ジャックと豆の木:雲の上の屋敷に固定資産税はかかる?
今回も前回に引き続き、税理士の高橋創さんにご協力をお願いした。もうすぐ確定申告の時期だというのにすいません。
さっそく本題にいこう。まずは『ジャックと豆の木』から。
「ジャックと豆の木」では、ジャック少年が庭に生えた魔法の豆の木をのぼり、雲の上のお城にたどり着く。そこには巨人が住んでいて、金の卵を産むメンドリを飼っている。
ジャックはそのメンドリを盗みだすが、巨人に見つかってしまう。急いで豆の木を降りるジャック。最終的に豆の木を切り倒して巨人から逃げ、お母さんと幸せに暮らすのでした。
西村
結局泥棒じゃないですか。
井上
改めてギュッとまとめるとヒドい話ですね。
さて、この巨人が住んでいたお城。建物ということは固定資産税がかかるのではないか。でも雲の上の建物って、税金の対象になるの…?
我ら税金素人集団の予想はこうなった。
焦点となったのは、雲の上にある城が「動産」か「不動産」かということ。
動かない資産なら「不動産」だけど、雲は動いちゃうから「動産」なんじゃないの?
井上
雲はふわ~って移動できちゃうから、扱いとしては飛行機や車と同じじゃないかと。だから固定資産税はかからない!
西村
でもこのお城、結局は豆の木で地上と繋がるじゃないですか。だから普通の不動産と考えていいんじゃないかなぁ。
古賀
わたし思うのは、遠い未来に空中に人が住める時代がくると思うんですよ。そうなったら「空中なんで固定資産税はかかりません」って言えないんじゃないかって。
西村
そうなったらいろいろルールができるのかな……。
井上
でも空中に住んだらどこの自治体に払ったらいいんだ?
未来人の住まいにまで思いを馳せてしまったが、結局のところどうなるのか。
「これいきなり難しいですよ」「考えるのイヤでしたもん」という高橋さんをなだめつつお話をうかがおう。
高橋 そもそもあの城、不動産登記がされているのかというのが引っかかりますね。
……登記とは。
土地や建物って、パッと見で誰のものかわからない。持ち物みたいに名前が書けないから。
だから家を買ったとき「これはうちの家!」というのをはっきり書類に残しておく必要がある。その書類が「登記簿」で、法務局で記録するのが「不動産登記」だ。
高橋
登記がされていないと、自治体が誰の不動産かを把握できないんですよ。誰のものかわからないと、そもそも固定資産税がかけられないんです。
素人たち
かけられない!
高橋
ただ、未登記でも自治体職員が雲の上の城を見つけた時点で固定資産税がかけられます。誰のものか把握できるから。
西村
自治体職員が自ら豆の木を登らないと……。
井上
SASUKEのファイナルステージじゃないですか。
高橋
それか航空写真で見つけるか。自治体って、過去の航空写真を常にチェックして課税対象となる不動産を調査しているらしいですよ。
西村
そんな『ポツンと一軒家』みたいなことしてるんですか。
古賀
ポツンと未登記だ。
高橋
未登記の建物には罰則もありますからね。
動産か不動産かどころの話ではなかった。さらに巨人が自治体から罰則を受ける可能性もある。金の卵で罰金を払うことになりかねない。
ただ、固定資産税がかけられないからといって、税は巨人を逃がしてくれない。「償却資産税」というのがあると高橋さんは言う。
高橋
「固定資産」って土地建物のイメージがありますけど、自動車や飛行機、工場で使う機械、店舗内の設備なども固定資産なんですよ。土地建物は固定資産税、自動車は自動車税、それ以外の事業用資産は「償却資産税」というものがかかります。
高橋
償却資産税は事業用資産にかかるので、商売を営んでいない人にはかかりません。巨人の城が商売に絡むのかはよくわかりませんが……。
井上
仮に、巨人が「これは家じゃなくてビジネスに必要な移動手段なんですよ~」みたいに主張したら?
高橋
償却資産税の対象になりますね。基本的に、資産を持ったら必ずなんらかの税金がかかると思ってください。
「ジャックと豆の木」まとめ
・建物として登記をしていたら固定資産税がかかる
・建物じゃないとしても償却資産税がかかる可能性も
・自治体の職員が雲の上の城を見つけたら固定資産税がかかる。
三匹の子ブタ:ワラの家は固定資産税がかからない!?
