特集 2020年9月1日

企画会議を想像する

想像の一部

スーパーやコンビニで商品を見ていると、たまに「どんな話し合いを経てこうなったんだろう」と思うことがある。

そんな時、大人がその気になって行動すれば大抵のことは分かってしまうものだけど、答えを知る前の、想像をする段階がけっこう楽しかったりする。

想像してみよう。

1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。動画インタビュー

前の記事:企画会議を想像する その5


3つの想像の会議

これからやることは、友達とコンビニに行ったら変わった商品があって「会議でこんなこと言ってそうじゃない?」とひと盛り上がりするあのやり取りを、もう少しだけ掘り下げたものである。

食品の開発に詳しいわけではないので正解とは程遠いと思うが、想像すること自体が楽しいので、そういう遊びだと思っていただきたい。

そしてそんな遊びにも以下のような分類があった。

  • ターゲットを想像する
  • 作り方を想像する
  • 商品名について想像する

3つ、順番に紹介します。

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ターゲットを想像する

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例えばこれだ。袋のままできるチキンオムライス。
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すごく薄いのだ。すっごく薄い。中にチキンライスが入っている。

そのチキンライスを底に集めてオムライスの形にする。そして袋に溶いた卵を流し込んで電子レンジで、2回に分けて加熱する。すると完成である。簡単。

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袋からずるっとオムライスが出てくるのが、なんかおもしろい。
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完成!

このオムライスは誰のどんな欲求に向けて作られたのだろう。

オムライスが食べたくなったらまず考えるのは家で作るか、外食するかの二択。しかしオムライスを自炊するのはハードルが高い。これはよく分かる。僕も作ったことない。

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『袋のままオムライス』を欲する人へのインタビューです。

では、外食ではどうだろうか。

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ああ言えばこう言う。

これもまあ分かる。オムライスは食べたいが、外に食べに行く手間はかけたくない。わざわざ出かけて店が閉まってたりオムライスがメニューになかったりしたら、もう何を食べたらいいか分からなくなってしまう。そのリスクは負いたくない。

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なんだよ。

なんだよ、と思うが確かにこういう時ってある。このわがままに応えたのが『袋のままできるオムライス』なのだ。

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チャート図を作ってみた こんな資料を作って会議していたら楽しくていいなと思う
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具体例も出してみた。ガスが止まってしまったけどオムライスが食べたい人が気になる。応援したい。

ターゲットが具体的になっていくと想像もしやすくて楽しかった。ガスが止まったけどオムライスを食べたい人(しかし買いに行きたくはない人)、どうにかこの『袋のままできるオムライス』と出会ってほしい。

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作り方を想像する

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次はこれです。デイリーヤマザキのロースとんかつおにぎり。

「はみ出す具材」みたいなコピーとともに売られていた。敢えてカツを飛び出させているのだ。隣に天むすもあってエビ天が飛び出ていたが、こちらはよくある天むすだな、という印象だった。

想像してしまうのは、試作品を出されて手に取った、デイリーヤマザキの偉い人の第一声だ。

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そうだね。

こうなると、カツの飛び出し方にも説明があった方がいい気がしてくる。

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「事前に6パターンを検証した結果、1.7おにぎりのカツがベストバランスであると判断いたしました」

こんな感じで説明すれば納得いただけるだろうか。突然「おにぎり」という単位を使ったけど、どう考えてもこの単位があった方が説明しやすいので採用した。

そしてもう一つ、気になる点がある。売り場を見て気が付いたのだが、このおにぎり、端っこのとんかつしか使ってないのだ。

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2つあって、どっちも端っこだった。

確かに衣が多い端っこのとんかつの方がおにぎりには合いそうだ。そんなことを考えて家に帰ったのだけど、何日かして突然「全部端っこってこと、ある?」と尋常ではない違和感を覚えて近所のデイリーヤマザキを全て回った。探偵が何かを閃いて殺害現場にダッシュで戻る、あれである。

3店舗周り、見つけたロースとんかつおにぎりは3個。全部端っこだった。

「とんかつの真ん中は? とんかつの真ん中はどこに行ったの?」

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とんかつの真ん中が好きな人のための「とんかつまんなか弁当」があるんだろうか。なんだ、とんかつまんなか弁当って。とんかつまんなか弁当?

頭を抱えた。

そんな混沌の渦に巻き込まれたことを妻に話すと「カツサンドじゃない?」とノータイムで打ち返してきた。ああ、カツサンドかもしれない。とんかつまんなか弁当よりも遥かに説得力がある。

つまりデイリーヤマザキでは揚げたとんかつをザクザクと切って、端っこをとんかつおにぎりに、真ん中をカツサンドに使っているのだ。

 

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「つまりこのとんかつおにぎりには、カツサンドのために揚げていたとんかつを利用できるので、製造のためのコストがかなりおさえられます。」
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「カツサンドの工場でお昼に出しているとんかつはじっこ定食はメニューからなくなってしまいますが、みんなも別にいいよと言ってくれています。」

みんなもいいって言っているのだったらしょうがないな、となりロースとんかつおにぎりの販売が決まった。

そんな想像をした。

これは何かあるぞ、という特徴が見つかると想像が楽しい。とんかつ端っこ定食は食べてみたいが、普通よりたくさんのかつを揚げなければできないので、あれはすごく贅沢な定食だった。想像だけど。

