栃木県の県北と県南
栃木県とひとまとめにいっても、県北と県南で文化がけっこう違う。県の真ん中に宇都宮という大都市があって、みんなそこから先には行かないのである。
ぼくの中では栃木県北=もうどうしもようもない田舎、栃木県南=東京に近くてチャラチャラしている、というイメージ。佐野も厄除け大師とか佐野ラーメンとかうまいことやっている。「さのまる」というご当地キャラが最近全国ゆるキャラグランプリで優勝したりもしている。
さのまる。黒目がちな犬
チャラチャラしてる佐野駅前
駅前でレンタルサイクル貸してもらえた
いきなりいもフライ大人気
レンタルサイクル借りて、さあ行こう! って思ったら、貸してくれるところの隣にいきなりいもフライの店があった。「ぴのや」という新しそうなお店である。
ぴのや。いもフライの他に唐揚とかジュースとかそういう軽食をいろいろ売っている
いもフライは一本60円。ものすごく安い。一本だけ買うのも気が引けるな……なんて思っていたら、次から次へと人が来て、みんないもフライを一本だけ買っていった。
みんな慣れたもんだなあ……。わざわざ「いもフライ、一本だけで、いいスか?」なんていいながら注文してしまう。
これがくだんのいもフライである。
ものすごく優しい味がする。まるでこの世界に競争なんてものが存在しないかのような味
「いもフライ」と聞いて「それは大阪の串揚げのじゃがいもとどう違うのか?」と思っていた。
食べてみると全然違う。いもフライのじゃがいもは一度蒸してあるので、口の中でほっくりとやわらかい。ソースが大阪のウスターソースと全然違って、どろっと甘めである。
おいしい。おいしいんだけれども、これってどこの店で食べても同じ味になりそうな気がする。この後もいろいろ食べくらべをしてみようと思っていたんだけれどもな……。
れんこんフライという新製品もある。買わなかった
老舗はもっともっと人気
次に向かったのが「いでい焼きそば店」。いもフライというと必ず名前が上がる老舗である。ここがとんでもないことになっていた。
車で客がひっきりなしに来る
みんなものすごい数買ってゆく
みんな車で乗り付けて10本とか20本とか買ってゆくのである。そうか! 今は日曜日のお昼どき。これをおかずに家族でお昼ご飯を食べるとみた。
雑なコロッケみたいな味
そんな状況の中、また「一本だけでいいスか」とかいいながら買ってしまった。80円だ。
ゴロっと重たい感じ
食べてみると、さっきのとはまた違う。なんというか「雑に作ったコロッケ」というような味がするのだ。「雑」なんていうとあんまりそそらないかもしれないけれども、もうちょっと鮮明にイメージしてください、雑に作ったコロッケを。衣が厚くて、いもがごろっとしていて、具が入っていないコロッケである。それが串に刺さっている。
これはすごくうまいですよ。お昼のおかずに買ってくのも納得できる。勢いがついて焼きそばも買ってしまった。
見た目の倍くらい圧縮されている焼きそば。350円。食べるにつれて増える
一日に3,050本売れた
やきそばを店のベンチで食べていると、店員のお兄ちゃんが話しかけてきた。昔は27店舗くらいあったいもフライの店がここ数年で50店舗くらいになったそうだ。
ここ、いでい焼きそば店でも今年の初営業日に3,050本売れた、といっている。今、こうしてぼくが焼きそば食べている10分くらいの間にも、平気で100本くらい売り上げている。 いくらなんでも売れすぎだろ! と思ったが、誰に対しての文句なのかよくわからない。
聞いていないのにいろいろ教えてくれる兄ちゃん
お総菜コーナーにも堂々と
こんな風にお昼のおかずとして食べられているということは、スーパーでも売られていたりするのかもしれない。
でかいスーパーに来ました
あった
スーパーの駐車場で食べるのも一興
冷えたいもフライをそのまま食べたけれども、意外とこれも悪くない。それにしても、立派なロースカツやエビフライと一緒に、いもフライが並べられているのは面食う。
蒸したいもをフライにする精神力
ここまで来ると、いもフライは単なる子どもだましのおやつではない。見くびりすぎていたといえよう。
ちょっと考えてみる。
いもフライを作るときの手順に「いもを蒸す」というのがある。ポイントはここだ。もし自分が同じような食べ物を思いついたとしたら、いもを蒸した時点で我慢しきれずに塩バターコショウで食べてしまうと思うのだ。
こうなると思う
だって、蒸したいもはそれだけでものすごくおいしい。まして子どもだましのおやつ、なんて考えていたらこれ以上手間をかけないだろう。ところが佐野市民はそこをぐっと我慢してフライにするのである。この我慢のコストに見合うだけのおいしさのリターンがあると知っているからだ。
蒸したいもを見送る精神は高みにあると思う。冒頭で、栃木県南はチャラチャラしてる、佐野はうまいことやりやがって、みたいに思っていたの全部取り消す。いもフライはすごい!
