棒アイスって食べにくい
ここで棒アイスと呼んでいるのは、ガリガリ君やホームランバーのように、木製のスティックに刺さっており片手で手軽に食べられるあれである。
夏の象徴的なアイコンとなっているあれであるが、アイスの方がだらしなくて悔しい思いをした経験はないだろうか。
こう上から食べ進めていって、
最後にこうなったら、
顔が必死になる。どうしても右側か左側、片方のアイスには棒にしがみついてもらい、その間にもう片方を素早く食べる必要があるのだ。
この時、アイスの根性が足りないと下の方のアイスが落ちるわけである。
改めて考えてみると、我々は結構すごい芸当を普段からこなしているのではないか。
なんの引っかかりもなく木の棒にくっついているものを、その木の棒からは落とさないように、口だけでついばんでいるのである。
たまに落とすことはあっても、よく頑張ってると思う。
人間はすごい。
棒から落ちやすいアイスがあるのではないか
対して、アイスの方はどうか。
人間の器用さにかまけて、棒に留まる努力を怠っているアイスがあるのではないか。
というわけで、アイスの、棒にしがみつく忍耐力を調べてみた。
棒アイスを固定する台を作る
アイスが棒にしがみつく力を調べるにはどうすればよいか。
考えている時に書いた絵。何かがアイスを持って宙に固定している。
上の絵のように、棒を持って横向きにアイスを固定してくれる装置を作ればよい。
この状態でどれくらい棒にしがみついていられるかを競ってもらうのだ。
この時アイスの上半分はあらかじめ切ってしまっておけば、勝負が長引きすぎてしまうこともないと思う。
肝心なのは、アイスを持っていてくれる「何か」である。
その何かは東急ハンズで見つかった。日曜大工とかで使う、力の強いクリップである。
アイスをちゃんと固定してくれる。
このクリップの力がすごかった。興味本位で指に挟んでみたのだが、すぐに「ふざけちゃダメなタイプのやつだ!」と感じて指から離した。
ふざけちゃダメなタイプの指の痛みだったのだ。
そして次は、そのクリップを固定する土台である。
こちらはコンビニでダンボールをもらい、工作してみることにした。
夜な夜なダンボールを切ったり貼ったりして、
こういったものができた。
台の上の方に隙間を作り、クリップが収まるようにした。
余談だが、もらったダンボールが「堅あげポテト 熟成肉の岩塩仕立て」のダンボールだった。
「ジュクセイニク」ってカタカナで書くと動物の学名みたいに見える。「シュモクザメ」みたいな感じで。
そして塗装もした。
棒アイス 棒にしがみつき選手権 開幕
土台ができあがったので、いよいよ『棒アイス 棒にしがみつき選手権』の開幕である。
エントリーするのは、馴染みが深いと思われる以下の6種類のアイスである。
「棒から落ちそうになるアイス」印象部門No.1のガリガリ君
~なめらかな口どけ 上質の証~パルム。棒からもなめらかに落ちてゆくのか。
ホームランバーNEO。アイスで果汁10%ってすごくジューシーだと思う。
大本命、圧倒的な硬さを誇るあずきバー。
ライターのクリハラタカシさんから、棒から落ちやすいという意見を頂いたあいすまんじゅう。確かに中があずきなのでグリップ力がなさそうである。
そして、なんだかいいアイス、ハーゲンダッツ。
まずは、撮影場所付近のコンビニで揃った最初の4種類を比べてみる。
つまりこういうことである。アイスの上半分を切って、台に固定する。
いきなり趣旨からそれるが、アイスがきちんと並んだ時はとても嬉しかった。
ダンボールの土台がきちんとクリップを固定してくれるかとても不安だったのだ。
「わー、できた!」と喜んでいる。
ポイントは、台の大事な部分に同じ大きさのダンボールを2枚ずつ貼って補強したところだと思う。
もし個人的に大会を催される方がいたら参考にしていただきたい。
アイス4個も食べきれないので、編集長の林さんとライターの皆さんにご協力いただいた。
皆さんが割り箸を持っているのは、棒から外れたアイスを食べてもらうためである。
ここからは時間を計りながらじっとアイスを見つめることになる。
アイスのためにカイジのお面をつくる
突然だがこの試み、事前に妻に話してみたところ「カイジみたいだね」と笑われた。
『カイジ』は読んだことはないが知っている。
独特な表現をするギャンブルの漫画である。
そうか、カイジみたいか…。
読んだことがなかったので漫画喫茶に行った。引き込まれてじっくり読んでしまったので、はじめの6冊ぐらいしか読めなかった。
カイジたちが、経済的に追い込まれた状況から一発逆転を賭けて危険なギャンブルに挑んでいた。
ビルからビルに渡された、細い鉄骨の上を泣きながら歩いていた。
なるほど似ている…!
