発生条件がよくわからないキノコ、それがアミガサタケ
キノコというのはだいたい発生する場所が決まっており、たとえばマツタケだったらアカマツの根元近くだったり、マイタケだったらミズナラなどの老木に生えることが多い。よってその生態を知ることが収穫の第一歩となる。
だがキノコ関係の本を複数調べてみたところ、アミガサタケには特にこだわりがなく、草地、道端、雑木林、公園など、気が向けばどこにでも生えてくるものらしいのだ。
どこでもと言われると逆に探しにくいものなのだが(ビッグになるチャンスはどこにでもある!みたいな)、試しに井の頭恩賜公園で探してみることにした。もし都内の公園で見つかるくらいなら、それこそ探せばどこでも生えているはずだ。
キノコを採ってもいいか問い合わせてみたところ、基本的に植物の採取は禁止されているが、雑草やキノコをちょっと採るくらいはかまわないとのこと。迷惑の掛からない範囲で行動します。
アミガサタケが発生する時期は春から初夏で、桜が散るくらいからが本格シーズンらしい。
私が探したのは開花宣言がでたばかりの3月26日なので、まだちょっと早いかなというタイミングである。
こういう時に落ちてる棒を拾って装備するのは、男の本能だろうか。
花見やアミガサタケ探しをするにはまだちょっと早いですかね。
アミガサタケが見つかりません
土地勘もない都内の公園で、最盛期にはまだだいぶ時期が早く、特に手がかりなしで始めたアミガサタケ探し。
意外と簡単に見つかるのではという期待と、収穫ゼロで終わるんじゃないかいう不安が入り混じってのスタートだったが、どうやら後者で終わりな雰囲気だ。
立ち入り禁止かと思ったら立ち小便禁止だった。
釣り禁止の看板の下で悠々と泳ぐ魚。
一番の問題点として、この公園は通路以外が柵に覆われていて、いかにもキノコが生えていそうな場所には近づけない設計となっていることだろう。
やっぱりもうちょっと自然との距離が近くて人の少ない、地方の森林公園っぽい場所にすればよかったか。
それでもあえてこの公園で見つけてこそ価値があるのだと自分を元気づけ、落ち葉が積もっていたり、木の根元が近いような道を選びながら歩いていると、それっぽいものが目に入ってきた。
これは!と思ったが、クヌギのようですね。
ワシントン条約で守られている猿みたいなシダ植物。
まさかのマツタケが!と思ったけれど、木の根っこでした。
松ぼっくりには何度騙されたことか。
こういう固そうなキノコならけっこう生えているのだが。
うわ!懐かしのビルバイン
だめだ、全然ない。
公園内を3時間程歩いたが、まさかの収穫ゼロ。実物を見たことが一度もないので、どういった場所に生えているのかのイメージが全然湧かないのが痛い。
こういう感じで僅かな情報を頼りに動植物を探し出す遊びは大好きなのだが、それはハッピーエンドで終わった場合に限っての話なんだよ。
変なところで見つけました
やっぱり桜が散る頃に、もうちょっと探しやすそうな公園に出直さないとダメかなと思いだした頃、ちょっとした建物の横にある落ち葉が溜まった吹き溜まりみたいな場所に、コロッとした黒い塊があるのを発見。
写真の中央です。わかりますか?
