特集 2013年12月23日

駅ビルのATMに同情する

キャプション!
駅ビルやショッピングビルのATMって、妙にすみっこにないだろうか。

1階でも最上階でもない、中途半端な階。人通りの少ない奥の方だ。袋小路の突き当たりには関係者通路があり、奥まりすぎててもう壁紙の模様も売り場と違う。そんなところにぽつんと置かれたATM……。以上が、僕が考える理想的なATM像だ。

そんなATMの置かれた不遇な状況を明らかにし、同情し、切なさを噛みしめていきたい。それがこの記事の目的であった。のだが。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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不遇とは

冒頭の枠を「のだが。」で締めて波乱の展開を予感させつつ、それは後々のお楽しみに取っておこう。今はまだ穏やかな気持ちで話を始めたい。

まずは有楽町にやってきたのだ。駅前にある、東京交通会館。
当サイトではもっぱら各県のアンテナショップがたくさんあるビルとして登場するが、パスポートの発行窓口があったりとかして実態はけっこうちゃんと「交通」
当サイトではもっぱら各県のアンテナショップがたくさんあるビルとして登場するが、パスポートの発行窓口があったりとかして実態はけっこうちゃんと「交通」
フロア案内を見ると、ATMは2階
フロア案内を見ると、ATMは2階
このビルは地下で東京メトロに直結、1Fの出入り口はJR有楽町駅のすぐ前。そんなアクセス良好な両フロアをあえて避けての、2階。
右上の角。
右上の角。
トイレの向かいだ。いかにも奥まってそう
トイレの向かいだ。いかにも奥まってそう
周辺の通路が袋小路でなく回廊になっている点は残念だが、それでもトイレ前という立地は悪くない。(不遇=よい、という観点に立ってのコメントです)
いかに奥にあるかを体験してもらうため、道中の写真を順を追って掲載していきます。エレベーターを降りて、メインストリートにあたる広い通路を奥に
いかに奥にあるかを体験してもらうため、道中の写真を順を追って掲載していきます。エレベーターを降りて、メインストリートにあたる広い通路を奥に
突き当たりはパスポートの申請窓口だ。ここを右手方向に抜けて
突き当たりはパスポートの申請窓口だ。ここを右手方向に抜けて
窓口を抜けてから振り返ると、そこにATMコーナーの看板
窓口を抜けてから振り返ると、そこにATMコーナーの看板
ポツンと登場
ポツンと登場
うん、いいね!

このATM、ポイントはなんといっても、空きテナントに設置されている点だ。壁がまっ白で内装もまっさらなあたり、「仮置き」感が強くでている。また、広い空間で壁面に寄せられているため、通路から絶妙に距離があるところもいい。距離があることにより遠近法でATMが小さく見えてしまい、まさに「ポツンと」と表現するにふさわしいたたずまいになっているのだ。
隣は収入印紙の販売窓口
隣は収入印紙の販売窓口
逆に今ひとつなのは、周囲のテナントからあんまり浮いていない点。隣に収入印紙の販売窓口、向かいに外貨の両替所と、お金関連のテナントが並んでおり、並びとしては自然に溶け込んでいる。仲間はずれ感がもうちょっとほしいところだ。

