特集 2021年1月16日

強烈な寒波が押し寄せた年末年始!今年の冬はどこまで続く?〜1月の天気〜

今月の天気の流れを解説する「今月の天気」。1ヶ月という長いスパンで、その月の天気の特徴や仕組みを見ていく連載です。解説は天気が好きすぎる気象予報士、増田雅昭さん。ついでに、ライターが気になる天気の疑問もぶつけます。

今回は1月の天気を伺いました。(本連載は1ヶ月の振り返りと見込みをお伝えするもので、詳しい予報は行っていません。今日、傘がいるかどうかを知りたい方はウェザーマップなどの専門サイトをどうぞ)

ここの文と対談まとめ:小野洋平(やじろべえ)
 

1977年滋賀生まれ。お天気キャスター。的中率、夢の9割をめざす気象予報士です。 好きな言葉は「予報当たりましたね」。株式会社ウェザーマップ所属。
ツイッターでも気象情報やってます。(動画インタビュー)

前の記事:気温がアップダウンする今年最後の月〜12月の天気〜

> 個人サイト ウェザーマップ・増田雅昭 ツイッター @MasudaMasaaki

北陸の大雪は「引きの冬型」

林
この連載も1年続きまして、2回目の1月となりました。いつものように今月の天気を教えてください。(取材日は1月7日)
増田
1月の上旬は年末から続く強烈な寒波が来ているため、かなり寒いですよね。けど、中旬は落ち着きそうです。
林
少し暖かくなりそう?
増田
そうですね。ただ、下旬はわかりません。一年で一番寒い時期ですから、もう一度強烈な寒波が来るかもしれませんね。
林
まだシベリアからは寒波が出発してないんですか?
増田
現時点ではまだ見えていません。おそらく下旬に来ると思うんですけどね。
林
先ほどニュースで「爆弾低気圧が来ています」って話があったのですが?
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2021年1月7日の天気図・気象庁ホームページより
増田
昨年にもお話しましたが、1月はシンプルな冬型(※)です。そして、その冬型には「押しの冬型」、と「引きの冬型」があります。

※冬型…西に高気圧、東に低気圧がある気圧配置。日本海側には雪が降り、太平洋側は晴れることが多い

林
それぞれ、どんなものでしたっけ?
増田
シベリアからの高気圧が強い場合は、寒気を押し出すように風が吹くため「押しの冬型」と言われます。
対して、アリューシャン列島の方で発達した低気圧が糸を引くようにグルグルと寒気を引っ張り込むのは「引きの冬型」と言われます。
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左が「押しの冬型」、右が「引きの冬型」
増田
年末はシベリアの高気圧がかなり強く「押しの冬型」でしたが、年始は高気圧が年末に比べて弱まった一方、低気圧が急速に発達して「引きの冬型」に。
日本海側に大雪を降らして、関東にも強い風を吹かせたわけですね。
林
そうでした。では、中旬はどちらも落ち着いていると?
増田
はい。少し穏やかになると思います。

今年の冬は2005年と似ている?

林
前回の記事で11月に雨が全然降らなかったため、12月に降るかもってお話があったと思うのですが……降らなかったですね。
西村
天気は揺り戻しがあるってことを学びましたもんね。
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先月の月一天気から…
増田
キャリーオーバーです(笑)。どっかで降ると思いますよ……。
林
どうして降らなかったのでしょうか?
増田
関東に関して言えば、これだけ雨が降らないのは、寒い冬の証拠なんです。12月半ばから寒気が次々とやってくるようになり、冬型の天気が多かったため、どうしても東京は晴れる日が多くなっていました。
日本海側にはしっかりと雪を降らせ、乾いた空気だけが関東に来ていたんです。
林
関東に雨が降っていなくとも、日本海側で雪が降っていれば、辻褄は合っているんですか?
増田
地域全体で見ると合っています。
西村
ちなみに12月の降水量は何mmでしたか?
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東京の雨の少なさ・気象庁ホームページより
増田
東京は13mm。少ない年になると12月の降水量0mmもありますからね。
林
すごいですね。
増田
本当に寒い年は降らないんです。
僕の記憶にあるのだと2005年~2006年の冬。この時は「平成18年豪雪」と言われ、歴史的な豪雪があったんです。12月から日本海側は今冬以上の大雪が降り、太平洋側は晴れ続きでした。
林
今年に似ている?
増田
今年と似ていますが、もっともっと寒い冬でした。
加藤
その年もラニーニャだったんですか?
増田
ラニーニャでしたね。けれど、年を越した2006年1月21日だったかな? やっと東京にも雪がどかっと降り、10cmも積もりました。
林
大逆転ですね。
増田
そうですね。ただ、この年は、2月にはもう冬が終わっていた感じでした。
正直、12月〜2月までずっと寒波が続くのは難しいものです。今年も12月〜1月に寒波が来ているので、1月下旬とか2月上旬に雪が降ったら、意外と2月には早めに冬が終わるんじゃないかな?
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世界一の豪雪都市・日本

