し、そのようすを古賀・林がどのように日記にするかを検証したい。
まずはいつものデイリーポータルZっぽく散歩の様子を書きます。
散歩・デイリーポータルZ風
古賀「日記ってインナーな文芸なんでめっちゃセクシーじゃないですか、一緒にいる人のこととかを匂わせたり。だから私は家のことしかかないようにして。私の日記はシットコム。家の中で完結する。今はなんでも書いてよしというのは自由です。」
林「消防車が通ったら会話が止まりましたね」
古賀「それは林さんっぽいですね。そこをピックするのは」
古賀「めっちゃ飛んでますね。」
林「さっきのデルタはアトランタからでした。」
古賀「ロマンあるなー」
橋田「かわいそう、林さんがあんなに何回も乗れなかったのに」
(注:林が渋谷上空を飛ぶ飛行機に乗ろうとして4回失敗した)
林「安藤さんが火頭山だと思っていた山頭火」
古賀「『んめーらなのに』」
林「『うんめー!』の活用形だと思ったのかな。」
古賀「安藤さんらしい」
林「会話がフックになりますね。古賀さんの子どもが言ったケグソはいいですね。」
息子を呼んで3人でやってみたところ、全員弱くて笑った。ぜんぜん言葉が出てこない。「『け』で始まる言葉自体がそもそもなくない?」
「『けむし』しかない。あとぎりぎり『けいと』」
「あ、おかあさん『毛糞』は?」
「毛から糞は出ないからな」
という具合。
(「ちょっと踊ったりすぐにかけだす」p.199)
古賀「人が言ったことはめっちゃだいじです。」
林:ここのお稲荷さん、凄くコンパクトですね。鳥居をくぐって90度曲がるんですね
古賀:めっちゃ自由ですね。
林:嬉しくなって3回やってしまった
古賀:ガバナ!
林:ガバナいいですね
古賀:ガバナってなんだろう
古賀:橋田さんきょうおしゃれですね
橋田:これ地味ハロの衣装
古賀:なんの衣装ですか?
橋田:…えーとねえ、これ卒業式にいる来賓の人。ここに大きな花をつけて
古賀:近所の住区センターから来る人
橋田:誰?っていう
林:地味ハロウィンの説明をするときにみんな一瞬照れますよね
橋田:分かってもらえるかが不安で
古賀:ん、なんすか?モヤモヤさまぁ~ずみたいになってきましたね。われわれ。
林:こういうのでいいんですか?
古賀:ちょっと違うけど気になりますね
林:この建物、さつき企画ってかいてある。
古賀:五月みどりの家?どういうこと?
林:金王八幡の前に食器屋があるんです。男女七人夏物語のブーツグラスはここで見かけました
古賀:ちっちゃい やかんとかいいですね。
古賀:この文字がでかい
林:湯だけでも相当でかい
散歩のようす・古賀日記
さてこのような30分程度の散歩を古賀さんが日記に書くとこのようになる。
夕方、普段一緒にデイリーポータルZを作っている林さんと橋田さんと、日記を書くための散歩に行くことになった。私の日記の書き方にまつわるツイートがバズったから、それを記事で紹介してくれるそうだ。幸甚なことだ。とりあえず30分そこいらを歩きましょうと林さんが行き、後ろから橋田さんがスマホで動画を撮りながらやってくる。信頼する仕事仲間が急に教わるみたいな態度をするからめちゃくちゃうれしくなって、私は得意げに日記のことを説明した。
