おれより辞書を持ってるやつに会いに行く
一般のご家庭でも、国語辞典の5冊や6冊はあると思うが、ぼくは一時期、ブックオフで100円から500円ぐらいで売っている国語辞典を、ふざけて買い集めているうちに、勢いが止まらなくなり、いま、家に150冊ぐらいの辞書がある。
国語辞典だけで100冊以上ある
150冊あまりの辞書は、段ボール箱10個ほどに分けてつめられ、部屋の一角に積み上げられているが、その存在感はかなりのものがある。
しかし、上には上が居るもので、これ以上の辞書を所有しているひとがこの世には存在している。
聞くところによると、マンションの一室がすべて辞書でうまっているという。
ぜひ一度お会いしたい。そのコレクションを見せて欲しい。俺より辞書を持ってるやつに会いに行く。気分はもう、ストⅡのリュウである。
境田さん。玄関からすでにダンボールの圧がすごい
大量の辞書を所有しているという境田稔信さん。境田さん、実は国語辞典マニア界では超有名人でもある。
それはともかく、まずはさっそく大量の辞書を見せていただく。
すごーい!
記録用に録音しておいたICレコーダーの、このぶぶんの音声をききかえすと、ぼくの「おーほっほ、すごーい!」という、歓喜の叫び声しか入っていない。
大量の国語辞典と漢和辞典
日本初の国語辞典と言われる言海もこんなにたくさん!
黙って一冊ぐらい持って帰ってもわからないのでは……持って帰りませんが
国語辞典だけではなく、百科事典、英語辞典などもこのありさま
みなさん想像してください。ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家。あれだ。この家は辞書でできている。
とにかく、その物量に圧倒されて、うわぁーとしか声が出ない。まさに汗牛充棟とはこのこと。これに比べたら、うちの150冊の国語辞典なんか鼻くそみたいなもんだ。
念のため確認しておくが、この辞書はすべて境田さん個人の所有である。図書館とか資料館とか、そういう場所ではない。
無造作に積まれた『新明解国語辞典』!
(※1)「動物園」の語釈を手直しした件……『新明解国語辞典』は、第4版の「動物園」の語釈が、動物園に対する偏見があるとして、動物園関係者に抗議され、修正されたことがあった。
「飼い殺しにする、人間中心の施設。」という過激な部分を書き換えているが、「動く標本」、「都人士」といったひとクセある言葉づかいが力強い
『新明解国語辞典』といえば、現在は赤い装丁でおなじみだが、初版は、赤、青、白のカラーバリエーションがあった。
白い新明解だ!
わー、初版一刷!
なにげに手に取った新明解初版、奥付をみると1刷。つまり、いちばん最初に発行されたものだ。すごい。
定価、1,000円とあるが、今、古書店で買おうとすると、6・7千円、店によっては1万円程度の値段をつけるところもあるかもしれない。
そんなレベルの辞書がそのへんにゴロゴロしているのである。
ここに住んでいる
しかし、事前に聞いていた「マンションの一室がすべて辞書でうまっている」というのはウソだということがわかった。
一室ではなく、すべての部屋が辞書で埋まっているのだ。
廊下(カニ歩きで通行します)
仕事部屋(新しめの辞書はこちらの方に)
申し訳ないけれど、もういっかい言わせてください。まさに汗牛充棟! 高校時代に習ったこの四字熟語、二十数年の時を経て、1日に2回使う場面に出くわした。黒田先生!(高校時代の国語の先生です) 汗牛充棟! 役に立ちました!
もはや「家に辞書がある」というレベルではない。「辞書と一緒に住んでいる」といった方がよい。同居人だ。
2日に1冊のペースで増えていった
『明解國語辭典』がいっぱいある……。
(※2)『明解國語辭典』……現在三省堂から発売されている『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』の源流となった国語辞典。1943年初版発行。金田一京助とあるが、実質的には金田一の教え子であった見坊豪紀がほぼひとりで完成させた。
いちばん高かったのは『康煕字典』
50万円!
おぉ! これが50万円……。
現在の漢字の形の元になった『康煕字典』
こんなものに勝ち負けがあるとは思わないけれど『康煕字典』を個人で買うひとには勝てない。
対戦校の校歌をききながら砂を集める、試合に負けた高校球児の心境である。
ちいさい辞書とか変な辞書
これだけ辞書を持ってる境田さん。中にはなんだこれというような辞書もある。
ナポレオン……辞書?
うっぁーなんだこれ!
「ふかづめ」……「ふかで」……あー! 載ってない!
ここに載ってる!
消しゴム!
下の新明解と大きさ比べて欲しい
中身もちゃんとしている
国語辞典のルーツを見る
節用集、表紙がボロボロ
中身はこんな感じ
いろは引き、ローマ字引き、さまざまな検索方法が編み出された
復刻版じゃない!
高等の表記だけでもこんなに変わっている。明解国語辞典の②のブランチ「ひんがいい」も注目したいところ
『言海』に載っているネコのイメージ
このあたりの棚、ほとんどが『言海』です
『言海』は、小型のものから大型のものまで、サイズの種類がいくつかある
「ね古(こ)」の項目。ネコにうらみでもあるのだろうか
薄情! でも、さし絵はかわいい!
文學士・中村徳五郎は、九州の地方史研究家のようだ。おそらく、文學士としての名前を貸しただけの可能性もある
「アイ・ラブ・ユー」が載っている辞書
アイ・ラブ・ユー?
昔の辞書は、こうやって眺めているだけでも、「ネコ」や「アイ・ラブ・ユー」に対して昔の人はどのような見かたをしていたのかが、なんとなく浮かび上がってくる。これは時間がいくらあっても足りないぞ……。
境田さんの家はそこなし沼だ。
沼の主……
天国すぎて昇天しっぱなし
境田さんの家は天国すぎる。時間がいくらあっても足りない。
面白い辞書、変な辞書、すごい辞書、あやしい辞書、珍しい辞書……次から次へと辞書が出て来る。
おばあちゃんちに行ったら、次から次へとおかずが出てくるあれだ。
あるいは、寿司屋。「大将、新明解おねがい、初版で」「あいよー、新明解初版いっちょー」みたいな。
「国語辞典ナイト4」開催決定!
5月7日(日)、渋谷の東京カルチャーカルチャーにて、国語辞典編纂者の飯間浩明先生と共に「国語辞典ナイト4」を行います!
そして今回、記事で登場していただいた境田さんをゲストに迎え、記事で紹介しきれなかった境田さんの秘蔵コレクションを紹介予定! 乞うご期待。
チケットはこちら→
「国語辞典ナイト4」
2017年5月7日(日)開場17時/開始18時
渋谷・東京カルチャーカルチャー
出演
飯間浩明(国語辞典編纂者)
西村まさゆき(辞書好きライター)
見坊行徳(国語辞典マニア)
稲川智樹(国語辞典マニア)
ゲスト
サンキュータツオ(学者芸人)
境田稔信(辞書収集家)