そんな不満点もあって、ここはそんなに熱心に写真を撮らずに立ち去った。次があるからいいや、と思って。

が、本当は、次なんてなかったのだ。
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VIPルーム

先のことは知るよしもなく、不遇のATMがあると信じて、次にやってきたのは有楽町マルイ。
イトシアというショッピング施設の一部となっております
イトシアというショッピング施設の一部となっております
ATMは1F。この時点で既にアクセスがよく、不遇度は低い
ATMは1F。この時点で既にアクセスがよく、不遇度は低い
建物自体かなり年季の入っている交通会館にくらべて、ここは数年前にできたばかりで、ビルの内装もなんだかゴージャスだ。
華やかな売り場の間を通って
華やかな売り場の間を通って
この辺にくるとちょっと通路感出てきたか
この辺にくるとちょっと通路感出てきたか
ちなみに「通路感」というのは「売り場感」の対義語である。前者は「通路っぽい、見た目も地味で、通り過ぎるためだけにあるような感じ」、後者は「売り場っぽい、華やかでその場所自体に価値があるようす」を表す造語である。
この辺かな…と思って振り返ったところにはエレベーターとコインロッカー。いい隅っこムードは出ているものの、ここにATMはない
この辺かな…と思って振り返ったところにはエレベーターとコインロッカー。いい隅っこムードは出ているものの、ここにATMはない
もう一回地図を見て、順路を確認。あれ、外に出てしまうのでは…
もう一回地図を見て、順路を確認。あれ、外に出てしまうのでは…
本当に出てしまった。ATMは……?
本当に出てしまった。ATMは……?
わっ
わっ
目の前に現われたのは、ATM専用の別館である。なんというVIP待遇。
間接照明の陰影がすごい
間接照明の陰影がすごい
洗練されたインテリアは、本館よりもむしろラグジュアリー。金かかってそうな内装には、ATMの「お金が出てくるマシーン」としての側面を強く意識してしまった。ここでは千円単位での引き出しは憚られる雰囲気。ATMを哀れむためにやってきたのに、逆にこちらがちょっと圧倒されてしまった。

待遇もよければアクセスも最高、ここまで優遇されたATMがあったとは。どこかにあるであろう不遇のATMに思いをはせ、格差社会の広がりを感じた。

ATMというより銀行

隣には有楽町ルミネがある。
先ほどのマルイからは徒歩0分
先ほどのマルイからは徒歩0分
ここはマルイよりさらに新しいので、ATMの待遇は似たような感じかも。あまり期待しないで館内MAPを見てみると。
ATMがない!
ATMがない!
なんと有楽町ルミネ、ATMがないのである。そんなこともあるのか!
変わってるけど今回の取材的には意味がないな、と思って外に出たところ、
銀行ごとある
銀行ごとある
ビル内に銀行があった。ATMとかそういうレベルじゃなかったのだ。

こんど有楽町ルミネに行く機会があったら、インフォメーションで「ATMありますか?」ってきいてみるといい。

「ATMだぁ?小さいこと言ってんじゃねえよ!これ(三井住友銀行)でも食らえ!!」

たぶん実際はこれを50倍に薄めたようなマイルドな言い方をされると思うけど、気持ちとしてはそういうことだ。

ATM波状攻撃

かと思えば、こんなビルもある。
新橋駅前のニュー新橋ビル
新橋駅前のニュー新橋ビル
タッチパネルなフロア案内。あんまり見たことのない金のかけ方をしているぞ
タッチパネルなフロア案内。あんまり見たことのない金のかけ方をしているぞ
交通会館と同様、古いビルだからATMは不遇な目に遭っているのではないかと思ってやってきたのだが。
通路を抜けて
通路を抜けて
あれ、また外に出てしまう
あれ、また外に出てしまう
と思ったら外直結の便利な位置にゆうちょのATMが
と思ったら外直結の便利な位置にゆうちょのATMが
ハハアン、外にATMがあるパターンね。好アクセスで、すっかり期待はずれである。ただ、これだけならわざわざここで紹介することもないだろう。同条件なら有楽町マルイのATMの方が豪華だったし。ただ、ニュー新橋ビルのATMはこれだけで終わらないのだ。
すぐ脇に中二階へと続く隠し階段
すぐ脇に中二階へと続く隠し階段
その奥に真のラスボスが
その奥に真のラスボスが
良アクセスで優遇されてるかと思われたゆうちょATMは実は下っ端、奥にはさらに三井住友のATMが待ち構えているのだ。

これが2階であれば、フロア移動がありアクセスが悪いととらえることもできる。しかし中二階となると話が違う。10段ほどの緩やかな階段を両端に持つ狭いフロアは、もはや三井住友のATMのために用意された特設ステージとしか思えない。口座への入出金がショータイムへと変貌した瞬間である。
この扇形、どう見てもステージ
この扇形、どう見てもステージ
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原点に返って

