ショート、トール、グランデの衝撃
もういちど思い出して震えるが、ショート、トール、グランデというサイズの名称を初めてきいたときはその一切の聞き覚えのなさに驚いた。
慣れ親しんだS(スモール)、M(ミディアム)、L(ラージ)表記の完全なる否定。店舗にテラスをこしらえたり、なんとかマキアート的な聞いたことのないうまい飲み物を提案したりといった工夫にとどまらず、まさかドリンクサイズの既成概念を破壊することでおしゃれさを創出してくるとは夢にも思わなかった。
おしゃれイノベーションを起こす貪欲さはほとんど畏怖の対象であった。
まさに黒船とはこのこと、といった状態であった
追い討ちをかけるように、スターバックスの場合グランデの上にはベンティというサイズがあるがベンティはスターバックスが商標を持っているため他のチェーンではその表記は使われず、たとえばタリーズだとグランデの上はエノルメと呼ぶのだとか、欧米のスターバックスではベンティの上にトレンタというサイズあるのだぞ、といった話も畳みかけられるなど当時のドリンクサイズ概念のおしゃれサイドからの揺さぶりは強かった。
おしゃれの鬼にもてあそばれそして、おしゃれな人から受け入れていった新ドリンクサイズ概念。
うっかり乗り遅れてただポカンと眺めるしかなかった人も多かったはずだ。私もだ。
しかしそれももう十数年の前の話。乗り遅れた多くの人も今やすっかり表記そのものにも、また「ドリンクサイズにはいろいろな呼び名があるのだ」という現状にも慣れたのではないか。
もはや小さいサイズは迷わず「ショート」と呼べるようになったのだから恐ろしい(写真はカロリーの高いシナモンロールです。こういう食べ物にもよく慣れたなと思う)
静かにそこにいた刺客「レギュラー」
そういったわけで、一時騒然となったドリンクサイズ界隈も、S、M、Lを使うチェーンとショート、トール、グランデを使うチェーンとが共存していまやすっかり淡々としたときを取り戻していたのだ。
しかし、私は気づいてしまった。そう、「レギュラー」の存在に。
レギュラー?
レギュラーサイズのコーヒー5杯をめぐって
そうなのだ。S、M、Lやショート、トール、グランデを使わずに「レギュラー」というサイズ表記を使うコーヒーチェーンが実は思った以上にあるようなのだ。
調べられる限り、6つのコーヒーショップでレギュラー表記の採用がみとめられた。
うち大阪、神戸、鳥取に展開するグロリア・ジーンズ以外の5店舗でその実態を確認してきたので報告したい。
まずは、みんな大好きプロントです。ここのバータイムで酒盛りするのが20代前半のころは至福のときでした
プロントは一番小さなサイズが「レギュラー」
まずはプロントである。夜はバーになる点において異色のコーヒーショップであるが、こちらではドリンクのサイズ展開を
Regular、Msize、Lsize
としていた。
プロントの「レギュラー」(お茶うけは接客してくれた店員さんおすすめのスイートポテトです)
中をM、大をLとしながら、小をSとせずに「レギュラー」としてきたのだ。Sというサイズ表記をなぜか避けている。
同じように、小サイズを「レギュラー」とする店はほかにもあった。
ブレンズコーヒーも最小サイズを「レギュラー」と
こちら、カナダ発のコーヒーチェーン、ブレンズコーヒー。東京と埼玉に4店舗を展開する
一番小さいサイズは「R」
ドリンクのサイズ表記は
R、M、L
一応読み方は…とそれとなく店員さんに確認したところ「レギュラー、ミディアム、ラージ」だった。プロントと同じ表記である。
ブレンズコーヒーの「レギュラー」。お茶うけはトマトの焼きドーナッツでございます
2連続で「S」表記を否定する形での「レギュラー」表記の採用。
もしかして、小さなサイズを「S(Small)」と表記するのは英語ネイティブからするとおかしいのか、だからわざとSと表記しないのかな? とも思ったのだが、米マクドナルドのホームページなどで確認するとかの地でも一番小さなドリンクは「Small」と呼ぶことがあるようだ。
ではなぜわざわざ「レギュラー」と。Sに対してどうしても抗いたい理由があったのか。
カフェ・ド・クリエはややトリッキー
最小サイズを「レギュラー」と表記するチェーンは他にもあった。カフェ・ド・クリエである。
ちょっと違うのは、カフェ・ド・クリエの場合、サイズ表記が
レギュラー、トール、ラージ
と、「レギュラー」に続くのが「トール」で「ラージ」なのだ。
