特集 2023年4月19日

海外ゲームの有志翻訳がついに完成しました

翻訳はどうやってやるの?

翻訳作業はCrowdinという翻訳プラットフォーム上で行われた。有名どころではマインクラフトなんかもこのシステムを使っているようだ。

※ちなみにこれはかなり恵まれている(開発者が翻訳者のことを考えている)場合で、他のゲームの有志翻訳はよくGoogle Spreadsheetで行われているのを見かける。

左からメッセージを選んで、右で翻訳作業をしていく

矢印が付いているのが翻訳対象の英文で、その下に訳文の候補が並んでいる。

訳文はこの画面で有志が入れたもののほか、ブラウザ版ゲーム画面のはしっこに翻訳に協力する機能があり、

ポップアップで英文メッセージがランダムにひとつ出てきて、訳文を入れられる

ここから入力されたものも混じってくる。くわえて、ボットが機械翻訳でいくつかの訳文を提案してくれる。

ボットからの「Sun Alter」の翻訳候補。「(すず)」はどこから来たんだ

作業の参加者は役割が2種類ある。

「翻訳者」はどんどん訳を入れていく。また、別の人が出した訳案に投票して推薦することもできる。

「査読者」は、翻訳者の役割にくわえて、翻訳者が出してきた翻訳の承認ができる。これで正式な翻訳が決まる。

僕は最初翻訳者だったのだけど、いつのまにか査読者の権限が付けられていたので、作業後半はモリモリ承認していった。
 

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ゲーム翻訳の難しさ

こんな感じでどんどん翻訳をしていくのだけど、ゲーム翻訳ならではの難しいところがある。

1.どこの文言かわからない

たとえば「kittens」という項目がある。なんと訳すだろうか?「子猫たち」?

正解は「人口」である。これは「人口 : 50」という形で、村の住人数を表す見出しの文言だからだ。

これ

こういうのはゲーム画面で見ればすぐわかるのだが、翻訳プラットフォーム上では英文と「resources.kittens.label」というプログラム上の名前しか出てこない。どこでどう使われる文言なのか分からないのだ。

他の例だと、「All」という英文は3つあり、それぞれ「全表示」「すべて」「全変換」の3種類の訳が当てられている。どこのボタンのラベルかで意味が変わってくるのだ。

こういうことがあるので、英日の翻訳自体よりも、その前段階でそれがどこの文言なのかを特定するのにけっこう多くの時間を費やした。

……なのだけど、作業終盤になってゲーム自体のプログラムが公開されていることに気づき、処理と突き合わせて見られるようになってずいぶん楽になった。楽にはなったが、今までのは何だったんだという感じで拍子抜けでもある。

「Are you sure?(本当にいいの?)」という全く手がかりのないメッセージが、ソースコードを見ると、子猫が生きていくのに必要な食料まで素材として使ってしまいそうになったときの警告メッセージだとわかる

 

2.ゲーム内でのつじつま合わせ

ありがちなのは表記ゆれで、たとえば「ユニコーンを捕まえた」というメッセージが出て「一角獣」の数が増える、だとわかりにくいので、Unicornの訳は常にユニコーンに統一しないといけない。

逆に「Numerology」「Numeromancy」のような、辞書にも同義語として載っているような単語が別概念として使い分けられていて、それを知らずに個別に訳すとどっちも「数秘術」になってしまい見分けがつかなくなる、というケースもあった。(それぞれ数秘学、数秘術と訳されている。占術の一種だ)

こういうことがあるので辞書上の意味だけでの翻訳はできず、ゲームの内容をしっかり理解したうえで翻訳しないといけない。

 

3.かけことばや造語

猫たちがいる惑星は「Cath」という。最初そのまま「キャス」という訳を当てていたのだけど、途中で「猫球」という訳が送られてきて、そこで初めて「cat + earth = Cath」であることに気づいた。それで今は猫球を採用している。こういう言葉遊びをうまく訳すのは難しいし、気をつけないと気づくことすら難しい。

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4.元ネタがある言葉

「Unobtainium」という架空の金属資源が登場する。これは「Unobtain(手に入らない) + ium(アルミニウムとかチタニウムとかのイウム)」を組み合わせた造語で、日本語に訳すとしたら、取れねえってことで「トレネウム」とかになるかもしれない。

でも実は「アンオブタニウム」としてWikipediaにも載っている、すでに世の中にある概念なのだ。勝手に変な名前を付けるところだった!

惑星の名前「Dune」にも「ドゥーン」「デューン」の2つの翻訳候補があった。これは『デューン砂の惑星』というSF小説が出典なので「デューン」に合わせる必要があった。

他にもゲーム後半にはSF要素がたくさん登場するので、オリジナルなのか出典があるのか、調べながら進める必要があった。

スマホでもできるので電車待ちの時間とかによくやっていたが、サクッとやるつもりが意外と大調査に入り込んでしまうことがあった

 

5.既存の訳は変えたくない

それとは別に、僕は途中で入ったので、いくら妥当だと思っても既存のプレーヤーを混乱させるような訳の変更はしたくないという気持ちもあった。元からある訳語はできるだけ残しつつ、全体の整合性を取る。そこのさじ加減はけっこう気を遣った。

 

こんな感じで英語力以上に、そのゲームを知り尽くしていることが要求されるのがゲームの翻訳作業だと思った。RPGみたいにキャラのセリフや長文のストーリーがあるゲームならさらに別の苦労があるのだろう。英語力も高いものが要求されるかも。さいわいKittens Gameには長文も難しい表現もほとんどなかったので僕の英語力でもできた。かわりに、ゲームへの情熱を枯らさないことが必要であった。

そろそろ猫の写真の一枚でも入れた方がいいかもしれない…!と思い颯爽と取り出したフリー素材。この子、何かの広告で見たことある気が

⏩ 完訳への道

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