最後にもう一度書くが持ち前の生命力でほんの小さな切れはしからでも根と芽を出すポトスは非常に野良化しやすい植物である。
安価で頑丈、よく増えるとくれば剪定や植えかえの際も扱いが雑になりがちだが、野外へ逸出しないよう十分注意したい。
これはポトスに、沖縄に限った話ではないかもしれないが。
そんなこんなでほとんど注目されないが、確実に沖縄の自然を侵食しはじめている野良ポトス事情をお伝えしました。
今後も沖縄野良ポトスの動向は注意しながら観察を続けていきたいと思います。
観葉植物として人気が高いポトス。
名前を聞いたことがない人でも一目見れば「あっ、これか!」と思うはず。それくらい馴染みの深い植物であるポトスだが、沖縄では彼らが野生化してドえらい姿になっているのだ。
人の手を離れ、野生を解き放ったポトスたち。その真の姿をしかと見よ。
つた状に伸びる茎に丸くかわいらしい葉をつけるポトス。『オウゴンカズラ』の和名に恥じない見た目の良さはもちろんだが、彼らが観葉植物として広く愛される理由はそのタフさにもある。
非常~~っに頑丈で、屋内でも屋外でも簡単に育てられる点にある。ホントびっくりするほど強い。
なんなら土に植えずとも、窓際に置いたビンに水を張って挿しておくだけで水中に根を張り成長していく。
熱帯性気候にあたるソロモン諸島原産ながら寒さにも強く、屋内であれば温室でなくてもたくましく冬を越す。
そんな頑健さゆえに初心者御用達の地位を不動のものとしているポトス。
だが「育てやすい=野良化しやすい」である。
どれほどいい加減に扱おうが枯れずに葉を茂らせる、そんなポトスが温暖な沖縄で野生化してしまうと……こうなる。
これ、ポトスです……。
自然下の豊かな土壌、太陽光、どこまでもツタを伸ばせる空間を手に入れたポトスはこれほどまでに巨大化するのだ。
ポトス、おまえ…。もしかしてずっと大きくなりたいのをガマンしてたのか?
のんきに「ポトスは部屋の中でも元気に育つんだな~」なんて思っていたが、あれ実はあんまり元気じゃなかったのか?
街のいたるところで見かけるポトス。彼らが野生を解き放った姿は実に圧巻であった。
しかし!野良ポトスについて注目すべき点は葉っぱの大きさだけではない。
そのはびこり具合を見てほしい。
「ツルがのびる」と書いて「蔓延る」とはまさにこのこと。
林道沿いの斜面が一面ビッシリとポトスに占拠されている。
さすが観葉植物界のタフネスキング。
こんな光景がいまや沖縄の、いや南西諸島のあちこちで見られるのだ。
……こうなってくると困りものである。
地表を広く覆い尽くし、時には他の植物の頭上にかぶさるポトスは沖縄本来の植物が根を張り光合成を行う空間を食いつぶしてしまっている可能性が考えられるわけよ。
外来植物は動物に比べるとなかなか注目されにくい存在だが、それゆえに問題が顕在化する前に広範囲に高密度で侵入してしまいかねない。
アメリカに持ち込まれて大繁殖しているクズやイタドリのように「あ、ヤベッ。」と思った時にはもう手がつけられない状態になりがちだ。
ポトスも「すげえ~。野生のポトス生えてる~。映え~。」とかのんきに眺めてると、気づいた時には大問題になっているかもしれない。
また、知らず知らずのうちに敷地内にポトス藪が茂り、伐採に苦労したという話も聞く。
大きく育ったポトスのツルは太く頑丈で、切るのも容易ではない。引きちぎるなどもってのほかである。
あと、わりと特殊な例だがハブ捕獲を趣味にしている男性からこんな話も聞いた。
「ハブがポトスの茂みに逃げ込むと大きな葉で姿が隠れるうえにその場で伐採することもできず、高確率で捕り逃してしまう」という。「でーじやっけー(とても厄介)だよ」という。
……野良ポトスが沖縄の文化に影響を及ぼしている一例として参考までに。
ところで先ほどから並べられている野良ポトス写真を見て気づくことはないだろうか?
そう!虫や獣に食われた痕跡がほとんどないのだ。
ご家庭でポトスを育てている人も害虫に悩まされた経験は少ないのではないか。
それもそのはず。ポトスにはある種の毒素が含まれているため動物たちに食われにくいのだ。
これもポトスが我が物顔で野良化している要因の一つだろう。
この毒とは不溶性シュウ酸カルシウムという物質で、針のように細くするどい結晶としてポトスの細胞内に存在している。
もし動物が食べてしまうとこの結晶が口の中やら消化管に刺さりまくるのだ。
たとえば人間がポトスの葉を2センチ四方のサイズにカットして咀嚼した場合、はじめのうちはキイチゴ、野イチゴ、グミの実を食んだ時のようなさわかな青臭さを感じる。
だがそのまま噛み続けると苦味を感じ、やがてヒリヒリとした刺激が舌に絡みつきはじめる。
「ああ、シュウ酸カルシウムのミクロな針が口腔内へ無数に刺さってんなぁオイ。」とはっきり認識できる。その後、徐々に舌や頬、喉が痛くなってくる。
なるほど、こら食えんわ。
ちなみにポトスと同じサトイモ科に属す植物の多くがこの不溶性シュウ酸カルシウムを体内に保持している。
有名なのが今回の記事の舞台である沖縄に自生しているクワズイモで、こちらの毒性はポトスよりはるかに強烈である。
なぜそんなことが言えるのか?そんな比較資料があるのか?
そんな資料は無いけど俺はどっちも食ったことあるからわかるんだよ。文句あるか。
クワズイモの場合、葉を噛んでも噛んでも苦味はあらわれない。おっ、食べやすい!イケる!と思ったのもつかの間。咀嚼を始めてしばらく経ってから急に舌や頰がチクチク痛みだす。それはやがて焼けるような痛みに変わり、しばし悶えることとなる。数十分後に痛みは引くが、口腔内の粘膜(特に唇の裏側)が赤く腫れあがった。
余談だがクワズイモは姿がサトイモに似ているうえ、実際に地下茎もイモ状に発達するため誤認して重篤な食中毒を起こす例がある。十分に注意したい。
だが自然とは面白いもので、それほど強力なシュウ酸カルシウムを持つクワズイモの葉を食う虫が何種類も沖縄には生息している。
もしかするとそうした虫の中にはポトスを新たなごちそうとして歓迎しているものもいるのかもしれない。
最後にもう一度書くが持ち前の生命力でほんの小さな切れはしからでも根と芽を出すポトスは非常に野良化しやすい植物である。
安価で頑丈、よく増えるとくれば剪定や植えかえの際も扱いが雑になりがちだが、野外へ逸出しないよう十分注意したい。
これはポトスに、沖縄に限った話ではないかもしれないが。
そんなこんなでほとんど注目されないが、確実に沖縄の自然を侵食しはじめている野良ポトス事情をお伝えしました。
今後も沖縄野良ポトスの動向は注意しながら観察を続けていきたいと思います。
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