さぁ全員が「食費は経費」で見解が一致。家賃とかブラッシングとかもいけるんじゃない?と夢は広がる。
果たして高橋さんの見解は……?
以前、確定申告の作業に追われていたとき、現実逃避も兼ねて気になったことがある。
昔ばなしの「桃太郎」があるだろう。仲間たちと鬼ヶ島に乗りこみ、金銀財宝を持って帰ってくる。
……あの金銀財宝って、所得税かかったりしない?
ってことは、きびだんごは所得を得るための「経費」になったりする?
昔ばなしを令和の税制で考えたらどうなっちゃうんだ。桃太郎以外の昔ばなしもひっくるめて、本職の税理士さんにそこのところ聞いてきました。
新宿のゴールデン街にやってきた。この街に、今回の依頼を請けてくださった税理士さんがいるのだ。
最初、こんなご陽気な依頼に応えてくれる税理士さんなんているの?と、不安だった。
しかし、本サイトのファンクラブ「はげます会」に相談したら秒で見つかった。類は友を呼ぶ、という言葉を噛みしめる。
さて、本題に入る前に、この記事を読んでいるボーイズアンドガールズに向けて「なんで経費経費いうの?」という疑問に答えておきたい。
商売してる大人ってすぐ経費にこだわるじゃん。なんなのあれ。
超ざっくりいうと「税金が安くなるから」である。
物を売るとお金がもらえる(売上)。でも、物を作るにはお金がかかる(経費)。もらったお金から、かかった分のお金を引いたのが“もうけ”(利益)だ。
所得税や住民税は、基本的に利益に対してかけられる。もうかればもうかるほど、税金の額も大きくなる。まぁそりゃそうだ。もうかってんだもんね。
でも、「アレを作るにはこれだけ経費がかかったんです!」という主張が認められないと、「こいつ無からお金生み出しとるやん! めっちゃもうけてんちゃうん?」と勘違いされちゃう。余計に税金が取られちゃう。
なので、商売する側としては、経費と認められそうなものは、なんでも認めてもらいたい。
でも、税金を取る側としては、ホンマにそれ経費なんか?ってのはシビアに判断したい。
このアンビバレントなやりとりを、昔ばなしでやろうというのだ。どうだ、夢がないだろう。
最初の昔ばなしは「鶴の恩返し」からいってみたい。「反物を売る」という商売をしているので、普通に税金がかかりそうだからだ。
商品となる反物は、鶴が自らの羽根を使って生み出したもの。その羽根を生み出すためには毎日の食事が必要だ。健康状態だって大事だろう。
ということは、鶴の食費は、反物を作るための経費ともいえるんじゃないだろうか……?
ここからは本サイトのライター・西村さん、編集の古賀さんと一緒に答えを予想し、税理士の高橋さんが解説するという、NHK『生活笑百科』スタイルでお届けします。
まずは一斉に予想をオープン。
さぁ全員が「食費は経費」で見解が一致。家賃とかブラッシングとかもいけるんじゃない?と夢は広がる。
果たして高橋さんの見解は……?
だいたい、そのロジックだと「僕ご飯食べられないと仕事できないんです」っていう人は、食費が全部経費になってしまう。
気持ちいいほどの論破である。食い下がってもダメなものはダメだ。
いやでも、羽根のクオリティがあるだろう。モデルさんとか体形を保つために、特別な食事をしたりするじゃないですか。
そうだよな、鶴だって羽根のためにご飯食べてるんじゃないもんな。たまにおせんべい食べながらゴロゴロしたりするだろうしな。
もうぐぅの根も出ない。鶴の食費はあきらめよう。自腹を切ろう。
しかし高橋さんによれば、「鶴の恩返し」には経費と認められる部分もあるという。
加えて、鶴が反物を織っている部屋も「作業場」として経費の対象になるそう。
男が開けたふすまの向こうは、経費の対象だったのだ……!
「鶴の恩返し」まとめ
・鶴の食費は経費にならない
・反物の材料(糸とか)は経費になる
・ふすまの向こうの作業場も経費の対象
・ふすまを開けると鶴も反物も経費も失う
さて、満を持して日本昔話のアンセム、「桃太郎」である。
桃から生まれた桃太郎は、鬼ヶ島で鬼をこらしめ、金銀財宝を持ち帰る……それって「もうけ」ではないのか?
ということは、もうけるために使った刀や装備品、きびだんごも経費になったりするのだろうか……?
まず①について。西村さんが「あのお宝って、そもそも村人から奪ってるものですよね……」と切り出す。
そうだった。あのお宝は盗品だ。そこには村人の悲しみがある。「もうかった」という次元ではない。なんだか出題した自分が恥ずかしくなってきた。
いやしかし、桃太郎に「財宝は村人たちに返しました」ってくだりあったかな。あいつ返してないんじゃないの? だとすると、こういう捉え方もある。
「ボランティア説」が正しいのか、「ハンター説」が正しいのか。さて、法律ではどないなってまっか、高橋さん!
法第36条《収入金額》関係
36-1 法第36条第1項に規定する「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない。
違法も合法も、ハンターとかボランティアとかいう目的も、なんにも関係ないのだ。
着目するのはただ1点「得したかどうか」。そんなにシンプルなの……!?
「桃太郎」まとめ
・鬼から奪った財宝は「雑所得」として扱う
・きびだんごは犬・猿・キジへの給与扱い
・刀や“のぼり”も経費になるが、110万円以上なら贈与税がかかる。鑑定団の出番。
軽い気持ちで立てた企画だったが、思いのほか税の知識が身についてきた。「楽しみながら税の知識が身につく」なんて、ホントにそんなことがあるんですね。
さて、「鶴の恩返し」は物を売ってお金にし、「桃太郎」は財宝を奪って得をした。
もっと面倒くさい展開の昔話ならどうなるだろう。「わらしべ長者」いってみますか。
さすがに「わらしべ長者のイラスト」なんてないだろう……と思ったらあった。なんでもあるなぁ。
高橋さん、「実はこれが一番難しいんです」という。もう我々素人が予想できるゾーンではないため、お話をしっかり聞くことにしよう。
「わらしべ長者」まとめ
・物々交換でも、もうかった分は「譲渡所得」として課税対象。
・物を交換するたびに譲渡所得が発生している。
・固定資産税を払う現金がないから結局屋敷を売りそう。
無茶苦茶なお願いであったが、高橋さんが終始ノリノリでめちゃくちゃ面白かった。専門性をこんなことに使ってすみません。
最後に「笠地蔵」について聞いてみたら、「知らない人から物をもらうのは贈与にあたるんですが……。石からの贈与ですよね……」と悩み、「地蔵だから……宗教法人からの贈与になるのでは?」とまで言っていました。
地蔵からの恩返しは一時所得になるそうです。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |