看板の退色
似たようなのに、看板の退色がある。

下地もインクも違うので今回のやり方では再現できないが、「撮影すると消える部分が分かるカメラ(看板退色カメラ)」があると便利かもしれない。重要な部分が消えてしまうという悲劇が未然に防げるのだ。意外といいかも。
屋外に貼られているポスターは、日が経つとどんどん青っぽくなってくる。赤のインクが紫外線によって退色するためだ。
あの色味を見ていると、強い日差しが思い起こされて「夏!」って感じがするし、どこか懐かしさも覚える。逆に考えると、この雰囲気の写真が撮れれば、夏らしさが演出できるのではないか。試してみよう。
街を歩いていると、青っぽいポスターをよく見かける。
長きにわたり太陽光にさらされた結果、赤のインクが退色して全体的に青くなっているのだ。これを見て、「皮膚が青い人の写真だ!」って思う人はいないだろう。脳が勝手に、「これは日に焼けたポスターだ」(なので青くて当然)と認識している。それだけ日常的に見慣れた光景とも言える。
同じ「色あせ」でも、セピア色の地位は高い。カメラのフィルタ効果に必ずと言っていいほど登場するし、単語としてみると歌詞にも頻繁に登場する。経年劣化→長い年月→昔を想う……みたいな連想がなされて、過ぎ去った時の流れをしみじみ感じるキーワードみたいになっている。色あせ界の有名人だ。
日焼けなのに、日が当たらない。そんな感じに思える。
日焼けから連想するもの、それは「強い日差し」。暑苦しくてあんまり思い出したくないかもしれないけれど、この色味を一言であらわすとすれば、やはり「夏」なのではないか。皮膚を焼くギラギラとした太陽、したたる汗、セミの鳴き声……そんなものが脳裏に浮かんできた。
逆に考えると、この赤色が抜けた青白い色味をわざと再現することで、むせかえるような夏の暑さが表現できるかもしれない。人工的に日焼け写真を作って確かめてみよう。
まずは、どうしてあんな青っぽい色味になるのか、原理を確認しておきたい。
太陽光にはさまざまな波長の光が含まれているが、なかでもパワーが強いのは紫外線や青といった波長の短い光である。ポスターがこの強い光をあびることによって、インクの色素が分解されて退色が起こる。特に結合が弱く分解されやすいのが、赤や黄色のインクだという。おまけにそれらの色は青い光を吸収するため、余計に退色が起こりやすくなっている。
ということは……カラー写真から赤や黄色を抜いていけば、日焼けポスターが再現できるに違いない。
まずはRGBの写真を、CMYKという印刷で使われる4色(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)に変換する。この変換には、「Japan Color 2001 Coated」という、一般にポスターなどの印刷物で使われるプロファイル(変換式)を使用。これでポスターの色味を、CMYKの色ごとに自由に調整できるようになる。
そして色を実際に薄くするには、トーンカーブという調整法を使う。簡単に説明すると……
たとえば上のグラフだと、トーンカーブが斜め45度の直線になっている。これは、入力画像が127だとすると、出力画像も127になることを示している。つまり、入力画像=出力画像になって、何の変化も起きないトーンカーブである。
こうすれば、入力画像が127のとき、出力画像は191となる。つまり、入力画像よりも出力画像の方が強く(明るく)色が出るということだ。
この補正法を使って、「ポスターの日焼け」をシミュレートするトーンカーブを考えてみた。
より色が強い(マゼンタが濃い)ほど、紫外線の影響を受けやすくなるはずだ。なのでここでは、色が強ければ強いほど出力を弱くしている。
イエローも、色が強い(濃い)ほど出力を弱めればいいはずだ。ただポスターの場合、インクが退色するだけでなく、紙が黄色く変色するという効果が加わる。なので、マゼンタよりは少しだけ強めの色が出るようにしてみた。
残るはシアンとブラック。これらの色は退色しづらいとはいえ、多少は退色するだろう。ということで、入力を7/10程度に弱めたものを出力とした。
このような調整により、実際にできあがった画像がこちらである。
理屈どおりにやったので当然といえば当然だが、まさに日焼けしたポスターみたいな写真ができあがった。人工的に太陽光にさらすなんて、神の所業である。
というわけで、日焼けポスターを作るレシピができあがった。せっかくなので、この色味で写真を撮っていきたい。そのためには、まずカメラを作らねばならぬ。
以前、限界までJPEG圧縮率を高めた写真が撮れるカメラをつくった。あのカメラに再度登場してもらおう。
簡単に作れるわりに、ちゃんとカメラっぽさがある(撮影していても意外と変に思われない)ので気に入っている。
こいつのソフトを書き換えて、撮った写真を「あの色味」に変換する処理を加える。具体的にはImageMagickというソフトを使って、先ほどのトーンカーブが自動で適用されるようにした。
さて、準備完了だ。日焼けポスターカメラを持って街へ出よう。
通常は、長いあいだ太陽光にさらさないと作れない「日焼けポスター」。それが手元のカメラがあればすぐに作れてしまう。魔法の道具を持った気分だ。
この待ち時間の間に、写真がジリジリと日に焼けて色あせていく様を想像する。太陽光の代わりに、CPUが熱を発しながら画像を作り出していく。
このコントラストが低くてぼんやりとした雰囲気、どこか「写ルンです」を彷彿とさせる。もとから青が多めの風景だったため、あんまり違和感がないのかもしれない。こんな感じでどんどん撮っていこう。
こうして日焼け写真を撮ってみて分かったのは、予想外にいい雰囲気すぎて「日焼け」という事実がどうでもよくなってしまう、ということだ。インスタの写真を見慣れた現代人にとっては、「ああ、こういう写真なんだね」と思ってしまい、意外性があまりない。
そもそも「日焼けポスター」からポスター成分が抜けているので、これは単なる「日焼け」である。やはり「ポスター」部分も必要なのではないか。
やはり日焼けしたポスターは、ポスターとして壁に貼ってこそである。これを見ていると、だんだんと昔の自分の部屋の記憶がよみがえってきた。そうだ、南向きの窓にポスターを貼っていて、それがこんな風に色あせていた。なんだか懐かしい気持ちである。
もともと「日焼けしたポスターは夏っぽいんじゃないか?」という仮定があった。でも実際ためしてみると、「暑い夏!」っていう雰囲気は少しあるものの、どちらかと言うと「夏が終わるさびしさ」みたいなものを感じてしまう。郷愁を誘うというか。結局はセピア色と同じで、長い年月が経ったことの比喩として「日焼け」があるかもしれない。
似たようなのに、看板の退色がある。
下地もインクも違うので今回のやり方では再現できないが、「撮影すると消える部分が分かるカメラ(看板退色カメラ)」があると便利かもしれない。重要な部分が消えてしまうという悲劇が未然に防げるのだ。意外といいかも。
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