わさびを効かすには噛みやすい白身
浅見さんも言っていたが、この結果はネタの切り方や状態、部位や天然養殖の違いなどによっても変わってくる可能性がある。しかしおおすじ言えることは、噛みやすい白身、これがわさびを楽しむには適しているということだ。全国のわさび好きのみなさん、ぜひ試してみてください。
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魚のことならおれに任せろ「魚卓」
〒253-0053
神奈川県茅ケ崎市東海岸北2-1-56
電話0467‐81‐4066
大トロ中トロ赤身イカ。
寿司ネタにはいろいろあるけれど、ネタによってわさびの効きが違うような気がしないだろうか。
ではどのネタが一番わさびが効くのだろう。この道30年のプロと一緒に検証しました。
結論から言うと、ホタテでした。
僕はわさびが大好きで、もちろん寿司も好きなんだけど、寿司を食べるときに期待しているのは、むしろわさびの刺激なのではと疑うほどなのである。
つい最近も、自分の誕生日が近いというのを理由に寿司を握ってもらった。そのときに思ったのだけれど、寿司ってネタによってわさびの効きが違わないか。
あれは単にわさびの量のバラつきなのか、それともネタとの相性なのか。ネタとの相性だとしたら、わさび好きの端くれとしては一番美味しくわさびを食べられるネタを知っておきたいではないか。
というわけでこの前寿司を握ってくれた大将に聞きに来た。
魚屋「魚卓」の浅見社長はこの道30年のベテランである。魚と寿司のことならこの人に聞けば間違いない。
そんな浅見社長に聞いた。わさびが一番効く寿司ネタってなんだと思いますか?
すみません社長!
浅見社長には前にミル貝のむき方を教わったことがある。あの時もいろいろと勉強になった。
しばらくして浅見さんが魚とシャリ玉を手に厨房から出てきた。
というわけで浅見社長の事務所にやってきた。仕事中なのにほんとすみません。
今回、実験に公正を期すため、わさびは品質の安定した「いつもお店で使ってるやつ」を使ってもらった。シャリ玉の重さもお店で普段握っているサイズである。
まさか事務所の机を挟んで社長に寿司を握ってもらえるとは思わなかったのでちょっと緊張しているが、これも実験のためである。
それじゃあ浅見社長、よろしくお願いします。
いきなり大トロである。一度は言ってみたいセリフ「まずは大トロ」あと「犯人はこの中にいる」。今日のネタの中にわさび好きを唸らすやつがいるはずだ。
心の準備もできないうちに、大トロいただきます!
うまい。この一貫ですっかり何しに来たか忘れた。小ぶりなシャリの上で豊かにとろける大トロ、遠くにかすかに見えるこの景色はなんだろう。竹林に吹く爽やかな風のような、淡い青春の光のような、鼻に抜ける刺激のような
刺激…
……わさびだ。
そうだ、僕はわさびが効く寿司ネタを探しにやってきたのだ。すみません浅見さん、大トロはそれほどわさび効きませんでした。
浅見:やっぱり脂が強いからわさびの刺激を丸めちゃうんでしょうね。じゃあ次は脂の違いってことで赤身行ってみましょう。
実は僕はマグロの中では赤身が一番好きだ。大トロなんかはもちろん美味しいと思う。だけど僕は大トロについてたくさんのことを知っているが、大トロは僕のことを知らないように思うのだ。そのてん赤身は違う。僕は赤身を知っている、赤身も僕を知っている。そんな親密な感じがする。
これは効いた。
体感だけど大トロに比べてわさびが効き始めるタイミングが速い、そしてピークの値が倍くらい大きい。同じ量のわさびとシャリなのに、そして同じマグロなのに、わさびの効きはこんなに違うのだ。
浅見:ネタの厚みにも関係するでしょうね。脂が強い魚とか養殖の魚なんかはわりと薄く切るんです。その方がくどくないというか味とのバランスが取れるから。それも結果的にわさびの効きに関係してるのかもしれないですね。