林
先月の29日に中心気圧1084hPaが記録されましたが、高かったですね。
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2020年12月29日、1084hPaという記録的な高気圧が登場したときの天気図(気象庁ホームページより)
増田
びっくりしました。年末年始のこんな時に出たかと思いました。
林
どうしてこんな数値が出たんですか?
増田
簡単に言えば、現地がものすごく寒かったからです。先ほどのお話の通り、「押しの冬型」、シベリアからの高気圧がめちゃくちゃ強かったんです。
林
寒いとヘクトパスカルの数値も大きくなるんですか?
増田
冷たい空気は重く、地面付近に溜まっていくため、空気の押す力=気圧が強まるんです。つまり、それだけ寒波の押しが強かったわけですね。
林
逆に暖かくなって、空気が軽くなると、低気圧になる?

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増田
そうです。今の時期は高気圧が多い大陸ですが、そこにポコっと低気圧が発生すると、「春が近いなぁ」と感じられるんですよね。というのも、低気圧が発生するということは、寒かった大陸が暖かくなってきている証拠ですから。
林
低気圧で春の訪れを感じられるわけですね。
増田
はい。大陸だけでなく、日本においても次々と低気圧が来るようになれば、春が近いと感じていいですよ。
林
連載を通して、高気圧は晴れ、低気圧は雨、みたいな単純なイメージでしたが、低気圧は暖かい空気なんですね。
増田
ちなみに高気圧は晴れですが、なぜ日本では雪が降るのか。それはシベリアからの冷たい空気が日本海を渡って来るからです。
そこで湿気が補給され、雪雲になり、日本海側に雪を降らします。もし、日本海がなければ、日本も大陸と同じで寒いだけ。
西村
人が住んでいる場所で、これだけ雪が降るのは日本だけですよね?
増田
世界的に見ても珍しいです。世界有数の豪雪地帯ですね。なんといっても積雪の深さの世界記録を持っているのは日本ですから(笑)。
林
ヨーロッパに比べると、日本って雪も多いし、地震も多いし不安定ですよね。
西村
山脈のすぐそばに大きな海があって、その向こうから高気圧が来るわけですから。
林
雪を降らせるためにゲーム感覚で作ったような地形ですよね。

初霜の観測は人の目

林
気象庁の初霜って、どのように決めているんですか?
増田
東京の場合だと、虎ノ門の気象台の敷地に霜が降りているのを人の目で観測しています。
林
虎ノ門のどこですか?
増田
気象台の敷地周辺にある、植え込みとか土の上らしいですよ。
西村
でも、霜って建物の影にあったり、日向にはなかったりするじゃないですか?
増田
おそらく、霜が降りるのって夜明け頃までですよね? なので、日はあまり関係ないと思います。
林
初霜の観測は葉っぱですか?
増田
地面や草木だと聞きました。
加藤
東京の気象観測地点って「北の丸公園」に移動したんですよね? 霜は虎ノ門で観測して、気温は北の丸公園っておかしくないですか?
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直線距離で3キロ。環境もオフィス街と公園なので違う
増田
おっしゃる通り。北の丸公園で測っている気温を見たら霜が降りるくらい冷えているはずなのに、街中にある虎ノ門では霜が降りていないなどの問題は発生するかもしれませんね。
林
初霜の観測って、桜の時のように課長らしき人がやってきて、確認みたいことをしているんですかね?
増田
多分、TVカメラが来ていないと、桜のように大々的にはやらないと思います(笑)。
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復活を願う、生物季節観測

加藤
今年から生物季節観測(※)を大幅に縮小したんですよね?

