特集 2022年10月6日

大人だって逆上がりがしたい!入門編

「逆上がりができないと格好悪い」と歌うジャニーズJr.のメロディを浴びながら育ち、
逆上がりができないまま保育園・小学校を出た。いつの間にやら30代である。

昔から運動が大の苦手で、体育の成績はがんばっても「2」。
しかし一年前からキックボクシングジムに通い始めたことで、以前より苦手意識が薄れている。それに体力もついた。
今なら逆上がりもできるかもしれない。

逆上がりを習得すべく、幼児体操のコーチに協力してもらって練習をした。

愛知県出身、東京都在住のデザイナー。イラストを描き、写真撮影をして日々を過ごす。
最近は演劇の勉強に熱中。大きなエビフライが好き。

前の記事:愛知県の伝統野菜「十六ささげ」を食え

> 個人サイト 梅ログ

広大な教室をひとりで占領

大人のわがままに付き合ってくれたのは、東京都大田区にあるスイミングスクール「東急スイミングスクールたまがわ」の河野先生。

体操クラスの河野先生(画像左)。ふだんの教室ではこどもたちに体操を教えている
練習場所は同施設内にある広い教室を貸切り!鉄棒が小さく見える

マンツーマン指導&教室貸切、一日2時間、2日間に渡る取材!ぜいたく!
シンプルな企画に対してあまりに大袈裟な用意をしてもらってしまった。せめて可能な限り早めに逆上がりを成功させて取材を終わらせたい。

米田:2時間では、逆上がりをできるようにはなりませんか?

河野先生:やり方やコツがわからないだけであれば、2時間でもできるようになると思います。腕のを引き付ける力が弱いとか、鉄棒に触ったことがないとかだと難しいかもしれません。

米田:腕力のなさには自信があります!

逆上がりには体を引き付けて支える腕力と、振り上げる足と地面を蹴り上げる足が必要だという。
手首・肩周り、脚のストレッチを入念にしたところで、約20年ぶりに逆上がりに挑戦。

河野先生:鉄棒は筋力も使うんですが、子どもだと、助走もなしにひょいっと回れるんですよ。大人にくらべて体重が軽いというのもあるんですが、蹴り上げと引き付けるタイミングがあえばできるんです。
だから、逆上がりに関しては筋肉がすごく重要かというと、そこまででもないのかなと思います。

まずは実力を見せる一回目。
「これでできたら企画が終わってしまいますね。」と先生は言うが、少しもできた試しがないので安心してほしい。
 

うっ!

 

やっぱりだめでした

体が文鎮のように重く、まっすぐ地面に落ちた。ニュートンのリンゴとは私のことだ。
幼いころの逆上がれなかった失敗の記憶と視界が重なって、笑うことしかできない。

ただ、約20年ぶりに鉄棒に触れて気づいたことがある。逆上がりの明確な方法を知らないのだ。ニュアンスで体を動かしている。
子どものころは気づかなかったが、大人なので気づきました。

逆上がりは重力に抗って背後へ一回転する大技。明確なコツとともに体を動かさねば、成功はむずかしいだろう。

簡単そうにヒョイヒョイ回って見せる先生も、尋常じゃない覚悟と経験をもって鉄棒に向き合っているに違いない

【速報】鉄棒にはコツがある

河野先生曰く、逆上がりには手順とコツがあるらしい。
これを見ると逆上がりとはマルチタスクの塊であることがわかる。

逆上がり成功のコツ
(1)左脚(蹴り上げ)は鉄棒の向こう、前側に配置。右足(振り上げ足)で振り上げて、左足で蹴り上げる。
kaisetsu001.jpg
右膝を鉄棒に乗せるイメージで近づけ、高く上げる。

(2)ジャンプした瞬間、肘を曲げてお腹を鉄棒に引きつける

kaisetsu002.jpg
腿を鉄棒の上に乗せ、からだを小さくまるめるイメージ。

(3)腰を鉄棒に巻きつけるようにして回転する

kaisetsu003.jpg

(4)腕を伸ばして起き上がる

kaisetsu004.jpg

先生のお手本動画はこちら。

 

河野先生:逆上がりで大事なのは、「引きつける力」と「振り上げる力・蹴り上げる力」です。

河野先生:自分の体を鉄棒に引きつけて、おへそが鉄棒の軸にずっとくっついてると、すっと回れるんですね。体を離して回るのはむずかしいんですよ。

言語化されたコツと、先生が繰り返し見せてくれるお手本のおかげで、「バイト初出勤」から「バイト二日目」くらいに逆上がりへの解像度が高まる。
久々に鉄棒に触れて「やっぱり無理だ」と思いかけたが、前向きな気持ちがもどってきた。

米田:手は順手と逆手、どちらがいいですか?

河野先生:どちらでも、自分がやりやすいほうで大丈夫です!

米田:鉄棒の高さはどれくらいがいいのでしょうか。

河野先生:おへそのあたりから胸の下あたりまでの高さの鉄棒がやりやすいですね。大人は低すぎる鉄棒はキツいと思います。

米田:この鉄棒は私の胸の下くらいの高さなので、ちょうどいいですね!(完璧だ!)

