カク令和ガニを見に行こう
というわけで、今回の記事中で捕まえたカクレイワガニくんたちは現在高知県の桂浜水族館で展示されています。みんな見に行こう。かわいいよ!
2019年4月下旬のある日。魚類研究者の友人を通じて、高知県の桂浜水族館から奇妙な依頼が舞い込んだ。
『カクレイワガニ』というカニを展示したいから、なんとしても5月1日までに捕まえてほしいというのだ。
いいけど…なんで?わりと小さくて地味めなカニなんだけど………。
……あっ。カク『令和』ガニってことか!!!
しょ、しょしょしょ、しょーもな!!!
と思いましたよ、正直。でもそういうの嫌いじゃないよね、正直。
というわけで依頼を引き受けることに。
カクレイワガニは主に陸上で生活する南方系のカニで、図鑑やネット上には「海岸に見られる」と書かれていることが多い。
ただ、海岸は海岸でも波しぶきや塩分を含んだ潮風がダイレクトに吹きつけるような場所にはあまりいない。
その一枚後ろと言うか、砂浜や磯の奥に広がる海岸林の中などに多い。
カクレイワガニもヤシガニなどと同じように産卵は波打ち際で行う。そのためあまり大きく海岸線を離れて暮らすわけにはいかないようだが、小さな島などでは海岸から500m以上も離れた内陸の畑周りや山の上などにガッツリ進出することもある。
そして名前の通り、物陰に隠れるのがとても得意。
このカニはバリバリの夜行性で辺りが暗くなると隠れ家である岩や木の根の隙間から這い出して餌を探す。
しかし、なかなか用心深く隠れ家からは付かず離れず、いつでも駆けこめる距離を保つ習性がある。横向きに歩く姿も相まってちょうど野球のランナーがリード距離を見極めているような格好となる。お願いだからもっとリーリーリー!捕まえにくいんだよ!
カクレイワガニはさほど派手なカニではないが、夜闇の中ではかなり目立つ。ハサミが鮮やかな紫色と白のツートンカラーで彩られているからだ。
ヘッドライトの光が当たると、アイリスの花弁のようにくっきりと浮かび上がって見えるのだ。なるほど、こうして見るとなかなか綺麗なカニだ。
令和が絡んだダジャレ企画のおかげでこのカニの良さを思い知れるとは。ありがてえ、ありがてえ。引き受けてよかった。
なお、捕獲方法はシンプルに手づかみ。サワガニなどと同じで甲羅を両側からつまむと挟まれることがない。あるいは両手でそっと包み込むようにしても意外と挟まれない。優しく接すると危機感を持たないのだろうか?
ただ注意すべき点は彼らは崖や木の幹を駆け上れるほど立体活動に長けていること。うっかり手から逃げ出すとシャカシャカと袖を駆け登って襟元や頭に到達するので気をつけるべし。
無事に十分な数を捕獲し、桂浜水族館と連絡をくれた友人が勤める研究所へと発送した。
後日、感謝のメールとともに届いた写真にはかっこよく展示されているカクレイワガニたちとそれを見学する子どもたちが写っていた。
ちなみに考えることは皆同じなようで、かごしま水族館やすさみ町立エビとカニこ水族館などでもゴールデンウイークに合わせてカクレイワガニが展示されたようだ。
改元という意外な形で脚光を浴びたカクレイワガニ。僕のようにこの機会にその魅力に気づいた人も少なくなかったのではないかと思う。
しょーもないダジャレがきっかけでカニに愛が芽生える。そんな物語があったっていいじゃねえか…。
さて話は変わるが我々日本人はカニ大好き民族である。ゆえにマイナーなカニを話題に出すと決まって「おいしいの?」「食えるの?」という質問が飛んでくるのはもはや確定事項である。
これを読んでいる貴様も!どうせ同じことを考えていたに決まってる。わかってんだぞ、この…いやしんぼめ!
はい、結論から言うとおいしくありません。
以前にサワガニのように素揚げで食べてみたことがあるのだが、まず殻が厚くて硬く食べづらい。そしてなにより、ミソを含む内臓部に独特の生臭さがあるのだ。
おそらく彼らが雑食性で手当たり次第に色々なものを食べているがゆえのクセなのだろう。 ツメの肉はクセもないが、わざわざ食べてもしょうがない量しか取れない。
まあ無人島で他に食べるものが無ければ食べるかなぁ、という程度の味である。
これは食べるべきカニではなく愛でるべきカニだ。
というわけで、今回の記事中で捕まえたカクレイワガニくんたちは現在高知県の桂浜水族館で展示されています。みんな見に行こう。かわいいよ!
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