要するにメイクのハウツー記事です
一見簡単なものほど難しいのはすべての世界に共通する真実。あのシンプルかつインパクトのあるメイクも、やってみるとさぞや奥が深いのだろう。
そこで美容の専門学校で技術を磨き、バンドのメイクなども担当していた坂田さんに、その方法を教わることにした。
メイクをするのが一人だと寂しいので、プープーテレビなどでおなじみの宮城マリオさんにも来ていただいた。
右がメイクを教えてくれる坂田さん。宮城マリオさんにはジーン・シモンズが似合うと思うんですよ。
以前、『
ヴィジュアル系バンドメイクに挑戦』という記事でも坂田さんに協力していただいたが、あれはすべてお任せのお大尽コース。
今回の肝は自分でメイクができるようになること。自分で自分を変えられてこそのメイク。いつでも好きな時にキッス顔ができるようになったならば、後日ライブをやろうという魂胆だ。
宮城さんが一番左のジーン・シモンズ、私が一番右のポール・スタンレーに挑戦します。
「ぼく、このメイクならしたことあります!」と宮城さん。キッスのピーター・クリスかと思ったら聖飢魔IIのジェイル大橋代官。
必要なメイク道具について
本物のキッスみたいな大御所ならともかく、バンドマンがメイクをする場所といえばライブハウスの楽屋だろう。
そこでなんとなく楽屋と似た雰囲気の場所ということで、カラオケボックスで講習会を開いていただいた。スーパーマンが電話ボックスで着替えをするイメージだ。
「準備している間に一曲いいですか?」とエアギター。
キッス顔になるために一番必要なものは、顔に塗る白と黒のなにか。高校生の文化祭なら迷わず絵具かポスターカラーでやるとこだが、坂田さんによると三善という舞台メイクの専門メーカーが出しているものがいいそうだ。
なるほど、キッスは使ってなくても、カブキロックスは使っているかもしれない。
グリースペイントというファンデーション(油性)の白、そしてライニングカラーの黒を購入。小さな入れ物で800円とそこそこ高いが、ここでケチってはいけない。
今回は2色だけだが、マネしたいメンバーが他にいるなら、その顔色に合わせてシルバーやグリーンなどを用意すること。
用意したのはこちらになります。一式そろえて3000円くらい。
そのほかに、真っ赤なリップ、ベビーパウダー、アイライナー、パフ、鏡など。これらは100円ショップやドラッグストアで適当に購入。
リップクリームを買うのも微妙に恥ずかしいくらいなので、真っ赤なリップ選びはとても恥ずかしかった。
「このカツラ、ポール・スタンレーとはちょっとイメージが違いませんか?」
「卑弥呼さまー!」とハイキングウォーキングのモノマネをしたくなる真ん中分けのストレートだった。
フリマアプリで適当に購入したカツラは、おもいっきり失敗だったようだ。
■ステップ1:顔の脂を落とす
まずはメイクの前に、顔の脂をしっかりと落とす。脂ギッシュなおじさん世代は(私のことだ)、これをしないとファンデーション(ドーラン)の乗りが悪くなるそうだ。
水道があれば洗顔すればいいし、なければメイク落としシートなどでしっかりと拭き取る。
100円ショップで購入したメイク落としシート。
喫茶店などでおしぼりを出された際に、顔まで拭きたい気持ちをどうにか抑えているのだが、今日ばかりはたっぷりと拭いていいのだ。
「ひんやりして気持ちがいいなー」と、外回りの途中でルノアールに入ったみたいに。
三善のドーランさえも弾き返す鼻の脂をしっかりと拭き取ろう。
■ステップ2:模様の下書きをする
顔の汚れを落としたら、なりたい顔の写真を見ながら、黒のアイライナーでざっくりと下書きをする。
ちなみにアイライナーとは、瞼に線を引いてアイラインをはっきりとさせるもの。要するに鉛筆みたいなものだが、芯が柔らかくて顔に絵を描きやすい。
アイライナーってかっこいい名前だなー。
先生役の坂田さんはジーンとポールの一人二役をやってくれるそうです。
