特集 2020年7月1日

120年に一度?凶事の前兆?竹が開花し枯れた

竹が一斉に枯れた。

60年に一度とも120年に一度とも言われ、凶事の前兆ともされている竹の開花ではないか。

調べてみた。

1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。(動画インタビュー)

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散歩コースの竹が一斉に枯れる

僕は運動不足解消のため岡山県内の登山コースをよく歩く。登山コースと言ってもその言葉からイメージするほど立派なものではなく、山のてっぺんに小さな祠があって、けもの道をほんの少し上等にしたくらいの道がつづく。

2020年5月10日、その日もいつもの様に山道を上っていると、なにやら違和感があって足を止めた。

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なんであっち黄色いんだろう。

違和感の先に目を向けると、それまでの一面の緑色の世界に突如黄色い光が差し込んでいた。

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か…枯れてる!?しかもたくさん。

近づいて見ると見慣れた竹林がことごとく枯れ、隙間から黄色い木漏れ日が差し込んでいた。

 

三週間前には緑色だったと思う。でもちゃんと気を付けてみていなかったので単に気が付かなかったのかもしれない。間違いなく冬の時点では青々としていた。

こんなにも大規模に、一斉に竹が枯れる現象は初めて見たが、なんとなく聞いたことがあった。

竹はごく稀に花が咲くことがあってその後一斉に枯れる。そしてそれは60年~120年に一度とも言われる物凄く珍しい現象だ。

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これは竹の花…実。イネみたいだなと思ったら竹はイネ科なのだそう。どうりで。

もしそんなに珍しい現象なら可能な限り調べて未来のために記録しておかなければなるまい。

なぞの義務感に突き動かされた。

竹の開花は凶事の前兆か?

調べてみると竹の開花とその後に枯れる現象は凶事の前兆とも言われているのだとか。

本来、竹は冬でも枯れる事がなく成長スピードも異常に早い。いわば生命力そのものだ。手入れが行き届かない竹林が際限なく広がる「竹害」という言葉まである。

またお正月の門松をはじめ、めでたい植物の代表格でもある。

そんな竹が一斉に枯れる光景は、前提知識がなくても心がざわつく。

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さいとう・たかを著「サバイバル」という漫画(画像は3巻5ページより)。見つけられなかったのでkindleで再購入。

「サバイバル」という漫画では竹(ササ)が開花すると実を食糧にしたネズミが大発生して周辺の食糧を食べつくす。

また竹は土砂災害を防ぐ目的でも植えてあり、枯れてしまうと災害を防げなくなってしまうという現実的な問題もあるだろう。

 

全てが枯れているわけではない

竹が枯れる時は周辺の地域も一斉に枯れると聞いたことがあったので、本当にそうなのか調べて回る事にした。

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あまり竹を注意深く見たことはなかった。

改めて見てみると枯れている所や、枯れるまでいかなくても少し黄色っぽく見える所、まったく枯れていないところもあって様々だ。

周囲を確認して回ったたところ、枯れているのが2割、枯れていない竹が8割といったところ。

近隣の竹枯れについて分かったこと
・周囲では2割ほどが枯れている

枯れたのは開花だけじゃなかった

僕は竹が枯れたのは全て開花のせいだと思い込んでいたが、枯れている竹を調べていくにつれ、枯れ方が異なっている竹もあった。

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もともと最初に登山コースで見つけたのはこのパターン。

枯れていることに加え、普通の状態の竹に比べると枝がモサモサ、ワサワサしていてその部分には実がついている。

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実の様なものがついている。

モサモサ、ワサワサした部分にはこんな感じのイネ実の様なものが付いている。竹はイネ科なんだとか。

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別パターン。

こちらは別のパターン。こちらも枯れてモサモサ、ワサワサとしているので開花しているものと思っていたが、

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近づいて見る。

よく見てみるとこちらにはイネみたいな実がついていない。

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右が開花して枯れた枝。左が違うパターン。

分かりやすい様に、枝を並べてみると違いが一目瞭然だ。

調べてみたところ左の実がついていない方はテング巣病という病気にかかっているらしい。

近隣の竹枯れについて分かったこと
・原因は開花とは別にテング巣病にかかったものがある
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テング巣病はカビの一種で、感染すると異常な枝がたくさん出てモサモサ、ワサワサになる。

モサモサ、ワサワサした感じが天狗の巣のようだ。そしてこのテング巣病は西日本を中心にかなり蔓延していて、各地で竹が枯れるなどの被害が相次いでいる。

枯れている竹も多くはテング巣病っぽくて、開花はあまり多くはなさそうだ。さきほど枯れている竹が2割と言ったが、枯れた2割の中で開花が2割くらいの感覚だ。竹全体だと開花は4パーセントくらい。

