ゴリラたちは地下へ
このあと外は雨脚が強まり、ぬれるのを避けて室内に入ってきたゴリラたちは少し遊んだ後、地下の飼育スペースへと降りていった。その間に飼育員さんがゴリラ舎をすみずみまできれいにしていく。この流れは毎日同じなのだろうか。ゴリラたちと飼育員さんの息がピッタリ合っていた。
それでも人気のシャバーニはじめゴリラたちである。地下に降りて行ったことを知らないお客さんたちが、続々とゴリラに会いにやってくる。
せっかく会いに来たのに肝心のゴリラたちが留守なのだ。これには少し責任を感じ、来る人来る人に、「いまゴリラたちはご飯を食べて地下に降りて行ったばかりなんですよね~」とお伝えしていった。僕が責任を感じることはないのかもしれないが、がっかりされたらゴリラたちにも申し訳ないだろう。
ゴリラたちがまた出てきてくれるまで、ゴリラ舎の壁に掲示されていた情報でゴリラについて学んでおくことにした。
ゴリラの飼育の難しさ
いま日本には20頭のゴリラがいるらしい。
かつては各地の動物園にいたのだが、ゴリラは本来群れで行動する生き物のため、なるべく自然に近い形で繁殖してもらいたいと考え、少数飼育だった個体を上野動物園に集めたりした歴史があるのだという。
80年代に締結されたワシントン条約以降、野生の動物を輸入して動物園で展示するのではなく、なるべく国内にいる個体同士で繁殖させようという動きに変わる。しかしゴリラの繁殖は難しく、高齢化も進んでいることから、いつか日本ではゴリラを見ることができなくなってしまうかもしれないのだとか。
そんな中、東山動植物園では生まれたてのゴリラ「アニー」の人工哺育に成功し、飼育員さんたちとゴリラたちの努力により、ようやくシャバーニたちと群れとして暮らせるようになった。
学べば学ぶほどゴリラへの興味が湧いてくる。
ゴリラはしぐさとか表情なんかが個性的で、それぞれにすごく感情というか意思みたいなものを感じるのだ。だから見ていて飽きないし、逆にあまり凝視してはいけないのでは、という気持ちすら生まれてくる。
いままでは動物園に来ても、ざっと全体を見て回るばかりで、こうやって一つの動物を一日中じっくり見るということはなかった。でもこれが改めてすごくよかった。
動物園には各動物の特徴や飼育の歴史について、すごく詳しく掲示されていたし、なにより長時間おなじ動物を見ていると、その動物の行動パターンが理解できるようになる。ゴリラたちは特に、顔で個体が判別できるようにもなった。
すると細かい発見がいくつも見つかるのだ。たとえばゴリラはナスのヘタを食べない。
ゴリラ舎の中のお掃除時間にはゴリラたちは地下の飼育室へ入ることが日課なのだろうか。掃除が終わって部屋の中にまた野菜が配置されると、待ってましたとばかりに地下からゴリラの家族が上がってきた。
このお客さんはゴリラたちの大ファンらしかった。
ゴリラたちは地下に降りて行って何をしているんですかね?と聞くと、一番高齢のネネさんというゴリラが体調を崩して地下にいるため、できるだけみんなで近くに寄り添っているのでは、と言っていた。
なるほど、地下の様子はうかがい知れないが、それを聞くとさっきまでのゴリラたちの行動にも説明がつく。ご飯食べたらすぐにみんなで地下に降りて行ってたもの。
ご飯の時間となり、ロープにぶら下がったりして遊びまわる子どもたちの後から、シャバーニも上がってきた。