自分の顔になにかを描くという背徳感。なんだかもうドキドキする。ごめんなさい、おかあさん。
複雑な形となる宮城さんはともかく、私は星を書くだけなので簡単そうなものなのだが、これがなかなか難しい。
平らな紙に書くのと違って立体だし、鏡に映った自分の右手が思い通りに動いてくれない。描こうとした顔が無意識で動いてイラッとする。止まってろよ俺の顔。
ピンなどで髪を止めるとやりやすいです。
ジーン・シモンズ役は大変そうですね。
■ステップ3:白い部分を塗る
続いては白のファンデーションをパフにとって、顔に塗っていく作業。
私は当然のように丸いパフを買ってきたのだが、こういう作業の場合は四角いスポンジタイプがいいそうだ。
この直線部分や角っちょをうまく使い、下書きに合わせて塗っていく。
こういうタイプのパフを用意してください。
塗る時のコツは、トントントンと顔を軽く押すように塗っていくこと。グイっと滑らせるように塗ってしまいがちだが、あくまでトントンが基本。
そしてムラは気にせずにどんどんと塗って、二度、三度と重ね塗りをしていく。
パフにとるファンデーションの量は、なるべく少量ずつが基本。ベッタリ塗ってしまうと、逆に顔のファンデを持っていってしまうのだ。
パフの角をうまく使えば、複雑な形でもうまく塗ることができる。
ムラは気にせずに、トントントンと塗り進めよう。
パフでは塗りにくい目元部分は、筆や綿棒などにファンデーションをとって塗るのだが、目の周りをいじるのはとても怖い。
「キワッキワまで攻めてください!キワッキワ!」と、坂田さん。
まぶたは閉じた状態で塗るのだが、私はウインクができないので、片目を閉じて、もう片方の目で見ながら塗るという技ができなくて悔しい。
坂田:「もっと!もっとキワッキワまで!」
いったん鏡を持ち上げて、見る角度を変えると塗りムラがよくわかるそうです。
なんだかキッスじゃなくて、ニューロティカ(
画像検索結果)に近づいている気がしてきた。
■ステップ4:ベビーパウダーをはたく
厚塗りしたファンデーションはペタペタするので、ベビーパウダーで鼻やほっぺをパタパタとはたく。
これによってムラとテカリが抑えられるし、多少は汗にも強くなる。また指などで触ってしまったときに落ちにくい。
少量をティッシュにとってから使う。
左ジーンの右ポール、左ヒラメの右カレイみたいなことを言いたくなるメイクだ。
空調の効いたカラオケボックスではあまり必要ないかもしれないが、汗だくになって動き回るライブのことを考えれば必須だろう。
遊んでいるだけのように見えるが、一応ライブを想定しているのである。
■ステップ5:黒い部分を塗る
つづいては黒い模様部分を塗る作業。白塗りと同じく、パフの角を上手に使ってトントンと塗っていく。
境界線部分がぼやけないようにするのが難しいが、こここそ仕上がりを左右するので慎重に。
目の周りはアイライナーをキワッキワまで塗りたくろう。
星とパフの角度がちょうど一緒だと気持ちがいい。
坂田:「もっとキワッキワまでだってば!」
黒いカラーのついたパフでうっかり顔の白い部分を触ってしまうこともあるが、落ち着いてその部分を拭き取って、白をまた塗れば大丈夫。
白塗り側の眉毛は黒が正解っぽいので、白のファンデーションを拭き取ってから、まつ毛用のマスカラやアイライナーでくっきりとさせる。
よく女性は眉毛の形に命を掛けるというけれど、なるほどその気持ちがちょっとわかったかも。
ただでさえ太い眉毛をさらに黒くする日がくるとは。
ジーン・シモンズの場合は、おでこのVゾーンが大切なポイントだ。
■ステップ6:仕上げる
さあようやく仕上げである。
ポールは赤、ジーンは黒で唇を染め上げて、多少問題のあるカツラを被ったら完成だ。
多少はお互いで手伝うこともあったが、きっとキッスのメンバー同士だってそんなときもあっただろう。
真っ赤な口紅を重ね塗り。どこまで塗っていいもんやらわからんね。
宮城さんの目指す唇は黒なので、メイクと同じカラーで塗っていただいた。
