これが素人が作る一根麺だ!
一根麺の作り方はとても特殊で、見たことがない人にはいくら文章で説明してもピンとこないと思う。
そこで私が作っている様子を、先にお見せしてしまおう。
やたらとテンションの高いニセ中国人風に一根麺を作ってみた。
新装開店したパフォーマンス重視のラーメン屋店主と、気になって様子を見に来た隣のうどん屋の大将。そんな感じ。
小指ほどの太さまで伸ばしておいた長い麺生地を、引っ張ってさらに細くしながら、沸騰したお湯に投げ入れていくのが一根麺。
プロはもっと細く均一な麺を作るのだろうが、素人が独学でやったにしては、なかなかのものではないだろうか。
延々とやり続けたい楽しさがあるんですよ。
あの頃は自分の中で一根麺の製麺技法が確立されていなかったため、ムラのある切れやすい麺だった。
材料はとってもシンプル
一根麺を作るにあたって、特別な材料や道具は何もいらない。製麺には不可欠である麺棒や製麺機、さらには包丁すら使わないのだ。
生地の材料も小麦粉と塩のみと極めてシンプル。かんすいが入らないので、ラーメンの中華麺よりはうどんやそうめんに近い。それが一根麺。
以下のレシピはネットや本で調べた情報を、自分なりに寄せ集めて作りやすくしたものなので、これが正しいという保証はないのであしからず。
どこでも手に入る材料で作れます。
今回試した分量(10人前)は、薄力粉750グラム、強力粉250グラム、水500グラム、塩15グラム。うどんに比べて、グルテン少なめ、水多めといったところ。
麺棒を使わずに手だけで伸ばしていくため、私の経験上(一回失敗しただけだが)、手打ちうどんよりもちょっと柔らかいくらいの生地にしておいたほうがいいだろう。
小麦粉に塩を溶かした水を少しずつ加えて、その水を触らないように手早く混ぜていく。
自分が粉を撹拌する専用ミキサーになった気分で、小麦粉と塩水をオカラ状になるように黙々と混ぜ合わせる。
だんだんと生地に粘りが出てきてひとまとめにしたくなるが、今はその時ではないと我慢して、全体がモロモロとしてくるまで混ぜ続ける。
生地同士がくっつきあおうとするのを拒絶しながら混ぜ続ける。
10分以上混ぜ続けてすっかり飽きてきたところで、ようやく生地をひとつにまとめて、体重を掛けてよく捏ねる。
ここまでは、うどんの生地作りと基本的に一緒である。
限界まで我慢してまとめるからこそ味わえるカタルシスがいいんですよ。
生地を折って捻って伸ばしていく
3時間ほど寝かして生地がふっくらとしたら、平らな板に乗せてさらに捏ねまくる。
捏ねまくって生地の手ごたえが硬くなったら、少し休ませるというのを繰り返すといいかもしれない。
寝かせておいた生地。さらに捏ねまくろう。
しっかりと捏ねたら、今度はこれを引っ張ったり転がしたりして、棒状に伸ばしていく。これが本当の麺棒だろうか。
この伸ばす作業が結構大変なので、生地を麺棒で丸く平らにしてから、包丁で渦巻き状に切ると楽かもしれない。ただここで楽をすることで生地が軟弱になるかもしれない。みんなも迷おう。
丸い生地をどうにかして棒状の麺生地、麺棒にする。
そしてこれを二つ折りにして、ツイストパンのように捻る。打ち粉をしていないので、捻ったところがくっついてしまうが、それで問題ない。さぬきうどんは足で踏んで鍛えるが、一根麺は手でねじって鍛えるのだ。
折ることで本数を倍々と増やしていくのは別の製麺技術(拉麺)。一根麺では折った生地をくっつけて一本に戻す。なぜなら一根麺だから。
ツイストドーナツを作っている訳ではない。
このように捻った生地をさらに伸ばして、また二つ折りにしたら、今度は逆方向に捻る。たぶん同じ方向にねじり続けると、ねじ切れてしまうのだろう。
これを繰り返すことで、太いロープのように細い糸の集合体といった構造にして、生地をだんだんと伸ばしていく。
思ったように生地が伸びず、もう少し生地に水が多くてもよかったかなーと不安になる。
折る、捻る、伸ばす。これを5回、6回と繰り返し、どうにかこうにか1.5メートルくらいまで伸びたら、油をたっぷりと入れた鍋にヘビの如く巻いていく。
いや油って、ほんとかこれ。うどん作りには油を使わないが、そうめんだと表面に塗って寝かせるらしいからと自分の心を落ち着けよう。
この状態で一晩置くことで、ビロンビロンと伸びるけれど、簡単には切れない麺生地になるはずだ。
ヘビのようにとぐろを巻いた麺生地。理想はこの倍くらいの長さなのだろうが、私の技術ではこれが限界。
もう少し生地を伸ばそう
がんばって生地を捏ねた翌日、
うどん会という麺類好き集団が主催の、マイナー麺を作る集まりへと参加。
こういう生涯に一度系の料理は、大人数でやって自慢するに限る。10人分も仕込んじゃったしね。
難しい漢字が羅列された謎の麺料理などを作りあう会。この日の様子はうどん会さんから同人誌になっているはず。
油漬けにされた生地はまだかなり太いので、いきなり鍋へと入れるのではなく、細く伸ばしながら別の容器に入れ替える。
生地に無理をさせずに、だんだんと細くしていくのだ。
生地を移し替える用の容器を用意します。
ヌルヌルした生地の一番外側部分、ヘビでいったら尻尾側を掴み、軽く引っ張ってみて驚いた。昨日はあんなに伸びるのを嫌がっていた頑丈な生地が、引っ張った分だけニョーンと伸びてくれるのだ。なにがあった。
持ち上げるとその重力だけでも伸びるくらいに柔らくなった生地を、水道のホースくらいの太にして巻いていく。適当に巻くと絡んでしまい、次の工程ですぐに切れるため、ここは慎重にやらなければいけない。
この作業が楽しいんですよ。
このとき底の面積の広い容器が2つ必要になるのだが、1キロ(10人前)の生地だと家庭用の鍋では到底入りきらないので、500グラムが作りやすいと思う。
一度の手延べ作業ではまだちょっと太かったので、もう一度同じ工程を繰り返し、小指程度の太さまで伸ばす。
鍋の大きさが足りずに、麺生地が重なり合ってしまった。
昨日、丹念に捏ねたり捻ったりしたおかげだろうか、なんとまだ一度も切れていない。もうここまでくれば勝ったも同然だ。
麺を大鍋に投げ入れよう
さあさあさあ、とうとう麺をお湯へと投げ入れる時が来た。なるべく大きな鍋にたっぷりのお湯を沸かして、油に浸かった麺生地を隣に配置。
この生地と鍋の距離が遠い方がプロっぽいのだが、まずはすぐ近くからスタートだ。
右の大鍋を目掛けて、左の麺生地を伸ばしながら入れていく訳です。
麺生地の先っぽを右手で優しく掴み、大鍋を目がけて投げ入れるイメトレを繰り返す。
聖闘士星矢に出てくるアンドロメダ星座の瞬が、中国育ちだった場合をイメージしてみようか。心のコスプレで、あの鎖のように麺を操るのだ。
ネビュラメーン!
