特集 2020年2月19日

世界の語尾はア・ラ・ネ・ニャ・ヴァ・ウェイとか

語尾には話し手の情報が詰まってると思った。

たとえば、「~だぞ」はなんだか力説してる感じがするし、「~やん」という人はけっこうな確率で関西人だ。「~じゃ」はたぶんお年寄り。まぁ、実際のお年寄りで言ってる人は見たことないがキャラ的な話。

これ、日本語以外にもあるんじゃないか?と思って聞いたらめちゃくちゃあった。現地の日本人から集めたお国柄があらわれる世界の語尾を紹介したい。

1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

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「ぱにゃにゃんだー」はラオスで「頑張って」

そもそも語尾に興味を持ったきっかけは「ぱにゃにゃんだー」という言葉。みんななんで教えてくれなかったというくらい知名度が高いんだが、ラオス語で、意味は「頑張って」。個人的にはパンダと猫が並んで肉球をわきわきしてる絵が思い浮かぶ。かわいらしさの極致だ。

一方で実は、ベトナムも「にゃ」とか「ね」をよく使う。単語の中によく含むとも言えるし、ストレートに、語尾に付けるとやわらかい印象になると教えられた。たとえば「カモン(Cảm ơn)」を「カモンニャ(Cảm ơn nha)」と言うとそれだけでソフトになるらしい。

ひょっとしてあるんじゃないか?世界の国にもそんな語尾とイメージが。各国現地に暮らす・暮らしていたライターのみなさんに聞いてみました。ちなみに間に挟んでいる写真は、テーマが概念的すぎて思い出からがんばってひねり出した少しは関係のありそうなイメージです。

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ベトナム人の"ニャン"さん。テレビ番組「水曜どうでしょう」ファンの間では有名な方。

中国で「ア」をつけると親しみやすさマシマシ

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中国にも語尾はたくさんあるのですが、一番使いやすいのは『ア』ですね
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ア!確かに言ってそう。
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たとえば、『シエシエ(謝謝)』を、『シエシエアー』と言うと『ありがとねー』になる感じ。
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ベトナムで言う『ネ』だまさにそれ。
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『ドゥイ(そうです)』は『ドゥイアー(そうだよ)』となります。

漫画やドラマなどの創作で中国人のキャラ付けとして語尾に「アル」が付けられるのはもはやだれもが知るところ。ルはよくわからんが、その経緯に語尾の「ア」は一役買ってるのかもしれない。

情報提供:海辺暁子

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摩天楼感がえげつない上海の夜

ドイツは語尾もなんだかドイツっぽい「ヴァ?」

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ドイツも『ネ』をつけますね。
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お!ベトナムと同じなんですね~、ちょっと意外。
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ただ、やわらかくするというよりは、日本語の『だよね?』と同じニュアンスです。
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日本でも『だ”ね”?』って言うし、たまたまなのか似てますね。
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同じ用法で『ヴァ?(語尾上げて)』もありますよ。
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ヴァ!すごく勝手に、ドイツのイメージぴったり…。

ヴァ。少なくとも日本人の口と舌では出しづらそうな発音だけど、重厚な感じのドイツらしさがあってとても素敵だなと思った。ちなみに久保田さんによると、「素晴らしい」はドイツ語だと「ヴンダーバール」(ちなみにフランス語は「メルヴェイユ」)、有名ミネラルウォーターが「ゲロルシュタイナー」(フランス語はあの「エヴィアン」)とのこと。

情報提供:久保田由希

マレーシア&シンガポールは共通して「ラ」「ヤ」

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『ラ』とか『ヤ』がありますね。
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おぉ、なんだか汎用性ありそうな。
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英語で話していても、『ソーリーヤ(Sorry ya)』という具合なので、外国人は英語が話せる人ほど混乱するような…。
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ちなみに『ヤ』をつけると日本語でいうどんなニュアンスなんですか?
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『ごめん』が『ごめんねー』といった感じですね。
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そのへんのニュアンス、どこの国にも多そうですねー。
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人間として発声しやすいとか、つきつめると音声学の話につながってきそうです。

シンガポールはマレーシアから1965年に独立した国。そんな背景もあって文化はかなり似ていて語尾も同じ。そういえば、シンガポール人が話す英語は「シングリッシュ」として聴きとりづらいと聞いたことがあるけど、外国人が多く住むだけにネタとして広まりやすいだけで、マレーシアもそうなのかもしれない。ちなみに日本も日本でクセのある英語だといわれがちです。

情報提供:森純

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マレーシアで見かけた室外機のバケモン

ミャンマーは呼びかけ的な「ネ」「ノ」

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ミャンマーでは『ネ』や『ノ』をつけます、日本語でいう『ご飯を食べましょうよ』の『よ』にあたります。
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『ノ』ってなんかいいですね、おっとりした感じ。日本語的な解釈にすぎないんだけども。
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ミャンマーの代表的な麺料理モヒンガー

そんなミャンマーの語尾を教えてくれた板坂さんは以前ブルキナファソというフランス語圏の西アフリカの国に住んでいたこともあり(西アフリカではかつてフランス領だった場所が多く今も公用語とする国が多い、アフリカ全体ではイギリスも)、その話がおもしろかった。