浅見:よくネタが大きいっていうのだけを売りにしてる寿司屋があるじゃないですか。僕は大きけりゃいいとは思っていなくて、まあうちのネタもたいがい大きいんだけど、シャリとネタとのバランスが大事。一口で食べるわけだから、全体がひとつにまとまっていないといけないわけです。わさびの量や効きももちろんそのバランスに影響しますね。
浅見さんにお店ではネタによってわさびの量を変えているのか聞いたところ「変えてない」と言っていた。もしかしたら今日以降変わるかもしれません。
うむ。やっぱり美味しい。
中トロは赤身に比べて効き始めがソフトだった。そして「つーん」のピークの値も小さい。それでいて最後にしっかりとわさびの香りが鼻に抜け、全体をうまくまとめ上げてくれる。
やはりわさびの効きは脂の量には反比例するのだ。わかってきたぞ。
安藤:これは来ますねー。身がプリっとしていて噛み応えがある方がわさびの効きが鋭い気がする。
浅見:これは養殖の鯛なんですけど、つい今朝まで生きて泳いでたんです。しめたばかりだから身がぶりぶりしてますよね。これが明日になるともう少し脂の感じが強くなるんです。そうするとわさびの効きが弱くなるのかもしれない。
天然か養殖か、しめたのはいつか、ネタの厚みや大きさなど。わさびの効きは寿司ネタの種類だけではなく、一つのネタをとっても様々な要素が絡んでくるのだ。深いぞ、寿司。美味いぞ、寿司。
浅見:僕の予想ではいかが一番来るんじゃないかと思うんですよね。これは赤いかっていう種類です。スルメいかより肉は薄いけど、その分柔らかいんです。
いただきます。
安藤:これは浅見さん、わさびの量は同じですか。
浅見:同じですよ。来てますか?
安藤:来てます。いままでで一番来てます。
浅見:やっぱりイカは来ますね。これ、切り方にも特徴があって、こうスジみたいに切込み入れてるじゃないですか。
浅見:これ何かというと、イカって噛むと甘みが出るんです。こうやって切込みを入れておくと、食べた瞬間から甘みを感じる。噛んでるうちに遅れて甘みが出てくるよりも、脳に早く甘みが伝わるから美味しいと認識されるんです。
安藤:なるほどー。それはわさびの効きにも影響あるんでしょうか。
浅見:やっぱりあると思いますよ。いかなんかは鯛と同じでネタが口の中に長く残るから、先にわさびだけが消えちゃうんじゃないかな。
確かに赤身にくらべてツーンの引きが早かったような気がする。
最後に貝界から、ホタテである。
いかがあれだけ効いたのは味に加えて食感も影響していたように思う。はたしてホタテはどうだろう。
いただきます!
これは効く。赤身といかが同率で優勝かと思っていたら最後にホタテがかっさらっていった。
ホタテはいかに比べて味が濃いのだけれど、ネタを噛み切りやすいのでその分ダイレクトにわさびにアクセスできる。結果、魚の味と混ざる前にわさびが主張してくる。速さも強さも滞在時間も、どのネタよりホタテが一番だった。
というわけで今回の実験の結果である。わさびが効きやすい寿司ネタは
1位 ホタテ
2位 赤いか
3位 まぐろの赤身
ということになりました。
脂の乗り方で効きが違うなら、と今がいちばん美味いというアジやイワシでも試そうという意見が出たが、あれはショウガの方が合う、という浅見さんの一言で思いとどまった。無理をする企画ではない、美味しく食べる企画である。
歯ごたえ、脂のり、切り方、大きさなど、総合的にみて現時点でわさびが一番効く寿司ネタはホタテということで結論とさせていただきます。あー、美味しかった。
浅見さんも言っていたが、この結果はネタの切り方や状態、部位や天然養殖の違いなどによっても変わってくる可能性がある。しかしおおすじ言えることは、噛みやすい白身、これがわさびを楽しむには適しているということだ。全国のわさび好きのみなさん、ぜひ試してみてください。
取材協力
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