こうして巡ってみると、ATM、けっこうきらびやかな場所にあるぞ。なんで今まで隅っこにあると思い込んでいたんだろう。

振り返ってみると、僕はまえに蒲田に住んでたときがあって、そこの駅ビルのATMがすごい端っこにあった気がするのだ。フロアも5Fだったかの中途半端な階で、通路のどん詰まりみたいなところにポツンとあったような…。

しかしなにぶん5年以上前の話なのでうろおぼえだし、その間に蒲田の駅ビルは全部リニューアルして違うビルになってしまった。

いまごろ行ってみたところで、ATMがまだポツンとしている保障はない。
でも、他に当てもない。取材班は最後の望みをかけて、JR蒲田駅へと飛んだ。(電車ですが)
「サンカマタ」というオールドスクールな名前だった駅ビルが「グランデュオ」という強そうなのに変わった
「サンカマタ」というオールドスクールな名前だった駅ビルが「グランデュオ」という強そうなのに変わった
ATMの設置場所は……連絡通路!?
ATMの設置場所は……連絡通路!?
「連絡通路」。

この瞬間、これは期待できる!と確信した。なんたって名前からして「通路」である。そこがきらびやかであるわけがない。しかも「連絡」。報・連・相の真ん中のやつだ。この事務的な響き!薄暗い通路の端っこに所在なさげにたたずむATMの姿が目に浮かぶ。
しかし実際にきてみると連絡通路はこの人通り
しかし実際にきてみると連絡通路はこの人通り
ガラス張りの壁面からは駅改札を望む絶好のロケーション
ガラス張りの壁面からは駅改札を望む絶好のロケーション
クリスマスのディスプレーも華やかな中
クリスマスのディスプレーも華やかな中
元々のクリスマスカラーで完全になじむATM
元々のクリスマスカラーで完全になじむATM
期待は見事に外れた。

かつてJR蒲田駅にはサンカマタとパリオという2つの駅ビルがあって、その2つが現グランデュオの西館と東館になった。前からこの連絡通路はあったけど、ひとつのビルになったことによってディスプレーも人通りも明らかに活性化していた。

東館と西館をつなぐ連絡通路は、世界地図で言えば東洋と西洋をつなぐボスポラス海峡。完全に交通の要所だ。名前は地味だが、よく考えたらめちゃくちゃ人が通る場所である。

ATM、やはり一等地にあるぞ。
ATMからこちら側は静かだが、ナチュラルボーン・サンタ帽カラーのATMは完全に向こうのリア充チームに同化
ATMからこちら側は静かだが、ナチュラルボーン・サンタ帽カラーのATMは完全に向こうのリア充チームに同化
ところで余談だがこのセブン銀行ATMのカラーリング、クリスマスシーズンにもなじむが、他に意外なところにもなじんでいた。
赤白のヨドバシカラーに溶け込むATM
赤白のヨドバシカラーに溶け込むATM
ATMらしからぬ派手な色は、地味な場所で見るとオオッと思う。でもカラフルな熱帯魚が南国の珊瑚礁に溶け込むのと同様、派手は派手なりに行くべきところに行けば保護色になってしまうのだ。
ちなみにこのATM、写真では奥まって見えるものの、入り口を入って直進した突き当たり、という好アクセスの位置にあった
ちなみにこのATM、写真では奥まって見えるものの、入り口を入って直進した突き当たり、という好アクセスの位置にあった
話を戻そう。長々書いてきたが、要は「ATMは冷遇なんかされていない」ということなのだ。それどころかラグジュアリーな別棟を用意されたり、ステージに上がったりとかなり人生を謳歌している感がある。

ただ中には、これは若干不遇かも…というATMもあったにはあった。最後にそんなATMを2つ紹介して、おしまいにしよう。
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遠い