この企画のために海外の童話から「税金かかりそうなものないかな~」と探したのだけど、日本の昔話と比べて不動産が絡むものが結構多いのだ。お菓子の家に住んでたりするし。
そんな中、持ち家がトラブルに巻き込まれる話なのが「三匹の子ブタ」である。
兄たちが建てたワラの家と木の家は、オオカミによって壊されてしまう。でも、家を壊されたのに子ブタが固定資産税を払うのってかわいそうでは? なんらかの救済措置ってないのかな?
井上
子ブタたちはきちんと不動産登記をしているものとします。
西村
あ、ちゃんと学習してる!
古賀
オオカミに壊されたのをどう解釈するかですよね……。災害で家が壊れたら、さすがに何か優遇措置がありそうですけど……。
井上
オオカミって災害になるのかなぁ。
西村
僕以前、ゴジラに家を壊されたら保険はおりるのかって専門家に聞いたことがあるんですよ。「動物の被害は災害」って言ってた気がするんだよな……。
各媒体で専門家たちを困らせている我々である。
だが、高橋さんの答えは想像を遙かに上回る「そもそも論」だった。
高橋
そもそも固定資産税は誰が払うかというと、その年の1月1日時点での建物の所有者が払うんですね。だから1月2日以降に建物がなくなろうと知ったことではないんですよ。
古賀
え!家が壊されちゃっても!?
高橋
はい。壊されちゃっても、1月1日時点に建物があったら、その年は固定資産税を払います。
井上
ちょっと待ってください……。たとえば、子ブタが家を建てたのが4月だとします。オオカミに壊されたのが5月だとしたら……?
高橋
固定資産税の対象になりません。
素人たち
えー!!
高橋
だって1月1日時点では家がないですから。
1月1日時点に建物がなかったら、税の世界では「1年を通じてなかった」ことになる……!
でももし、子ブタたちが年末に家を建てて、新年早々オオカミに壊されたとしたら?
そんな悲しい年越しを迎えたのに、さらに固定資産税を払うことになっちゃう。それって救済措置はないんですか?
高橋
住宅が何らかの事由によって壊れたとき、所得税法上の優遇が認められるのは災害・盗難・横領の3つのケースだけなんです。今回のケースは盗難や横領ではないので、「災害」で申請してOKが出れば減免がありそうですが……。
井上
やっぱり「オオカミは災害か否か」にかかってくるんだ。
高橋
本当のオオカミならまだ可能性はあるんですよ。「災害」の種類には地震、水害、火災などのほかに「害虫などの生物による異常な災害」ってのがあるんですね。
古賀
お!これかな!?
高橋
でもこれ、たぶん「イナゴの大群」とかを想定してるんじゃないかな……。しかも今回、オオカミは意図して破壊行為をしているので、やはりこれは災害とは認められないかと。
西村
だめか~。
高橋
なので、税制優遇に頼らず、オオカミに損害賠償請求をしてください。
オオカミと法廷で争うことになってしまった。ここから先は弁護士の仕事である。
西村
じゃぁ、最後にオオカミを大鍋で煮るのは悪手ですよね。
高橋
そうですね。生かしたままお金をむしり取りましょう。
「三匹の子ブタ」まとめ
・子ブタの家が「建てたのと同じ年に壊された」なら固定資産税はかからない
・年をまたいでからオオカミに壊されたら固定資産税がかかる
・オオカミは生かした状態で損害賠償請求をすること。
マッチ売りの少女:売り物を私的に使ったら脱税?
最後は『マッチ売りの少女』でいってみよう。
少女は寒さをしのぐために、マッチに火を付けて暖を取る。あったかい……けど、ちょっと待って。それって「売り物に手を付ける」ってことにならない……?
西村
昔、映画『マルサの女』で「自分の店の商品を勝手に食べたらダメ!」って怒ってるシーンを見たことがあるんですよ。だからマッチ売りの少女は脱税なんじゃないですか!?
井上
うーん、自分で仕入れたマッチを?自分で使う?ってことですよね……
高橋
ヒントを出しましょうか。マッチを仕入れる代金は「経費」になりますよね。でも自分でマッチ使うと「売上」はない。
古賀
売ってないんだから、売上なんてないですもんね。
高橋
つまり、自分で仕入れたマッチを自分で使うと、儲かってないのに経費だけ使ってる状態になります。経費をいっぱい使うと……税金ってどうなります?
