この喫茶店マップ作りは始まったばかり。まだまだ知らないことだらけだ。今後も少しずつ更新していきたいし、もっと喫茶店を訪ねたい。
皆さんの喫茶店の思い出も教えていただけると幸いです。
純喫茶と呼ばれる古い喫茶店が好きだ。
かつて最先端だったモダンな空間にそのままタイムスリップできる店や、歳月の分だけ店主の人柄が滲み出たような味わい深い店。そんな、いい歳の取り方をした名優のような喫茶店にロマンを感じる。
1975年出版の古い喫茶店本を読んでいたら、当時の新宿にあった喫茶店を網羅した貴重な記事を見つけた。
それらを昔の住宅地図と照らし合わせながらGoogleマイマップ上にマッピングし、45年以上を経て今も残る喫茶店を巡ってみた。
その先で素敵な店に出会い、マスターから当時の貴重なお話をうかがうことができた。
これがその古書だ。当時のプロ向けの本で、最先端の内装デザインや営業スタイル、今後の業界動向などが載っている。
過去の未来予想図としてこれ自体も大変面白いのだが、史料的価値がある!と特に興奮したのがこの記事。
45年以上を生き抜きそのまま残る喫茶店もあれば、時代の移り変わりとともに失われた喫茶店もある。
こんな世の中だ。今のうちに、新宿の歴史ある喫茶店をちゃんと調べておきたくなった。
先述の100店調査だが、本には店の住所や詳細な地図は載っていない。当時はお店で配るマッチ箱にさえ、店舗所在地を「コマ劇場前」みたいに書くおおらかな時代だ。
どうやって調べようか。
日本一詳細な地図といえば住宅地図。1975年前後の住宅地図を何冊か参考にしながら、マイマップ上でできるだけ多くの喫茶店をマッピングしていこう。
そして出来たのがこれだ。
その数およそ300店。喫茶店好きには夢のような時代である。
発端こそ100店調査であったが、住宅地図から読み取れたそれ以外の喫茶店もすべて載せた。だんだんと独自調査らしくなってきた。
これでも抜けは沢山あるだろうし、人力なので間違いもあるかとは思うが、2020年現在23軒が現存し(緑色のマーク)、なんらかの痕跡が残っているお店は7軒あった(えんじ色)。
日本一、新陳代謝の激しいであろう新宿において、これを多いと見るか少ないと見るか。個人的にはこんなに残ってるんだ!と興奮した。
1975年というと、例えば現在65歳の郷ひろみや西城秀樹、所ジョージが20歳だった頃だ。
白十字、スカラ座、王城、マンションハウス、マイアミ、渡邊…平成生まれの自分には見知らぬ店名ばかりだが、昭和生まれの方なら思いがけず若い頃の記憶が蘇るかもしれない。ご自分のGoogle Mapにダウンロードできるので、よかったら探してみて欲しい。
さて、ここからは様々な形で現存する店舗を実際に巡ってみたい。
次は1947年創業、おそらく新宿周辺で一番歴史ある「珈琲と洋菓子ローレル」。
先述した珈琲西武はなかでも変わっていないようだ。
西武といえば2019年、新宿西口に待望の2号店をオープンしたが、1975年にも同名店が歌舞伎町にあるのが面白い。時代の趨勢を読みながら今を生き抜いてきたのだろう。
70年代は歌舞伎町も喫茶店だらけ。
その中でも特徴的な外観で有名だったのが王城や白馬車、蔦の絡まるスカラ座など。多感な学生たちの青春を彩るお店だったようだ。
この二つの店はどちらも純喫茶とは別に、上階や地下が同伴喫茶(カップルで入店する仕切りのある薄暗い空間。安いので学生がよく利用していたらしい)になっていたようだ。"純"喫茶という言葉がまだリアリティを持っていた時代だ。
今でこそファミレス、ファストフード、カラオケ、ネットカフェなど座って休める店はさまざまだが、当時は喫茶店がそれを一手に引き受けていたのだろう。"三畳一間の小さな下宿"のかぐや姫「神田川」が1973年だし、喫茶店全盛の理由がわかる気がする。
1975年創業なので当時はオープンしたての珈琲専門店。70年代の新しい流行だった本格派「珈琲専門店」ブームは、1975年にピークを迎えたそうだ(林哲夫『喫茶店の時代』ちくま文庫、2020年、p357より)。
バブルを経験した新宿なので、ビルの建替え・再開発によって消えるパターンも多かっただろう。だから建替えのない地下街や小田急・京王百貨店などのテナントは残りやすいようだ。
らんぶる以外にもコロナ禍の影響を受けた喫茶店はある。
ただでさえ年々減っていく純喫茶。訪れるなら本当に今のうちだと実感した。
最後に訪れたのは西新宿の超高層ビル群のさらに先、十二社にあるマックスだ。
まず気になっていたことについて。マックスは1973年創業でこのお店が1号店だそうだ。その1~2年後に東口の甲州街道沿いに出したのが100店調査の店。雑誌を見せると「よく見つけたねえ。あの店は15年くらい続けたかな」と懐かしまれていた。遠くは横浜まで、FC店も含めて最大6店舗あったが、今はこの1号店だけだそうだ。
内装については、「当時の有名な建築家の人に設計してもらったの、全部木を使って。その1、2年後に法律が変わって燃える素材は使えなくなった。だから今はもう直せない。でも、47年どこにもガタがこなくて、直さなくても大丈夫だった。当時のままだよ。床とソファの革は何度か変えたけどね、昔はマナーも悪かったから。煙草の火で穴が開いたりね…。」と笑うマスター。
さらに話を続けてくれる。
「ここはね、いろんな映画やドラマに使われてるんだよ。最近ならBBCのドラマの…」と冊子を見せてくれたのは、イギリスBBCとNetflixが共同制作したジャパニーズヤクザドラマ「GIRI/HAJI 義理/恥」である。すごい。サイフォンコーヒーの淹れ方は初心者の俳優さんには難しく、マスターもチラッと出演しているとか。
他にも『釣りバカ日誌20 ファイナル』や竹内結子主演のドラマ『QUEEN』、少女漫画原作のドラマ『イタズラなKiss』など年代もジャンルもさまざまな作品に登場しているそうだ。すごい。「若い子が全国からね、夜行で来て開店と同時に入ってくるんだ。それで写真撮ってくださいってね、何度も撮ったよ」とほほ笑むマスター。
常連さんが自分の時間を過ごすようなひっそりとした佇まいからは予想していなかったので、後半は「すごい」しか言えなかった。けど、その変わらぬ佇まいが粋なんだろう。
珈琲専門店マックスは昔のままの、変わらぬ、珈琲と同じように深みのある喫茶店だった。
この喫茶店マップ作りは始まったばかり。まだまだ知らないことだらけだ。今後も少しずつ更新していきたいし、もっと喫茶店を訪ねたい。
皆さんの喫茶店の思い出も教えていただけると幸いです。
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