ようこそ、強いお酒友の会へ
「強いお酒友の会」のモットーは
・強いお酒を野外で
である。大自然の中で味わってこそ強いお酒の神髄に触れる事が出来る。
今回は葛飾区にある水元公園にやって来た。都内唯一の水郷地帯で敷地面積は75万m2もある区内最大の公園。「強いお酒友の会」を開くにはもってこいのロケーションだ。
そして会の主役、強いお酒のラインナップは以下の通り。
1. 珊瑚礁(泡盛/沖縄県)アルコール度数 40度
2. グラッパ(ブランデー/イタリア)アルコール度数 45度
3. ゴードン(ジン/イギリス)アルコール度数 47.3度
4. どなん(泡盛/沖縄県)アルコール度数 60度
5. スピリタス(ウオッカ/ポーランド)アルコール度数 96度
いずれもアルコール度数40度以上。「強いお酒友の会」の席を彩るには充分な顔ぶれとなった。
特に最後のスピリタスは96度。70数回の蒸留を繰り返して純度を極めた世界最強のお酒、とラベルに書いてある。あと20回くらい蒸留すると100度になってしまうのだろうか?
公園内を流れる中川沿いにレジャーシートを敷いて川面を眺めながら風流に強いお酒を嗜もう、と思っていたが当日の天気は生憎の雨。
住「この雨だと、屋根のない所は厳しいですね」
林「んー、あの森の中がいいですかね」
川べりから10メートル程中に入った所に木々の生い茂った部分があった。遊歩道に挟まれ中洲の様になっている。中に入ってみるとほとんど雨に濡れない。
住「おおー、森の力って凄いですね」
林「屋根がなくても雨宿り出来ますよ」
なるべく大きな木を探し根元付近にシートを敷いた。
住「雨が止んだら川べりに移動しましょう」
シートの上にお酒を並べ準備は万端。
会を始める前に、まずは牛乳を飲んで胃に粘膜を。強いお酒に負けないコンディションをつくる。
珊瑚礁とグラッパを飲む
アルコール度数の弱いものから飲み進める事に。エントリーナンバー1番は珊瑚礁(泡盛/沖縄/40度)だ。
まずはグラスに半分くらい注ぐ。その量、およそ100ml。
おもむろに携帯電話を取り出し何やら計算を始める林さん。
住「何を計算してるんですか?」
林「いや、アルコール摂取量を……」
アルコール度数40度の珊瑚礁100mlで、摂取するアルコール量は40ml。ビールに換算すると350ml缶で約2本分。
林「これ1杯でビール2本ですよ」
住「何だか生き急いでいる感じがしますね」
この時、時刻は午後の4時。
平日の昼下がりにレジャーシートを敷いてお酒を飲んでいるのは僕たちくらいなもので、遊歩道では犬を散歩させている人、自転車に乗っている人、色々な人たちの日常が行き来している。
住「ここだけ異空間、って感じがしますね」
珊瑚礁を飲み干し、2種類目のグラッパ(ブランデー/イタリア/45度)を飲む。
グラッパはイタリアでは食後酒として飲まれている。脂っこいものが多いイタリア料理を食べた後に消化を助ける役割があるらしい。
林「でも、僕たちは別に脂っこいものを食べた後じゃない」
住「それにここはイタリアじゃなくて、葛飾区なんですよね」
林「そうなんですよ。川の向こうは三郷ですよ」
住「埼玉県?」
林「そう。県境って治安の悪い印象がありますよね」
住「ああ、確かに。でも、ここは平和ですよ」
林「そうですね。いい公園ですね」
ゴードンとどなん、そしてスピリタスが登場
グラッパまでを飲み終え、林さんの計算によるとビール350ml缶換算で4本分を飲み終えた事になる。
林「ビール1リットル以上ですね」
住「結構、酔いが回ってくる頃ですよね」
まだ2種類しか飲んでいない僕たちは、ここで酔う訳にはいかない。最後のスピリタスまでしらふで辿り着かなければならないのだ。
住「じゃあ、そろそろゴードンを」
林「……ええ」
3種類目ゴードン(ジン/イギリス/47.3度)の登場。ほぼ半分がアルコールというだけあって、パンチが効いている。2人とも段々きつくなってきているが、口には出さない。口に出した瞬間、酔いが回ってしまいそうで……。
4種類目はどなん(泡盛/沖縄/60度)。
住「いよいよアルコール度数60度に突入します」
林「野球で言ったらマスターズリーグですね」
この「どなん」、林さんのお父さんの大のお気に入りらしい。
林「あまりにも気に入った親父がラベルに書いてあった電話番号に電話したんですよ」
住「えっ?注文のため?」
林「ええ。そうしたらお酒と一緒に振り込み用紙が送られて来て」
住「お金を振り込む前にお酒を送ってくれるんですね」
林「ええ。人を疑わない、いい人たちですよ」
住「本当ですね。いい話だなあ」
どなんを飲み終え、いよいよ世界最強のお酒「スピリタス」(ウオッカ/ポーランド/96度)が登場する。
住「96度ですよ」
林「ちょっと、火つけてみましょうよ」
スピリタスをグラスに注ぎ、ライターの火を近付けると一気に火がつく。
住「……」
林「……」
こんなものを飲まなくてはいけないのか?
スピリタスは食道を焦がしながら胃に流れていった。
世界最強の称号は伊達じゃない。唇から胸元までヒリヒリとした熱を感じていると、雨はすっかり止んでいた。
「強いお酒友の会」が始まってから約2時間が経過。雨もあがり、せっかくなので川べりに移動する事に。
住「ここは葛飾区なんですよね」
林「川の向こうは三郷ですよ」
住「埼玉県?」
林「そうです。県境って治安の悪い印象がありますよね」
住「ああ、確かに。でも、ここは平和ですよ」
林「そうですね。いい公園ですね」
水元公園に夕暮れがやって来て、「強いお酒友の会」は無事閉会の時を迎えようとしていた。
しかしその時、石塚の身に大変な出来事が起きていた。
森から川べりに場所を移動している間の出来事だった。
ほんの数分、石塚が自分の荷物から目を離していた隙に、彼女のデイバックが盗まれてしまった。
キャッシュカード、クレジットカード、免許証、システム手帳、携帯電話に家の鍵……。彼女の全てが入っていたらしい。
110番に電話すると20分くらいしてお巡りさんが自転車でやって来た。
一通りの事情を聞いてくれたが、とても「強いお酒友の会」です、とは言えない。
「あの、会社のレクリエーションで、この公園にやって来まして……」
さっきまでの酔いもどこかへ吹き飛んでいる。
被害届を出す様に言われ、お巡りさんと一緒に公園から派出所に向かった。
派出所に着き、別のお巡りさんにもう1回事情を説明しながら思った。
もう、お酒が絡む取材はやめにしよう。