一気にテンションを上げて次の目的地まで自転車を走らせる
道の駅「どまんなかたぬま」は売り切れ
道の駅「どまんなかたぬま」に来た。道の駅といっても充実ぶりがすごい。子どもが遊ぶコーナーや足湯コーナーなんてものまである。
でかいさのまる
さのまるが腰に差しているのはいもフライ
ここでは移動販売車の形式でいもフライが売られている、と聞いた。しかしいくら探しても見つからない。なぜか群馬県名物の焼きまんじゅうがあった。
この辺りは「両毛地域」とかいって、栃木と群馬の文化がハイブリッドになっているのだ
焼きまんじゅう屋さんに「いもフライの屋台はないんですか」と聞いてみると「道の駅の店内でパックになって売っているのはある」とのこと。
しかし、行ってみると…
いもフライ、見事に売り切れ。ハムカツやトンカツなどはまだ残っている
まさかの品切れである。
さっきスーパーの駐車場で「いもフライすごい!」って考えにたどりついたけれども、この現実はさっきぼくの考えた「すごい!」をちょっと超えている。たしかにいもフライはすごいんだけれども、売り切れるまでか……。ハムカツに勝てるのか……。いや、やっぱりすごいのか……。
というか、なんでこんなにいもフライに揺さぶられているんだ。
ソースも数少ない
ちなみにこのいもフライには「ミツハフルーツソース」というのをかけるのがお決まりなんだそうだが、そのソースまでもがほとんど売り切れていたのはかなりショックを受けた。みんなうちに帰っていもフライ手作りする気なんだろうか?
他のソースはいっぱいあるのに……
いもフライ味のポテトチップ、というのが一個だけあった
屋台の焼きまんじゅう屋さんに、いもフライのことを聞いて申し訳なかった。いもフライもないので、一つ焼きまんじゅうをいただくとしよう。
焼きたてのアツアツだった
焼きまんじゅうは、これぞ北関東という感じの甘辛いタレがついていた。おいしいんだけれども、ちょっと飽きる。
まんじゅう部分はフワフワしているし、シナモンシュガーで食べたらオシャレかも? なんて思ってしまった。他県の名物だと思うと、わりと無責任にいろんなことを思いつくのかもしれない。
いもフライはおいしかったし大人気だった
まさかのいもフライ全面勝利である。正直、実際行ってみたら 意外と流行っていないとか、地元の人に見向きもされないみたいなことがあるかな、と思っていたのだがまさかのいもフライ全面勝利である。栃木県出身者として、今まで知らなかったことが悔やまれる。
ぜんぜん余談だけれども、帰りにママチャリで田んぼの中の道を通って行ったら、強烈なノスタルジーに襲われてウッと泣きそうになってしまった。嫌いだったそろばん塾の帰り道とかを思い出してしまったのだ。あの頃のぼくにいもフライがあったらいくらか救われていただろうか。