特集 2023年5月9日

「日本は安くなった」はどこから生まれるのか~お金の専門家と街歩き後編

3999円のグラスワイン発見。価格ってなんだろう?

価格は労働量だけで決まってるわけではない

大北:
これすごいじゃないすか。グラスワイン3999円。その分でかい。そのうえサングリアでちょっといいもの。足し算がすごい。

林:
でっかいグラスで出すとちょっと値段を上げても許される。面白いから。付加価値って言うんですかね、看板も古くエイジングしたりしていてその分お客さんが来ると思うんですけど、それも労働が価格に置き換わっているんですかね。

田内:
労働に見合った価格がついてるかどうかはまた別の話だと思うんですよ。同じワインが1本1000円と2万円で並べて置いてあった時に2万円で買う人もいて、そのうえ美味しいと感じる人もいますよね。

林:
値段が価値だと思いこんでくると、値段上げちゃえば、価値が上がる話になってしまうんですね。

田内:
広告とかマーケティングの仕事をしてる人もいてそういう人たちの頑張りで、人々は商品に対してお金をもっと払おうと思うわけですよね。高くてもその価格でビジネスが成り立ってるんだとしたら、そういう人たちの成果があったってことになるんでしょうね。

提供する価値が価格を決めているのか?

大北:
需要が価格を決めるって聞きますけど、実際にそうなんですかね。

田内:
それが多いと思います。

林:
じゃあし、3999円のグラスワイン出して、客来ねえなって言ったら下げるわけですかね。

田内:
そうなりますよね。市場経済は労働の配分を正しくしてくれるように動くんだけれど、補助金とかさっきの搾取とか他の要素が加わるとうまく回らないこともあります。電気代や小麦代を下げることに5兆円使いますって話ありましたよね。
旅館がサービスを提供するのに、本当は従業員5人で抑えなきゃいけないところ補助金出るからって無駄に10人で提供してるんだとしたら、そのビジネスってうまくいっちゃいけなくて。その5人は違うことで働いた方がいいわけじゃないですか。

ヘアサロン撮り逃してたので、美容学校を連想させる専門性の高い学校の看板を置いておきます。関係者の皆様、すみません…

田内:
さっきヘアサロンがあったんですけど、(前回の話で)食料品が昔に比べて2000倍になったと言いましたよね。でも食堂のカレーは5000倍になっていて食料品よりも高いんですね。それは店で働く人が存在するから。人件費は7500倍になったのでそこに近くなるわけです。そういう意味ではヘアカットって1万倍なんですって。

大北:
人件費超えちゃってるのはなんでなんですか?

田内:
昔も今もハサミで髪を切るわけなので効率化ってほぼされてないんですね。1000円カットとかは効率化なんでしょうけど、普通のヘアサロンは高付加価値というか単に髪切るだけじゃなくてかっこよくなりたいとか手間をかけて切るようになっちゃってるから価格が上がっている。市場経済の中ではそっちが選ばれてきたわけですね。それは市場が決めてますよね。

林:
サイゼリヤができても、スパゲッティ屋の値段は相変わらず高いままですもんね。

田内:
そっちの方がいいなとなればそうですよね。

林:
美容学校とか教育がしっかりして、しっかりした品質が保証されて値段が上がるんですかね。

田内:
実は僕は値段が上がる理由として「質が上がってるから」っていうのはちょっと関係ないと思っていて。家電のテレビがそうですけど、安くなったうえで見やすくなってるじゃないですか、労力が下がって品質が上がっている。ヘアカットも品質が高いのと安いのがあると、高い方に対してお金払うんだけれど、時間軸で見ると、労力を下げて品質を上げる方法がなかったんでしょうね。

林:
ヘアカットは本当にそうですね。未だにバリカン使うし。変わりようがない仕事ってあるんだよな。

いったん広告です

「日本は安くなってる」がどうやって生まれるか?