みんなの注目をあえて集め、意を決してチャレンジ開始。最初こそ右手と左手の動きがぎこちなく麺をうまく操れなかったが、すぐにこれは自分でできると悟った。
やばい、できる!
いくらでもできる!
生地全部を一気にやってしまいそうになり、怖くなって自分で麺を切った。
麺生地は持ち上げただけで伸び始めるので、途中で手を止めることは厳禁。考えるのではなく感じることで、一根麺の技法を体で覚えていく。
右手で鍋側に引っ張る強さと、左手の力加減で麺の太さを調整可能。後半は鍋の距離が近過ぎて、麺の飛距離を持て余してしまった。そうか、あの距離には意味があるのか。俺ももっと遠くに投げたい!
この長い麺を絡まないように操るテクニックは、海釣りの技術に通じるものがあるので、荒波の上で糸を絡ませてきた経験が生きたのだろう。
これが一本の麺なのです。すごくないですか?
多少は太さにムラがあるものの、一食分を切れることなく作ることができた。これだけで5メートルくらいあるんじゃなかろうか。
あのままやっていたら、10人前をやりきってしまったかもしれない。自分の才能が怖い。
「キレテナーイ!」とドヤ顔。
喉越しが素晴らしい!
さて食べ方だが、今回は一根麺の麺作りがしたかっただけなので、スープに関しては特にこだわりがない。
茹であがった麺を流水で優しく洗って、冷たいめんつゆでいただいてみた。冷やしかけ一根麺である。
端っこを箸に引っ掛けておこう。
餅のように麺を端からすすってみると、この喉越しが圧倒的に素晴らしい。表面に染み込んだ油分は、茹でてから洗ったためか、まったく気にならなかった。うまいぞ、この麺。
製麺機は押す力で生地を伸ばすが、この技法だと引っ張る力のみで伸ばしていくため、このトゥルントゥルンの喉越しが実現するのだろう。生地の繊維が同じ方向を向いている気がする。いや製麺機で作った麺もうまいんだけどね。
なんだこのツルツルした喉越しは。一根麺とは、瞬間式手延べそうめんなのかもしれない。
麺の茹で時間が最初と最後で約1分ずれるが、それも別に気にならなかった。私が麺を最初から食べたのか、最後から食べたのかは謎なのだが、なめらかなコシのある一根麺にとって、1分なんて誤差の範囲なのだろう。
やりながら技術が向上し、だんだんと麺が細くなって茹で時間がぴったり合ったという説もある。
あとこれは大事なことなのだが、一食分をがんばって1本の麺にしても、一気にすすって食べ切れないので、作っている途中に多少切れても気にする必要はないだろう。
なげーよ!
実はけっこう簡単かもしれません
さてこの一根麺作り、最初からあんなに伸ばせるなんて実は麺作りの天才なのかなと思ったものの、見よう見まねで友人達がやっても、そこそこ成功しているのを見て現実に戻った。
もうちょっと苦労してもらえると、私の技術力が目立つのだが。
一度見ただけで、なんとなくできてしまうんですよ。
そう、伸ばすところは意外と簡単なのである。
もちろんプロのように細麺をビュンビュンとは作れないが、うどんくらいの太さをゆっくり作るのであれば、誰でも成功するという、初心者にも優しい製麺技術なのだ。
製麺と縁のないライターの土屋さんも、最初からこのようにできてしまって悔しい。
生地作りがなかなか面倒なのだが、あと3回くらい練習すれば、忘年会のかくし芸や結婚式の余興くらいなら通用する技が身に付きそうなので、もうちょっと頑張ってみようと思う。
一根麺作り、素晴らしいですよ。特別な道具もいらないし、材料は安いし、食べたらうまいし、パっと見は難しそうだし。アメリカ人が寿司パーティーでカリフォルニアロールを作るみたいな感じですかね。趣味の製麺に最適。
いつの日か、製麺機によるラーメン、刀削麺(
10年前にやった)、一根麺の製麺パフォーマンスをする、『いいとも製麺隊』を結成しようと思う。