特集 2018年2月5日

戦え!みかん糖度バトラー

俺のターン!みかんでアタック!
俺のターン!みかんでアタック!
この冬、改めてみかんの面白さに驚いている。

まず、全体的に平均値を取るとかなり美味しい食べ物なのに、それぞれ食べてみると甘くて超うまいのから、酸っぱくてキツいやつ、さらには甘くも酸っぱくもないなんかスカスカしたやつまで、個体差が異常にデカい。

そして、その個体差を食べる前から確認するのがとても難しい。それだけに、甘くてうまいのを引き当てた時の喜びは大きいし、逆に他人が甘いのを食べてるとやたら悔しい。

これ、もしかしたら対戦型ホビーになるのではないだろうか。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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数値化して戦え、俺のみかん!

みかんのホビー化に関して必要なことは、数値化だ。

単に美味しいみかんを引き当てたとしても、対戦させるのに「俺の方が甘い」「いや俺の方が」と言い争うだけでは勝負にならない。

誰の目から見ても公平な戦いにするためには、みかんの美味しさを数値化する必要がある。
今食べているみかん、戦闘力はどれぐらいだろうか。
今食べているみかん、戦闘力はどれぐらいだろうか。
そこでひとまず、糖度計を作っている(株)アタゴというメーカーさんに事情(みかんでバトルをやりたい)と説明したところ「ちょうど良い機械があるので、これを使ってみませんか?」とデモ機をお借りすることができた。
なんでも素直に言ってみるものである。

で、送られてきたのが、柑橘専用ポケット糖酸度計、というもの。
試しに測ってみると、糖度8.8の酸度0.74。これはかなり甘くなく、かつ酸っぱい数値。
試しに測ってみると、糖度8.8の酸度0.74。これはかなり甘くなく、かつ酸っぱい数値。
普通の糖度計は果実などの甘さを糖度(Brix %)という数値として測るものだが、この糖酸度計はみかんなど柑橘類専用にチューニングされており、糖度に加えて酸度…つまり酸っぱさまで数値化できるのだという。へー。
で、測定した糖度と酸度から弾き出した「糖酸比」という数値(糖度÷酸度)によって、美味しいみかんが分かるのだという。
糖度と酸度から割り出したこのみかんの戦闘力(糖酸比)は11.9。やはり低い。
糖度と酸度から割り出したこのみかんの戦闘力(糖酸比)は11.9。やはり低い。
糖度が高く、かつ酸度が低いと、この糖酸比の数値は高くなる。
本来であれば糖酸比にはバランスの良い数値(甘さの中に絶妙な酸っぱさ、的な)があるらしいのだが、今回は純粋にこの糖酸比の高さをみかんの戦闘力として競ってみようと思う。

名付けて「みかん糖度・バトラー」。みかん、の部分をなるべく早口で読んで、「バーコード・バトラー」的な発音をしてもらえるとありがたい。

デイリーライターによるみかん糖度・バトラー、戦闘開始!

折良く、編集石川さんが担当するデイリーポータルライターの企画会議が行われるとのこと。

ならばそこで、みかんに一家言を持つ(持っているに違いない)ライター勢に甘くて美味しいみかんで戦ってもらおうではないか。
企画会議兼みかん糖度バトルは、ライター松本さんが運営する会社にて行われた。みな、一様にみかんを見る目が鋭い。特に乙幡さん。
企画会議兼みかん糖度バトルは、ライター松本さんが運営する会社にて行われた。みな、一様にみかんを見る目が鋭い。特に乙幡さん。
今回、バトルフィールドにはあらかじめ20個のみかんを用意した。
まずはこの中から各自で自分の最強デッキ(みかん)を選び出し、糖酸度計で計測。その戦闘力の高さで勝敗を決するのだ。
例えば、みかんのヘタも甘さを見極めるポイント。ヘタの切り口が細い方が甘い。枝の細いところ(木の外側)になっていたため、より日光を浴びているから。
例えば、みかんのヘタも甘さを見極めるポイント。ヘタの切り口が細い方が甘い。枝の細いところ(木の外側)になっていたため、より日光を浴びているから。
ちなみに、今回のみかん20個は産地・銘柄などバラエティ豊かにあれこれ取りそろえてみた。

同じ袋に入っていたみかんでも、より皮の薄いものや、おしり側がデコボコしているものが甘いという話もある。
果たしてバトラーたちは、この中から最強のみかんを探し出せるだろうか。
皮の張りだとか、サイズだとか、独自のノウハウを駆使してデッキ構築するバトラーたち。
皮の張りだとか、サイズだとか、独自のノウハウを駆使してデッキ構築するバトラーたち。
価格も一袋300円以下の激安みかんから、千疋屋で購入した一つ300円越えの高級品、さらには「幻の柑橘」「柑橘の大トロ」と呼ばれるものまで様々。
「超高級なみかんも入れときました」と言った途端、バトラーたちのみかんを選り分ける手付きが一気に激しくなった。

バトルスタート!