林:
海外で日本のユニクロが高級品になっていたり、富士そばが高いレストランになってたりしますよね。

田内:
輸送コストによって高くなることもありますよね。輸送コストで不思議なのが材木はカナダとかアメリカから輸入していて。今、向こうの価格が上がってるから日本でも上がってるらしいんですけど。海外から輸送してきてるのに、まだそっちの方が安いっていうのは相当日本の林業の効率がよくない可能性もありますよね。

林:
国産品はいいものみたいなイメージがあるけど効率が悪いだけかもしれないのかなー

田内:
人手がかかっていて、良いものももちろんあるんだけれど、安価なのが欲しいって人たちには向いてないですよね。牛肉とかね。

大北:
とはいえ賃金の値段が違うっていうのもありますよね。あれ? それは通貨の高さで決まるんでしたっけ?

田内:
そうですね、石油とかが高くなると産油国は通貨が高くなるから。そうすると必然的に産油国って人件費が高くなったりします。その国から買わなきゃいけない何かがあるってなるとそこの通貨を欲しがる人が増えますよね。

大北:
通貨が欲しくなるってことは通貨が高くなる。賃金も高くなる

田内:
例えば火星人と僕らが貿易するとして、彼らの賃金は、1日100火星ドルって言われても、高いのか安いのかわかりません。僕らの欲しい物を彼らが全く作ってなかったとしたら通貨は欲しくないし交換する必要もないから。
だけど、彼らがもし僕らの欲しがる金(ゴールド)を産出するとなったら話は別。一方、彼らは僕らの自動車を欲しがっていたとしたら、金と自動車の貿易が成り立って為替レートが決まる。
火星では、1火星ドルを払えば金を1g買えるのだとすると、彼らの日給は金100g分。今日本で金が1グラム5000円だとすると日給は50万円という計算になります。

大北:
そこでやっとその国の賃金が高いか低いかが考えられるんですね。

田内:
そうです。どれだけ稼いどるかがわかるんです。火星ドルだけに。

大北:
きたぞ!

田内:
あ、すいません、つい言いたくて。とにかく、2つの国の間で交換するものがあって、それをベースに為替レートができるんです。

外国からの観光客が渋谷を爆走する

大北:
あ、カートですね

田内:
こういう人たちが日本に外貨を落としてってくれるわけですよ。インバウンドで落とすお金って3兆円、4兆円だから日本のGDP500兆円に対しては、たかだが1パーセントもないと言われますけど、本当は貿易赤字と比べるべきなんですよね。
去年史上最悪だった貿易赤字は20兆円、つまり20兆円が海外に流れていってしまった。そのうちの、3、4兆円が流れずにすむわけだから、インパクトは結構でかいんですよね。

林:
これは本当にウィンウィンというか。貿易赤字がちょっと減るわけですね。

大北:
直接カートの業者に落としてくれるというのもいい。

林:
業者がカートを国内で作ってるとなおいいんだけど。

田内:
あの業者が実は全部海外の人がやっていて、本国にお金を送ってるんだとしたら実は何もお金落としてないことになりますしね。

林:
アメリカ人がアメリカでする消費と同じになっちゃう。でも中国から来た観光客を相手にしてる中国人の方いますよね。

田内:
そう考えるとインバウンドも全部が全部喜べないような気がしますね。みんな経済の話を小難しく考えちゃうんですけど、全然難しくないんです。「お金のむこうに人がいる」という僕の本のタイトルの通りで、お金の向こう側で誰が働いているのかを考えたら、年金の話も、投資の話も、貿易の話もシンプルなんですよね。


お金が必要なんです

そもそも人々は都市生活を営む前に支えあって生きてきたようだ。その後、動いてもらうチケット、お金という便利なものができたのだ。

私は都市でしか暮らしたことがないのでお金が必要である。人として本来からずいぶん離れてしまった地点に来ているのだと思うものの、この先も都市で暮らすだろうからもう仕方がない。

せめてどういうことかくらいはわかっていたい。

お話してくれた田内学さんの著書はこちら

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