


伊豆高原にアンモナイト
名刺をみると伊東温泉おもてな師マイスターと書いてある。よくわからないが、さすがだ。







家族でアンモナイトを見に来る
たまたま家があったことと、他に個人の美術館などが多いこともあってこの伊豆でアンモナイト博物館をやっているらしい。
客層はファミリーがほとんどで、マニアの人は一割くらい。「こんなにアンモナイト見るのははじめてだわ、といわれる方がほとんどなんですね」だそうだ。
そうか、もしかしたらこういう博物館の人って「どこがおもしろいの?」の相手ばかりしているのかもしれない。



アンモナイトとは?
ここから悦子さんによる「アンモナイトとは?」案内をしてもらった。ふだんもこれをするのだろう。以下はわかったことの箇条書き。
・アンモナイトは4億年前に出てきて6500万年前くらいにいなくなった。恐竜とほぼ同じ。人類との接点はない。
・アンモナイトは大繁栄して1万から2万種くらいある
・化石に残るのは硬いところだけなので、アンモナイトの殻が残る
・アンモナイトの体がどうなってるかはだれも知らない
・アンモナイトはイカとかタコの仲間、今だとオウムガイが近い
・なぜかというとイカと同じくちばしが出てきてるから
・アンモナイトは必ずしも渦巻きではない
化石に残るものって硬いところだけとかそのレベルから驚いてはいたけど、こういう話はたしかにおもしろい。しかしまだ概論。好きになるかはまだ早い。



1.種類の多さ
しかもアイデンティティと思われていたうずまきでさえもなくなるとのこと。変化の多さとダイナミックさ。広く深い世界がこのぐるぐるにやっぱりあった。
※自動車とかよりも多いんじゃないの!?とおもったが、自動車はガリバーのサイトに載ってるだけで7万7千種あった。自動車対アンモナイトは自動車の勝ち。





2.形のおもしろさ
「造形として好きになる方はすごく多いです。デザイナーの方ですとか画家の方ですとか。
うずまきは安定感があって好まれる形だと思うんですね。時代文化とわず世界共通で。永遠につづくとか成長のシンボルとかいわれていますね」
デザイナーにアンモナイトファンが多いというのも"あるある"ならぬ"ありそう"度が高い。「へんな髪型した数学の先生はサイドカー乗ってそう」級の"ありそう"度だ。



3.模様のきれいさ
「アンモナイトって磨くと模様が出てくるのが特徴なんですけども。縫合線と呼ばれています。よく見ますと菊の葉っぱのように見えると思うんですけども、昔の人は菊石と呼んでいたんですね」
たしかにおもしろい。複雑なのに幾何学的だ。じっと見てると、洗濯機が回る様子を見てるときのようなヒマつぶしになる。
もし私が幽閉されることになったら、壁にアンモナイトが埋まってるといいなと思う。



4.手に入れやすさ
「海外はマーケットがしっかりしてるので集めやすいですね。見本市とかありますので。
マダガスカルとかモロッコは一大産地で世界中に輸出されるんです。それこそ産業のように」
そもそも海外ではアンモナイトがもっと身近で人気もあるらしい。
「ヨーロッパは伝統的にこういうものを研究してきた歴史がありまして、むこうだと化石がもっと身近な存在なんですね。イギリスだと遠足に化石をとりにいこうとかあるようです」
アンモナイトの本場、イギリス。魚とポテトを揚げたもの片手に、潮干狩り感覚でアンモナイト手に入れているようだ(想像)。そら勝てないわ。勝負などしていないがそういう気持ちにさせられる。



5.「ネアンデルタール人もあつめてた」歴史の深さ
「大昔の人は不思議な石としてお守りにしたり、イギリスなんかですと魔女がヘビを石にしたものだと考えてたり。
ネアンデルタール人も集めてたという記録もあるようです。日本でも北海道ですかね、弥生時代のアンモナイトのペンダントが出土しているとか。
時代とか問わずそういうものを集めたい人はいるようですね」
あの、である。あのネアンデルタール人もか。「秀吉も愛した茶器」レベルではない。「ネアンデルタール人も愛したアンモナイト」なのだ。



6.自分で掘れるおもしろさ
吉池館長はなぜアンモナイトを好きになったかを語る。
「ぼくね、もともと化石が好きだったんです。アンモナイトが好きになったのは、日本で採れるんですよ。北海道とかね。ほんとは恐竜とかがいいんですけどね。恐竜とかは大学の研究チームとかでないとできないですしね。
一人で集められるってところがいいところというか、集めやすいところですね」
ほんとは恐竜というのも正直でびっくりしたが、たしかに自分の手で発掘できるおもしろさは格別だろう。



日本の化石ファンがアンモナイトに流れる
なるほど、恐竜ファンは多いがそこから化石好きに、そしてアンモナイトに流れていくのか。
だんだんわかってきた。アンモナイトファン、それは多いわ。そりゃアンモナイトで博物館作るわ。



