特集 2024年2月27日

情報番組の生CMを作ってみたい

子供の頃の話。風邪を引いて学校を休んだ時、朝の情報番組をボーっと見ていると突如不思議な映像が始まった。生CMだ。

歯ブラシや薬の効能をやや特徴的な芝居で説明する、独特の雰囲気。殺人事件や不倫など子供には良く分からない話の合間に流れるあの時間が、なんだかとても好きだった。

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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いつの間にか、厳密には“生”CMではなくなっていた

TBSの『ラヴィット!』などでは、今でも変わらず生CMが流れている。さらにライオンのYouTubeチャンネルには生CMのプレイリストが用意されているので、ついボーっと見続けてしまう。

やっぱり好きだな、生CM。調べてみると、とても良い記事があった。

今や絶滅の危機? 昭和のけれん味残る“生CM”の未来とは(ORICON NEWS)

驚いた。なんとライオンは2014年にスタジオの片隅から生放送するのをやめ、収録に変更していたのだ。てっきり今でも『ラヴィット!』のセット脇でやっていると思っていた。とはいえ約1分のCMをノーカットで演じるスタイルに変わりはないそうで、ホッとした。

何故なら私が生CMに惹かれるのは、黒柳徹子や永六輔が語るテレビ黎明期の話が好きなことと関係しているからだ。すべてが生放送だからこそ生まれる、逸話や失敗談。その時代の残り香が今でも唯一、生CMからは嗅ぎ取れる。

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皆で生CMを作ろう!

2月某日。都内某所の撮影スタジオ。DPZライター陣に集まってもらった。そう、みんなで作るのだ。デイリルツの生CMを。

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「デイリルツ」とは、以前記事で使用した架空の商品。脳こりの痒みに効くらしい

正直、会場を手配してくれたDPZ林代表でさえ、最初は企画意図にピンと来てない様子だった。だが、セットを共に作り上げたり、台本の読み合わせをしたりするうちに、「死ぬまでに一度生CMをやってみたい!」という私の熱意はみんなに伝播していった。

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メンバーは林、べつやく、西村、トルー。私の指示のもと、共にセットを作り上げていく
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ライオンの生CMを見てもらい、完成形のイメージを共有する
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演出意図を説明しながら、真剣にセリフを確認。全員の顔つきが変わり徐々に高まる一体感
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工夫こそ最大の工夫

ただ、熱意だけではどうにもならないこともある。50年続くライオンの生CMのクオリティに迫るには、経験も知識も機材も圧倒的に足りない。

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一応配信とかやってるので、最低限撮影できる機材はあるが…

しかし「工夫とは、人間が考え出した最大の工夫である」と言う言葉がある通り(なかったかもしれない)、なんとか工夫で乗り越えるのだ。

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撮影スタジオなので照明だけは良いのがある

 

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工夫①セットや小道具は手作り感を残す

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例えば窓のイラストは絶対に必要。最悪これだけでも生CMっぽく見える
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同様に机には花瓶のイラストを置いたが、これにはもう一つ役割が…
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マイク隠し。ピンマイクが使いたかったがデカいマイクしかないので苦肉の策
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これだけでかなり生CMっぽさが出てきた
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工夫②敢えて手持ちのパネルを使う

今は編集ソフト上で商品や説明画像を差し込めるが、敢えて手持ちパネルを用意するのも大事。台詞と同じ内容をパネルでも出して、何重にも商品の利点を訴えかけるのだ。

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矢印が動くとかのギミックがあるとなお良い
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工夫③勿論、画像も使う

とはいえ編集ソフト上でも画像を差し込むと、より現代の生CMっぽくなる。

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こういった画像を数種類用意しておいた
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リアルタイム編集担当の林さん。カメラと画像を切り替えるタイミングが難しい

④生CMっぽい台本

幾らセットが良くても、肝心の物語展開や台詞が生CMっぽくなければ台無し。約1分の中に生CMを感じさせる要素が入るよう、ブラッシュアップを重ねた。

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商品説明は勿論、そこはかとないユーモアを感じるオチがつくのも大事

工夫⑤静けさ

最後に大事な要素。ガヤガヤとしたスタジオから生CMに切り替わると一転、「シーン」という音が聞こえそうな中で演技が始まる。この賑やかさから静寂への転換に生CMっぽさを感じるのだ。

DPZライターの唐沢むぎこさんも、この点に触れていた。さすがの慧眼

その意味で今回、コンデンサーマイク(簡単に言えば周囲の小さな音でも拾ってしまうマイク)しか用意できなかったのが痛い。紙のこすれる音や足音まで拾うので、気をつけなければ。「西村さん、カンペめくる時は絶対に音出さないで!」と厳しく指示を出す私。

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音が出ないよう、台本をスケッチブックに貼り直す西村さん
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私のビジョンに付き合ってくれてありがとう

以上の点を踏まえ俳優陣は台詞練習、裏方組は動きや作業の確認を入念に行う。数度のリハーサルを経て、いよいよ本番である。

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最終的な役割分担はこちら。皆、それぞれの持ち場で思う存分に輝け!

 

⏩ ついに完成、手作り生CM

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