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いざ逆上がり

引きつける力を補助する・空手の帯

基本的な流れとコツを教わったところで「逆上がりができるようになるアイテム」を使った練習フェーズへ。先生が手にした物は「空手の帯」だ。

空手の帯を巻き付けて、鉄棒と胴体を固定すると、「腕で鉄棒とお腹を惹きつける」段階ができなくても逆上がりができるという。

鉄棒に空手帯の片端を結びつける。帯を背中に通してもう一方の端を鉄棒に絡ませる

鉄棒と胴が離れないようにしっかり締めて、両結び目を握った状態で逆上がりのモーションをする。

帯で胴体を固定すれば引きつける力が弱くても体勢を維持できるので、そのまま次の段階へと進むことができる。
試してみると、蹴上がったときの角度が40度から60度になった。体が軽く感じた。

この状態で、先生に体を持ち上げるサポートをしてもらったところ、嘘みたいにするっと体が回った。

イァッ!!!!!
ァッァッ!!!!!
な、なるほどぉ……

いきなり落下中のジェットコースターに乗せられたかのように、すごい勢いで視界がまわった。こわい、すごくこわい。
ただ、お腹と鉄棒が近づくと、回りやすくなることが体でも理解できた。

動画でもどうぞ。

いろいろあるぞ練習方法

蹴り上げを意識する・スキップ

練習方法は空手帯を使う以外にも複数ある。
人によって合う合わないがあるということで、いろいろ試させてもらった。

河野先生:米田さんのやり方だと、脚を遠くへ投げ出すようにしてしまっています。
「上」を意識して蹴り上げてみてください。その場でスキップを高くして、持ち上げた腿を鉄棒に「よいしょ」と乗せるイメージです。

というわけでいったん鉄棒から離れ、「脚を高く上げる」を意識してその場でスキップをする。右足を高く上げ、自分の体にくっつける意識をすれば、逆上がり序盤の練習になる。

繰り返しているうちに脚が上がるようになっていく
先生のスキップは飛び膝蹴りのようだった

引きつけを意識する・後ろに転がる

次は体を丸めて後ろへ回る練習。
鉄棒のように両手で棒を握り、膝を棒にくっつけた状態をキープしながら、うしろへゴロン!
そのまま起き上がりこぼしのようにもとの姿勢にもどる。これを繰り返す。

手頃な棒が無かったので、この日はエア棒を握った。単純な動作だがむずかしい。あと腹筋にくる
先生と同じくらい腰を上げるのは大変。地味な体勢だが、実はすごいことをしている
跳び箱で高さを縮めてみたり(蹴り上げ補助)
壁を蹴ってみたり(身体が鉄棒に引きつけられる)
ボールを目標に蹴り上げてみたり。(蹴り上げ)
「脚を頭の上まで持っていく」が視覚的に理解できて、明らかに脚が上がるようになっていた

河野先生:もちろん一般的なストレッチで可動域を広げたり、腹筋や腕立て伏せといった筋トレで必要な筋肉を鍛えるのも有効です。

短い時間のなかで、先生がさまざまな説明で練習方法を教えてくれる。
「理屈が分かる」→「ピンとくる」→「体が(だいたい)動く」を行き来する。
体と一緒に脳を使っているのがわかる。
鉄棒って、ひたすら同じ動作をがんばって繰り返していればできるようになるものだと思っていた。

米田:昔の学校とは教え方とは違いますね。子供にもやさしく教えているのですか?

河野先生:そうですね。でも、あまり「こうしろ」「ああしろ」と指示はしないようにしています。どうしたらできるのかを本人たちが答えを導きだして動けるようになれば、場所や指導する人が違う環境でもできるようになるんです。
あとは、伝え方はやさしく、なるべくポジティブに。「走らないで」じゃなくて「歩いてね」とか、肯定的な言葉のほうが子供は受け入れてくれやすい。そして「ちゃんとできたね」と褒めてあげると、「見てくれているんだな」と子供は感じる。大人も同じだと思っています。

米田:体育の授業は「とりあえずやれ」って感じでしたもんね。

河野先生:そうですよね。僕は子供のころにできなかったことを、教えてもらいたかった方法で今の子供たちに教えてますね。

1クラス20人、30人単位で学ぶ学校の授業と比較するのはよくないと思いつつ、当時も同じくらい丁寧に教えてもらえていたら苦手意識を持たずに済んだのかなと思わずにはいられない。

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鉄棒で酔うなんて知らなかった

鉄棒を握りながら、廊下から聞こえてくる賑やかな子供の声に「あの子らは逆上がりできるんだろうな〜」と思う。集中力が切れかけている。
練習とはいえ短い時間で何度も回転したせいで、じわじわと吐き気が湧き上がってきた。疲れよりも深刻である。

米田:ずっと鉄棒してたらめちゃくちゃ酔ったんですけど、鉄棒で酔った場合も車の酔い止めは聞きますかね?

河野先生:その質問は初めてですね……。三半規管の影響だと思うので、効くんじゃないでしょうか。

その場を維持するための苦肉の策として、カメラを回してくれていた林さんに「やってみませんか」とバトンタッチ。

林さん「こういう流れになると思ってたんだよな〜」体調的にも記事の展開的にも助かる
ア゛ア゛ッ
こんなウェブマスターの姿、見たことないな

このあと復帰したものの思うように体が動かなくなってしまい、体力の限界で終了。
ただ、空手帯による補助が必須とはいえなんとか自力で回れるようになった。

 動画はこちら。先生に手で押してもらうことなく回れているのがわかる。

手こずりながらも足が上がるように。
教わる前は左足を置き去りにしがちだったし、後ろへと回るイメージもできていなかった。大変な進歩だ。

あとは腕で体を引き寄せられればマスターできそう。
「懸垂ができれば逆上がりの引き付けに繋がる」と先生は言うが、自動で開くトイレの蓋のように肘が「パカー」と伸びてしまう。一週間後の二度目の取材までに腕の力をつけようと心に誓う。

一瞬を狙って撮った、懸垂できている風の写真

次回予告!

自宅での練習の結果、逆上がりはできるようになるのか!?

 

撮影協力
とひとことでは言えないぐらい協力していただいたのは…

東急スイミングスクールたまがわ
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東急スイミングスクールたまプラーザ
東急スイミングスクールあざみ野

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