井上
……安くなるのか。みんな経費で落とすために領収書いっぱい集めてるわけですもんね。
西村
ってことは、自分でマッチをすればするほど経費を使うから、どんどん税金が安くなっちゃうってこと? それってやっぱりダメなんじゃないの?
古賀
そうだ! マッチ代を広告宣伝に使ったってことにすればいいんじゃないですか?
井上
街行く人に「マッチで~す」って。
西村
「こんなに火がつきますよ~」って。
井上
宣伝に使うなら経費ってことでいいですもんね。
古賀
食べものだって、スーパーの試食みたいな感じにすればいいんですよ!
西村
でもスーパーの試食の人が自分でムシャムシャ食べたら……?
古賀
そりゃ脱税か~。
なんだかわからなくなってきた。やっぱり高橋さんに整理してもらう。
高橋
これ「マッチ売りの少女」だから話がややこしくなるんです。現実に置き換えると、一番身近なケースが「飲食店のまかない」なんです。
素人たち
あ~!!
お客さんに出すために仕入れたものを、自分たちで食べちゃう。言われてみれば確かに「売り物に手を付ける」みたいなことになる。
高橋さんによると「まかないは税務署からよくツッコまれる」らしい。
高橋
結論から言うと、まかないを食べたら自分たちで売上を立てる必要があるんです。
井上
チャーハンを食べたら、店で食べるのと同じようにチャーハン代を払わないといけないってことですか?
高橋
それも酷なので、チャーハンの「原価」か「売値の7割」かの、どっちか高い方を払う、というルールになってます。これを「自家消費」と言います。
素人たち
へ~!
高橋
自家消費は申告漏れになりがちで、税務署から指摘されることが結構多いんですよね。
西村
まかないなんてどこの飲食店でも普通にやってそうだし、情報番組で「まかないが旨い店!」みたいなのも見るよなぁ。
古賀
お店側も「まかないやってます」って言わなきゃいいのにね。
井上
たまに、飲食店の店頭に本物の料理がサンプルで置いてあることあるじゃないですか。あれは宣伝ってことでいいんですか?
高橋
そうですね。仕入れ原価を広告宣伝費につけていいと思います。
井上
そのあとは食べても大丈夫?
高橋
それは別に構いません(笑)
話を「マッチ売りの少女」に戻すと、売り物のマッチをただただ使い続けるのは、やっぱり脱税になる。でも、ちゃんと自家消費で帳簿をつければセーフ。
必ずしも「売り物に手を付ける=脱税」というわけではないのだ。
高橋
ただ、帳簿をつけたとしても、自分でマッチを使うほど所得税が余計にかかるので、オススメはしないですね。キャッシュが入ってこないのに、売上だけ立っていくので……。
古賀
ははぁ~。自分でお金を払っているのに、儲かってることになっちゃうんだ。儲かってる人からは税金取っちゃうぞ、と。
西村
マッチ売りの少女は税金を燃やしているようなもんですね。
井上
余計切ない話になっちゃうな……。
「マッチ売りの少女」まとめ
・売り物のマッチを使ったら「自家消費」として帳簿につける
・ちゃんと申告しないとやっぱり脱税
・手先は温まるけど懐は冷える。
ブレーメンの音楽隊は「20年住めば時効」
どんなに難題をふっかけても、高橋さんが税金の知識でバンバン打ち返してくれる。安心して剛速球を投げてしまった。受け止めていただいてありがとうございます。
ちなみに「ブレーメンの音楽隊」についても聞いた。音楽隊の動物たちは、最後に泥棒から家を奪ってそこで暮らすようになる。
勝手に住み始めたので、この家は動物たちの資産ではないのだが……。
高橋「『時効取得』といって、20年住み続けると動物たちに家の所有権が移ります。そこで初めて不動産所得税がかかりますね」
ずっと居座ると自分のものになるのか! しかし高橋さんは「ただ、ニワトリたちが20年生きられるかどうか……」と心配する。
動物たちの長寿と繁栄を祈ってこの記事を終わろう。
……さて!急に宣伝です!
この記事の前身となった「桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか」が、タイトルそのままに書籍化しました!僕と高橋さんの共著です。
『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか? 日本の昔話で身につく税の基本』(ダイヤモンド社)
高橋創 著/井上マサキ 著
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発行年月:2021年01月
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