近隣の竹枯れについて分かったこと
・テング巣病は西日本を中心に蔓延中
・枯れた竹のうち、おおむね8割がテング巣病、2割が開花

あとこの竹の種類も分かった。ハチク(淡竹)というらしい。ちょうどDPZライターで京都在住のこーだいさんがハチクの記事を書いていた。ハチクについてはそちらが詳しい。

近隣の竹枯れについて分かったこと
・枯れている竹の種類は「ハチク(淡竹)」
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開花範囲を調べる

つづいて気になりだしたのは開花の範囲だ。いったいどのくらいの範囲で開花したのだろう。

ハチクの記事を書いたこーだいさんに取材時に開花していなかったか聞いてみる事にした。

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京都府での開花の様子はないそうだ。

ハチクの開花は京都府までは行ってないんじゃないか。

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車に乗って開花範囲を調べまわる。

それが分かったらより詳細な開花範囲を車を走らせながら枯れた竹藪を見つけ、開花かどうか確認するという単純かつ手間がかかる方法で調べる。

市街地にはそもそも竹がなさそうなので、山林が多い地域へ向かおう。

近隣の竹枯れについて分かったこと
・開花による竹枯れは地元岡山では見つかっているが、京都では見られていないらしい

山林では開花を見つけられない

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山が深くなってきました。

岡山市の中心部から30分ほど走れば家はまばらになり、さらに進めは山が深くなる。

こういう山が深い所にこそ竹がたくさん生えているのではないか。

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熊出没注意!

看板が熊がいる事を告げる。移動中は車の中は安全なはずだが、撮影とかで車から出ることもあるので、ちょっと緊張感がある。

マムシもエンカウント率は高そうなので気をつけなければならない。

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道が狭い。

めちゃ狭い道も戦々恐々としながら進み、開花した竹を探すが結論から言うと想像と違って山のほうには竹があまり生えていなかった。

ただし開花していれば確認することもできるが、していないことを確認するには全部の竹を調べなければならない。そこまでは出来ていない。

開花が多かったのは山のふもと

逆に開花がよく見つかったのは、郊外の山すそだ。山すそにはそもそも開花していない竹も含めたくさん植えられている。

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民家の裏山。

民家の裏山に竹林があるというのはよく見られる光景だ。

新緑の季節なので枯れて茶色くなると見つけやすい。 

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山のふもとの田んぼとの境。

山のふもとの田んぼとの境にも竹は多かった。ここでは一部だけ枯れていた。

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神社がある山のふもとでも。

これら山のふもとに植えられた竹は土砂崩れの防止や、タケノコを採るために植えられたと想像できる。

近隣の竹枯れについて分かったこと
・山間では見当たらないが、山すその竹林などで枯れが目立った

ため池の近くにも多い

ため池の近くでも開花が多かった。途中からため池を目印にしてに探したほどの打率が高い。

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ため池の土手に生えている竹が開花している。奥は開花していない。
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こちらもため池のそば。
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手前は田んぼだが竹藪の向こうはため池。

これらの竹はため池の土手を補強するために植えられたのかも知れない。

近隣の竹枯れについて分かったこと
・特にため池の近くで開花による枯れが見つかった

地図にまとめてみた

地図にプロットしてみた。地図のマーカーをクリックすれば現地の写真と開花の様子が表示される。

最も離れたところは24kmほどの距離がある。

なんとなく川の流域にも近い形に見える。

今回に限らず、ひとつの川の流域やひとつの谷で開花が重なることは少なくないらしい。人の手によって株分けされた竹は遺伝的にも近く開花タイミングが合うことがあるそうだ。

この竹の開化マップは同時に昔の人の株分け行動範囲マップとなっているのかもしれない。

近隣の竹枯れについて分かったこと
・山のふもとやため池、川の周辺などは人の手によって株分けされた竹が多く植わる
・そのため遺伝的に近く開花タイミングが合うことがある
・開花により同時に竹が枯れるのはそのためという可能性が見えてきた

 

未来のために竹の開花を調べはじめたら、なんとなく過去の人の動きも見えてきた。

同じ様にずっと先にこの情報が役に立つことがあるかも知れない。


和気清麻呂とハチク

開花範囲を調べてぐるぐるしていると、竹の開花場所からほど近く和気神社の横を通った。和気清麻呂(わけのきよまろ)の生誕地とされている場所だ。

あまり知らなかったが、一時は紙幣にもなっていた奈良時代から平安時代の政治家だ。

竹の開花があるかもと境内を見て回るが、見つけられずにその日はそのまま帰る。

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撮っていた和気清麻呂像。

その後、 ハチクについて調べていると「泣くよウグイス平安京」の794年に都を移した桓武天皇は、和気清麻呂に命じて御所に呉竹を植えさせた。呉竹は今でいうハチクだったそうだ。

今回の開花もハチク。そういう偶然もあるのか。

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