特集 2020年9月8日

日焼けしたポスターみたいな写真を撮る

街でよく見かける、この色合いのポスター。人工的に作ってみた

屋外に貼られているポスターは、日が経つとどんどん青っぽくなってくる。赤のインクが紫外線によって退色するためだ。

あの色味を見ていると、強い日差しが思い起こされて「夏!」って感じがするし、どこか懐かしさも覚える。逆に考えると、この雰囲気の写真が撮れれば、夏らしさが演出できるのではないか。試してみよう。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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日焼けポスターから感じる夏の日差し

街を歩いていると、青っぽいポスターをよく見かける。

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肌が青くなった人。ありえない色なのに、見慣れているせいか特に変には思わない

長きにわたり太陽光にさらされた結果、赤のインクが退色して全体的に青くなっているのだ。これを見て、「皮膚が青い人の写真だ!」って思う人はいないだろう。脳が勝手に、「これは日に焼けたポスターだ」(なので青くて当然)と認識している。それだけ日常的に見慣れた光景とも言える。

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似たようなものに、セピア色の写真がある。モノクロ印画紙が経年劣化すると、この色味になるという

同じ「色あせ」でも、セピア色の地位は高い。カメラのフィルタ効果に必ずと言っていいほど登場するし、単語としてみると歌詞にも頻繁に登場する。経年劣化→長い年月→昔を想う……みたいな連想がなされて、過ぎ去った時の流れをしみじみ感じるキーワードみたいになっている。色あせ界の有名人だ。

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一方で、日焼けはどうか。無関心にさらされている気がする

日焼けなのに、日が当たらない。そんな感じに思える。

日焼けから連想するもの、それは「強い日差し」。暑苦しくてあんまり思い出したくないかもしれないけれど、この色味を一言であらわすとすれば、やはり「夏」なのではないか。皮膚を焼くギラギラとした太陽、したたる汗、セミの鳴き声……そんなものが脳裏に浮かんできた。

逆に考えると、この赤色が抜けた青白い色味をわざと再現することで、むせかえるような夏の暑さが表現できるかもしれない。人工的に日焼け写真を作って確かめてみよう。

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あの色味を再現したい

まずは、どうしてあんな青っぽい色味になるのか、原理を確認しておきたい。

太陽光にはさまざまな波長の光が含まれているが、なかでもパワーが強いのは紫外線や青といった波長の短い光である。ポスターがこの強い光をあびることによって、インクの色素が分解されて退色が起こる。特に結合が弱く分解されやすいのが、赤や黄色のインクだという。おまけにそれらの色は青い光を吸収するため、余計に退色が起こりやすくなっている。

ということは……カラー写真から赤や黄色を抜いていけば、日焼けポスターが再現できるに違いない。

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ざっくりと書けばこんな感じ。写真をCMYKの4色に変換し、マゼンタ(M)とイエロー(Y)だけを薄くすればいいはずだ
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ためしに、この写真を日焼けさせてみる

まずはRGBの写真を、CMYKという印刷で使われる4色(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)に変換する。この変換には、「Japan Color 2001 Coated」という、一般にポスターなどの印刷物で使われるプロファイル(変換式)を使用。これでポスターの色味を、CMYKの色ごとに自由に調整できるようになる。

そして色を実際に薄くするには、トーンカーブという調整法を使う。簡単に説明すると……

005.jpg
このグラフは、x軸が入力画像の強さ(0~255)で、y軸が出力画像の強さ(0~255)になっている。左下から右上に向かって一直線に伸びているのがトーンカーブ

たとえば上のグラフだと、トーンカーブが斜め45度の直線になっている。これは、入力画像が127だとすると、出力画像も127になることを示している。つまり、入力画像=出力画像になって、何の変化も起きないトーンカーブである。

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ここでトーンカーブを上に持ち上げて、弓なりにしてみる

こうすれば、入力画像が127のとき、出力画像は191となる。つまり、入力画像よりも出力画像の方が強く(明るく)色が出るということだ。

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先ほどのトーンカーブを写真に適用すれば、この通り全体的に明るい画像となる

この補正法を使って、「ポスターの日焼け」をシミュレートするトーンカーブを考えてみた。

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激しく退色するマゼンタは、このような山型のカーブに

より色が強い(マゼンタが濃い)ほど、紫外線の影響を受けやすくなるはずだ。なのでここでは、色が強ければ強いほど出力を弱くしている。

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同じく退色するイエロー。マゼンタよりも山を少し高めに

イエローも、色が強い(濃い)ほど出力を弱めればいいはずだ。ただポスターの場合、インクが退色するだけでなく、紙が黄色く変色するという効果が加わる。なので、マゼンタよりは少しだけ強めの色が出るようにしてみた。

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シアンとブラックは、全体的に少し減衰させる

残るはシアンとブラック。これらの色は退色しづらいとはいえ、多少は退色するだろう。ということで、入力を7/10程度に弱めたものを出力とした。

このような調整により、実際にできあがった画像がこちらである。

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これは! 日焼けしたポスターじゃないか

理屈どおりにやったので当然といえば当然だが、まさに日焼けしたポスターみたいな写真ができあがった。人工的に太陽光にさらすなんて、神の所業である。

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ためしに合成してみた。こういう色味のポスター、あるよなぁ