西アフリカの語尾「ラ」はフランス生まれ

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ブルキナファソではフランス語の語尾に『ラー』をつけることがとても多かったです。
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ラ…ラ・フランスみたいな…今調べると女性名詞の頭につけるんですね。
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フランス語に『ボワッラー』という『ほらね』という意味で使う言葉があるのですが(本来は『あります』)、その語尾の『ラー』がどんな文章の最後にもつく感じ。西アフリカのフランス語圏ではどこもこの『ラー』がついていたように思います。
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へー、むかし西アフリカにやってきたフランス人のクセとかだったのかな…。
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これは想像にすぎませんが、フランス植民地時代にやってきたフランス人が現地の人にやたら『ボワッラー(ほらね)』と言ってたんじゃないかと…
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うわ!それおもしろいですね…。フランスの文化をいろいろと教える過程でよく言ってそう、『ほらね』って。
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私もそのクセが抜けず、フランスに行ったら『西アフリカから来たの?』と突っこまれました。

おもしろい。よくイントネーションでわかったら「関西の方ですか?」と聞くことがあるけど、それが「西アフリカの方ですか?」だなんて桁違いにワールドワイド。

語尾の話とはそれるけど、日本の統治時代を経たパラオではブラジャーのことをチチバンドと呼ぶそうな。当時の日本語がそのまま定着しているという点では、言葉のタイムカプセルって感じだ。同じような理屈で、「ほらね」が当時のフランスの流行り言葉で、それが西アフリカの語尾として定着したと考えるとロマンがあるなぁ。

情報提供:板坂真季

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むかしパリで見かけたバットマン(?)
いったん広告です

ニュージーランドはノリのいい兄ちゃんぽい「エィ」

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ニュージーランドは"エィ"です。
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なんかノリノリな感じですね。
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『だよね?』のニュアンスでいわゆる付加疑問文として使われます。"Have a good day, aye(エィ)?"と言うと『良い一日を過ごせよ、な?』みたいな感覚ですね。
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へーーー。
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ただ、賛同してもらいたいから使うというよりは、もう勝手に語尾につけちゃう。相手の話が聞き取れないときにもつけるので、単に『何?』という意味もあります。

「何?」はベトナムでは「は?」。もちろん聞き返しているだけで悪気なんてまったくないけど、ベトナム旅行に来ていたり、住みはじめたばかりの日本人は、「イラつかせてる!?」と不安になる人もいるんだとか。

また、井上さんの話によると、ニュージーランドの英語はイギリスルーツで、そんなイギリスではアメリカよりも9倍近く付加疑問文を使い、「心配性な性格のあらわれでは」とも言われてる。言葉の使い方で国民性が透けて見える、まさしく語尾には情報が詰まってるなーー。

情報提供:井上龍馬

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イギリスつながりでストーンヘンジ。あとそれにパワー送ってる人。

メキシコシティは「玉ナシ野郎」が若者言葉に

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メキシコ、というより、メキシコシティ(首都)では『ウェイ』があります
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日本語的にはどこかチャラい感じがしますな…。
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もともとは『去勢された牡牛』という意味で、
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!?
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『玉ナシ野郎』や『間抜け』という侮蔑的な意味だったのですが、今では語尾に付けることで、『~だろ?』『~じゃん?』という使い方をするそうです
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転じすぎでしょ…でもなんとなくノリは伝わりました。
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ただ、品のない語尾なので、だれもが使っている訳ではないです。若いあんちゃんたちが使う若者言葉といった感じで、地下鉄とか市場にいると耳に入ってきますね。
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たまたまだろうけど、『ウェイ』がそれなのは日本語的にもなんとなく飲み込めちゃいますね。

情報提供:Mariposa Torres

ほかにもいろいろあるぞ!世界の語尾

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イタリアでは『エ?』を『だよね?』という意味で使うことがあります。ただ北部のミラノに引っ越してからあまり聞かなくなったので、もしかしたら南の方言なのかも。かなりぶっきらぼうな印象です。(鈴木圭
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アラビア語は語尾というのはないですね。動詞だけで人称・時制が完結してしまうことも理由にありそうです。ただ、シリア方言はやたらと語尾を上げるので、女性が話すと可愛いけど男性だとナヨッとした感じというのはあります。(福嶋タケシ・カタール在住)
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韓国も『ニャ』があります。タメ口のなかでもかなりくだけた語尾で、目上から目下にとか、ぶっきらぼうな言い方です。ほかにも語尾が多く、それに特化した語尾助詞辞典といった学習本も出ています。吉村剛史
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タイもかなりありますね。『ナ』『ネ』『ニヤ』『シ』『ラ』『ノー』、ほとんど意味はないんですけど。『カップ/カー』はですますなので語尾とは違いますが、軍隊においては『カッポン』とよく言います。(高田胤臣

世界に潜む「だよね」

こうして各国で聞いてみると、語尾の中でも「だよね」を意味するものが多いことに気付く。考えてみれば、直前の同意や確認なので、いちいち長ったらしく言うまでもないから、自然と語尾化されたのかもしれません。

そういえば昔「DA.YO.NE」というラップソングがあった。そのあと関西弁版の「SO.YO.NA」という曲も出てたけど、意外と全世界つくれそうな気がしなくもない。

あと気になるのはタイの軍隊の「カッポン」、これは日本でいうところの「~であります!」なんだろうな。

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タイのお坊さんのフィギュア

 

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