特集 2020年8月18日

食虫植物のユートピアが千葉にある

ユートピアでいきいきと暮らす食虫植物たち(写真提供:山武市歴史民俗資料館/成東・東金食虫植物群落を守る会)


千葉県に、食虫植物の群生地があるという。

食虫植物というのは南国のジャングルなんかに生息してるものかと思っていたら、まさかの千葉に。
サバンナにしかいないと思っていたライオンが千葉にもいた!みたいなことだ。これはぜひ見てみたい。

虫を食べるところが目の前で見れたりもするのだろうか?
どう生えて、どう咲いて、どう食べているのか。まるでサファリパークに行くような気持ちで、見にいってみることにした。

1984年岐阜県生まれ。変な設定や工作を用意して、その中でみんなでふざけてもらえるような遊びを日々考えています。嫁が世界一周旅行中。

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食虫植物のサファリパークへ

やってきたのは、千葉県の山武市にある成東駅。

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千葉では有数のいちご狩りスポットで、訪れたことがある人もいるかもしれない。僕もその1人で、食虫植物が生えていることを知ったのはその時だ。

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駅前の観光案内には、いちごをモチーフにしたキャラクターや、いちごのイラストが並ぶ。
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そんな中に突如あらわれる「食虫」の文字。観光スポットの緩急がすごい。

 ここから車で10分ほどいったところに、食虫植物のサファリパーク「成東・東金(なるとう・とうがね)食虫植物群落」はある。

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パッと見た感じは草むらにしか見えないが、この中に食虫植物がひそんでいる。
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道中には、これでもかというぐらいに案内の看板があった。見にきてくれという熱量を感じる。

今回は、こちらで食虫植物の保護や案内活動を行っている「成東・東金食虫植物群落を守る会」の会長、岩瀬さんに案内をしていただいた。

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ガイド歴30年の大ベテラン!

※今回は特別に案内をしていただきましたが、2020年8月現在、人の密集を避けるためガイドは中止となっています(ガイドなしでの見学のみ可能)。

食虫植物は意外とかわいい

岩瀬さんのガイドのもと、さっそく食虫植物を見せていただく。
※特別に許可をいただき、ソーシャルディスタンスをとって撮影しました。

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草むらの中の観察路を歩き、
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食虫植物が咲いていると、こうやって教えてくれる。

食虫植物は、時期や天気など、花が開くタイミングがなかなか難しいそうだ。この日も雨あがりだからどうだろう?とのことだったが、ラッキーなことにいくつかの花を見ることができた。

でも、どうも思ってた感じと違う。食虫植物、かわいいのだ。

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ミミカキグサ。黄色いぷくっとした花がかわいい。
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コモウセンゴケ。小さなつぼみがコロコロ連なっている。

食虫植物と聞いて、僕はこういうものをイメージしていた。

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間違いなくあのゲームの影響ですが

毒々しい色と、あきらかに凶暴そうなフォルム。そして、大きな虫も丸飲みできてしまうぐらいの大きさ。植物界の荒くれものというイメージがある。

一方で、ここまでに見た食虫植物は、どれも小花柄の服にプリントされていてもおかしくないぐらいかわいらしい。

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イシモチソウ。白くて小さな花が一輪、可憐に咲いていた。
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この中に描かれていても違和感ないだろう。

特に気になるのはそのサイズ。
どれも背丈は10〜15センチぐらいと小さく、花は赤ちゃんの小指の先ぐらい。いったいこれでどうやって虫を食べるというのだろう?

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小さいので、写真撮影もこうなる。
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あの、岩瀬さん・・
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なんでしょう? 
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食虫植物、思ってたよりだいぶかわいい見た目なんですけど、これ本当に虫食べるんでしょうか?
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あはは、皆さんそうおっしゃいます。でも、実は日本の食虫植物って、虫を食べることはしないんです。
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食べない!?
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日本の食虫植物は「粘り着け式」か「吸い込み式」

食虫植物なのに食べない。一休さんのトンチみたいな話だ。

こういうベテランの観光ガイドさんって、お客さんの興味をひくためにいろんな小噺を持ってるイメージがある。その中の1つだろうか。

どういうことなのか、詳しく聞いてみる。
 

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食虫植物なのに食べないというのはどういうことなんでしょう?
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食虫植物と聞くと、虫をパクっと食べるのを想像しますよね。

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はい、こういうやつを。
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ですよね。でもそういうタイプの食虫植物、有名なものだとハエトリグサとかって、実は海外にしかいないんです。
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えっ、そうなんですか!?じゃあさっき見た植物たちは、食虫植物じゃないということでしょうか?
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いえ、虫から栄養を摂取するという点では間違いなく食虫植物です。でもそのやり方が違っていて。日本に生えている食虫植物は「粘り着け式」か「吸い込み式」が主なものなんです。


