他にもある
この記事は「小出し記事」として5回連載したものをまとめたものなのだが、ここで紹介したもの以外にも、子ども向けのさけるチーズについての想像や、袋ごしにゆでたまごをつぶして作るたまごサラダについての想像もある。
もしよければご覧ください。
スーパーやコンビニで商品を見ていると、たまに「どんな話し合いを経てこうなったんだろう」と思うことがある。
そんな時、大人がその気になって行動すれば大抵のことは分かってしまうものだけど、答えを知る前の、想像をする段階がけっこう楽しかったりする。
想像してみよう。
これからやることは、友達とコンビニに行ったら変わった商品があって「会議でこんなこと言ってそうじゃない?」とひと盛り上がりするあのやり取りを、もう少しだけ掘り下げたものである。
食品の開発に詳しいわけではないので正解とは程遠いと思うが、想像すること自体が楽しいので、そういう遊びだと思っていただきたい。
そしてそんな遊びにも以下のような分類があった。
3つ、順番に紹介します。
そのチキンライスを底に集めてオムライスの形にする。そして袋に溶いた卵を流し込んで電子レンジで、2回に分けて加熱する。すると完成である。簡単。
このオムライスは誰のどんな欲求に向けて作られたのだろう。
オムライスが食べたくなったらまず考えるのは家で作るか、外食するかの二択。しかしオムライスを自炊するのはハードルが高い。これはよく分かる。僕も作ったことない。
では、外食ではどうだろうか。
これもまあ分かる。オムライスは食べたいが、外に食べに行く手間はかけたくない。わざわざ出かけて店が閉まってたりオムライスがメニューになかったりしたら、もう何を食べたらいいか分からなくなってしまう。そのリスクは負いたくない。
なんだよ、と思うが確かにこういう時ってある。このわがままに応えたのが『袋のままできるオムライス』なのだ。
ターゲットが具体的になっていくと想像もしやすくて楽しかった。ガスが止まったけどオムライスを食べたい人(しかし買いに行きたくはない人)、どうにかこの『袋のままできるオムライス』と出会ってほしい。
「はみ出す具材」みたいなコピーとともに売られていた。敢えてカツを飛び出させているのだ。隣に天むすもあってエビ天が飛び出ていたが、こちらはよくある天むすだな、という印象だった。
想像してしまうのは、試作品を出されて手に取った、デイリーヤマザキの偉い人の第一声だ。
こうなると、カツの飛び出し方にも説明があった方がいい気がしてくる。
こんな感じで説明すれば納得いただけるだろうか。突然「おにぎり」という単位を使ったけど、どう考えてもこの単位があった方が説明しやすいので採用した。
そしてもう一つ、気になる点がある。売り場を見て気が付いたのだが、このおにぎり、端っこのとんかつしか使ってないのだ。
確かに衣が多い端っこのとんかつの方がおにぎりには合いそうだ。そんなことを考えて家に帰ったのだけど、何日かして突然「全部端っこってこと、ある?」と尋常ではない違和感を覚えて近所のデイリーヤマザキを全て回った。探偵が何かを閃いて殺害現場にダッシュで戻る、あれである。
3店舗周り、見つけたロースとんかつおにぎりは3個。全部端っこだった。
「とんかつの真ん中は? とんかつの真ん中はどこに行ったの?」
頭を抱えた。
そんな混沌の渦に巻き込まれたことを妻に話すと「カツサンドじゃない?」とノータイムで打ち返してきた。ああ、カツサンドかもしれない。とんかつまんなか弁当よりも遥かに説得力がある。
つまりデイリーヤマザキでは揚げたとんかつをザクザクと切って、端っこをとんかつおにぎりに、真ん中をカツサンドに使っているのだ。
みんなもいいって言っているのだったらしょうがないな、となりロースとんかつおにぎりの販売が決まった。
そんな想像をした。
これは何かあるぞ、という特徴が見つかると想像が楽しい。とんかつ端っこ定食は食べてみたいが、普通よりたくさんのかつを揚げなければできないので、あれはすごく贅沢な定食だった。想像だけど。
大胆な商品名のものってある。ちょっとふざけたような名前でも、そこにはたくさんのビジネスマンが関わっている。当然会議をしたはずなのだ。
革命が起きたのだな、と分かる商品名である。まず見た目がカニだ。完全にカニ。人々のカニを食べたい欲望がついにここまで来てしまったかと畏怖の念すら感じる。
一口目はカニ酢のおかげでかなりカニ。そしてそのあとでカニカマとは思えない身のほぐれ感がある。ホロッ、あ、カニ、と思う。噛んでいくとかまぼこの味と食感がどうしてもカニカマを思わせるが、カニ酢と身のホロホロ感の衝撃はずっとある。
思えばカニカマにカニ酢をつけてしまうなり振り構わなさも、ほぼカニ、と思わせる迫力に一役買っている。そんなに言うならほぼカニだよ、俺の負けだよ、と思う。一流芸能人だと認められたかったらとにかく高い車を買え、みたいな迫力がある。
「ほぼカニ」とまで言っちゃっていいのか。この疑問に答えを出すためにみんなで机を囲んで食べ比べたんじゃないか。
それなら更に「『ほぼ』の部分を変えるにしてももっと良いのないの?」とかなったかもしれない。
さて、ここまで混迷を極めてしまってどう収束させよう、と考えたのだが、やはりカニ酢ではないかと思うのだ。カニカマにカニ酢を添付させてしまう思い切り方はすごい。きっと開発チームが見つけたのだ。カニカマにカニ酢をつけると、それはもう『ほぼカニ』だと。
「なんかズルくない?」と思った参加者もいたが、ほぼカニを実現させた喜びに水を差したくなくて黙っていた。
たくさん想像して頭の変な場所に変な筋肉がついたので使ってみることにした。想像のプレゼンは、現実に持ってくるとどんな反応を起こすのだろうか。
いち消費者でしかない自分が、同じくいち消費者である皆さんに商品のプレゼンをする。空虚な催しである。でもしっかり緊張した。
そしてやってみて分かったことは、全然思い通りにいかないということだ。
全然思い通り進まない!
思いもしない場所で脱線して戻る道を見失ったり、突然痛いところをつかれて慌てたりした。
なんでも思い通りになるところが想像の会議のおもしろさなら、全然思い通りにならないところが現実の会議のおもしろさなのだ。そう思わないと「ムキー!」となってしまう。
脱線したまま、成り行きで雑誌の付録に採用することになった(架空の会議だけど)。料理雑誌にこれが挟んであるのだ。なんかワクワクする。
うまくいかずにワナワナしていたが、いい結論が出た。やはり結局最後にうまく着地するのは、リアルな会議の方だな、と思う。
この記事は「小出し記事」として5回連載したものをまとめたものなのだが、ここで紹介したもの以外にも、子ども向けのさけるチーズについての想像や、袋ごしにゆでたまごをつぶして作るたまごサラダについての想像もある。
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