観光おそるべし
地元を散歩しているだけなのに、観光という体裁を取った途端、2万円強も使ってしまった。
油断して財布のひもを緩めまくってしまったのだ。観光あるあるだ。
うん、観光だし。仕方ない。
僕は北海道に住んでいて、札幌の大学に在学中だ。
高校入学から現在まで、ほぼ毎日、札幌に通う生活をしている。
北海道内最大の都市で、いわば「なんでもある」札幌に通うというのは、はじめはものすごく刺激的だったのだが、今や、行くべきところは行きつくしてしまった。
せっかくの札幌に、まったくありがたみを感じなくなってしまったのだ。もったいないことである。
ところでここ最近、札幌を訪れる外国人観光客はめざましく増加しているようで、どこを歩いていても観光客と遭遇する。
はるばる外国から札幌を選んで観光に来るということは、やはりそれだけの魅力が札幌にあるということだ。
札幌を観光中の彼らから「これからどこに行くのか」「夕食に何を食べるのか」などを聞き出し、自分もその行程を観光客になった気分でなぞってみようと思う。
観光客として街を歩けば、自分の中で色あせてしまっているホームタウン・札幌を、新たな視点でみることができるはずだろう。もしかすると、まだ僕も見たことがない「サッポロ」と出会えるかもしれない。
観光の前に、札幌を観光中の外国人観光客に話を訊くところからスタートしよう。
外国人観光客は何を目当てにに札幌を観光しているのか、まずは知らなければいけない。
そこで今回は主に3つの質問を投げかけることにした。
これらが分かってしまえばこっちのものだ。
いただいた情報をなぞって札幌を巡れば即ち僕らは外国人観光客である。
さっそく情報をいただきにいこう。
後ろに見えるのが、有名な「札幌テレビ塔」である。
このテレビ塔の前で写真を撮ろうとしている観光客にバシバシ声をかけようという算段だ。
「スターバックスとかも行ったよ!HAHA!」とか、
「セイコーマートのおにぎり食べたよ!」とか言っていた。めちゃめちゃ気さく!
ただ、言っていたことは手練れのそれだったので、もしかすると観光客じゃなくて留学生だったのかもしれない。
この日に北海道に着いたとのこと。
僕たちの圧にちょっと引いていた。いきなり声をかけてほんとうに申し訳ない。
思ったよりも取材に苦戦し、困った顔をしていたらグイグイ答えてくれた。
お姉さまは国籍を問わず最強である。
バッグにしまうのかと思いきや、まさかの「あげるわよ」。もらってしまった。
至れり尽くせりだ。ありがたい!
韓国やタイにフィリピン、果てはドイツなどなど、さまざまな国の方々に話を聞くことができた。
果たして彼らはどのように札幌近辺を観光しているのだろうか。
さて、アンケートの結果を見ていこう。
まずは1問目。
世界的にみても、やはりテレビ塔や時計台は「ザ・札幌」のアイコンらしい。
「かに・すし・ラーメン」なんて…。小学生の夢か。目が覚めたらシーツ噛んでるやつ。
しかし…こう見てもセイコーマートは異端だ。やっぱりドイツから来た彼らは留学生だったんじゃないか。
そしてこの中で、牛丼は意外だった。現地ではもはや「日本といえば」の食べ物なのだろうか。
インタビューの後に吉野家に食べに行ったのだが、けっこう観光客がいたのに驚いた。
彼らは牛丼と鮭定食を食べていた。
そして、爆買いの印象の通り、美容・コスメ関係は関心が高いようだった。
ただ「まゆクリーム」って何なのだろうか。眉に塗るクリームなのか? 繭のクリームなのか? とても気になる。
さて、これらの回答をもとに札幌を1日で観光するスケジュールを立ててみた。
午前は小樽へ。
「さっそく札幌市外!?」という感じであるが、小樽は僕らもそこそこ行く街なのだ。ついでになにか新しい発見ができないかと思って入れてみた。きっと楽しい。
僕は、実はお店でかにを食べたことがない。かにを食べるのは、たいてい、お正月に家で、だ。初・かに・イン・ザ・店。
そして、小樽オルゴール堂でオルゴールを買う。かなり有名だが買ったことがなかった。観光客はどんなメロディのオルゴールを買っているんだろう。
午後は札幌に戻って、ベタなスポットを巡る。
よく考えると、札幌時計台もテレビ塔も、前を通ることはあれど、中に入ったことは一度もなかった。この機会に入ろうと思う。
おみやげの「テレビ塔の写真」は何なんだろうか。この時代、写真くらい自分で撮れるはずだ。すごくグッとくるデザインのポストカードとか?
