電球式の歩行者信号が減っている
歩行者信号に3色シールを貼ることが千葉県の独自ルールなことに加えて、それを貼ることになっている電球式の信号もどんどん減っているようだ。
実際、この記事に載せている信号のなかにも、撮影した2週間後ぐらいに見たらLED化されていたものが2つもあった。
3色シールが貼ってある歩行者信号はどんどんレアになっています。千葉県に来ることがあったら、ぜひさがしてみてください。
先日、近所の交差点の歩行者信号に3色の丸いシールが貼ってあることに気がついた。
謎ときゲームだったら絶対に何かのヒントになっていそうなこのシール。いったい何なのだろう?
どういう信号に貼っているのか、何の目的があるのか、というかそもそも意味があるものなのか。いろいろと気になったので調べてみました。
僕は千葉県の市川市というところに住んでいて、最寄り駅に行くために毎日自転車でとおる交差点がある。
ある日、その交差点で信号待ちをしていたときにふと目線を上げると、
歩行者信号にカラフルな丸いシールが貼ってあることに気がついた。
この交差点を通るようになって2年。
毎朝家を出ないといけない時間の15分前まで寝てしまい、家を出たら競輪選手のように自転車をこぐ生活を送っているので、こんなシールが貼ってあることに気づいたのは初めてだ。
気になったので別の日にあらためて見てみると、そのシールは交差点の4つの角すべての信号に貼ってあった。こうなると、何かちゃんとした目的があるような気がする。
なんかすごい珍しいもの見つけちゃったんじゃないの?と興奮する一方、シールの貼り方がすごく雑で、誰かのいたずらのような感じもする。
これはいったい何なのだろうか?
それ以来、仕事の行き帰りにいつもと違う道を通り、他の歩行者信号を見てみることにした。
すると、
3色シールは、最初に発見した交差点以外にもたくさんの場所で貼られていた。
しかし、市内、しかもうちの家と駅の間ぐらいのエリアであれば、まだいたずら軍団の守備範囲内かもしれない。
そこで電車に乗って他の市の信号を見にいってみると、
おなじ千葉県内の船橋市・習志野市・千葉市でもこの3色シールが貼ってあった。
これはもう、自信をもって「何か意味があるシール」だと思っていいだろう。
1つだけじゃなくたくさん、近場だけじゃなく他のエリアでも見つけられて、初めて安心して「発見だー!」とバンザイすることができた。
ジャングルで新種を見つけた生物学者も、「ちょっとまだ発見って宣言しちゃうの怖いなー」と思ってる期間があるのかもしれない。
そして、その存在を確かめるためにいろんな歩行者信号を見たことで、この3色シールについていくつか分かったことがある。
①まず、いちばん上に貼ってあるシールの色は青と黄色が同数だった。
②そしてそれは地域によってかたよりがあり、千葉市内ではぜんぶ黄色がいちばん上だったのに対して、それ以外の市ではほとんどが青。
③また、シールが貼ってあるのは旧来の電球式の信号機だけで、最近のLED式の信号には全く貼っていない。
④あと、千葉県内の歩行者信号にはこのシールがたくさん貼ってあったのだが、東京都内に入ると全く見かけなくなってしまった。
と、こういった豆知識的なことはたくさん分かったのだが、結局このシールは何のためのものなのか、肝心なところが分からない。
やはり、あそこに聞いてみるしかないか。
というわけで、このシールは何なのか、千葉県警に電話で聞いてみることにした。今まで経験したことがないタイプの「警察にお世話になる」だ。
どんな理由であれ、できることなら警察にはお世話にならずに生きていきたいのはみんなそうだろう。しかし今はもう腹をくくるしかない。
ものすごく緊張し、自宅で正座しながら電話をかけたところ、担当の方がカツ丼なみの温かさで対応してくださいました。
------ さっそくなのですが、この3色シールは何のためのものなのでしょうか?
このシール、信号の電球交換が完了しているかを見わけるためのものなんです。
------ 電球交換をシールで?どうやって見わけるのでしょう?
信号機の電球交換は年に1回ずつ行うのですが、去年は黄色、今年は青など年ごとにシールの色を決めています。
作業をお願いしている業者さんには、電球交換が終わったらその年の色のシールをいちばん上に貼ってもらっているので、それを見れば今年の交換が終わっているかを見わけられるんです。
なるほど、そういうシステムだったのか!