ホットサンドがおいしいというイメージ、カフェ・ド・クリエ
S、M、Lとショート、トール、グランデを混ぜ込みつつ、さらにレギュラーを寄せてきた。これまでの流れからするとトリッキーなパターンである。
カフェ・ド・クリエの「レギュラー」。お茶請けはカヌレです
カフェ・ド・クリエは日本資本ではあるもののフランスを意識したコーヒーチェーンだそうだ。
このサイズ表記もフランスにヒントがあるのだろうかと思いいくつかのフランス現地のカフェチェーンなどのサイトでサイズ表記を見てみたら、25cl(センチリットル)、40cl、50cl、1.5lなど具体的に表記されることが多いように見受けられた。
カフェ・ド・クリエはフランス制度に準じているわけでもなく、自由にやっているようである。というか、1.5lってすごいな(フランスのファストフードではコーラやなんかのでかいサイズを扱うことがあるようだ)。
一時期流行したがそうあちこちでは見なくなったカヌレ、カフェ・ド・クリエに行けば買えるぞ!(ちゃんとした本気のカヌレでした)
モリバコーヒーは、中くらいサイズがレギュラー
以上3店舗までは最小サイズを「レギュラー」と表記するパターンだ。しかしこれにとどまらないのがレギュラーサイズの魅力なのである。
続いてご紹介するモリバコーヒーでは、SとLにはさまれて、通常Mがくるであろう位置に「レギュラー」がきている。
すき屋のゼンショーが展開するカフェチェーン、モリバコーヒー。どちらかというと隣のすし屋の看板が気になりますね
Mの位置にレギュラー(R)が持ってきてある
表記は
S、R、L
店員さんに確認するとRの読みは「レギュラー」で間違いなかった。今度は中くらいのサイズが「レギュラー」なのである。
ザ・そうきたか、発動だ。
モリバコーヒーの「レギュラー」。お茶請けは「サンマスカットレーズン」、レーズンウィッチ的なお菓子
カフェクロワッサンのレギュラーは中二階?
中間サイズをレギュラーとする店は他にもある。北海道から福岡までピンポイントに出展するカフェクロワッサンだ。
ロイヤルホストと同じ系列の会社が運営しているらしいカフェクロワッサン
んんっ?
今度はなんと
Short、Regular、Tall
と、ショートとトールの間がレギュラーが入ってきた。グランデがどっかにいき、間に中2階的にレギュラーが差し込まれた格好である。はじめてのパターンだ。
カフェクロワッサンはどうやらロイヤルホストと同じ系列の会社が運営しているらしい。
もしやロイヤルホストルールなのか?! と調べてみたが、ロイヤルホストのドリンクはドリンクバーでの提供のためサイズ表記はないようだった。カフェクロワッサンの独自表記のようである。
カフェクロワッサンの「レギュラー」、お茶請けはフルーツケーキ
レギュラーの意外な暗躍
S、M、Lに対するトール、グランデ、ショートのような一大イノベーションを起こすまではいかなくとも、われわれもちょっとばかしサイズ表記に一矢報いてみたいものよのう~。
そんな思いがあるかどうかは想像するしかないが、「レギュラー」というサイズが静かにドリンクサイズ界で暗躍する様子が伝わったのではないか。
S・M・L表記を黄色に、ショート・トール・グランデ表記を緑色にしつつその中に入り込んだレギュラー表記を青にしてみた。
分かりやすくしようとして一層分からなくなった感じがドリンクサイズ問題を象徴しているように思う。
おまけ・最小は150ml、中くらいは250ml
せっかくなのでそれぞれの量も測ってみた。
全部、レギュラーサイズです
ブレンズコーヒーがすこし気前のよい容量だが、基本的に最小サイズは150ml、中くらいサイズは250mlというのが相場なのだろうか。
量は違うが全て「レギュラー」である。ドリンクサイズの難しさは、ショート、トール、グランデだけにあらず、だったのだ。
セガフレード・ザネッティなど大暴れ地帯も
今回は「レギュラー」に的を絞ってお伝えしたが、ドリンクのサイズ表記といえばやはりイタリア発のセガフレード・ザネッティの大暴れぶりにも言及しておかなければなるまい。
この店ではS、M、LがP、C、Gなのである。それぞれピッコロ、クラシコ、グランデだそうだ。しかもそのほかにエスプレッソのサイズはD、デミタスと呼ぶ。
このあまりの分からなさにはもはや遠巻きに見ながら「やっとるな…」とかるくうなずくくらいしかできない。
今後もドリンクサイズ表記界に新たな風は吹くのか。甘んじて吹かれるべく待ち構えたい。