特集 2023年1月22日

うさぎ年だし白兎駅に行って狛兎を拝もう

どこよりも詳しい白兎駅周辺情報をお届けします

既に1月も半ばに差し掛かってしまったが、今年はうさぎ年である。子だくさんでぴょんぴょん飛び跳ねるうさぎは「繁栄」「豊穣」「飛翔」などの象徴とされ、縁起の良い干支と言われている。

そんなうさぎ年にあやかるため、少しでもうさぎ度の高い場所へ行きたい。調べてみると山形県に「白兎駅」という駅があるらしい。よし、そこへ行ってみよう。

1992年東京生まれ。普段は商品についてくるオマケとかを考えている会社員。好きな食べ物はちくわです。最近子どもが生まれたので「人間ってすごい」と本気で感じています。(動画インタビュー)

前の記事:自分と同じ名前の駅に行くとやっぱり興奮する ~山形の今泉駅へ~

> 個人サイト 日和見びより

周りは一面雪景色の白兎駅

白兎駅があるのは山形県は長井市。日本で一番けん玉を生産している市だ。一時期けん玉にはまっていた時期があるのでそれだけ知っているが長井市についてそれ以外の情報は何も知らない。

白兎駅は山形鉄道フラワー長井線という路線の中にある。
映画スウィングガールズの撮影が行われた路線らしい。懐かしいなスウィングガールズ。
フラワー長井線の始発駅である赤湯駅から電車に揺られること40分、白兎駅に到着!
真っ白な雪の中に消えていくフラワー長井線。ちなみに乗った時と模様が違うのは途中で今泉駅に立ち寄ったから。

 白兎駅という駅名は駅周辺の地名に由来している。白兎(はくと)と呼ぶ地名は全国にいくつかあるが、白兎(しろうさぎ)という地名は全国で唯一だという。

駅が出来たのは平成元年12月。その1年前の1987年(うさぎ年)に近隣の神社で白兎のミニ絵馬を作ったところとても評判がよかったので、もっと町を盛り上げよう!ということで出来たのがこの白兎駅だ。平成ってけっこう最近だ!と思ったがもう33年前である。平成元年はベルリンの壁が崩壊する一方で白兎駅が出来た、そんな年です。

駅といっても看板とホームと小さな駅舎だけの簡素なつくり
駅舎の中には木彫りのうさぎが。訪問者を見張っているようでちょっと怖い。
送り主は「地主」。自ら肩書として名乗る場面があるんだ、地主って。

うさぎ年だし盛り上がっていたりするかなと思ったが、駅については特にそんなこともなく平常運転だ。

うさぎ年がきっかけで出来たわけだし、駅が出来てからでいえばまだ3回目のうさぎ年である。12年に一度なんだしもう少し浮かれてもいいのに、と思ったがここで浮かれすぎない奥ゆかしさが白兎地区の皆さんの美徳なのかもしれない。

ちなみに駅周辺は一面の雪景色で何があるか全然分からない。
でも駅には白兎駅からみた春夏秋冬の景色写真があるのでこれで大体イメージできる。
あ、葉山神社の狛兎!そうそう、これを見に行きたかったのよ。

一応来る前に周りに何かないか調べてきたのだが、観光地らしきところはこの葉山神社くらいしか見つけられなかった。狛犬ではなく狛兎がいるらしい。とりあえずここを目指そう。

駅前の道が完全に状況がよくない時のアナ雪の世界観だが、まぁ進もう。

思ったよりでかい狛兎

葉山神社までは駅から約1.6㎞、歩いて20分ほどの道のりだ。誰もいないかと思いきや葉山神社方面から引き返してくるひとたちと2回ほどすれ違った。筆者と同じくうさぎ年だからやってきたのだろうか。

このまえニュースで都内のうさぎがいる神社が例年の2倍の参拝客といっていたが、この葉山神社も例年より人出が増えているといいなと勝手に白兎駅の盛り上がりを心配してしまう。なんたって12年に一度だからな。

黙々と歩いて葉山神社に到着。春はしだれ桜も名物らしい。
雪深すぎて神社の説明の看板まで遠い。読ませる気がないぞ。
こんなに寒いのに柿の木は上に向かって伸びる意欲がすごい。みんな柿の様に生きよう。

ところで白兎という地名はこの葉山神社とも関連している。

その昔、この近くの池でとあるお坊さんが砂金で出来た仏像を拾い、それを祀るために社を建てた。その社というのがこの葉山神社の本尊に当たる山の山頂にある神社なのだが、そこまでの道案内をしたのが兎だったことから「白兎」という地名ができたと伝えられている。白兎地区では白兎を神の使いや幸せを招く兎として大切に扱い、家畜としての飼育を禁止してきたそうだ。

ちなみにこのバックグラウンド情報は駅にあった観光案内のQRコードを読み込んで仕入れた。そういうローカルな場所にあるQRコードからは意外と他のどこにも載っていない情報が得られたりするのでぜひ読み込んでみてほしい。

情報が武器になるこの時代、だれも読み込まなそうなQRコードこそ読み込んでライバルたちに差をつけろ!(ライバルって誰だ)

では、この町では兎は神聖な存在であるという知識を得たうえで、葉山神社の狛兎をご覧ください。

降り積もる雪が「白」兎感を増幅させてていい感じ!
平成11年のうさぎ年に奉納されたのでまだ24歳という若さ。でも貫禄がある。
うさぎってどうしてもかわいくなっちゃうけど狛兎として威厳も出さなければという作り手の葛藤がみえる表情。
うさぎにしてはかなりの大きさ。 フレミッシュジャイアントか?