日本の食虫植物は虫をパクッと食べることはしない。でもその代わりに吸い込むか粘り着ける。それはそれでおっかなそうなワードが出てきたぞ。 
 

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まず粘り着け式ですが、例えばさっき見たイシモチソウ。注目してほしいのは花ではなく、そのまわりの葉っぱの部分です。
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花のまわりのアメーバみたいな形をした部分

そういうと岩瀬さんは、状態のいいイシモチソウの写真を見せてくれた。

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本性あらわしたぞーー!
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うわー、このアメーバみたいな葉っぱの部分は、色といい形といい食虫植物って感じがしますね。
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はい。その先っぽに、透明なキラキラした液体がついているのが分かりますか?
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雨粒でしょうか?
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いえ、これは粘着液なんです。この部分にとまった虫は、この液で身動きがとれなくなる。
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それで、どうなっちゃうんでしょう・・
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虫が動けなくなったら、植物は人間の胃でも出ているような酵素を出して虫をとかし、養分を体内に取りこむんです。
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ひー!
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他の種類のも見てみましょう。
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モウセンゴケ
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モウセンゴケをアップでどうぞ。絶対に近づいちゃいけない感じがする。
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シロバナナガバノイシモチソウ
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「ツボミがかわいい」と思っていたコモウセンゴケも、地面に広がる葉っぱに注目すると食欲全開だった。

※虫が捕まっているところの写真を見たい方はここをクリック

最初はおとなしそうに見えていた食虫植物。でもこう見ると、虫を捕まえる部分の赤さや、キラキラした粘着液など、どれも食欲をむき出しにしている感じがする。

虫にとってはこれが魅力的に見えるそうで、ついつい近よってしまう。誘惑だ。人間でいうとネオンみたいなものだろうか。
 

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最初に見た黄色い花のミミカキグサは、どっちの方式なんでしょう?

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ミミカキグサは、吸い込み式の植物になりますね。吸い込み式は、その根っこに「捕虫のう」という器官をもっていて、そこから地中や水中のプランクトン・バクテリアなどを吸っています。
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同じ虫でも、もっと小さいものが対象なんですね。
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同じく吸い込み式の「イヌタヌキモ」の葉っぱ。丸くふくらんだ部分が、ミジンコなどのプランクトンを吸い込む「捕虫のう」だ。
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捕虫のうは地中や水中にあるので、群落にはこのように観察できるコーナーもある。

 サプリメントとしての食虫

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でも、そもそも何で食虫植物は虫を食べるんでしょうか?光合成はしないんですか?
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いえ、食虫植物もちゃんと光合成はしています。でもそれだけだと栄養が足りないので、虫からも補うんです。
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サプリメントみたいですね。
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先ほど見たシロバナナガバノイシモチソウ
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植物は本来、光合成に加えて土からも栄養をとります。でも食虫植物は、土の養分が少ない湿地などで生息するので、不足する養分をとるために代わりに虫を食べているんです。虫を食べるように進化したから、そういった土地で生息できるようになったとも言えますね。

その見た目と、虫を食べるという荒々しさから、なんとなく植物界の強者のようなイメージを持っていた食虫植物。でもそれは、生きるために他の植物が住まない場所を選んだ結果だったのだ。 

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食虫植物のユートピア

では、そんな食虫植物はなぜ千葉のこの場所に栄えたのだろうか?そこには、いくつかの偶然と保護の歴史があった。

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先ほど、食虫植物は栄養の少ない土地に生えるということでしたが、この土地もそうということでしょうか?
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はい。この辺りは何千年もの間、気候変動によって海になったり陸になったりを繰り返していました。その結果、砂地で、かつ水が残った湿地帯になり、栄養が乏しく食虫植物にとっては居心地のいい土地になったんです。

群落は、九十九里浜から約6キロの位置にある。西側の山なみが、昔の海岸線を物語っている。

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「大昔は、向こうの山までが海だったんです」
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群落の中にはところどころこういった水たまりが
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そして、この土地は食虫植物にとって都合がよかったことがもう1つあります。ちなみに高瀬さんは、生物は勉強していましたか?
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はい、高校まで生物選択でした。
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じゃあ「遷移」は分かりますよね?
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あっ、えっと、念のため教えていただいてもいいですか?

