特集 2013年2月5日

超新食感!浜辺で拾える深海魚「ミズウオ」を食べる

これがミズウオ。
これがミズウオ。
砂浜で打ち上げられた深海魚が拾える。
数年前に静岡でそんな信じられない情報を仕入れた。
しかもその魚はものすごく特徴的な食感で、一度食べると良くも悪くも忘れられないという。

それは興味深い。ぜひぜひ拾おう。食べよう。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

前の記事:広さ2畳の川魚!タイで巨大淡水エイを釣る旅

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景勝地で深海魚拾い

深海魚が拾えるスポットは静岡が全国に、いや世界に誇る名所、三保の松原周辺の海岸であるという。
富士山が見えるよ。
富士山が見えるよ。
松原が広がっているよ。
松原が広がっているよ。
こんな有名スポットに深海魚なんか転がっているはずないだろう…。
そう思いながらも情報を信じ、2011年から数回通っているのだが、未だに深海魚を手にはできていない。
こんな装備で臨む。防寒具とライトは必須。釣竿を持っているのは、泳いでいる深海魚を発見した場合に釣り鈎で引っ掛けるため。
こんな装備で臨む。防寒具とライトは必須。釣竿を持っているのは、泳いでいる深海魚を発見した場合に釣り鈎で引っ掛けるため。
その魚は名を「ミズウオ」というのだが、どうやらこの魚を見つけるには潮が重要で、大潮とそれ以外では波打ち際に打ち上げられる数が歴然と違うそうだ。
僕が大潮にミズウオ拾いに挑むのは実は今回が初めてである。期待が高まる。
ひたすら波打ち際を照らしながら歩く。
ひたすら波打ち際を照らしながら歩く。
深海魚拾いは夜間に行う。昼間より夜の方が打ち上げられる可能性が高いことも理由の一つだが、さらにもう一つ重要なワケがある。その点については後ほど述べていく。
ライトに魚が照らし出されたのでビクッとしたが、これはヒメジという浅場の魚。釣り人の忘れものだろうか。
ライトに魚が照らし出されたのでビクッとしたが、これはヒメジという浅場の魚。釣り人の忘れものだろうか。

発見!!

海岸を歩きはじめて約2時間。ミズウオは見つからない。また今回も空振りなのかと不安に思っていると。黒く焦げた流木が目に付いた。気にも留めず通り過ぎようとすると、流木にあるまじきモノが見えた。

「尾びれ…?」
!ミズウオじゃん!!
!ミズウオじゃん!!
まさか。と駆け寄ると、そこには小さな子供が見たら泣き出しそうなほど怖い顔をした魚が横たわっていた。ミズウオだ。流木じゃなかった。
怖すぎ
怖すぎ
大きく裂けた口に長く鋭い牙が並ぶ。照らされた目も異様な光を放って不気味だ。
しかもけっこう大きい。
1メートル以上あった
1メートル以上あった
やっと見つけた。数年越しの願いが叶った瞬間だ。嬉しくて嬉しくて、写真を何十枚と撮った。が、家に帰って見直すとブレまくり、ボケまくりでまともな写真は案外少なかった。はしゃいでいるときにありがちなミスである。

しかし、ちゃんと大潮を狙えばわりとあっさり見つかるもんだなー!運が良かっただけかもしれないが。
背びれが傷んでいたのが残念。
背びれが傷んでいたのが残念。
ミズウオはバショウカジキのように立派な背びれを持っていることで有名なのだが、残念ながらこの個体のそれはかなりボロボロであった。
打ち上げられた際に暴れて傷んだわけでもなさそうだ。深海は僕らが思う以上に厳しい環境なのだろう。
お腹が破れて魚の尻尾がはみ出している
お腹が破れて魚の尻尾がはみ出している
ところでこのミズウオという魚、かなりの悪食で知られている。
海中で目に入った物はなんでもかんでも食べてしまうそうで、胃袋からは様々な生物や、ときには枯葉やビニールなどのゴミまで出てくるという。
ということは、もしかしたら小さな他の深海魚を飲み込んでいるかもしれない。そんな「お土産」を期待して腹を裂いてみる。
ギマという魚が3尾と謎の物体が出てきた。
ギマという魚が3尾と謎の物体が出てきた。
胃袋からはギマという魚と、クラゲのようなウミウシのようなぷるぷるした謎の物体が出てきた。このえげつない色をした謎の物体は深海生物なんだろうか…。

