特集 2019年9月10日

締切を見に行こう

会いに行けるアイドルよろしく見に行ける締切です

締切。あらかじめ決められた終了の期日という意味だ。

我々は締切にいつも苦しめられている。締切はいくら遠くに見えていても瞬間移動の如きスピードで目の前に迫ってくる。なんとか締切を守れても、また次の締切が音もなく近づいてくる。

そんな追われることはあっても追うことのない締切がこの目で見られる場所があるという。一度くらいこちらから締切を見に行ってやろうじゃないか。

1992年東京生まれ。普段は商品についてくるオマケとかを考えている会社員。好きな食べ物はちくわです。最近子どもが生まれたので「人間ってすごい」と本気で感じています。(動画インタビュー)

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東京から3時間、締切のある町へ

見られる締切は宮城県にあるらしい。ということで東京から東北新幹線に乗り一路北を目指す。

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約2時間後、降り立ったのは仙台の一駅先にある古川駅
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古川駅の売店には一斗缶でかりんとうが売られていた

ここからは在来線を乗り継いで目的地へと向かう。

陸羽東線で古川→小牛田、石巻線に乗り換え小牛田→前谷地、さらに気仙沼線で前谷地→柳津というルートだ。

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陸羽東線のオレンジ・白・緑という色使いがコートジボワールの国旗を思わせる
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青春18きっぷユーザーにはお馴染みの小牛田駅は4番線に詰め込まれ過ぎだ
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在来線に乗車中、車窓はずっと田んぼ。エブリタイム田んぼ。エブリウェア田んぼ
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目的地に到着!地主さんみたいなポーズを取ってしまった

東京駅を出て約3時間。やってきたのは柳津と書いて「やないづ」である。「やなづ」か「やなつ」だと思っていたがどこからか「い」が発生している。「やなぎ」の「ぎ」が「い」に変わったイ音便か?

 

気仙沼線は前谷地駅から気仙沼駅までを結ぶ路線だが、電車でいけるのはこの柳津駅までだ。その先は東日本大震災の津波の影響で今でも線路が復旧しておらず、BRTというバス輸送システムが運用されている。

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眼科の検査で見る気球の代わりが務まるんじゃないかというくらいまっすぐなBRTのバス専用道路

線路が打ち止めになっているので柳津駅では全ての乗客が電車から降りるが、その多くはそのままBRTに乗車してその先を目指す。一見すると終点っぽいのに誰もここが目的地ではない。柳津駅はそんな不思議な駅である。

 

さて、到着したものの実は締切がどこにあるのか詳しいことは全く分からない。ネットでは「どうやら柳津という町にあるようだ」という情報しか得られなかったのだ。締切が見つからず原稿の締切に返り討ちにされる可能性もゼロではない。とんでもない伏兵である。

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とりあえず駅のレンタサイクルで自転車を借りた
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看板には「大好評!」とあったが8月下旬にして筆者が2人目の利用者だった。たった一人のヘビーユーザーがめちゃめちゃに好評している可能性があるな。

先に言っておくと締切を見に来た人はここで自転車を借りた方がいいです。でないとかなり歩くので。そしてみんなでレンタサイクルを好評しよう。

ついに締切とご対面

結論から言うと無事に締切は見つかった。駅を出てから約75分の探索の末に締切は発見された。

全国1億2,000万人の締切を抱えた皆さんから「いいから早く締切を見せろ!」という声が聞こえるのでさっそく締切をご覧いただこう。

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こちらが(悪い方の)夢にまで見た締切
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よりでも一枚。確かに「締切」とある。

見つけた時には思わず「締切だー!!」と声が出た。ここにいたのね、締切。

いつも何処からともなく気がつくと近づいている締切が、宮城県の片田舎でひっそりと碑になっている。我々がいつも直面している締切がオンの状態だとしたら、この締切は完全にオフだ。締切のプライベート流失。

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せっかくなので締切と記念撮影
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世の中の誰よりも締切を目の前にしています

締切が目前だと普通はかなり焦るが、ここで締切を目の前にしても全く焦る気持ちはない。

普段は締切の方から人に迫ってくるわけだが、ここでは人の方から締切に迫っていくからだろう。

完全に立場が逆転している。締切は内心めちゃめちゃ焦っているはずだ。

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とは言っても締切をそばに感じながらする仕事はやはり良いものではない

「焦っているんだろう!」とマウントをとってみたものの、さすがに締切の威圧感はすごい。

碑には昭和六年一月二十二日という日付が刻まれている。88年以上ものあいだ締め切ってきた年期の入った締切からは神社のご神木のようなパワーを感じられる。ご締切だ。

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締切が迫ってきます

やはり締切は迫ってきてなんぼという感じがする。今回も締切を乗り切った…!という悦びは締切に迫られれば迫られるほど大きくなるのだ。苦しめられてはいるが、やはり締切はなくてはならない。