※生物季節観測…全国各地の気象台(気象庁の出先機関)で実施されている観測のひとつで、動物や植物の様子を観測したもの。観測された結果により、季節の遅れ・進み、気候の違い、変化など総合的な気象状況の推移を把握するのに用いられる。

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気象庁はこんな動植物を観測していた(気象庁ホームページ・生物季節観測より
西村
エンマコオロギやシオカラトンボまで。
増田
これでもどんどん減っていったんですけどね。
林
昔はもっとあった?
増田
ありました。観測するのが大変だし、環境も減っていきましたから。また、気象台の人が減っていったのも要因だと思います。
加藤
そもそも気象庁の仕事なのかって思いますけどね。
林
例えば、トカゲの初見を見ると4月くらいに出てくるんですけど、これってわざわざトカゲを探しにいくんですか?
増田
時代によると思うんですけど、通勤の途中に見たとか、観測時に外に出たらいたとか、そういうことが多かったみたいです。
林
アバウトですね。
増田
以前、ある気象台で聞いた話では、カエルがたくさん出るスポットがあって、そこも覗きに行くって言ってましたよ。
林
スポットを知っていると早そうですね。
増田
そうですね。動物や植物以外に、昔は人間の季節の行動も観測していましたよ。
林
え?
増田
1960年代辺りまでは「火鉢初日」や「蚊帳初日」などがありました。
西村
たしかに今、使わない物は廃止されちゃいますよね。
林
今だったらダウンでもいいですよね?
増田
そうですね。「水泳初日」もあったみたいです。当時はプールというより川や海でしょうけど。
林
面白いですね、その仕事。ぜひデイリーポータルZで引き継ぎたい。
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生物季節観測の対象たち
増田
昔はゆとりがあったのかな。そして、今はデータが増えたってことなんでしょう。
林
今では桜くらいしかわかりませんよね。
加藤
桜は動かないですし、クローンだから一斉に咲きやすいんですよね。
林
なるほど。
加藤
あとはイチョウ。品種も少ないから残しやすい。
ちなみにイチョウって中国の奥地でひっそりと育っていたんですが、綺麗だからって園芸種として全世界に広まったんです。なので、野生のイチョウって中国のごく一部でしかないんですよ。
林
日本にあるのも園芸種なんですね。
加藤
そうなんです。百人一首にもイチョウって出てこないじゃないですか?
西村
たしかに。あれだけ色が綺麗なのに俳句にも出てこないですね。
加藤
生物季節観測は博物館とかが引き継けばいいのにって思いますけどね(笑)。
林
一応、気象と関係があるからやってたんですよね?
増田
季節や気候の移り変わりですね。今ではコンピューターによる予測が発達して、一ヶ月先、半月先はこういう天候になりそうだって先読みができます。
けれど、当時はそんな先まで読めなかったわけです。そうなると、今はなにが起こっているのか、どう変化しているのか、例年とどう違うのか。季節の変化に敏感になって、この先を読もうとしていたのではないでしょうか。
西村
動物や植物は季節の変化に敏感だから、それを観察することによって、予測に繋げられたってことですね。
増田
はい。農作業にも直結しますしね。
林
暦の考えにも近いですね。あの星座が出たらこの季節だとか、環境の変化で読もうとするのは。
増田
そうですね。気象台への問い合わせも今よりあった時代ですからね。
林
一般の方が問い合わせるんですか?
増田
はい。季節の変化はどうですか?って。今もいるはずですよ。
林
これをどういう風にやっているのか気象庁に聞きたいですね。
加藤
観測していた人に話を聞きたいですね。
西村
これだけで記事が一本、書けそうですね。
増田
あまり困らせないでくださいね(笑)。
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前回の答え合わせ

Q.日本の今年12月中の最低気温は何度でしょう。小数点以下1桁までお答えください。
A. - 32.6℃(12/31 北海道の幌加内)

幌加内はここです 

増田
記録的です。12月としては、富士山を除いて過去2番目に低い気温でしたよ。
林
すごいですね。
増田
温暖化してるから低温の記録なんて簡単に出ないと思ったけど。
西村
富士山を除いて過去1番っていつですか?
増田
1907年、帯広の-34.2℃。明治時代です。
林
正解はいませんでしたが、一番近いのがメロポンさん(-25.6℃)ですね。おめでとうございます!
増田
おかしいな。気温クイズはいっぱい応募があるはずなんだけど……(笑)。
林
年末年始で忙しかったんでしょうね。

今回のクイズです

林
今月はどうしましょうか? 参加しやすいものが良いですね。
増田
雪の降る日数にしましょうか。まだ初雪も降っていないので。(編集注:この対談は1月7日に行いました)
Q. 1月中に東京で雪が降る日数は何日でしょう(気象台の観測により)。

クイズの締め切り:2021年1月20日
 
増田
ちなみに、みぞれは雪として観測されるので、思っているよりも意外と多くなると思いますよ。
林
ヒントはありますか?
増田
2020年は4日、2019年は2日、2018年は4日、降りました。
林
雪って夜通し降り続けたら2日のカウントになるんですか?
増田
はい。23時から降り、24時1分まで降っていたら2日のカウントになりますよ。
林
わかりました。この際だから外出しない緊急事態宣言中に雪が降ってほしいものですね。
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