ちなみにギマは比較的浅い場所で暮らす魚である。ということはどうやらミズウオは本来の生息環境である深海から浅場に打ち寄せられても、食事はしっかり摂るようだ。意外な発見である。そういえば、以前にタチウオを狙っている釣り人がミズウオを釣り上げたという話を聞いたことがある。
波打ち際ではしゃいでいたので足下がびしょびしょに。この日は1月下旬。寒い。
波打ち際ではしゃいでいたので足下がびしょびしょに。この日は1月下旬。寒い。
拾ったミズウオはかなり新鮮だったので持ち帰って食べることにした。ひとまず目標達成ではあるが、まだまだ捜索は続ける。
できれば生きている姿も見たいからだ。

明るくなるとほぼゲームオーバー

砂と礫の海岸を歩くこと7時間。ついに空が白んできた。
朝日は奴らを呼び寄せる…
朝日は奴らを呼び寄せる…
先ほど、捜索は夜間に限られると書いたが、その最大の理由は競争率の激化にある。ミズウオを食べたいと思う連中は思った以上に多いのだ。
といっても僕みたいな物好きな人が押し寄せるわけではない。
彼らが厄介なんだ。
彼らが厄介なんだ。
鳥である。大きくて、柔らかい肉のたくさんついたミズウオは腹を空かせた彼らにとって格好の獲物なのだ。

こちらは一人きりで何時間もかけて広い海岸をしらみつぶしに探し歩かなければならない。一方、鳥たちときたら大勢で散らばって、広い範囲を見渡せる上空から、それこそ「鵜の目鷹の目」でサーチできるのだ。昼間は彼らの独壇場。あまりに分が悪すぎる。個人探偵がFBIに捜査力で敵うはずが無いのである。
一歩遅かった…。
一歩遅かった…。
これは夜明けを挟んで1時間ほど目を離したポイントで無残な姿になっていたミズウオである。カラスが群がっているのが遠目に見えたので、大急ぎで駆け寄ったのだが時すでに遅しであった。
貪られてなおかっこいい。
貪られてなおかっこいい。
わずかに残された皮はまだしっとり濡れていた。たぶん、あと30分も早くここへ来ていれば、カラスに突かれる前の元気に浜で元気にのたうちまわるミズウオが見られたであろう。残念だ。
ふと背後に目をやるとそこには羽衣の松が
ふと背後に目をやるとそこには羽衣の松が
1尾目と2尾目はほぼ同じポイントで発見したのだが、明るくなって初めて、そこがあの有名な「羽衣の松」の真正面であったことに気がついた。
伝説に登場する天女の羽衣とは、もしかしたらミズウオの背びれのことではないか、などと馬鹿なことをちょっと真剣に考えてしまった。
だって、手が届かないのなら、天上も深海も似たようなものではないか。
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ミズウオ、水っぽすぎ!

さて、いよいよ家に持ち帰ったミズウオを食べる時がやってきた。
一体どんな味なのだろう。
未知の魚というのは調理もワクワクする。
未知の魚というのは調理もワクワクする。
まな板にミズウオを乗せると、台所が一気に怪しい儀式の会場のようになってしまった。
なんだこれ…
なんだこれ…
頭と尾びれが無いと、一見して魚だとは分からない異様な物体と化すミズウオ。しかし変なのは外見だけではない。
包丁を入れてまず気付いたのが骨の脆さ。1メートル以上ある大型魚なのに、ほとんど抵抗も無く中骨を断ててしまったのだ。
ミズウオの身。透明感がすごい。
ミズウオの身。透明感がすごい。
それどころか適当に刃を入れると肉と一緒に骨までスライスしてしまうのでおろしにくいことこの上ない。あえて切れ味の悪い包丁を使うことも考えたが、そうすると今度は柔らかすぎる身を切ることができない。そして骨がやたら透き通っていて見づらいのも捌きにくさに拍車をかける。しかも小骨が多い上に、身に対してかなり妙な入り方をしているので料理中も試食時も大いに泣かされた。
ミズウオの中骨。透き通っている。
ミズウオの中骨。透き通っている。
頑張って調理を進めていると、ある異変に気付く。
まな板シャッバシャバ!!
まな板シャッバシャバ!!
まな板の上が水浸しだ。何だこれは。
どうやらミズウオから浸み出した水らしい。
それもそのはず。何を隠そう「ミズウオ」という名はこの身肉の水っぽさに由来しているのだ。深海で浮力を調節するために水分を蓄えているのだろう。
噂には聞いてはいたが、まさかこれほどとは…。