というわけで、日焼けポスターを作るレシピができあがった。せっかくなので、この色味で写真を撮っていきたい。そのためには、まずカメラを作らねばならぬ。

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カメラをつくる

以前、限界までJPEG圧縮率を高めた写真が撮れるカメラをつくった。あのカメラに再度登場してもらおう。

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Raspberry Piという小型コンピュータにカメラを取り付けて、モバイルバッテリと合体させたMYデジカメ
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液晶で確認しながら、右肩の赤いボタンを押せばシャッターが切れる
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手に持てば、ほらカメラっぽい

簡単に作れるわりに、ちゃんとカメラっぽさがある(撮影していても意外と変に思われない)ので気に入っている。

こいつのソフトを書き換えて、撮った写真を「あの色味」に変換する処理を加える。具体的にはImageMagickというソフトを使って、先ほどのトーンカーブが自動で適用されるようにした。

さて、準備完了だ。日焼けポスターカメラを持って街へ出よう。

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日焼けポスターを撮影する

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やって来たのは、大阪市の旭区赤川。日焼けして赤が退色しそうな住所、という基準で選んだ

通常は、長いあいだ太陽光にさらさないと作れない「日焼けポスター」。それが手元のカメラがあればすぐに作れてしまう。魔法の道具を持った気分だ。

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そんな魔法をかけるには、処理時間の都合で20秒ほど待つ必要がある。魔法にだって都合はある

この待ち時間の間に、写真がジリジリと日に焼けて色あせていく様を想像する。太陽光の代わりに、CPUが熱を発しながら画像を作り出していく。

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やがてできあがった一枚目の写真。駅前にあったローソンである

このコントラストが低くてぼんやりとした雰囲気、どこか「写ルンです」を彷彿とさせる。もとから青が多めの風景だったため、あんまり違和感がないのかもしれない。こんな感じでどんどん撮っていこう。

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無機質な自動改札と、そこに差し込む窓の光。あれ? なんかオシャレ写真になってないか
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日焼けと意識しなければ、ちょっと気の利いたカラーフィルタである
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これがポスターとして窓に貼られているのを想像すると、ちゃんと日焼け写真に思える。だけど……先入観なく見れば、ただの雰囲気がいい写真である
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特に青色が映える空を入れるとカッコいい。青はほとんど退色しないので、そこだけカラーに見えるのだ
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赤色が抜けた、赤と名の付く商店街。こういう場所には色あせたポスターがいっぱいある印象
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この色味にすると、光と影がより強調される気がする
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ちょっと気を抜くと、こんな風情写真を撮ってしまう。いかんいかん
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ホースを撮って気を取り直す
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このメニューは日焼け前であったが、撮影することで日焼けが再現できた。こういう色味のメニュー、街でよく目にするやつだ
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淀川の堤防にやってきた
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赤川鉄橋。かつてこの鉄橋を渡って通勤していたので、懐かしさが込み上げてきた
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ジリジリと肌を焼く夏の太陽
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見上げれば夏の雲
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BGMに「少年時代」が流れてきそうな風景
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もはや日焼け写真であることを忘れて、その雰囲気にひたってしまった
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やはりポスターにせねば

こうして日焼け写真を撮ってみて分かったのは、予想外にいい雰囲気すぎて「日焼け」という事実がどうでもよくなってしまう、ということだ。インスタの写真を見慣れた現代人にとっては、「ああ、こういう写真なんだね」と思ってしまい、意外性があまりない。

そもそも「日焼けポスター」からポスター成分が抜けているので、これは単なる「日焼け」である。やはり「ポスター」部分も必要なのではないか。

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そう思ったので、撮った写真でポスターを作ってベランダに貼ってみた。あ、しっくりくる!
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思いっきり色あせている
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被写体は先ほどの堤防である。この草が茂っている部分の色味がすごくいい
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もう一枚作った。いい色あせ具合だ
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文字色はもともと赤だったのが、退色した結果この色が生まれた

やはり日焼けしたポスターは、ポスターとして壁に貼ってこそである。これを見ていると、だんだんと昔の自分の部屋の記憶がよみがえってきた。そうだ、南向きの窓にポスターを貼っていて、それがこんな風に色あせていた。なんだか懐かしい気持ちである。

もともと「日焼けしたポスターは夏っぽいんじゃないか?」という仮定があった。でも実際ためしてみると、「暑い夏!」っていう雰囲気は少しあるものの、どちらかと言うと「夏が終わるさびしさ」みたいなものを感じてしまう。郷愁を誘うというか。結局はセピア色と同じで、長い年月が経ったことの比喩として「日焼け」があるかもしれない。

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セピアに対抗して、この色味はサンバーンと呼ぶことにしよう

看板の退色

似たようなのに、看板の退色がある。

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赤い字が消えて大喜利みたいになっているやつ

下地もインクも違うので今回のやり方では再現できないが、「撮影すると消える部分が分かるカメラ(看板退色カメラ)」があると便利かもしれない。重要な部分が消えてしまうという悲劇が未然に防げるのだ。意外といいかも。

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