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商品名について想像する

大胆な商品名のものってある。ちょっとふざけたような名前でも、そこにはたくさんのビジネスマンが関わっている。当然会議をしたはずなのだ。

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『ほぼカニ』というカニカマ。

革命が起きたのだな、と分かる商品名である。まず見た目がカニだ。完全にカニ。人々のカニを食べたい欲望がついにここまで来てしまったかと畏怖の念すら感じる。

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付属のカニ酢で食べる。

一口目はカニ酢のおかげでかなりカニ。そしてそのあとでカニカマとは思えない身のほぐれ感がある。ホロッ、あ、カニ、と思う。噛んでいくとかまぼこの味と食感がどうしてもカニカマを思わせるが、カニ酢と身のホロホロ感の衝撃はずっとある。

思えばカニカマにカニ酢をつけてしまうなり振り構わなさも、ほぼカニ、と思わせる迫力に一役買っている。そんなに言うならほぼカニだよ、俺の負けだよ、と思う。一流芸能人だと認められたかったらとにかく高い車を買え、みたいな迫力がある。 

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会議ではほぼカニとカニが延々食べ比べられただろう。

「ほぼカニ」とまで言っちゃっていいのか。この疑問に答えを出すためにみんなで机を囲んで食べ比べたんじゃないか。

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時には「ほぼ」を辞書で調べてスクリーンに映してみたり。
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時には誰かが弱気になり「概ねカニぐらいでいいんじゃない?」となったかもしれない。

それなら更に「『ほぼ』の部分を変えるにしてももっと良いのないの?」とかなったかもしれない。

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すると担当者がこんなスライドを作る(想像)。『カニっちゃカニ』っていうカニカマがあったら買っちゃうかもしれない。かわいいので。

さて、ここまで混迷を極めてしまってどう収束させよう、と考えたのだが、やはりカニ酢ではないかと思うのだ。カニカマにカニ酢を添付させてしまう思い切り方はすごい。きっと開発チームが見つけたのだ。カニカマにカニ酢をつけると、それはもう『ほぼカニ』だと。

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カニカマをカニ酢で食べるとかなりカニっぽくなる、という平和な発見。

「なんかズルくない?」と思った参加者もいたが、ほぼカニを実現させた喜びに水を差したくなくて黙っていた。

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こうしてカニ酢が添付され、無事にほぼカニとして発売された(想像)。おめでとう!
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人にプレゼンしてみよう

たくさん想像して頭の変な場所に変な筋肉がついたので使ってみることにした。想像のプレゼンは、現実に持ってくるとどんな反応を起こすのだろうか。

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デイリーポータルZのライターの皆さんに、想像したプレゼンを聞いてもらう。取り上げるのは袋のままできるチキンオムライスです。
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先ほどのチャート図を使って、袋のままオムライスを食べたがっている人について説明する。(画面を指差しているのが筆者です)

いち消費者でしかない自分が、同じくいち消費者である皆さんに商品のプレゼンをする。空虚な催しである。でもしっかり緊張した。

そしてやってみて分かったことは、全然思い通りにいかないということだ。

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例えば、このチャート図の話をしている時
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「自分で作らないし、買いにも行かない人って、オムライス食べたくないんじゃないですか?」
「今までは食べられなかったので気がつかなかっただけで、これがあれば食べたくなると思うんですよ」
「出前とったらいいんじゃないですか?」
「あ…、そうか、うん。でもまあ、ちょっと高いし。出前だと」
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他には、このスライドを使ってガスが止まったけどオムライスが食べたい人の話をしている時。
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「ガス代は高いですからねー」
「この人はガス代滞納して止まってるってこと?」
「IHの人はどうします?」
「滞納じゃなくても、災害の時にこれがあったら助かるんじゃないですか」
「ガスは止まってるけど、電気は使えてレンジと卵があるって状況ですね」
「まあ…、ほら。何があるか分かんないし」
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「パンケーキのやつで似たようなのは知ってるんですよ。袋に粉が入ってて牛乳とか入れて混ぜるとタネができるっていう」
「あー、似てますね」
「パクりではないんですよね?」
「パクってないです…!」
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「お皿、ピーターラビットなんだねー。ふふ(笑)」
「人んちのお皿ってなんか見ちゃいますね」
「こういうのあるよねー…」

全然思い通り進まない!

思いもしない場所で脱線して戻る道を見失ったり、突然痛いところをつかれて慌てたりした。

なんでも思い通りになるところが想像の会議のおもしろさなら、全然思い通りにならないところが現実の会議のおもしろさなのだ。そう思わないと「ムキー!」となってしまう。

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「しかし薄いですねー…」
「収納しやすくて便利ですよね」
「本棚にも入りますよ」
「あ、雑誌の付録にいいんじゃない?」
「…いいかも……」

脱線したまま、成り行きで雑誌の付録に採用することになった(架空の会議だけど)。料理雑誌にこれが挟んであるのだ。なんかワクワクする。

うまくいかずにワナワナしていたが、いい結論が出た。やはり結局最後にうまく着地するのは、リアルな会議の方だな、と思う。

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着地の見込みがなさそうな想像の会議。

他にもある

この記事は「小出し記事」として5回連載したものをまとめたものなのだが、ここで紹介したもの以外にも、子ども向けのさけるチーズについての想像や、袋ごしにゆでたまごをつぶして作るたまごサラダについての想像もある。

もしよければご覧ください。

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