あらためて写真を見てみると、青いシールがいちばん上に貼られている信号では、どれも黄色の上に貼られていた。
きっと、今年の色は青、去年の色が黄色ということなのだろう。
だとすると、いちばん上に貼ってあるシールの色に地域差があったことも説明できる。千葉市の今年の電球交換はまだこれからだが、その他の市では既にすすんでいるということだ。
シールの意味、色の意味、地域差の理由、分からなかったことに対して明快に説明がついていく。警察の方を前にして「謎はすべて解けた!」と言ってしまいそうになるほど気持ちがいい。
【歩行者信号の3色シールは】
・電球交換が終わっているかを見分けるためのもの
・年ごとにシールの色を変えていて、電球交換が終わったらその年の色のシールをいちばん上に貼っている
------ でもそもそも、電球交換の完了を3色シールで見わけられるとどんないいことがあるのでしょうか?
信号機の故障が発生したとき、電球切れは大きな原因の1つなのですが、地上からシールを見て今年の電球交換が済んでいると確認できれば、その可能性は低いとまず判断ができます。
それによって、復旧の対応によけいな時間がかかるのを防ぐことができるのです。
またまたなるほど!
地上からは届かない高さに設置されている歩行者信号。電球が切れていないか、中をあけて調べようと思ったらハシゴが必要になるだろうし、交通整理も必要かもしれない。
それで結局「電球は切れてませんでした」ということだったら、たしかに大きなタイムロスだ。
シールを貼るというすごくシンプルな仕組みだが、何かあったときに少しでも不便や混乱を小さくすることに役立っていたのだ。
お金もそこまでかからなさそうだし、思いついた人、きっと署長賞とかもらったんじゃないだろうか。もしもらっていないとしたら僕があげたい。
【歩行者信号に3色シールが貼ってあると】
信号の故障があったときに電球切れの可能性があるかを地上からすぐ判断できる
そして、これだけよくできた3色シールの仕組み、きっと全国共通でやっていることなのだろうと思ったが、
いえ、そうではないんです。
まず東京都の信号はもう全てLEDに変わっているので、こういったことは何もやっていないはずです。
そして、実はこの3色のシールを使った電球交換の管理は、千葉県警が独自に決めているルールでして。
信号の電球を1年に1回交換するのはどこも同じなので、他の都道府県もそれぞれのやり方で管理しているとは思うのですが、どうやっているかは私たちにも分からないんです。
【歩行者信号の3色シールは】
千葉県のローカルルール
なんと、これだけ理にかなったシステムだが、千葉県だけのものだったなんて。
でもそうなると、他の道府県ではどうやって電球交換を管理しているのかがすごく気になってくる。
ふたたび、歩行者信号を見にいってみよう。
まず足をはこんだのは、埼玉県の川口市。
こちらでは、3色シールはないものの、それぞれの信号に数字が書かれたプレートが貼られていた。
どうやら埼玉県では、電球交換が終わっているかどうかではなく、この信号機自体がどれだけ古いかをパッと見て判断できるようにしているようだ。
特定の情報を地上から見てすぐに分かるようにしているのは千葉県と同じだが、何を示すかは違っているのが面白い。信号機の古さ、それはそれで故障が発生したときに何かを判断する材料になりそうだ。
そして、神奈川県の鶴見駅前でも調べたところ、同じルールが採用されていた。もしかしたらこっちの方がメジャーなのかもしれない。
これで首都圏(東京・千葉・埼玉・神奈川)の事情はわかった。この勢いで他の道府県の信号も見にいきたいところだが、さすがに無理がある。
そこで、全国に住む友人・DPZライター・はげます会(デイリーポータルZのファンクラブ)のみなさんに協力していただき情報をあつめることにした。
季節はちょうどお盆。友人に対しては、首都圏に住んでいて地元が地方の人には「今年の夏は帰省しますか?」と、地方に住んでいる人には「しばらく会えていませんが元気ですか?」と、どちらにとっても実家の父のような連絡をして協力をお願いした。
その結果、全国各地から「何も貼ってないぞ!」という写真がたくさん届き、
次の道府県からも「何もなくてツルッとしてます」というお便りをいただいた。
県警の方のお話では、他の都道府県でも同じようなことをやっているのではないかとのことだった歩行者信号の3色シール。でも調べてみると、バリバリの千葉県ローカルルールだった。
地元民が「えっ、これって全国共通じゃないの?」って言うやつ。これはもう立派な「ご当地信号」だ。
歩行者信号に3色シールを貼ることが千葉県の独自ルールなことに加えて、それを貼ることになっている電球式の信号もどんどん減っているようだ。
実際、この記事に載せている信号のなかにも、撮影した2週間後ぐらいに見たらLED化されていたものが2つもあった。
3色シールが貼ってある歩行者信号はどんどんレアになっています。千葉県に来ることがあったら、ぜひさがしてみてください。
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