謎だ。どんなものなのか実際に買って確かめることにする。
続いて夜の予定をご覧いただこう。
まず、市内にあるドンキで爆買いをしてみようと思う。
いや、爆買いもそうだが、「まゆクリーム」が気になりすぎる。ぜひ見つけて塗りたいものだ。
日が暮れたら藻岩山で夜景。そしてジンギスカンでシメである。
実はジンギスカンも、店で食べた経験がないのだ。たいてい家の近所でやるバーベキューで食べていた。ここはぜひ、本場・札幌のジンギスカンを店で食べておきたい。
さて、以上が今回の札幌観光のスケジュールだ。誰が見ても「っぽい」コースだろう。
でも地元のわれわれは絶対にやらない巡り方だ。これで新発見を得られるだろうか。
行ってみよう!!
小樽は何度訪れても情緒が溢れていることよ。
情緒だらけの街である。
すごい情緒量だ。
さて、すしである。すし。
観光客価格のオンパレードの中、勇気を振り絞って、ちゃんとした寿司屋にお邪魔することにした。
かにを初めて店で食べるのだ。値段なんて気にしていられない!
おいしい…。悔しいけど(価格的に)、おいしい…。
家で食べるかにはもっぱらボイルだったので、焼きガニはあまり食べたことがなかったが、焼くと身が殻にくっついて食べにくいんだな、と思った。
食べにくい分、香ばしくておいしい。ノーペイン・・ノーゲインだ。
一瞬で財布が軽くなった。なんだか、観光客になれた気がする。
…オルゴールを見に行こう。
館内はものすごい数のオルゴールが並んでいる。
その中でも観光客らしき人々が手に取っていたのは「サウンドオブミュージック」や「小さな世界」など、かなり有名な曲のオルゴールだった。
記事の流れ上、僕たちもそういう曲のオルゴールを買おうと考えていたが…。
ひとつ、すごいオルゴールに出会ってしまった。ぜひ見て欲しい。
その名も「すしオルゴール」。
オルゴールのメカ的な部分の上にすしが搭載されている、ザ・日本的なデザインである。
この時点で観光客はスタンディングオベーションのはずだ。
ただ、すごいのはそのビジュアルだけではない。
トロからトトロが流れてくるのである。
日本語が分からない人には伝わらない洒落ではあるが、もはや奇跡だ。
(ほかの曲もあったのでたぶん意図的な洒落ではない)
いい買い物をした。2600円。
さて、札幌に戻ってきた。
未だ中を見たことのない、時計台やテレビ塔に潜入してみようと思う。
まずは時計台。
札幌で過ごす僕たちにとっては、時計台は「札幌駅から大通に向かう時に通ったり通らなかったりする存在」でしかない。
中は博物館のようになっていた。
時計台は、元は札幌農学校の演武場だったようだ。
大学の英語の授業で習ったのだが、「動いて現在の位置に落ち着いた」らしい。それが札幌農学校自体のだったのか、時計台自体のことだったのか、同行していた先輩と軽い言い争いになった。
お互いふわっとしか覚えていない。
史料によると、結局どっちも動いていた。言い争いはなんだったんだ。
続いてテレビ塔へ。
展望エリアからの眺めはこんな感じ。札幌中心部を一望できる。すごい。
東京のスカイツリーに登った時は「おお!グーグルアース!」と思ったが、テレビ塔はグーグルアースにしては解像度がとてもいい。ディテールがよく見える。
こうして見ると壮観である。
あえて欠点を挙げるとすると…。
鉄骨が多すぎて、景色をバックにした写真がうまく撮れないのである。
しかしテレビ塔はすごい。そんな欠点をピンポイントで補ってくれるサービスがある。
グリーンバックにテレビ塔からの風景を合成した写真を販売している。
展望台へ向かうエレベータに乗る前に、イニシエーションとして撮影されるのだ。賢い。
これがお土産の回答にあった「テレビ塔の写真」だったのか!
札幌の街がバックの写真。合成にしても、自分で撮れないなら喜んで買っちゃうよなあ…。(買いました)
この後、テレビ塔のお土産コーナーで記念メダルを買ったり
北海道神宮にお参りをしに行ったりした。
時計台も、テレビ塔も、神宮も…改めて巡ってみても、目新しいものは特に見つけられなかった。が、楽しい!
割といいなあ、こういうの。
夜。ドン・キホーテにやってきた。
観光客御用達のここで爆買いをしようと思う。
ぜひ手に入れたいのが
● かにせんべい
● 男山
● おたるワイン
● まゆクリーム
である。
問題は「まゆクリーム」だ。名前だけしか聞いていない上に、どんな商品か全くわからない。下調べをしてもわからない。見つけられるだろうか。
ドンキに入ってすぐ。北海道土産のコーナーがでかでかと。
入店して数秒。
グアムから来たあのお姉様がくれたかにせんべいを発見!
前面に押し出されているということは相当な人気商品なのだろう。買い。
男山もおたるワインも意外にリーズナブルな価格。これがお土産でいいのか不安になるほどだ。
でもガイドさんは「定番」って言ってたし…買い。
周りの観光客を見てみると、カートに山のように積まれた大量のカップ麺が!