特にうさぎ年だからといって盛り上がっているわけでもなかったが、ひっそりとした中で訪問者を出迎えてくれる大きなうさぎは神秘的で、普通の狛犬よりも守り神っぽさがあった。

狛兎がある神社はこの葉山神社以外にも全国にいくつもあるが、白兎という地名とセットになることで守り神としての相応しさがグッとアップしている。さらにうさぎ年と重なることでそのパワーが増しているような気がする。うさぎ年のはじめにここに来れてよかった。

そして本殿のとびらに何やらポスターが…
うさぎ年の記念イベントのお知らせだ!ちゃんとうさぎ年盛り上がってた!

うさぎ年の記念イベントは4月に開催される。そうか、雪が多い地域だから冬場のイベントごとは大変なのか。こういうところから雪国の生活を過酷さが垣間みえる。盛り上がってないとかいってごめんね。

前回のうさぎ年に詰めたタイムカプセルをオープンするようだ。「十二年前の白兎が蘇る」とあるが、もう少し待った方がよくないか?いや、実は意外と変わっているのか?

白兎にも押し寄せるデジタル化の波を実感するのか、はたまた変わらなさを嚙みしめるのか、どんなイベントになるのか気になってきてしまった。白兎、やるな…

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白兎で出会った赤と白のあいつ

さて、葉山神社の狛兎は事前に調べて見に行こうと決めていたが、ここから先は特にノープランである。何か見どころはあるのだろうか。

とりあえず葉山神社の前を通る県道11号線を南下していこう。

どんなに田舎でも人が住んでいれば美容院はある。コンビニが全国で5.7万件なのに対して美容院は25万件以上あるからね。
その美容院、ホームアローンの罠か?ってくらい雪を融かすための水が出ていた。
いたるところに柿がたくさん実っていて雪景色の中で目を引く。
寒いせいか温泉という言葉に敏感になる。ちなみに調べても出てこなかったので今はないのかもしれない。ステッカーにして貼りたい看板である。特に「ド」の文字が好き。
木を守る雪囲い。有名な金沢の雪吊りと目的は同じだがここじゃ縄では守り切れない。
ずっとこんな道を進んでいる。歩道はしっかり雪がかいてあってありがたい。
そして、真っ白な雪の中で真っ黒なキリスト看板がまぁ目立つのよ。
目立つといえばペインティングが芸術的なこんな商店もあった。

どんな意味があるのかお聞きしたかったがお店の方が不在で話を聞くことはできなかった。残念。でも真っ白な景色の中だといきなり彩度の高いものが目に入ってくるだけで脳が刺激される気がする。いや、絵のせいか。目出し帽かぶりながら餅つきするってどんな状況だ。

これといった見どころがあるわけではないが、旅先ならではの普段見慣れないものに目を奪われつつ進んでいくと、なにやら見慣れない建物が現れた。

鯉が書かれた看板が!ここに鯉がいるのか?
看板もあった。どうやら本当に鯉がいそうだ。「養鯉場」か…

鯉を育てているところは養鯉場というのか。養豚場があるんだからまぁ養鯉場だってあっておかしくないのだが、初めて聞いた言葉だ。

せっかくなので覗いてみたいが、だれもおらず、入っていいのか分からない。入口の看板に「錦鯉販売は10時から」と書かれているが、この時の時刻は9:50。あと10分待ってみるか…

DSC_0148.JPG
屋根の雪下ろしをするおじさんたちをみて時間をつぶす。お疲れ様です!

さて、10時を過ぎた。しかし誰も出てくる気配がない。。仕方ないので養鯉場のなのか、営むご家族の住居なのか判別がマナカナくらい難しいインターホンを押してみることに。「ご用の方は押してください」と書いてあるし、大丈夫だろう…

インターホンを押すとご主人の奥様らしき方が出てきてくれた。うさぎ年だから白兎に来たこと、このあたりの見どころを探している話を伝えたが、どうやら養鯉場を管理している息子さんが今日は不在らしい。記事のために写真を撮らせてくれないかと聞いてみるも息子さんに確認がとれないためNGとのこと。残念!

