特集 2018年1月29日

漫画っぽいアイコンを頭上に出すマシン

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漫画ではひらめいたときに電球が点灯し、驚いたときにはビックリマークやギザギザが頭上に現れる。

こうした表現を「漫画の符号=漫符(まんぷ)」と呼ぶらしい。

これを現実世界で再現することができれば、もっと豊かなコミュニケーションが可能になるんじゃないか。

この記事は工作特集3DAYSの1日目、「マンガ表現を現実に作る」の1本です。ほかの記事はこちらへどうぞ。
1992年生まれ。ディズニーランドの隣で育った現実派。ものづくりと、ものづくりをする人たちが好き。最近の目標は「今日も全国を飛び回っている」と名乗ることです。

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あなたは「漫符」を知っていますか

2018年も始まってひと月がたとうとしている。自分の身の振り方を考えるべく、おみくじを引きに行った。
「沈黙―すぎたるは及ばざりけりかりそめの言葉もあだにちらさざらなむ」
「沈黙―すぎたるは及ばざりけりかりそめの言葉もあだにちらさざらなむ」
明治神宮のおみくじは大吉や凶ではなく、大御心(おおみごころ)としてありがたいお言葉を短歌形式でいただくことができる。僕が引いたのはこちらの「沈黙」。簡単にまとめると、「やたらに軽々しい口をきくんじゃない、沈黙しているほうがよいこともあるぞ」という内容だ。なかなか胸に刺さる言葉である。

とはいえ、毎日しゃべらずに過ごすのはなかなか難しい。できるだけ言葉を使わずに、自分の感情を伝える方法はないものだろうか。
漫画的な記号表現「漫符」
漫画的な記号表現「漫符」
ここで参考になるのが漫画だ。漫画の住民たちは、フキダシや身ぶり手ぶりに加え、頭の上にいろいろなアイコンを浮かべて自分の気持ちを伝えようとしている。調べてみると、こうした漫画的表現のことを「漫画の符号=漫符(まんぷ)」とよぶらしい。この漫符を自由に出せるようになれば、言葉を発せずとも感情を伝えられるようになるのではないか。

「漫符コントローラー」を作ろう

頭の上に浮かべたいものといえば、やはり電球だろう。なにかをひらめいたときに頭上でピカッと光る電球を再現したい。感情が動いたときだけ頭上に記号があらわれる、「漫符コントローラー」を作ってみよう。
ひさびさの電子工作への不安が線のブレにあらわれた
ひさびさの電子工作への不安が線のブレにあらわれた
電球は本物を使いたかったのだが、上から落ちて割れたら怖いし、できれば感電もしたくない。そこで手ごろなLEDと、光を強くするための反射板で作ってみることにした。
東急ハンズに売っていた都合の良い透明素材も組み合わせる
東急ハンズに売っていた都合の良い透明素材も組み合わせる
明るい場所で作業していたら、机の上に置いた反射板の性能がよすぎて怖い話みたいになった
明るい場所で作業していたら、机の上に置いた反射板の性能がよすぎて怖い話みたいになった
電球が完成したら、次はそれを頭上に持っていくためのマシン部分を作ろう。モーターや小型コンピュータを載せるため、レーザーカッターで切り出したパーツを木づちで押し込んでかみ合わせていく(本当はねじやナットを組み合わせると良い)。
※レーザーカッターは「ジグザグを作ってはめ合わせるだけの道具」ではありません。
※レーザーカッターは「ジグザグを作ってはめ合わせるだけの道具」ではありません。
電子機器を詰め込むとこんな感じになる。
電子機器を詰め込むとこんな感じになる。
気合を入れて図解を作ったが、そんなに書くことはなかった。
気合を入れて図解を作ったが、そんなに書くことはなかった。
首の後ろに載せてみたところ。顔が死んでいるのは直前にマシンをショートさせたからです。
首の後ろに載せてみたところ。顔が死んでいるのは直前にマシンをショートさせたからです。
とりあえず形にはなったのだが、箱の色が少し目立っているように見える。できるだけ風景に溶け込ませたいので、また反射板を使ってみることにした。
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おお、しっかり外の色に溶け込んだではないか。もしそう思えない場合には、少し目を細めてから見直していただければ幸いだ。簡単な光学迷彩も実装できたところで、いざ実践投入してみよう。