 

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絶対に分かってない顔

 

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「遷移」というのは簡単にいうと、「どんなに養分のない荒れ地でも、コケから始まってだんだん背の高い植物が生えるようになり、最終的に森になる」という自然の流れです。食虫植物は、この流れの最初の方に登場します。

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そして重要なのは、背の高い植物が育つようになると、それまで暮らしていた背の低い植物は日があたらず生きられなくなってしまうということです。

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あれ?その流れでいうと、ここの食虫植物たちはとっくに日が当たらなくなって滅びていてもおかしくないですね。
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そうなんです。でもラッキーなことに、江戸時代まではすぐ隣を流れる作田川がよく氾らんしていて、ここはその時に堤防を補修するための土を取る場所になっていました。だから、その土取りのたびに背の高い植物は取りのぞかれて、土の養分が少ない状態も保たれたんです。 

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なるほど。人の手が入ることで遷移が防がれたんですね。
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群落のすぐ隣を流れる作田川

 

この場所で食虫植物が栄えた理由①

・もともと海だったので、土地に栄養が少なかった。
・川が氾らんするたびに人の手が入り、遷移が防がれた。


日本初の天然記念物

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でも、さすがに時代が進めば川があふれることも減りますよね?
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はい。
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するといよいよ遷移と向き合わなければいけない時が?
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いえ、その前に戦わないといけないのは人だったんです。
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人?
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食中植物が珍しいので、不心得な人たちがどんどん採っていっちゃったんです。

採っていっちゃう。そういう敵もいるのねと笑ってしまった。

特に、明治30年に総武本線が開通してからは、東京からも日帰りで来ることができるようになり、植物が採っていかれてしまうことが増えたのだそう。

写真もまだ一般的ではない時代。あれだけ珍しい見た目の植物が何の規制もなく目の前に生えていたら、採って帰りたくなる気持ちも分からなくはない。
 

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でも、食虫植物はそのピンチも乗りこえました。国がその希少性を認めてくれて、1920年(大正9年)の7月17日、日本で初めての天然記念物に指定されたんです!
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ほんとだ!

なんと、食虫植物は日本で最初の天然記念物だった。これにより、法律で守られ、採ることは禁止となった。

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今も、採取を禁止する看板が立っている

 

この場所で食虫植物が栄えた理由②
・日本初の天然記念物に指定された
 


ちなみに、今回取材に行ったのは2020年の7月19日。行くまで全く知らなかったが、この2日前で天然記念物に指定されてちょうど100年という、ものすごくホットなタイミングでの取材になっていた。

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「おととい(100年当日)はNHKの取材が来たんだよ」

「ありのまま」では守れない

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天然記念物に指定されたので、これでもう安心ですかね。
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ところが、そうはいかなかったんです。

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天然記念物に指定されたことによって、植物が持っていかれないよう、群落は鉄条網で囲われました。ところがこれが落とし穴でした。
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あっ、もしかして遷移ですか?
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そうです。ここまで何度も遷移の話をしてきましたが、実は当時まだそのことは意識されていなかったんです。
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とにかく植物を持っていかれないための対策をしようと。
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そうなんです。保護して人の手が入れられないようにした結果、群落には背の高い植物も生えるようになってきてしまい、食虫植物は最大のピンチを迎えました。


天然記念物に指定して守ったつもりが、逆に人の手が加わらなくなったことで守れなくなる。自然保護というとありのままの状態を残すイメージがあったが、必ずしもそれが良いとは限らないようだ。
 

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結局、その状態は戦後まで放置されてしまいましたが、食虫植物はなんとか生き延びました。そしてその後1950年ごろからは、地域の皆さんによる保護活動が行われるようになり、現在まで続いています。

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ヨシなど背の高い植物の刈り取り
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ススキは根っこから掘り起こす
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野焼き。火事みたいですが、地面に近いところの温度はそこまで上がらないので食虫植物は守られるのだそう。

 

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「来週はヨシ刈り。大変だよー」(嬉しそう)

この場所で食虫植物が栄えた理由③
・人の手を加えて、食虫植物にとっての良い環境を保っている
  


守らないと守れない

虫を粘り着けたり吸い込んだり、食虫植物は期待どおりの暴れん坊だった。

でも一方で、生きていくための環境はとても繊細で、人の手も加わって一生懸命守られているというのが面白かった。

植物や生き物を保護することは、無条件に「環境に良い」と思っていたが、特定の種を保護するというのは自然の全体からするとイレギュラーだったりもする。でも、守らないと守れない。

その辺りの、自然保護の難しさも感じられた。

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こちらは、食虫ではない植物「コオニユリ」の蜜を吸うチョウ。粘着液のない植物で良かったなと声をかけたくなる。


【見学情報】
4月~8月(毎日)午前9時~午後4時
9月~10月(土・日・祝日)午前10時~午後3時
※5名以上で訪れる際は、要事前連絡
※グループでの見学は15名以下としてください
※人の密集を避けるため、2020年8月現在スタッフによるガイドは中止しています

【取材協力】
成東・東金食虫植物群落を守る会
山武市歴史民俗資料館(問い合わせ先)
TEL:0475-53-3023(文化財担当)

 

次のページでは食虫直物が虫を捕まえているところの写真を掲載しています。苦手でない方はぜひどうぞ。

⏩ 次ページに続きます

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