特集 2019年6月11日

小津安二郎の映画に構図を学んでWeb記事に生かす

牛丼に注目がいくような構図を小津安二郎の映画に学ぶ

小津安二郎監督は映画、とくに構図へのこだわりが強すぎてコップに入ってる飲み物の高さまで揃えるらしい。そんなツイートがちょっと前に話題になった。

最近久しぶりに小津作品を見たら「コップ揃え映画」としか見られなくなっていた。これじゃだめだ。小津の構図へのこだわりはどんな効果があるのか。ちゃんと知っておきたい。

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

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小津は見せたいものがあった

そもそものツイートはこれでその後解説記事まで出たようだ。

2018年に名監督・小津安二郎の“狂気”がバズった理由 | 文春オンライン

記事を読むと小津の構図と小道具のこだわりのすごさからコップ内の飲み物の高さを揃えても不思議ではないこと、そして揃えたことの効果が書かれている。

どうやらこのコップの一件に関しては、その揃えた高さのライン上にくるもの(結婚指輪をはめた手)を強調させる効果があったらしい。

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コップの液体の高さを揃えたのは一本の線を作るため、そこに見せたいものを置くということだったそうだ ※画面を整然とさせたいというそもそもはあるだろうが
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 見せたいものを見せられる構図を実践する

ということはやはりコップは重要ではなかった。一本の線をつくることが重要だったのだ。小津はただのコップ揃えおじさんじゃなかった、見せたいものがあったのだ。

見せたいものといえば我々もそうだ。見せたいものを強調することができるならWebの記事においてもありがたい。ここからは小津の理論を実践して検証してみよう。

はたして本当に小津のラインの構図によって見せたいものが伝わるのか検証してみよう。デイリーポータルZ編集部の安藤さんに被写体となってもらった。

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画面内に四角(ここでは柱の黒いライン)でふちどられた構図をフレームインフレームというそうだ。いわば額縁である。コップの高さみたいな自然なものじゃなくて、ただの線でも構図として有効そうだ。よし、それなら線を意図的に足していこう
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線を意図的に作ろう

名監督小津はコップの高さという誰にも気づかれないような線をつくった。粋だからだ。しかし粋でない我々はもっと露骨に線を作ってもいいのではないか。

たとえばTシャツに線を引いてみよう。そのライン上に見せたいものを置けばいいのではないか。

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線を入れた服を着てもらう

 

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たとえば牛丼のレポート記事だとして、牛丼をライン上で持ってもらう。牛丼に注目がいくだろうか。線が短すぎてまだちょっと弱い。
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そこで柱の線を利用して画面全体に線を引く。たしかに牛丼に注目がいくかもしれない。これか、小津の構図の効果は
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効果がある(ような気がする)

牛丼のレポート記事だとして牛丼を線上に持ってもらった。どう見えたのかという主観でしかないのだがこれは効果があったのではないか。牛丼に目がいきやすいように思う。

しかしどうしてこの人は線を引いた服を着て柱と一体化してるのかという疑問もある。街と同化してる人の説得力のなさというか。

それでは他のケースも見てみよう

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レンガと枠のライン上に。たしかに画面がすっきりしてるし牛丼に(なんだろう?)という気持ちはわく
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しかしちょっとカメラを引くと、説得力を失う。地面に両ひざをついてる人にあまり何かを言われたくない、というような

 

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たとえばこれは「黄色い線」でも有効。画面がすっきりしてるし牛丼への視線の誘導もいい。ただし街と同化してしまった男への疑問は解消されない
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ちょっとカメラを引くと一体どういう状況なのかわからなくなる。しかし男の顔からはみなぎる自信が垣間見える
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たとえば柱二本を使ってラインを作るという高等技術も可能。すっきりした画面だ
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ダンボールの高さと壁のラインを合わせた一枚。物の数にくらべて、画面が異常にすっきりしている。これが構図のちからか。そしてこの男はどこで牛丼を食べているんだ
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右から柱、車のライン、車止め、制服のズボン、Tシャツのライン、とつづく奇跡のライン。男と街とのチームワークがすごい。はたしてどこのなんというチームなのか
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都営新宿線の先に牛丼がつづく。これはたしかに牛丼に目が行きやすい。しかしこの人はどうして路線図になっているのかという疑問がわく
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改札が整然と並んでいればその隣に牛丼を食べる男が現れる。画面がきれい。牛丼にも目が行く。そしてもはや彼は改札機の一つだ
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大阪、京都、金沢・北陸、安藤・牛丼・安藤、岩手・青森・秋田、北海道、の並び。人権を失い、行き先として生きることになった男である
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目立たせてるけど安くはなっていない値段設定とみごとに同化する男。価格ではなく牛丼を主張している。
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測量フェアの展示にしれっと牛丼をまぎれこませる。そりゃ視線はそこにいくだろうが、場違いさがすごい。一方それにしても画面が整然としている。
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なんなら聴衆の頭の高さでラインを作ることも可能なのではないか。構図にはこういう人を人とも思わぬ一面がある
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線は直線でなくてもいいのではないか。ストロベリーミルクとタピオカと牛丼と安藤である。男は傾いているがこれも整然とした写真になっている
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自転車のハンドルの並びと一体化した男。自信にあふれるその顔つきから満足を感じさせる。ハンドルとの一体感への満足である。頭の悪そうさがすごい
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防護柵と電話機を橋渡す。整然としているし牛丼に注目がいきやすい。
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しかしなんというか、柵と電話と三兄弟感が出ないだろうか。IQをみるみる失っていく
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酒樽と一体化する男。人権をかんたんに放棄する男の姿に、闘争してきた先人たちの顔がよぎる。わたしたちは今や立派な酒樽です
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色々やったのだが結局矢印を使うのが一番注目するのではないかという結論にはなった。小津先生、われわれは無粋なままのようでした

粋でありつつ伝えてくる構図マジック

伝わりやすさと野暮は隣り合わせで今は伝わりやすさが求められる時代だ。だが小津は構図のちからで粋でありつつ伝えてきた。コップ揃えおじさんの力は偉大だった。

私達に求められているのはこのような小津の構図のちからではないか。そう確信したところはあるのだが、実践してみるとなにかが足を引っ張っているようにも思えた。どちらかというとこれは小津というよりもコップ揃えおじさんの方じゃないのか、というような。

人は人権を失ってまで構図にならなくてもいい。人権デーは毎年12月10日、人権週間はその一週間前から始まるそうだ。

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