ひらめきに必要なもの

感情を伝えるためには相手が必要だ。一人暮らしの家にこもっていてもどうしようもないので、編集部の皆さんに協力していただくことになった。
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作業中の僕をすごい角度で見守る編集部の皆さん
作業中の僕をすごい角度で見守る編集部の皆さん
二子玉川のオフィスでマシンの調整をさせてもらうあいだ、事前に何が来るか知らされていなかった3人は、後から写真で見るとすごい角度をしていた。そして、ついに電球を浮かべる準備が整った。
橋田さん「………新宿に2つあるバッティングセンター、実は別経営らしいですよ」
橋田さん「………新宿に2つあるバッティングセンター、実は別経営らしいですよ」
淺野「なるほど!」
淺野「なるほど!」
会議の停滞が打ち破られた瞬間
会議の停滞が打ち破られた瞬間
「何か「なるほど!」ってなることを言ってください」という無茶ぶりに応じてくれた橋田さんのアシストもあり、手を打つ動きに合わせて電球が起き上がり、しっかりLEDが点灯してくれた。

あれだけまぶしかったはずの反射板があまり効果を発揮していないのは、僕が本当は新宿のバッティングセンターのことを知らなかったからかもしれない。
気持ちよく「なるほど!」と言えることを探しましょう
気持ちよく「なるほど!」と言えることを探しましょう

「焦り」や「驚き」も浮かべてしまえ

電球を浮かべることに成功したはよいものの、さすがデイリーポータルZというべきか、なんと過去にも同じような記事が掲載されていた。→ 「頭の上で電球を光らせろ(べつやくれい)」

しかし、これで終わる「漫符コントローラー」ではない。ひらめきの電球だけでなく、ネタがかぶっていた焦りだって、漫符で表現することができるのだ。
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「うわ~どうしよ~!」の汗
「うわ~どうしよ~!」の汗
大粒の汗で焦りがいい感じに表せたのではないか。システムは単純で、電球の部分を他の漫符につけかえるだけだ。こうして好きなように感情を表せるのだが、実は一つ大きな問題があり、つけている本人は自分の状態を見ることができない。

そこで、藤原さんに取り付けさせてもらうことにした。ちなみに、首の後ろに置くだけでは安定しないので、マシンには丈夫な長い紙の管が取り付けてあり、これを服のすきまに差し込むことで倒れずに利用できるようになっている。
上から失礼します。
上から失礼します。
これは……攻殻機動隊で見たやつだ!
これは……攻殻機動隊で見たやつだ!
完全に想定外だったのだが、制御用のコンピュータがむき出しのため、首の後ろに電子機器が接続できる未来の人間のようになっている。感情を表現するためのマシンという背景も組み合わせると、急に人間らしさとは何かを問うSFのようになってきた。
「明日の朝、マイナス5度らしいよ」
「明日の朝、マイナス5度らしいよ」
「給料日、なくなったらしいですよ」
「給料日、なくなったらしいですよ」
ビックリマークと表情がすこし食い違っているのは、藤原さんがこのマシンに慣れておらず、上がってくるタイミングが分からなかったからだ。モーターの速度が体得できると、いつ顔をつくればよいかがわかってくる。僕はもうバッチリ合わせられる自信がある。

しかし、せりあがってくる漫符に合わせて自分の感情を作るという行為は、機械が人間の感情を制御するという構図そのものではないか。自分の感情を表現する機械を作るつもりが、機械に合わせて自分の感情を作るようになってしまった。機械に人間が制御される、なるほど、これがシンギュラリティというヤツだったのか。
本当かどうかは知らないです。
本当かどうかは知らないです。

感情コントローラーの使いどころ

モヤモヤや花など、他にも漫符で表現できる感情はたくさんありそうだ。マシンを人に取り付けて遠くから制御すれば、勝手に相手の感情を表現できるようにもなるだろう(撮影中にエモーション・ハラスメントという言葉が生まれた)。ただし、そこまでくるともう普通に手持ちのフォトプロップスでも使えば良いのかもしれない。

あと、最後に外で撮影したのだけど、普通に恥ずかしかったので使いどころは考える必要はありそうです。
影はとてもカッコよかった。
影はとてもカッコよかった。
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