特集 2023年5月9日

「日本は安くなった」はどこから生まれるのか~お金の専門家と街歩き後編

人はお金以外でも動くので企業はその善意につけこむ

大北:
少子化もまた制度で救われていくといいですね。

田内:
うまく制度設計する必要がありますよね。
僕は会社で働いて感じるのは育休って制度はあるけど簡単に利用できないところがある。お金以外の事柄もあって、僕らって動くじゃないですか。そこにつけ込まれちゃってるところがある。

大北:
つけこまれてる?

田内:
最近僕『逃げ恥』を読んだんですけど、奥さんだったらタダで雇えるみたいな話を「好きの搾取だ」と言ってて。それって夫婦間だけじゃなくて、会社の中でもあって。
育休取って人が足りなくなるんだったら、会社としては新しい人を取るべきなんです。だけど「困った時はみんなで助けるんだ」って会社は言って、みんなの善意につけ込むんですよね。善意の搾取を行うわけですよ。
お金とお金じゃない経済っていうのがあって、その狭間のあたりにはわりを食う人が必ず存在してて
新しく人を取ります、もしくは働いた分給料払いますと会社もしくは政府がやらないと。育休取らなさそうな男ばっか雇おうって発想に会社はなるだろうから、育休取らせてる企業に対して政府がお金払うとかの制度が必要なんだろうし。

少子高齢化が進んで、労働力足りなくなるけれど女性の労働参加率上げたら問題ないんだという人がいますけど、これってお金の経済、つまりGDPにカウントされる労働だけ見ているんですよ。家事とか育児って含まれないわけですよ。 
育児頑張ろうとしている人たちが外で金稼げよってなると、根本的に少子化と逆方向に行っちゃう恐れもある。同時に、男性も育児頑張れよって話なんです。
本当はお金で評価されてなかった人たちにスポットを当てなきゃいけないんだけれど、お金での評価に慣れてしまってるせいでうまくいってない。お金以外のところにも大事な価値があるって気づかないといけない

大北:
企業や動かす人が「みんなで助けてあげなきゃ」ってなる優しさにつけこんでいるのだとして、じゃあその優しさでやってるとこも含めて全ての行為をお金という数値化にしちゃえばつけこむことはなくなりますかね?

田内:
だけどギスギスしちゃうっていう問題はもちろんあって、難しいんですけど……

林:
カロリーで測ればいいですかね。

大北
ドーナッツ何個分とかになるとギスギスしないかもしれないですね(笑)

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美術の価格を考えると物の値段の不思議さが

売るための価値なのか利用するための価値なのか

林:
エスカレーターは将来助かりそうですけどこういう装飾品みたいなのもですか。

田内:
これ見て癒される人もいるでしょうしね。そしてそれは「これ500億円の作品ですよ」って言われても僕らには関係がないですよね。 美術品の価格ってすごくおもしろい。もっと言うと、所有って何かなって考えるんですよね。
昔、バブル時代にゴッホの絵を買い漁った日本の金持ちが、自分が死んだ時は、その絵と一緒に燃やしてくれって言って世界中から批判が集まったことがあったんですよ。

林:
やばい発想ですね。

田内:
クリエーターの友人に言われたんですが、「美術品を買って所有するってことは、所有してる間に管理できることだ」と。
美術館に行くと寄贈された作品もあれば、所有者から預かってる作品もある。僕らにとってはどっちでも関係なくて、その作品を鑑賞できることが大事じゃないですか。利用価値と言える価値ですよね。
逆に言うと所有してても倉庫に眠らせていると誰も幸せにならないわけで。眠らせておくと珍しいから値段が上がるから、売却した時に儲けられるもしれないけど、社会全体が幸せが増えるかというとそうじゃない。むしろ、誰の目にも触れないなら、美術品としての価値を発揮しない。
利用する時の価値と売却する時の価値というのをちゃんと分けて考えなきゃいけない。売却の価値は持ってる人の価値でしかなくて、買った人から売った人へのお金の移動でしかないから、全体では何も生み出していないんですよ。

林:
なんでも鑑定団にしてもマニアによってすごい特殊な値段つきますよね。

田内:
だから仮想通貨とかもよくわかんないですよね。みんなが高く買ってくれるからっていう理由で高い。

林:
チューリップバブルよりもひどいですね、もう実体がないですもんね
(注:17世紀のオランダでチューリップの球根が値上がりした)

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バブルの土地価格崩壊は内/外で考える

田内:
1990年頃に日本でもバブル崩壊しましたけど、これも利用する時の価値と売却する時の価値を分けて考えないといけない。
このとき、 日本の土地の総額大体2500兆円あったのが1800兆円に下がったんです。
災害が起きて、鉄道や道路のインフラが壊れちゃって、不便になって土地の値段が下がったのなら、利用するときの価値は下がっちゃうし、生活に大きな影響がある。
だけど、みんなが土地を売りたがって値段が下がっただけで、生活が不便になったのかっていったらそうじゃないですよね。でも700兆下がっててモヤモヤする。これを考える時は、国の内側と外側を考える必要があるんです。
1800円兆円だろうと2500兆円だろうと、国の内側でお金が移動してる間は、国全体のお金の量は変わらないんですよ。それがもしアメリカに日本の土地を売るという話なら、日本国内のお金は700兆円増えることになるから意味がありますよね。だけど、国は土地を売るわけじゃない。
もっと身近な例で言うとね。うちの実家はそば屋やってたんですけど、自分たちで食べる分のそばについては値段がいくらかなんて関係ないわけです。親が僕から300円とってもとらなくても、家の中のお金は増えるわけじゃない。だけど、お客さんにそばを売る時は、300円なのか、500円なのかで変わってくるわけですね。

林:
誰に売るかのときに変わってくる。

大北:
バブルについての総括がそば屋の自家消費に。

大北:
外国にお金が流れたら困るよねって話を今日はしてますけど、一方でグローバル化みたいな流れもありますよね。世界の垣根がとれたらまあOK!ってなるんですかね。田内家と林家の。

田内:
困った時に助けてくれるかって方が大きいと思うんですよ。再分配行いましょうよ、今この人たち困ってるからお金集めて配りましょうよって政府だったらできるんだけど、それが世界規模で行われるかっていうとどうなんでしょうか。

大北:
まあ行われないですかねー。

⏩ 「日本は安くなってる」がどうやって生まれるか?

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