僕は、こんなにひどいことをアイスに課そうとしているのか…!!
だが僕は違う。
カイジに出てくる悪い金持ちとは違う…!
そんな思いからカイジのお面を作った。
アイスにつけて、棒にしがみつくカイジたちを応援したい。
愛情がねじれている気もするが、すべてのアイスにちゃんとついて嬉しい。
アイスが落ちたら食べられるので、箸を片手にまだかまだかとほくそ笑むことになる。この辺もカイジっぽい。
落ちるときは急に落ちる
そんなことをしているうちに、次々とアイスが落ちてゆく。
ホームランバー。5分55秒。
ガリガリ君。7分20秒。
パルム。12分ジャスト。
落ちるときはほとんど前兆もなく、思い出したようにゴトンと落ちる。
限界とは、自分でも予測できないくらい急にやってくるものなのかもしれない。
カイジ(アイス)達へのねぎらいの気持ちをこめて恭しくいただいた。
あずきバーは別格だった
そして、残るはあずきバーだけとなったが、一向に動きが見られない。
大人5人を待たせているのだ。
夕飯時なのでそもそももうアイスというムードでもない。
いい頃合で力尽きてもらっても構わないのだが、
動かない。
「あずきバーって、なんなんでしょう…」と井口さんがしきりにつぶやいていた。「アイスだ」と心の中で思っていたが、確かに段々「なんなんだろう…」という気持ちになってくる。
なんなんだ…!なんだってんだ、あずきバーとは…!!と思ってパッケージを見たら、「歯を痛めるかもしれぬぞ」という旨の注意書きを見つける。怖い話のオチみたいな状況。
「あずきバー待ち」がじりじりと続き、カイジっぽいし下から炙ってみようかしらと思い始めたその時…!
急に落ちた。後ろにいる筆者がうろたえている。
落ちた。
自然と拍手が起きた。
やはりあずきバーもアイスだったのだ。鉱物や金属の類ではない。
記録は21分46秒。
ホームランバー3.5本分ある。
つまりツーランホームラン+ツーベースヒットということになる。
試合が盛り上がりそうだ。
あいすまんじゅうとハーゲンダッツはどうか
後日、気になっていたあいすまんじゅうとハーゲンダッツも装置に固定してみた。
気温や、買ってから計測を始めるまでの時間も、初めの調査と大体同じになっている。
奥がハーゲンダッツ。手前があいすまんじゅう。
見る。
あいすまんじゅう落ちる。4分11秒。やはり早い。
ハーゲンダッツが落ちる瞬間を録画するためにセッティングしたカメラのモニター。
頑張っているハーゲンダッツを、実物でなくモニター越しに見るとなんだか気分が高揚した。
カタルシスとはこういう状況を言うのか。
そのカメラの動画から作ったGIFアニメ。記録は16分ジャスト。
そのハーゲンダッツがしがみついていた棒。「うまい棒」と名付けた。
結果発表
今までの結果を棒グラフにするとこうなる。時間が長い順に並べた。
きれいな段になっている。
これは何を意味するのだろうか。
答えを出すためには、この棒グラフが示す曲線を「棒アイス カイジ的状況曲線」と名付けて、本格的に研究を進めなければならないだろう。
『棒アイス カイジ的状況曲線』
今分かるのは、あいすまんじゅう、ホームランバー、ガリガリ君などのアイスは最寄りのコンビニで買っても、家に着くまでにアイスのコンディションが変わっている可能性がある、ということだ。
急いで帰るか、その場で食べてしまうかを選択したほうがよい。
あずきバーなら隣の駅のコンビニで買ってもきっと大丈夫だ。
アイスは棒から落ちるくらいがうまい
棒から落ちてしまったアイスを食べる必要があったのだが、この、皿に落ちたアイスがいい塩梅の溶け具合で、食べやすくておいしかった。
「暖かい食べ物にも見える」と評判だった、棒から落ちたあずきバー。あの硬い時のあずきバーとは違って、上品な和風スイーツみたいな味がした。