カツラを被る前には専用のネットで地毛を抑えておくこと。化粧の前に被ってしまった方がよかったかもしれない。
ネットもカツラも女性用を買ってしまったので、ものすごく窮屈で頭が痛くなった。
ネットを被ってより際立ったピエロっぽさ。
キッス顔のビフォーアフター
さあさあさあ、キッスを目指して自分の顔をメイクを各自がメイクした結果がこちらだ。
すっぴん。
下書きと白塗り。
メイク完了。
これだけハッキリとしたメイクをすれば、似てくれるかなと思ったが、隠しきれない己の素顔。
キッスがモンスターだとしたら、我々は妖怪といったところだろうか。プロレスラーで例えればスティングとザ・グレート・カブキの差。
西洋と東洋の決して越えられない壁を感じる。そして私の白塗りがムラだらけですね。
「キッス」というか「鉄漿(おはぐろ)」
モノトーンにしたら80年代のインディーズバンドっぽくなった。雑誌の宝島に載っていそうだ。
安物のカツラの毛が顔にペタペタとくっつきまくる。ベビーパウダーは必須ですね。
似てる似てないという問題は遠くに置いておくとして、自分で自分の顔をメイクするというのは楽しいということがよく分かった。
「君のハートにレボ☆リューション!」とゴー☆ジャスごっこ。
「インスタにKISSってタグを付けて投稿したけど、他は男女のキス写真ばっかりです……」
厚い化粧をする人、仮装をする人、コスプレする人、ヴィジュアル系バンドをする人、今ならみんなと分かり合える気がする。自分の顔は自分のものだ。
おまけにメイクの落とし方
ついでにメイクの落とし方も教えていただいた。水道があればメイク用のクレンジングでしっかり洗えばいいけれど、楽屋には水道がない場合も多い。
そこでメイク落としシートをたっぷりと用意しておこう。メイクをした状態で買いに行くのは切ない。
おすすめはビオレだそうです。
使い方にはコツがあって、広げたメイク落としを軽く顔に押し付けて、ジワーッとメイクを溶かして、サッとふき取る。
ゴシゴシと擦るのではなく、ジワーでサッ。
ジワー。
サッ。
もちろんシートだけでは全部は落ち切らないので、なるべく早めにクレンジングでしっかりと洗顔すること。
いやー、楽しかった。
ということで、これを読んでくれた方は、いつでもキッス顔ができると思います。
殴られたような右目と、涙袋にハイライト強めの目。
ということで、ここから先はCDでいったら特典映像のDVDになります。
「僕の黒子にならないか」
ドラムは二人羽織するのが難しいので、クマが覆面を被ってパンダになるというギミックのぬいぐるみを持参した。ほら、どことなくキッスっぽい。
「……」
メイクを練習した宮城さんは日程が合わなかったので、フロントメンバーとしてライターの斎藤さんに来ていただいた。
ライブを前に早くもメンバー交代。アマチュアバンドあるあるだ。
とりあえずはスタジオ練習。恐ろしいことにギターとドラムは私も初対面だったりする。
「なんやこれ、めっちゃむず!」と、パンダ越しにドラムを叩く初対面の阪本さん。
ライブをやるにあたって斎藤さんに声を掛けたら、「え、またやるんですか?」と驚かれた。
数年置きにでも活動しないと、実はバンドをやっているという自分の中の設定が、運転免許みたいに失効してしまう気がするので、やるのである。
練習では足を引っ張りまくり、映画の吹き替えをやることになったけど声優のようにはいかないタレントの気分に毎回なる。でもやる。
二人羽織でレッツ練習。斎藤さんとベースの松永さんは二度目なのでお互い冷静だ。
「キッスってブルースですよね」と、後ろから優しく包みこんでくれた初対面の原口さん。
秋葉原でライブをします
ライブハウスでライブをするというのは、なにがなにやらで素人にはハードルが高いのだが、今回は当サイトのプープーテレビで活躍中の岩沢さんが企画したライブに混ぜてもらった。場所は秋葉原のクラブグッドマン。