最近の子供はいきなりアンモナイト
「ちょっとそれ見るだけにしとこうかな~!」と博物館側も大あわてだ。これが対ファミリーの大変さ。
しかしこの子たちはアンモナイトと「ハイチーズ!」とやってて渋い。きみたち、菊石と呼ばれてるんだぞこれは。
「最近はこどもチャレンジとか知育雑誌でアンモナイトの特集をくんだりすることもあるらしくて」 ときく。恐竜をとおらずに直にアンモナイトにいくらしい。
いきなりアンモナイト。安い深夜番組のタイトルのようだ。



ヘラクレスオオカブトはどれですか?
「さっき見せたニッポニテスというのは花形といえば花形なんですけど、マニアの間でですよね。
そういわれたら考えたことなかったですよね……館長!」
館長「なにかな~。何をみるのかな。ペリスフィンクテスとかを見るのかなあ」
あのマダガスカルでたくさん採れるやつが、エース格なのか。



これがザ・アンモナイト
いわゆるザ・アンモナイトですね。資料提供求められたときもこれを出してます。
これはほんと好きで。素朴だけどきれい、というところが私はとても好きですし、標本というのはあんまり磨かないほうがいいですね。磨くときれいにはなるんですけども」
これがティラノサウルスのようなエース。たしかに独特の色をしている。磨いてピカピカにしたものは他にもたくさんあるが、本来の魅力ではないのか。
これがエース、じっと見ているとアンモナイトの世界の扉が開きそうではある。素朴? 素朴か、素朴かも。うん、いい……かもしれない。



博物館の人のおすすめをきく
「夫はやっぱりニッポニテスが好きだと思いますけど……私はどちらかというと石についてるものが好きです」
――石についたものですか?
「これなんか好きですよね。素朴ですよね。石も形も好きですよね。自然の状態であるっていうのが好きです」
悦子さんのおすすめは石にまだ埋まってる状態のアンモナイト。さあ、わからなくなってきました。



「型がいい」らしい
「あと個人的にほんとに好きなんですけど、本体が雄型、とれたものが雌型っていうんですけども、セットになってるものが、これがですね、私はとても好きです。型が好きなんですね。型が好きです(笑)
両方きれいな状態でこれが出るのは少ないんですね。たいていどちらか割れてしまうんですね。とれた雌型も化石なんです」



マニアではないというが
「型っておもしろくないですか?お菓子の木型とかも好きなんですけど、おもしろくないですか?反対側もこんなにきれいなんだって。しかもマニアの型は見向きもしないっていうのが。私は絶対あったほうが、唯一無二というか、お互い唯一無二ですし、揃ってるとうれしいですよね。すいません(笑)」
勢いあまってあやまられてしまったが、型のよさに共感できるかどうかはおいておいてとにかく圧倒された。この何かみょうにいいこときいた感じはなんだろう。



館長のおすすめ
「ぼくはこれ好きですよね、自分で見つけたやつ」そう言う館長が指さすのは入り口に一番近いキャライコセラス。特大のやつだ。





じわ~っとにじみでるよさ
やっぱりこういうのは自分で見つけると愛着がわくというかプロセスがわかりますので。プロセスがおもしろいですよね、自分で見つけるっていう」
このとき館長の表情がうわーっと思うほどやわらかくなっていって、たぶん脳には"うれしくてしょうがない汁"みたいなものがじわじわにじみ出てきていたのだろう。
好きな人がかたる好きなものというのはこっちまでなんかうれしくなってくるというか、おっさんの顔をさしていうべきことではないが、ちょっといいものだなあと思う。



だからこういう大きなものはもう、見つからないですね」
この先これ以上のことはないだろうと、館長の語り口は自慢のようでもあるしさびしそうでもあるし。いや、物自体の話はおいといて、今ここにはなんというか豊かな時間が流れている。



打ち上げだ、これは打ち上げが必要だ
「私はもう圧倒的に形ですね~」
やっぱりアンモナイトの形がいい。二人の声がコーラスのようにかさなっていって最終的にはアンモナイト最高みたいな、このあとちょっと打ち上げいこうみたいな空気さえただよった。
その後、もちろん打ち上げはなかった。









博物館の人にどこがおもしろいのかきくといい顔することがわかった

こういうのもアリではないか。
博物館にいって「これっておもしろいの? おもしろくないの?」と自分の中で答えを出すのではなくて、博物館の人に好きなことを語ってもらう、ただそれを楽しむだけという形もあるのではないかとちょっと思った。
これを読んで「これって良記事なの? 良記事じゃないの?」ということは置いておいてですね(ところで良記事って何?)、伊豆の博物館でアンモナイトのよさをきくの、よかったな~。





