インディーズ路線図とは
インディーズ路線図とはなにか。その定義はシンプルだ。
鉄道会社が作った路線図を「メジャー」と呼ぶとしよう。
それ以外の路線図が「インディーズ」である。
……と、言ってみたものの、実際に見ていただいたほうが早いだろう。こういうやつです。
鉄道会社の路線図は「自社が運営する路線を表すもの」であるのに対し、インディーズ路線図は「その施設に来てもらうため」に作られたもの。その目的は異なる。
目的が異なるということは、表現も異なる。デザインだって施設の数だけあるし、バリエーションは星の数ほどある。達者なものもあれば「え?」というものもある。
つまり、見ていて飽きない。インディーズ路線図は、路線図好きに残された最後の荒野だ。
えこひいき! 鉄道会社が運営している施設編
インディーズ路線図には「施設への道程を案内する」という目的があるが、そのデザインにはさまざまな意図が隠されている場合がある。
例えば鉄道会社が運営する施設は、その鉄道会社の路線がちょっと前面に押し出されていたりするのだ。
東武鉄道が運営する、東京スカイツリーのインディーズ路線図を見てみよう。
東京スカイツリーへの電車アクセスを示していて、JRや地下鉄、私鉄が記載されている。パッと見、普通の交通案内。
でもなんとなく……他と比べて東武鉄道の青い線が太い。
よく見ると、スカイツリーシャトル(東武バス)があちこちを走ってるし、直接スカイツリーにつながらない東武東上線(池袋-和光市)まで描いてあったりする。うっすらと東武の残り香を感じられるのだ。
……ただ、隠す気が全く無い場合もある。新宿駅に併設する「新宿テラスシティ」がそうだ。
新宿テラスシティは新宿西口ハルク、小田急百貨店、新宿ミロード、新宿サザンテラスという、小田急資本の施設が並ぶ一帯。というわけで……。
バリバリの小田急線推しである。
路線は太いし、フォントは大きくて白抜きだし、駅名を囲む線も二重だ。ここまで来るといっそ清々しい。僕がハリウッドザコシショウなら「でさぁね」と目をむいて言うだろう。
なんかここだけ○○だな、と思ったとき、裏に作り手の意図がある。
どこからでも来れます!観光協会編
インディーズ路線図は「ある場所」を案内するために描かれている。となると、「ある場所」に来てほしければ来てほしいほど、路線図に描かれる範囲が広くなる傾向がある。
そこが観光地ならなおさらだ。
例えば大阪観光局の「関西の全路線ネットワーク」は、大阪を中心にJR・私鉄・地下鉄が全部1枚の路線図に載せてしまった。苦心して梅田周辺の駅をつなげているところも含め、大阪を満喫してほしい気持ちがそこにある。
大阪だけではない。北に南に、手招きして待っている観光地はたくさんある。北海道も。沖縄も。
するとどうなるか。答は簡単。飛行機が飛ぶ。
根室市観光協会のサイトにある「飛行機・JR・都市間バスでのアクセス」。北海道内から根室へは、JRとバスがつながっている。でも本州からのアクセスは飛行機だ。かといって日本列島全体を載せると、北海道はどうしても小さくなってしまう、
そこで、太平洋側に空いたスペースに、本州以南を大胆に配置。仮想空間にある東京・名古屋・大阪から釧路へ、動脈を思わせる赤いラインが飛ぶ。
ただ、道内からの航路も釧路に飛ぶし、釧路が画の中心にあるしで、どうしても釧路に目を引かれてしまう。視線を右にズラせば、ピンクで大きな「根室」の字が眩しい。
○時に出れば間に合う!学校編
インディーズ路線図を「鉄道会社以外の、なんらかの施設が作った路線図」と定義してきたが、「なんらかの施設」にはもちろん学校も含まれる。
特に私立校は予算が潤沢なのかキレイめのWebサイトを作っていることが多く、「アクセス」にはきっちりデザインされたオリジナル路線図がよくあるのだ。こちらにとっては宝の山である。
学校のインディーズ路線図における最大の特徴は、各駅に学校までの所要時間を載せがちなところ。
通っている学生には有益な情報であり、入学を検討しているご家庭に「お宅の最寄り駅から通える距離ですよ」とアピールする狙いもあるだろう。
例えば東京都品川区にある中高一貫校、香蘭女学校の「アクセス」には、東京近郊の主要駅からの通学時間が記載されている。八王子(72分)からでも通えるんだなと一目でわかるし、「ここから先は限界なのかな?」と思わせる大胆な省略も見どころだ。
地方ではスクールバスも通学の足には欠かせない。鹿児島実業高等学校では「どの団地の近くを通るのか」「どの中学校の学区か」を示すため、路線がまるで点つなぎパズルのようになっている。
こんなに鋭角にバスが曲がるのか、と野暮なことを言ってはいけない。あくまで「ここを通りますよ」と伝えるのが目的だから。
所要時間、通学定期代、中学校名……学校ごとに「これ必要だな」と思った情報がある。学校とはまた違った施設なら、載せたい情報も異なるだろう。この自由度の高さに奥深さを感じてもらえるだろうか。
個性的!なんかすごい編
さてここまで、作り手の意図を感じるとか、会社の事情が隠れているとか、いろいろ言ってきたけれども、最後は理屈抜きで「なんかスゴい!」ものを見ていきたい。
インディーズ路線図は自由でクリエイティブなものなのだ。角張った直線ではなく、柔らかい筆使いでも全然いい。
たとえば学習院大学の「アクセスマップ」。由緒正しき学府でありつつ、この柔らかさ。まるで触手のようににょろにょろと伸びる路線に癒される。
さぁ、もう理屈なんて要らない。パッションで描かれたインディーズ路線図を見て、この記事を終わろう。
最後を締めくくるのは、群馬県の万座温泉観光協会である。
新幹線、在来線、高速道路、一般道が毛細血管のように周囲を走る。その中央にある万座温泉は、さながら全ての血が集まる心臓だ。
この世に人が集まるところある限り、インディーズ路線図は作られ続ける。それは人の営みと言っていい。
営んでるなぁ~と言っていこう。
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以上、長々と「インディーズ路線図とはなんなのか」をお伝えしてきました。喜んでいただけましたでしょうか。
今後「これスゴいんだけど」というのを見つけたら、#インディーズ路線図 でつぶやくなりして教えていただけますと幸いです。飛んで参ります。どうぞよしなに。