勝負は形式上、1対1で行うこととした。
まず初戦は、ライター三土さん VS 今回ゲストとしてライター会議に来てくださった某E社の石川さん。事情により詳細はぼかすが、とある有名子ども向け番組で、いろんな小物を使ったコースをボールがゴラーッと転がってスイッとゴールしたらピタッと旗が立つ、みたいな例の装置を作っている人である。
そんなすごい人にいきなり「みかんで戦ってください」って言って良かったんだろうか。
「俺のみかん、ドロー!戦闘力19.6でアタック!」
「俺のみかん、ドロー!戦闘力19.6でアタック!」
「なんか遊戯王カードみたいな感じでかっこよくキメてください」とお願いしたところ、見事にバトル感の高いポーズをくれた三土さん。
糖酸比も19.6となかなかのものだ。これは悪くないみかんだぞ!
50倍に希釈したみかん果汁(酸度は希釈液で測定する)を測定する石川さん。楽しそうにやってくださったのでちょっとホッとしてる。
50倍に希釈したみかん果汁(酸度は希釈液で測定する)を測定する石川さん。楽しそうにやってくださったのでちょっとホッとしてる。
対して、E社石川さんの糖酸比はなんと25.3!高い!
実は事前に、我が家でいつも食べているみかんでもいくつか計測していたのだが、そもそも20越えが無かったのだ。

それもそのはずで、いきなり飛び出したこの超強みかんこそ「幻の柑橘」「柑橘の大トロ」との呼び名も高い「せとか」という品種である。
15個入り1箱で約6,000円という、お値段も超強っぷり。1個400円!
15個入り1箱で約6,000円という、お値段も超強っぷり。1個400円!
オレンジとみかんを掛け合わせ、さらに別種のオレンジを掛けたという新品種で、要するにみかんとオレンジのハイブリッド。
剥くとオレンジっぽいスーッと爽やかな香りがして、味はみかん寄りの甘さがある。
香りの良さに加えて酸味と甘さのバランスがやたら良くて、いくらでも食べられそうな気がする。程よい酸味のおかげで甘さがさらに引き立つ、という感じだろうか。
「おおう…これは……」と、せとかの美味さに絶句する三土さんとE社石川さん。数値以前に勝負が明らかだった。
「おおう…これは……」と、せとかの美味さに絶句する三土さんとE社石川さん。数値以前に勝負が明らかだった。
「いやー、そうはいっても僕のみかんも悪くないですよ」と言い張っていた三土さんだが、せとかを石川さんから分けてもらって食べた瞬間、完全に絶句していた。
さすが、柑橘の大トロの異称はダテではなかった。
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活きるか、八百屋の知恵

続いての第二戦は、ライター乙幡さん VS ライター辰井さん。
なんと辰井さんは以前に八百屋で働いた経験があり、みかんの見分けも「いけると思います」と力強い発言。
対する乙幡さんは、前ページ写真の視線でも分かるとおり、かなり本気で高級みかんを獲りに来ている。
うまくポーズが決まらず、なぜかからだをよじる辰井さん。
うまくポーズが決まらず、なぜかからだをよじる辰井さん。
辰井さんが選んだのは、20個の中で最も大きく(3L玉)張りのあるもの。
しかしこれがなんと、糖度7.5と今回のバトルで最も甘くないみかんだった。八百屋の経験とか、どこいったんだ辰井さん。糖酸比もふるわず13.9である。

ちなみに、みかんは果実が小さい時に糖分の総量が決まってしまうそうで、そこから大きく成長してしまうと、体積に比して甘さが薄まってしまうのだ。
つまり、同じようなみかんの中から糖度の高いのを選びたいなら、小さいサイズの方が良い、ということらしい。
カードバトルっぽい決めポーズを、というお願いに対して、大きく脇を開いた姿勢で果汁水溶液をたらす乙幡さん。アクションの大きさは確かにバトル感ある。
カードバトルっぽい決めポーズを、というお願いに対して、大きく脇を開いた姿勢で果汁水溶液をたらす乙幡さん。アクションの大きさは確かにバトル感ある。
一方の乙幡さんが選んだ中ぐらいサイズのものは、糖度12.8となかなかの好スコアながら、酸度が今回最高の0.88。せっかくの高糖度も活かせず糖酸比14.6に終わった。
奇しくも、最も甘くないみかんと最も酸っぱいみかんという、残念な対決になってしまったのである。
乙幡さんの選んだ糖度12.8のみかんは、スーパーで購入した静岡産。1袋398円でこの糖度ならお買い得だったかも。
乙幡さんの選んだ糖度12.8のみかんは、スーパーで購入した静岡産。1袋398円でこの糖度ならお買い得だったかも。
「あー…うん、普通のみかんだよね」「そうですねー」
「あー…うん、普通のみかんだよね」「そうですねー」
計測後に実食した二人の表情も、驚くほど弾んでいない。
先ほどせとかを食べた三土さん・E社石川さんと比べると、なんというか申し訳無いぐらいの落差である。