渋谷の上空は低空で飛行機がゆき、みんなで見上げる。林さんがすぐに調べてあれはアトランタから飛んできた機体みたいですと教えてくれた。大通りを離れて住宅街に入るとあちこちにやたらにでかい屋敷があり感心して見入る。等身大の犬の陶器の置物を門前に置く家があった。LOOPの電動キックボードと、ポケモンGOを操作しながら自転車をこぐ人に追い抜かされた。異様に狭い間取りのお稲荷さんがある。大物演歌歌手の家らしきお屋敷を発見し盛り上がる。神社の前のでっぱりみたいなところに座った女性がポーズを撮るのを良さそうなカメラを持った人が撮影して、その近くの食器問屋を林さんが案内してくれた。橋田さんは自他ともにみとめるかつ丼好きだけど、かつ丼用の鍋を見てもそれほどこころはふるえないようだ。30分きっかりで帰ってきた。情報を取りに行きながら歩くと30分で半日分くらい可笑しい。
デイリーのレポートで取り上げてなかった
・等身大の犬の陶器の置物を門前に置く家
・ポケモンGOを操作しながら自転車をこぐ人に追い越された
・(橋田さんが)かつ丼用の鍋を見てもそれほどこころは震えないようだ。
といったディテールが拾われている。でかい犬の置物は気になっていたけど、橋田さんのカツ丼の鍋への反応は見てなかった。
同じ30分でも視点が違うし、これが5秒の出来事を200文字で書く古賀メソッドか。
デイリーポータルZの記事が古賀さんの世界で描かれている。
散歩のようす・古賀メソッドを意識した林
古賀さん教えを意識して散歩を書いてみた。
2023.10.27
古賀さんと橋田さんと散歩。会社から恵比寿方面に向かって歩いてみる。
少し行ったところに小さいお稲荷さんがあった。社の横に鳥居がある珍しい配置。鳥居をくぐったらピッと左に90度回転しないといけない。片足を半歩引いて回れ右、みたいな動きがおもしろくて3回やってしまった。
お稲荷さんの隣にあった東京ガスの施設を古賀さんが勢いよく「ガバナ!」と発音していた。
橋田さんが白いジャケットを着ているのは地味ハロウィンの仮装のためで、テーマは「小学校の卒業式の来賓」と照れくさそうに教えてくれた。それを聞いた古賀さんが「住区センターから来るような」と言っていた。ジューク?重苦?と思ったが目黒と足立にはそういうセンターがあるらしい。
今日も渋谷上空には飛行機がたくさん飛んでいる。それを見るたびに橋田さんが「林さんが気の毒」と言っていた。「もう飛ばないで!」とも。
会社の近くに戻り、会社の隣りにあるラーメン屋の文字のでかさを3人で笑う。「湯」の文字だけでも2m以上あるだろう。でかい看板の前を歩く古賀さんと橋田さんの写真を撮ったらアビイ・ロードのジャケットのようになった。そう思ったが後で見返すと全然違う。
普段の文章とあまり変わってないが、起きたこと・見たものを描写することを意識した。
喩えたり展開してうまいこと言ってやろうとして筆が止まることがなかった。
『90度回転稲荷選手権があったら優勝』みたいなことを書いて古くなることがない。
しかし行動を描写するほうが対象の人を丁寧に扱っている気分になる。
「ガバナ!」や「もう飛ばないで!」とか、関係性のスナップショットのほうがむしろ味が濃い。
この日記について古賀さんからのコメントはこちら
林さんはもともとエピソードとことばの世界の人だから、ガバナとかジュークとかに反応しているのはなるほどなと思いました。
同じメソッドでも感心によってすくうことが違いますね。
橋田さんとの飛行機のコミュニケーションは背景があって説明しづらいんじゃないかと思っていたのですが、コンパクトにまとめてあるのがさすがです。
>後で見返すと全然違う。
さいごをとほほにするのが林さんの圧倒的サービス精神で感じ入りました。
最後をとほほにする、とあらためて指摘されるととても恥ずかしい!たしかに飛行機のエピソードは続きものだからわかりにくいですね。これは日記云々ではなくただの推敲という気もする。
という発明で書かれた古賀さんの日記がこちら。
※このリンクからお買い物していただくとアフィリエイト収益が運営費の支えになります!