牛乳は「晴れ舞台」に立つとさらにウマく感じる
母乳を飲めない年頃になっても、いつでも僕らを包んでくれるのが牛乳だ。
僕も最近はカロリーを考えて飲む量が減っていたが、「晴れ舞台」に立ったときの、牛乳の一層のおいしさをもう一度見つめ直すことができた。やっぱり好きだ。
牛乳が大好きだ。僕は幼少期から20年以上、毎日1リットルほど飲んでいたほどである。
そんな牛乳の消費量は1996年をピークに、少子高齢化と飲料市場の多様化のために長期減少傾向にあり、2013年の時点で3割も減少している。
あと西部劇のバーでミルクを頼むと笑われるシーンのように、「大人が牛乳を飲むのはちょっと恥ずかしい」と謎の認識まである気もする。
そんな少し肩身の狭い牛乳だが、これほど「シチュエーションによってまたおいしく感じる」ものはない。
そのウマさと楽しさをどうか語らせて欲しい。
まず行きたい場所が秋葉原駅だ。日本のサラリーマンたちの原風景、「駅ホームのミルクスタンドで牛乳を飲む」がまだ残っている場所なのである。
今回は福島で有名な酪王牛乳(130円)をチョイス。ついに晴れてミルクスタンドでの牛乳が味わえるとワクワクする。
ここでは牛乳はただ飲むだけのものでは無く、この場に参加するためのパスポートだ。ゴクンゴクンと飲めば、憧れの光景に自ら入り込める。
さらにこの横には、いまではなかなか見られない「牛乳を売る自販機」が置いてある。
しかもご当地牛乳がたくさんだ。目移りしながらも、地元の東京牛乳をチョイス。
紙パックの牛乳もこれはこれでウマい。Go Toできない都民にとって、小さな旅の入り口がこの秋葉原駅ホームである。
公園も牛乳が非常に似合うシチュエーションだ。外の風に吹かれながら、牧歌的な雰囲気の中で牛乳をチューチュー飲む。その幸せを味わいたい。
上野公園で動物園方向を見ながら、近くで購入した牛乳を飲む。何とも気持ちいい。
なかなか雰囲気のいい売店がある。中で食事ができて、牛乳の持ち込みもOKだそうだ。ありがたい。
観光地のラーメンとしてはリーズナブルな500円で、いわゆる「昔ながらの東京ラーメン」。その言葉はいい意味でも悪い意味でも使われるけれども、しっかり味が整えられたこちらは前者だ。
時折牛乳をすする。牛乳のやさしくも印象の強い味わいで舌がリセットされ、また新鮮に感じることができた。
最近給食に牛乳を付ける是非の議論があるけど、牛乳は飲み物の中でも、十二分に万能プレイヤーだと思う。
さて、公園と言えばもう一つ押さえておこう。それは「公園であんパンを食べながら牛乳を飲む」だ。
誰もいない静かな公園。念願の「あんぱん+牛乳」を試すにはピッタリだ。
うまい。アンパンの甘さを牛乳がほんのり中和してくれる。すごく相性がいい。
街の安全地帯のような、公園のおだやかな空気を感じながら食べれば、思いのほかリフレッシュできる。
ベタなことって、だいたいやって損はない。
さあ、ついに銭湯の牛乳である。
銭湯のビン牛乳は150円など、ちょっと高く設定されていることが多い。しかし少し高くても手が伸びてしまうのが銭湯牛乳の魔法だ。
しかし今回ビンの牛乳を久しぶりに買って、そのすばらしさを思い知った。
キンキンに冷えたビンが氷のような役割を果たして水温を低く保つし、氷のように牛乳の味を薄めることもない。手や唇がビンに触れるのすら冷たくて気持ちいい。
さあ銭湯後で火照ったカラダに冷たい牛乳を流し込もう。まるでサウナ後の水風呂のように「ととのう」ぞ。
実にうまい。180mlで150円という価格は庶民にとってなかなか高価だが、とっておきの一瞬の喜びがある。ここぞというときに頼みたい。
ちょっと話は変わるが、総じてオシャレなイメージのあるカフェチェーンでは、ほとんどのお店で牛乳が楽しめるのはご存じだろうか。
みんながコーヒーを頼むシチュエーションでひとり牛乳を飲むのは一興なので、ぜひ頼んで欲しい。
たとえば、その代表格であるスターバックスでは、メニューには載っていないものの、裏メニューとしてミルクが存在する。トールサイズで407円(税込)だった。
スタバの店内で、あの幼少期から飲み慣れた「牛乳」を飲める喜び。ただし量は少ないのでちびちび楽しもう。
ちなみに牛乳は、ドトールでも裏メニュー扱いである。
295円(税込)のMサイズは、たっぷりのアイスミルクが楽しめる。