しかし養鯉場の中を見せてもらうことは出来た。そこには温かい温室の中でゆったりと泳ぐ錦鯉がたくさんいた。温度差も含めて一気に顔がほころんでしまった。何より、知らない場所にきて、たまたま見つけた温室に入り、そこで鯉を見るってめちゃめちゃ旅番組っぽい。思わず奥様に「へぇ~」と舞の海みたいな返しをしてしまった。

購入することも可能で高いものだと数万円の値が付いていたが、一番安価なものは500円から購入することができるようだ。一瞬ほしいなと思ったが、この先の旅のことを考えて踏みとどまった。一人旅を続ける中、片手が鯉で埋まるのは行動が制限されすぎる。

写真は撮れなかったし、購入も諦めざるを得なかったが、白兎で素敵な鯉に出会うことができた。

全日本錦鯉振興会から認定された錦鯉飼育士のお店です!

白兎、鯉の次は馬で締める

あまり遠くまでいってしまうと隣駅についてしまうので、鯉にも出会えたので駅方面に引き返すとしよう。

ふたたび一面の雪景色をテクテク歩き続ける
県の代わりに長井市が頑張ってますアピール
踏切をわたって線路の向こう側へ。ちょうど電車がきた!(けどシャッターのタイミングをミスった)
道端になぞの紙片が。事件、いや祝いの匂いがするな…(紙吹雪かクラッカー)
映ったものがネガフィルムっぽくなるカーブミラー
小さな神社があるが雪で完全に閉ざされていてたどり着けない
多少雪が浅そうなこの道というか隙間からアプローチしようとしたが、
一歩目で雪の深さを悟って諦めた。これは知らない町で雪に埋もれて死ぬやつ
近くに五月雨を集めがちな最上川があるので見に行こうと思ったがGoogleマップが示してきた道がこれだったので断念。春になって事故が発覚するやつ

白兎駅を降りて約2時間半、駅周辺を歩き回り続けてだいぶお腹が空いてきた。このあたりでご当地グルメでも食べて白兎観光をバシッと締めたいところだ。と思っていたらちょうどよく飲食店が!

白兎の外食産業を一手に担う支那そば「まる久」です

実は山形県はラーメン外食にかける費用が日本一、さらにラーメン店舗数も日本一のラーメン大国なのだ。確かにこんなに寒いとラーメンが食べたくなるのも分かる。白兎でも例にもれず、外食といえばラーメンということなのだろう。

店内は圧倒的昭和の食堂感でめちゃくちゃ落ち着く。
奥のお座敷も「ここ、歴史博物館?」というくらいのノスタルジックさ
この店内でおにぎりとか焼きもちを提供する憎さよ。懐古で往復ビンタされている。

さすがは日本一のラーメン県、お昼時ということもあり次々にお客さんがやってくる。しかも一人の男性客はもちろん、仕事仲間や子連れのファミリーなど、老若男女問わずなのだ。本当に県民性として外でラーメンを食べるという文化が根付いているのだと実感する。

そして注文した馬肉支那そばがやってきた。我慢できず焼きもちもトッピングした。
冷えた体に温かいスープが染みわたり思わず魂が抜けたような顔になってしまった

スープはシンプルな醤油ベースで、あっさりというよりはコクの深い味わいで、昔ながらの、でも確実においしい一杯だ。トッピングで追加した焼きもちも醤油スープとよく合う。もちはうどん・そばより醬油ラーメンに入れよう。

そして上に乗っているチャーシューは豚ではなく馬肉!

ここ長井市では古くから馬肉を食べる食文化があり、親戚などが集まるハレの日には馬刺しが食べられてきたという。そんなわけで長井市のラーメンには馬肉のチャーシューが乗せられていることも少なくないのだ。たまたま見つけて入ったお店だがちゃんとご当地メニューにありつけた!

馬肉チャーシューは脂身が少なく、食感は少し硬めなので食べ応えがあり、個人的にはとても好きだった。濃いめのスープに馬肉の引き締まった味わいがすごくマッチしていた。

あっという間に完食!ごちそうさまでした

味も雰囲気も最高のお店を出るとこれまで厚く雲がかかっていた空から少しだが日が差していた。そして遠くに山々が連なっているのが見えた。今まで全く見えなかった遠景に大きな山々が突如現れたこの景色はなんだがすごく神々しく感じた。

あの山々にお坊さんを導いたのが白兎だったわけだ!

幸運をもたらす白兎が最後にこの光景を見せてくれたような気がする。すごく人が集まる観光スポットがあるわけではないが、白兎はいいところでした。

ありがとう白兎!皆さま、今年もよろしくお願いいたします。

おまけ:赤湯温泉で疲れを癒す

白兎からの帰り道、寒さで縮こまった身体をほぐすべくフラワー長井線の始点でもある赤湯駅で降りて赤湯温泉に立ち寄った。

3つある公衆浴場の中で一番新しい「湯こっと」へ
館内にはオール山形名産品の自販機もあるよ
赤湯温泉もノスタルジックな雰囲気でまたゆっくり巡ってみたい
 

温泉は300円という格安料金で入れてとても気持ち良かった。白兎観光の際にはぜひお立ち寄りください。

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