カップうどんやカップそば、あと小さなサイズのカップヌードルが人気っぽい!
カップ麺の棚に向かうと…
余計な物を買ってしまった気はするが、お酒とかにせんべいは確保している。あとは「まゆクリーム」だけ見つければ…!
あれー…。「まゆクリーム」らしきものはどこにもない!
なんだったんだろう…。と思い始めたとき、同行していた友人が一言。
「まーゆ…??」
あ!!!「まーゆ」!!!
眉でもなく、繭でもなく、馬油だったか!!!
馬油クリームならいくらでもあるぞ!
すごい、アハ体験!
ひとしきり笑ったのち、「馬油クリーム」をカゴに入れてレジへ。
爆買いをする観光客も、レジで金額を見てちょっと後悔したりするんだろうか。
「カップ麺、余計だったかなあ」とか。
爆買い完了!!
謎に包まれていた「まゆクリーム」も手に入れることができた!
まさにミラクルショッピング!
続いて向かったのは藻岩山である。
札幌にある標高531メートルの山で、ロープウェイで山頂まで登ることができる。
藻岩山からの夜景は、2018年に長崎・北九州とともに「日本新三大夜景」に認定された。
要するに高いところから見る札幌の夜景がとても綺麗らしい。
札幌の夜景。テレビ番組のお天気カメラなどではよく見るが、実際に生で見たことはない。
ロープウェイとケーブルカーを乗り継ぎ、山頂へ。目の前に広がっていたのは…。
すげー綺麗…(語彙力)
途中まで同行してくれた友人は都合があって来られず、この景色をひとりで楽しんだ。
実にロマンティックの無駄遣いである。
ひときわ輝いている真ん中あたりがススキノ〜大通の札幌中心部。
全体的にオレンジ色で暖かみのある光になっているのは、札幌市の街灯にナトリウム灯が使われているからだそうだ。
お世辞なしに、これは圧巻だ。
札幌市民もそうじゃない人も、機会があるならぜひ見ておくべき。
写真でうまく伝わりきらないのが残念である。
いい発見だった。今度は誰かしら連れてこよう…。
そして、旅のシメはジンギスカン。
ジンギスカンを店で食べるのは初めて。なんだか緊張する。
ラム・マトン以外にも種類があるようで、店員さんが説明をしてくれた。
写真左上から反時計回りに
● ラムリブロース
● ラム肩
● 特上ラムもも
● ハツ
だそうだ。
特上ラムもも や ラムリブロース は、いつも食べるラム肉よりも柔らかくて驚いた。
説明なしで適当に食べるより、説明されながら食べた方が美味しく感じる!
ジンギスカンといえば「ジンギスカンパーティー」で、適当に鉄板に肉を敷いて適当に食べるのが普通だったので、ジンギスカン鍋を使う、というのはかえって新鮮だった。
存在が当たり前すぎて「夜、どこ食べに行く?」の選択肢に入ることはほとんどなかったジンギスカン。せっかく札幌にいるんだから、色んな店に食べに行ってみるのもいいかもな…。
ジンギスカンで締まった感じがするが、まだ旅は終われない。
なぜならまだ「馬油クリーム」を塗ってないからだ。
クリームの量はかなりある。220グラムでずっしり。
一度の買い物でたくさんストックすることができるということで、観光客たちもいっぱい買っていくのだろう。なくなったらまた日本に買いに来ないといけないし。
使用感としては、普通。たとえるなら乳液とハンドクリームの間という感じ。
ハンドクリームほどべたつかないが、保湿感はしっかりある。
あと、ハンドクリームの表現としてはちょっと込み入った理屈になってしまうが、聞いてほしい。
僕はハンドクリームがあまり得意ではなく、塗ったとたんに手を洗いたくなってしまう。
このクリームも、塗った直後に思わず手を洗ってしまった。なのでハンドクリームとしてしっかり使えると思う。
ちょうど、友人が指の乾燥に悩んでいるとのことだったので、あげることにした。
あげてから数日、継続して使っているそうだが、「経過は驚くほど良好」とのこと。
実は良いクリームだったのかもしれない。
よかった。
観光客っぽく、地元・札幌のベタなスポットを巡ってみた。
巡るうちに新たな発見がザクザク出てくるんじゃないかと思っていたが、実際はそうでもなかった。札幌は札幌だ。でも楽しかった。
「想像を超えてこない」時に予想外のアクシデントが起こると、それが引き立つのだ。
観光にアクセントが生まれて面白い。地元を歩いただけなのに強烈な思い出になりそうだ。
すしオルゴールも然り、スペルミスも然り、まゆクリームも然り。
たまにはこういう散歩をするのもいい。
地元を散歩しているだけなのに、観光という体裁を取った途端、2万円強も使ってしまった。
油断して財布のひもを緩めまくってしまったのだ。観光あるあるだ。
うん、観光だし。仕方ない。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |