特集 2023年11月13日

高い楽器って結局なにが違うのか、納得いくまで教えてください

楽器屋さんに行くとエントリーモデルの楽器からプロユースの高級品まで、いろんな楽器が並んでいる。あれらは何が違うのだろう。

なんとなく「高い楽器はいい音がするのだろう」とは思うが、じゃあそもそも「いい音」って何なんだよ、という話なのである。

実際のところどう違うのか、楽器屋さんにきいてみた。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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弾いてるとわかる、音の違い

僕はクラシックギターを習っている。3年ほど安い楽器(学校が授業用に大量購入するようなモデル)の中古を使ってきて、それはそれで気に入っていたのだけど、さいきん職人の手工品に買い替えたところ音が全然違って感動した。とにかくよく鳴るのだ。

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左が手工品、右が大量生産モデル。見た目の圧倒的「同じじゃん」感

ただこの「よく鳴る」という感覚、3年弾いてきたからこそわかる感覚で、初めて楽器を買うときは全然わからなかった(だから一番安いのにした)。

いまなら違いが分かる。かといって、どんな楽器でもわかるかというとそうでもなくて、クラシックギター以外は全然分からない。

今日はいろんな楽器の音の違いを、人に楽器の音を説明するプロであるところの楽器屋さんに教えてもらおう。

池部楽器店 旗艦店「イケシブ」さんにお邪魔しました

参加メンバーは、上の写真で左から、

  • ライター・谷頭さん(ピアノがめちゃうま)
  • 筆者・石川(クラシックギター初級者)
  • 編集部・古賀さん(楽器経験ほぼなし) 

の3人。

イケシブさんは4フロアのビル全館に楽器ごとの7つの店が集まった専門店街のようなつくりになっている。今日はその中から「エレキベース」「電子ピアノ」「ドラム」「アコースティックギター」の4つを聞き比べてみたい。

店内入ってすぐの巨大なギターツリーの内部。水族館のトンネル水槽みたいだった
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エレキベースの高いやつとは!?

まずは3階にあるベース専門店「グランディベース東京」にて、エレキベースの聴き比べ。

店員さんに2本の楽器のデモ演奏をしていただき、どちらが高い楽器か当てることにした。

なお、できるだけ同じ条件で比較するため、ジャンルごとに同一メーカーの楽器で比較しています。今回はいずれもYAMAHA。

というわけでまずは動画をご覧ください。

↑仮に「白い方」と呼びます(録音は筆者(素人)がやっておりますので多少の音割れ等ご了承ください。)

↑こっちは「黒い方」

谷頭:演奏がうますぎるんですよ!

石川:いやーほんとそう。どっちもかっこいいから、『いま聴いてる方が高い楽器!』って思っちゃう。

古賀:楽器、見てもいい?

ふーん……(全然わからん)

店員・樫村さん(以下、樫村):片方はエントリーモデル、片方はシリーズで最上位ランクの楽器です。

石川:左の方がヤマハのロゴがキラキラしてません?お金かかってそうですよ。

ロゴの細工が違う(左:白い方、右:黒い方)

古賀:ここのマークも長いよ。材料にいい石をたくさん使ってるんじゃない?

フレットの位置を表すマーク。ポジションマークといいます(左:白い方、右:黒い方)

谷頭:二人とも形で行こうとしてる!?音を聴き分ける企画ですよ!

石川:音でいうと……黒い方かなー。音圧を感じるんですよ。ベースらしいというか。

谷頭:僕も。こっちの方が低音がズーンと来た感じが。

古賀:ほんと!?私は白い方かな。石をたくさん使ってるし、本体に貼ってあるボード(※ピックガード)がキラキラしてるし。音はどっちも一緒。

さて、正解は…?

白い方:YAMAHA BBP34 (Vintage White)・23万6500円
黒い方:YAMAHA BB234 (Black)・4万1800円
※金額は取材時のものです

高いのは、白い方!!

古賀:やっぱ石の量が多いから!

石川:(スルーして)これはどこが違うんですか?

樫村:おっしゃる通りパーツごとの細工の細かさや、生産拠点の違いもあります。それから見た目は同じでも、ピックアップ(※弦の振動を拾って電気信号に変える大事な部品)の中身など、使っている部品が違います。

ですがお店では弦の高さなどしっかり弾きやすく調整しているので、どちらもちゃんとかっこいい音を出すことができます。難問ですね(笑)

谷頭:だから黒い方(安い方)に音圧を感じたんだなー

古賀:ピアノで腕を慣らした谷頭さんの耳にかなった(笑)

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振動が体に返ってくる

石川:じゃあなんで高い方は高いんですか?

樫村:弾き比べてみると、ネックの握りやすさや、自分に返ってくる音などに違いが出ます。

石川:返ってくる音?

樫村:ボディを伝わってくる振動ですね。

デモンストレーター・上田さん(以下、上田):どっちも弾きやすいですけど、弦を弾いたときに振動が木材を通して体に跳ね返ってくるんです。その跳ね返りの反応速度や、変な振動がこないかどうかで、だいたい値段はわかりますね。

石川:へー、振動!

樫村:実は、裏を見るとすぐ答えがわかるんです。

ネックの根本のところの加工が違うし、白い方だけ筋が入ってる!!

樫村:ネックの根元の止め方が、ボディの鳴りに直結する部分です。ネック自体のつくりも白い方は板を合わせてるので、強度が高いですね。

谷頭:ネックの握りやすさというのは?

ここがネック。横方向に埋まっている棒状の金具がフレット。

樫村:物によっては加工がちょっと違ったり、フレットの際(きわ)の処理がより精密だったりします。

※フレットの際(きわ)の処理…フレットの処理によって手の平の引っかかり具合が変わってくる。

古賀:弾きやすさが違うんだね。

ギラギラした音、まろやかな音

石川:音の違いはどうですか?

樫村:白い方はビンテージテイストということもあり、音が太いというか、全体的にグレードがアップしています。

広報・林さん(以下、広報・林):黒い方がギラギラした感じしませんでした?

古賀:わかる!ギラギラしてた!

石川:古賀さん、さっき音はおんなじって言ったじゃないですか。ずるいぞ

上田:(笑)。黒い方が弦が暴れるというか、弦に余分な振動が生まれている感じがします。ぎらついた感じはそこかなと。

樫村:それに比べると白い方はビンテージテイストなので、まろやかというか。大人の音がします。ピックアップもそういう部品を使っているので。

谷頭:我々はそういう荒々しいところにグッときちゃったんですね。

古賀:やんちゃっぽい感じがあったもんね。

石川:今までのお話をふまえて、もう一度弾いてみていただいてもいいですか?

いい「ぎらついた音」、出てます

谷頭:わかった!黒い方は近くで聴くと金属音のノイズが入ってて、弦が暴れてるんですよね。

古賀:おかげでちょっと華やかな感じもするよね。

谷頭:白い方は端整な感じがする。

樫村:方向性が違うっていうだけで、どちらも品質はすごく良いんです。

石川:うわーもう、こうなったら好みじゃん。

樫村:そうです。必ずしも安いから初心者向けということもなくて、どちらから始めてもいいです。どちらも弾き込めばどんどんよく鳴る楽器に育っていくので。

左・樫村さん、右・上田さんにおはなしをうかがいました(デモ演奏は上田さん)。ありがとうございました!

⏩ 次は電子ピアノ!

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