「このまえ寄席をみたら、落語だけじゃなくて手品とか漫才とかいろいろあって、ライブもあんな感じにしたかったんだよね~」とブッキングを担当した岩沢さん。
キッスのコピーだけどコミックバンド枠。異論はない。ちなみに
タンデムというバンド名です。
リハーサルの様子。3人だけならちゃんとしたバンドなのだが、彼らの前に二人と一匹が立ちふさがる。
その一匹。パンク・ザ・パンダという名前のプロレスラーです。
出番の一時間前、楽屋で坂田さんから習ったメイクを一人で実践。星を描くときは、まず頂点を決めるといいようだ。
楽屋でメイクをしていると、キッスというよりも梅沢登美男になった気分。夢芝居でも歌おうか。
女形を演じる訳ではないですよ。
ポンポンポン。今日は化粧のノリがいいぜ。
カツラも買い替えたし、メイクもうまくいった気がする。こりゃ今夜はばっちりポール・スタンレーだぜと思ったが、対バン(バンドというかナゾナゾのスライドショー)の西村さんに爆笑された。
「こういうおばさんいるわー。おかあさんに似てない?」
爆笑がおさまらないライターの西村さん。
こんばんは、ポール・スタマオキです。
斎藤さんには宮城さんがやっていたジーン・シモンズのメイクをしてもらいます。
下書きをしてもらう斎藤さんの顔が、別の意味でキッス顔だった。
特にやり方を教えないで塗ってもらったらこんな感じになった。やっぱりノウハウは大事だよね!
「メガネはしたままでいいですよね」と、ジーン・斎藤。
なんだかライブへの出演というよりは、仮装大賞の予選会みたいだよねと笑う演奏メンバー。
ちなみに前回のライブではこんなヴィジュアルでした。歳月はかくも残酷。
これが俺たちのキッス顔だ!
さてライブの記録だが、友人のカメラマンに撮影を依頼した。どちらかというと高利貸しの人っぽいが、有名なバンドの撮影なども手掛けているカメラマンである。
演奏と撮影がプロで、歌とヴィジュアルが素人というわがまま放題の構成だ。
カメラマンの渡邉泰裕さん。おっかねえ。
ということで、渡邉さんに撮っていただいた写真がこちらである。
キッスなのに3人編成なのはそっとしておいていただきたい。メンバーの数が増えるほどスケジュールが合わなくなるのだ。
「ハロー、アキハバラ!グッドマン20周年コングラッチュレーション!」
どこか貞子っぽさのあふれるギタープレイ。左目にしっかりとアイメイクをすればよかった。
よくわからない完成度の高さを誇る斎藤さんの二人羽織奏法。
黙々とビートを刻むパンダ。キッスのドラムは猫のメイクが正解なのだが、ロックだから細かいことは気にするな。
どうだろう、これがキッスなのかは別問題として、なんかすごそうだなという気がしないだろうか。
そういえば二人羽織でバンドをはじめたとき、すぐにマネする人が出てくるだろうなと思ったが、一切出てこなくて驚いた。
せっかくキッスの格好をしているので、こんのひよせさんという女性歌手に「キッスは目にして!」を歌ってもらった。キッスキッスフォーリンラ~ブ~。
オリジナルの自己紹介みたいなやつを2曲、「キッスは目にして!」を挟んで、ようやくキッスの曲である「Detroit Rock City」を演奏。
ただし英語の歌詞が覚えられないので、「香川県はうどんシティ」という替え歌にさせてもらった。
予定調和のアンコールでは二人羽織を解除。パンダはマスクをとってクマになった。
そしてアンコールでは、「Do You Love Me」を「Do You ラーメン」で。
ステージのセンターで製麺をするという力技のパフォーマンスをさせてもらった。やりたい放題。
ベース、製麺機、ギターのトリプルアタック!
「ヘビーメタルだけに鋳物の製麺機(重い鉄)」というシャレだったのだが、キッスはヘビメタじゃないよとみんなに言われた。
唸る丸ハンドル!伸びる麺生地!ポゥ(ル)!
ノーカットのライブ映像はこちらになります。
ありがとう、バンドメンバー、お客さん、読者の方々。
ごめんなさい、キッス関係者、およびファンの方々。
たのしかったです。