犬の落し物かなとも思ったのだが、念のためにと近づいて確認すると、それは探し求めていたアミガサタケに間違いなかった。
なんでこんな人工的な場所に生えているんだ。
頭がとがっているので、どうやらトガリアミガサタケかな。
あとでちょっと調べてみたら、アミガサタケは山火事や焚火の後に好んで生えてくるという報告があるらしいので、もしかしたらコンクリートの脇みたいな石灰分が多めの環境も好きなのかもしれない。
それにしても驚いた。こういう血管が一気に広がるような発見の喜びは久しぶりだ。あー、よかった。
なるほど、脚はこうなっているのか。さりげなく存在するダンゴムシは見なかったことにしよう。
それにしても見事なハニカム構造っぽい造形美。どうしてこう進化したのかな。
キノコはだいたいが独特の形状をしているが、これは特に意味が分からなくて素敵だ。
意外としっかりしていて壊れにくい。そして小石を抱くように生えていたのが興味深い。
形状だけではなく表面の質感も独特で、スポンジのような、ベルベットのような、魅惑の凹凸に包まれている。
これがもしカプセルホテルだったら、相当寝心地の良さそうなテクスチャーだ。
脆そうだけれど、そこそこしっかりしています。
やっぱりお住まいになっていらっしゃる方もいるみたいですが、見なかったことにしよう。
この後も2時間ばかり探し回ったのだが、結局収穫はこれだけだった。
5時間歩いて小さいのが2本だけだったので、時期も場所も探し方も悪かったのだろう。
それでもやっぱり生まれて初めてアミガサタケを収穫できたという喜びは大きい。
ハニカム構造を前に、ついついはにかむ。
生で食べてはいけないキノコです
このアミガサタケはヨーロッパだと人気の食用キノコなのだが、生で食べると毒ですよと、どの本を読んでも書いてあった。
もちろんこいつを生で食べようとは思わないので、要加熱という条件は何ら問題ないだろう。「毒を食らわば皿まで」ということわざがあるが、アミガサタケは「毒を食らわばサラダで」だ。
火を使えない野生動物などには食べられにくく、人間ならおいしく調理できるという、ある意味理想の天然キノコである。
割ってみたら中身はスカスカだった。
二つ割にして石突きを取り除き、しばらく塩水につけて虫だしの処理をしたら、下ごしらえは終了。
香りはなかなか強く、マツタケとかシイタケみたいな日本のキノコとはちょっと違って、ポルチーニとかトリュフみたいな、ヨーロッパの人が好きそうな系統の匂いがする。
それにしても採集労力に対する摂取カロリーの少なさが感動的ですらある。これでまずかったら二度と採らないことだろう。
中に何かが住んでらっしゃる場合があるので、必ず半分に割った方がよさそうです。ザ・異物混入。見なかったことにしよう。
アミガサタケのリゾットを作ってみる
二つ割にしたアミガサタケと水を目玉焼き用のフライパンに入れて、一度茹でこぼしてから、水を変えて再度煮込む。なんだか一番ダシを捨てているようで悲しい。
主婦の友社の「おいしいきのこ毒きのこ」という本によると、トガリアミガサタケの毒はジロミトリンという揮発性の物質だそうで、この時の湯気も気を付けねばならぬらしい。
凄く手を伸ばして湯気を吸わないようにして撮影してみた。
これよりもさらに毒性が強いシャグマアミガサタケという似たキノコもあるのだが、これの湯気は本当にやばいらしい。それでもフィンランドでは毒抜きして食べる習慣があるそうだ。
北陸の人がフグの卵巣をどうにか毒抜きして食べるのに似た執念を感じる。
ちょっと味見してみたら、ダシが濃くて驚いた。輸入食料品店とかで売っているキノコスープみたいな系統で納得。
さてこれをどうやって食べようか迷ったのだが、量も少ないことだし、汁を捨てるのはもったいないし、リゾットにして増量することにした。1本だけもらったときのマツタケみたいな扱いである。
0.5合ほどの生米をたっぷりのバターで炒めて(飯盒炊爨ならぬ半号炊飯)、刻んだアミガサタケと汁を加えて、様子を見ながら水分を足し、米に火が通ったらできあがり。
味付けは塩と胡椒のみ。仕上げにパセリと粉チーズを振ってみた。
春の荒れ地に出たアミガサタケをイメージしてみました。
僅か2本のアミガサタケだったが、ちゃんと一品の料理になってくれたようだ。
どきどきしながら食べてみると、市販のキノコではなかなか味わえない怪しさ満点のうま味が口に広がり、これがめっぽううまい。
アミガサタケそのものは歯ごたえこそ牛の第3胃(センマイ)みたいで楽しいが、味はそれほどではないと思う。
とにかくダシがおいしいので、桜が散る頃にまた採りに行きたいと思う。
花よりキノコ
こうしてまた一つの身近な食材を知ることができ、とても満足な一日となった。これぞハッピーエンド。
今回は虫の写真をあえて載せたが、天然のキノコとか山菜とかの類はだいたいそういうものなので、そういうものなんだなと理解した上で接してください。