魚とは思えない食感

さて、いよいよ待ちに待った試食の時である。
水浸しの刺身。
水浸しの刺身。
まずは素材の味を見極めるべく刺身でいただく。が、皿に盛り付けるとみるみるうちに水が出てきて驚く。もっとしっかりクッキングシートで水を切っておくべきだったか。そのまま消えて無くなりそうな気もするが。

まあ、とりあえず水浸しである点をのぞけば見た目は悪くない。フグの刺身に水をぶっかけましたといった感じである。
ん?なんだこれ…
ん?なんだこれ…
味が薄い…。そして噂通り奇妙な食感だ。ナタデココのようなコンニャクのような、しかしどちらともはっきり違う。擬音で表すなら「クニュクニュ」という食感である。そして噛めば噛むほど水が出てきて口内が潤ってしまう。ウォータリング深海魚だ。

しかし、ここでふと気付いた。独特の食感だが、僕は以前にこれによく似た刺身を食べたことがある。そうだ、マンボウのそれだ。大学時代の合宿で食べたのだが、周囲にはことごとく不評で結局僕がほとんど全部食べたのを覚えている。ミズウオの刺身も他人にふるまえば、同じ扱いを受けるのは想像に難くない。そんな味だ。
ミズウオビフォーアフター
ミズウオビフォーアフター
続いて焼き魚にしてみたのだが、まあ想像通りずいぶんと縮んでしまった。
意外と弾力があって、箸でむしれなかったのでかぶりついたところ、肉汁(水?)がどばどばと口に流れ込んできた。まだ水抜けきってなかったのか!

ブリブリとかなりしっかりした歯ごたえがある。だが魚の食感ではない。
味は水分が多少飛んだためか、刺身と比べてかなりはっきりしていた。なんというか、滋味の薄い貝類のような味だ。
魚の調理に困った時はから揚げだ。
魚の調理に困った時はから揚げだ。
次はから揚げだ。どんな魚でも、毒さえ無ければ揚げれば食える。それが持論だったが、この度ミズウオによって覆された。
どんなにしっかりカラッと揚げても、ほんの数分経つと衣がビショビショにふやけてしまうのだ。
揚げものにしておいしくない魚がいたことに困惑する。
揚げものにしておいしくない魚がいたことに困惑する。
しかも、肉汁が多すぎる!熱々のうちはまだなんとか食べられるが、ちょっとでも冷めてしまうとぬるい水が「ブシュ!ヂュル…」と舌の上に流れて来て気持ち悪いことこの上ない。この魚でフライを作っても、絶対にお弁当に入れてはいけない。

さらに驚いたのは、背骨の中からも水が飛び出してきたことである。なんなんだ、この魚は。
最後は煮魚
最後は煮魚
ところで、ネットや書籍でこの魚を調べると、「ミズウオを煮ると肉が溶けてしまう」という記述を頻繁に見かける。
その真偽を確かめるべく、シメに煮魚を作ってみることにした。ただし、本当に溶けてしまったらもったいないので尾の身を少しだけ使って。
肉が大幅に減って骨がむき出しに。
肉が大幅に減って骨がむき出しに。
結果は「溶けるというより水分が抜けて縮む」というものであった。体積にして3分の2から2分の1くらいになっただろうか。肉を失った部位の骨が大きく露出してしまった。

味の方は案外おいしい。身は普通の白身魚のようだが、皮がブリブリと弾力を持ちなかなか面白い味わいだ。次回からミズウオを拾ったら、主に煮魚にして消費しようと思った。

冬~春限定の遊び

ミズウオが三保の海岸に打ち上げられるのは、その特殊な地形に原因があるようだ。1シーズンで数百尾も採集されたこともあるという。
しかし、頻繁に見られるのは主に冬から春にかけてのみであるという。ネットで調べてみるとそのあたりの科学的な理由がわかって面白い。
もう2月になったが、本格的に暖かくなるまでまだあと数回、大潮の晩は巡ってくる。興味のある方は観光ついでに三保半島へ出かけてみてはどうだろうか。
清水駅で見かけたさくらももこさんによるレッサ―パンダのイラストがかわいかった。
清水駅で見かけたさくらももこさんによるレッサ―パンダのイラストがかわいかった。
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