とにかく遠い。品川インターシティのATMである。
こんなビルです
こんなビルです
品川駅側の入り口。最初はこんなイルミネーションで迎えてくれる
品川駅側の入り口。最初はこんなイルミネーションで迎えてくれる
中にも別のメルヘン系イルミネーションが。
中にも別のメルヘン系イルミネーションが。
そして左手はカフェ、右手はおおきな吹き抜けというおしゃれな空間を抜け
そして左手はカフェ、右手はおおきな吹き抜けというおしゃれな空間を抜け
急に地味な通路に出た
急に地味な通路に出た
と思ったらまたちょっと賑やかな感じに。しかしまだまだ先は長い
と思ったらまたちょっと賑やかな感じに。しかしまだまだ先は長い
再び通路感。右にスタバを擁するも完全に裏口といった趣きの通路
再び通路感。右にスタバを擁するも完全に裏口といった趣きの通路
外に出ちゃった
外に出ちゃった
そのまま隣の棟に入る
そのまま隣の棟に入る
こっちはオフィス棟だった。ガンガン進むと
こっちはオフィス棟だった。ガンガン進むと
ようやくATMの表示
ようやくATMの表示
あった!
あった!
到着
到着
とにかく遠い。遠いが、ただ遠いだけではない。道程には、店あり、通路あり、野外あり、オフィスあり。その様々な景色の変化が旅情を演出し、「はるばる来た」という実感を強めてくる。

長旅の末たどり着いたほこら、RPGならここで重要アイテムが手に入るところだが、あいにくここはATM。いつもと同じ現金の出し入れができるだけである。

正統派・奥まりATM

品川インターシティのATMは駅寄りの入り口からだと確かに遠いのだが、それは単にビルが広いだけであって、オフィス棟に勤めている人にとっては普通に便利だろう。

もうちょっと情緒に訴えてくる感じのATMがあった。それが秋葉原アトレだ。
JRの改札を出たところ。ここからスタート
JRの改札を出たところ。ここからスタート
ATMは3階。中途半端でいいぞ
ATMは3階。中途半端でいいぞ
まずエスカレーターで3Fへ
まずエスカレーターで3Fへ
華やかな店内
華やかな店内
そこを奥へ奥へと進んでいくと
そこを奥へ奥へと進んでいくと
この奥かな?
この奥かな?
小さな駅ビルである。距離的には、決して遠くはない。
すぐ手前にはビルの出口直結の改札が。珍しい!
すぐ手前にはビルの出口直結の改札が。珍しい!
そしてそこから90度振り返ると…
あっ!
あっ!
ついにきた。奥まり系ATMだ。

奥まりがよくわかる写真をもう一枚掲載しよう。
手前のクリスマスツリーがショッピングテンションの限界。その右奥、ATM周辺の事務的なたたずまいよ
手前のクリスマスツリーがショッピングテンションの限界。その右奥、ATM周辺の事務的なたたずまいよ
立地とか、クリスマスの飾り付けだけの問題じゃない。そもそも壁の色が違うのだ。
再掲になりますがATM周辺
再掲になりますがATM周辺
ほかの店内の内装はこんなの
ほかの店内の内装はこんなの
ふだんあんまり考えたことがなかったけど、ATMでの入出金って、ペーパーレス化された「手続き」である。ATMは華やかなショッピングの世界の住人じゃなく、事務の世界の住人なのだ。そんなことに気づかされる境遇である。……いい。

ただ、これも、僕が理想とする不遇ATMからはほど遠いというのが正直なところだ。なぜなら、
エスカレーターの導線上にあるから
エスカレーターの導線上にあるから
別のエスカレーターから来たため途中まで気づかなかったのだが、ATMのすぐ脇にもエスカレーターがあるのだ。真のかわいそうなATMとは、人通りの少ない、行き止まりみたいなところにあるATM。
関係者通路に挟まれた、こういうところが理想なのだが…
関係者通路に挟まれた、こういうところが理想なのだが…

ATMじゃなかったのかも

ところで、調査終盤に気づいたのだが、僕が理想としているような場所にあるのは、実はATMではなかった。
電話だ
電話だ
公衆電話だ!
公衆電話だ!
次回、「駅ビルの公衆電話に同情する」は2014年公開予定です。乞うご期待。

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