たくさんの細かい氷が溶けると味は薄くなるが、スポーティーな感じで夏には合う。ゴクゴク飲める、暑い日にピッタリの牛乳だ。
なおタリーズでは堂々の表メニューとして牛乳を頼める。ドトールよりは氷が大きい上に、少し濃いめに味わえる感じがした。
ちなみにマクドナルドにも牛乳はある。激安で知られるマックだが、ミルクは200円もする。
氷のない紙パックなので、放置するとぬるくなりやすい。最後までおいしく飲むには30分で飲み干すのが吉だ。
さっきご当地牛乳の話が出たが、牛乳こそローカルの宝だ。日本で少しずつローカル色は薄れていっているが、牛乳はまだローカルならではの銘柄が多くある。
たとえば僕が鹿児島の種子島へ行ったときは、デーリィ牛乳(南日本酪農協同)がポピュラーで、コンビニ・スーパーや自販機など各所に置かれていた。
僕のように牛乳の細かな味の違いがわからない人間でも、パッケージや飲む場所が違うだけでフレッシュな気分で飲める。それがローカル牛乳の楽しさである。
ちなみに鳥取発祥で西日本を中心に勢力を広げ、最近は東京でもそこそこ見かけるのが白バラ牛乳(大山乳業農業協同組合)だ。
この白バラ牛乳、とにかくデザインがいい。見るだけでなんだか元気が出るすばらしい色使いだ。最近ではこのデザインのグッズが好評を得ているのも頷ける。
夏の鳥取に思いを馳せながら飲めば、コロナ禍で行き場の無い旅情も少しだけ満たされる。
ローカル牛乳を紹介する流れで、僕ら千葉県出身者のとっておきミルクを紹介しよう。給食に出る「コーシン牛乳」である。
200mlと限られた容量のミルクを、ペース配分しながら大事に飲んでいた思い出をいまも昨日のように思い出す。
小売店で買えるなんて思ってもいなかったので、うれしい。
うまい。この200mlしかない頼りない感じがいい。外気の熱波に晒され、飲んでいるうちにちょっとずつ冷たさがなくなっていく所もあのときのままだ。
残暑の厳しい9月、運動会の練習に明け暮れる合間の給食に飲んだ記憶がよみがえる。ほどなく完飲した。
ちなみに給食の牛乳といえば、テトラパックの三角牛乳を思い出す人も多いはず。実はいま取り扱うメーカーが激減し、北海道の2社しか残っていないらしい。
数少ない生き残りの商品を買うため、北海道アンテナショップへやってきた。
これがいつの間にか絶滅寸前になっていた三角牛乳である。ストローを刺したら、あとはチューチュー吸うのみだ。
その形状から、より「牛の母乳」を飲んでいる気持ちにさせられる。いつもの箱タイプより頼りないが、直に減っていくのを見られるのが楽しい。1分で気持ちよく完飲した。
最後の行き先は多摩川の河川敷。ここは、なんとも実に牛乳が飲みたくなる場所なのだ。
多摩川駅に到着。名前の通り、駅のすぐそばに多摩川の河川敷がある。
本来は沈む夕日をバックに電車が走るのを見られる絶景スポットである。
しかし撮影日はちょうど陽が沈む方向にだけ雲が出ている不運。僕らの人生はいつだってこんな感じだ。河川敷で飲む牛乳に癒やされよう。
川べりで夕涼みをしながら、行き交う電車を見届けながら牛乳を飲む。これが僕らのできるせいいっぱいのささやかな幸せだ。
夕日のない夕暮れ、涼やかに120円で買った牛乳ビンを傾ける。ここにプライスレスの喜びがあった。
さてそろそろ〆切が来たので、この旅を終えることにする。
25年くらい、毎日1リットルほどの牛乳を飲んできた僕だが、正直、細かい味の違いはよくわからない。
高温殺菌と低温殺菌、乳脂肪分の濃さなどの違いくらいはすぐわかるが、産地の違いによる味の極端な差はそれほど感じない。
だがそれは、いつも安心して同じような味が飲めることでもある。だいたい同じはずの味が、飲むシチュエーションによって違って感じる。それが牛乳こその魅力なのだ。
牛乳のおいしさの感じ方を決めると思えたシチュエーション等を、最後に書き連ねよう。
これらを整えて味わう牛乳は、どんなお酒にも負けないおいしさがあると僕は思う。
母乳を飲めない年頃になっても、いつでも僕らを包んでくれるのが牛乳だ。
僕も最近はカロリーを考えて飲む量が減っていたが、「晴れ舞台」に立ったときの、牛乳の一層のおいしさをもう一度見つめ直すことができた。やっぱり好きだ。
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