実際のところ、スーパーの袋売りで購入したみかんなら、今回の勝負で出た糖酸比ぐらいのものも普通に入っている。しかし改めて数値化されてしまうと、食べた時の「こんなもんだよね」というガッカリ感も際立ってしまうのだ。

伝説 vs 最強の戦い

最終戦は、ライター松本さん vs DPZ編集石川さんの勝負。
出るか?未だ登場していない千疋屋の1個300円越えみかん!
なぜか真顔のカメラ目線でみかんを絞る松本さん。しかし糖酸比は驚きの30オーバー!
なぜか真顔のカメラ目線でみかんを絞る松本さん。しかし糖酸比は驚きの30オーバー!
出た!なんと、せとか越えの糖酸比30.7!!
これは今回のみかんとしては超サイヤ人レベルの数値である。
しかも松本さんが選んだこのみかん、実はせとかでも、千疋屋の高級みかんでもない。
近所の八百屋で1袋298円(1個あたり約25円)という、ごく普通の山口県産みかんだったのである。
松本さんがひょいと掴んだのが実は在野最強みかんだった、という伝説の始まり。
松本さんがひょいと掴んだのが実は在野最強みかんだった、という伝説の始まり。
木下藤吉郎かエカテリーナⅠ世かという立身出世ぶりである。
自宅でぼんやりみかんを食べていても、ごくまれに「うわっ、なにこの甘いやつ!」というのに当たることがある。これがまさにその“奇跡的に甘いやつ”だったのだろう。
「秘技!果汁天空落とし!」すでにカードバトルとは何の関係もない決め技も飛び出す。もちろんちゃんと測れなかったので、リトライ。
「秘技!果汁天空落とし!」すでにカードバトルとは何の関係もない決め技も飛び出す。もちろんちゃんと測れなかったので、リトライ。
ところが!これで勝負は決まったかと思われたその時。DPZ石川さんが松本さんの伝説を上回る数値を叩き出した。なんと糖酸比32.2!!
そう、石川さんの選んだみかんこそが、千疋屋で1個300円越えの高級みかんだったのである。
小ぶりなサイズに、みかん1個としてはそこそこ震える値段がついている。
小ぶりなサイズに、みかん1個としてはそこそこ震える値段がついている。
糖度こそ松本さんにわずかに劣るが、酸度が0.41と今回最低値。つまり、とにかく甘くて酸味が少ないみかんなのである。
ちなみにもう一つ同じものを購入していたが、こちらも後から測ると糖酸比31.4と最強クラス。
1袋298円からは超極レアとしてしか出てこない伝説級みかんが、1個300円なら100%出てくるということか。やはりスマホゲームでも課金はやむなし、ということなのか。
あまりの甘味に顔が緩むDPZ石川さん。高級みかん、そんなに美味いか。
あまりの甘味に顔が緩むDPZ石川さん。高級みかん、そんなに美味いか。
「これすごいですよ。なんかジュース飲んでるぐらいの感じです」と石川さん。
確かに、ここまで酸度が低いともう果汁もそのままジュース感覚でがぶ飲みできるだろう。
300円という値段にプラスして糖酸比32という数字が出たら、もうそんなの最高に決まってる。
「食べ物は数字じゃなくて舌で味わうものだ」と山岡士郎あたりなら言いそうだが、舌で美味しい上に数字を見てさらに美味しい気分になれるなら、よりお得じゃないか。

とはいえ、「結局のところ高いみかんは甘くて美味しかった」というだけの結論にならなかったのは僥倖だった。
松本さんの伝説みかんよ、ありがとう。糖酸比30.7というきみの存在を信じて、今年ももうちょっと袋入りのみかんを買ってガチャを回そうと思う。
!

過去にもやたらといろんな計測機械が登場することでお馴染みのデイリーポータルZだが、味覚という個人の感覚にしか過ぎなかったぼんやりしたものをはっきり数値化するのは、やはり面白い。
まだ家族間で「俺がいま食べたみかんのほうが甘かった」「いや、私のみかんが最高だった」などと根拠のない言い争いをしているぐらいなら、さっさと柑橘専用糖酸度計を買って糖度バトルをすればいいと思う。
DPZ石川さんに王冠代わりにみかんの皮をかぶせてみたが、なんかあまり「勝者!」って感じがしなかったので、本編では写真を使わなかった。
DPZ石川さんに王冠代わりにみかんの皮をかぶせてみたが、なんかあまり「勝者!」って感じがしなかったので、本編では写真を使わなかった。

機材協力:株式会社アタゴ
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