今後も締切を守れますようにと神様のようなご締切にお願いしてこの場を後にした。

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締切とパソコン。これからも締切を守って原稿をやっていこう。

 

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締切は川の水を締め切っている

迫りくる締切も撮ることができたしやりたいことはやれたのだが、この締切はいったい何なのかということも説明しておきたい。

既にお察しの方も多いと思うが、この締切は「あらかじめ決められた終了の期日」の意味ではない。ではどういうことなのか。

締切があるのは北上川河川歴史公園。名前の通り、公園のすぐ脇を東北一の長さを誇る北上川が流れている。

 

締切の詳しい場所が分からない状態で現地入りしたと先程書いたが、実は北上川河川歴史公園にあるんじゃないかという目星はついていた。

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駅から公園までは自転車で10分ほど。この橋を渡って北上川を越える
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「将来ここに公園ができます」みたいな簡素すぎる看板が不安になるけどここが正解

なぜこの北上川河川歴史公園に目星をつけていたかというと、柳津駅の周辺で締め切られそうなものが川の水くらいしか見当たらなかったからだ。

このあたりにライターや作家がたくさん移住してきている物書き村みたいなものがあったら捜索は難航していたかもしれない。期日的な意味の締切とは縁のなさそうな町でよかった。

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公園の図に締切の碑の案内はない。結局、公園内を1時間近く探し回ることなった。

北上川は明治43年に発生した洪水で周辺地域に大きな水害を及ぼし、翌年の明治44年から北上川の改修工事が行われることになる。

その工事は柳津から下流へ12kmに渡って新たな川を開削し、さらに追波川という川を拡幅することで、これまでとは別の湾に北上川の水を流すという大規模なもの。工事が完了したのは昭和9年である。

実に23年に渡る大工事の末、下流地域の人々を洪水から救う新たな北上川が誕生したのだ。

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赤い線で示されているのが新たな北上川のルート
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現北上川の方が旧北上川よりも川幅が広い。これが人の手で作られた川だとは驚きだ。
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看板もでかいぞ!

大工事によって開削された現在の北上川と旧北上川の分岐点になっているのがここ柳津だ。

そして旧北上川へ必要以上に水が入らないよう、計画的に川の水を締め切っている構造物、それこそが締切なのだ。

実は締切という言葉には「堤防などで河川や湖沼への余分な水や潮の流出入を防ぐために築く構造物」という意味もある。あの碑に書かれた締切はその意味だ。

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正式な名前は鴇波締切堤(ときなみしめきりてい)。漫画にこういう名前の落語家が出てきそうだ。
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北上川河川歴史公園はこの堤防の上に作られているので、つまりこの公園にいる=締切の上に立っているということになる!
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北上川を渡る橋からみた締切堤防。ここからみるとこの堤防の締め切りっぷりがわかる。

締切は東北最長の河川というめちゃくちゃ大きなものを締め切っていた。この締切のおかげで旧北上川周辺の住民が洪水から守られているのだ。

筆者もライターとして編集部から締切を言い渡されているわけだが、それは記事の掲載を守るためである。デイリーポータルZが17年続いてきたのも締切があるからこそだとも言える。

「締切、ありがとう」

雄大な北上川と巨大な締切を眺めながらこれからも締切と上手に付き合っていきたいと思う筆者であった。


周辺スポットも紹介します

これをみて締切を見にいきたいと思った人のために周辺で観光できそうなスポットも紹介しておこう。

①柳津虚空蔵尊

北上川河川歴史公園から自転車で20分ほど走ると大きな鳥居が突然現れる。726年に行基が開いた歴史あるお寺だ。

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東北最大級の鳥居らしい
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本堂は江戸末期の建設
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めちゃめちゃ雰囲気の良い寺カフェがあるのでぜひ立ち寄って旅の疲れを癒してほしい

②道の駅 津山

「もくもくランド」という愛称の通り木の温もりがあふれる道の駅。宮城県名物の油麩(仙台麩)も食べられる。

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自転車なのに急に雨が降ってきて泣きたくなった
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油麩丼。肉とまでは言えないがかなりジューシーな麩
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のんびりした空間に似つかわしくない物騒なガチャガチャがあった

せっかくなのでとそれっぽい場所を回ってみたが、寺社仏閣と道の駅、「何もない場所でもこの2つはあるよね」というラインナップである。

県境だって観光地として注目されるこの時代だ。柳津には締切を観光地として盛り上げていってほしい。

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思いっきり雨に降られて一瞬だけ「何をやっているんだろう」という気持ちになりかける筆者

 

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