海へノリを摘みに行く
ノリを摘むには潮が引いている時間に海へ行く必要があるということで、干潮にあわせて仕事帰りのKさんに車で迎えに来てもらい、この時期にノリが摘めるという場所へと向かう。
車中、Kさんは「俺はどうしても蜜蜂が飼いたいんだ!養蜂がしたい!」と熱く語っていた。マンション暮らしなのでさすがに躊躇しているらしいが。
着いた所は、釣りをしに何回か来たことがある場所なのだが、ノリを摘めるような場所ではないはずだ。本当に大丈夫なのだろうか。
ノリを求めて海へ
海岸へと出ると、岸沿いにテトラポッドが積んであり、潮が引くとその先に現れた石畳へ降りられるようになっていた。
なるほど。干潮時にこの場所へ来たのは初めてなのだが、こうなっていたのか。ロールプレイングゲームの謎解きみたいでドキドキしてきた。
これがノリだ
海藻で滑るテトラポッドにへばりつきながら海へ降りると、そこらじゅうに青い海藻がびっちりと生えている。これが目的のノリなのかな。
Kさんが言うには、この緑の海藻は、海苔は海苔でも青海苔の原料となる「アオサ」と呼ばれる海藻らしい。
青海苔も魅力的だけれど、今回の目的は黒い海苔をつくること。その材料となるノリはどれかというと、テトラポッドについている黒いコケみたいなやつ。これが目的のノリなのだそうだ。
ちょっとそのままつまみ食いしてみたら、確かにアオサは青海苔を海水で洗ったような味がする。ノリも海苔を海水で洗ったような味だ。ガッテンガッテン。
ノリ摘みは楽しい
どれがノリかわかったところで、緑のアオサを避けながら、この黒いノリを摘んで集めればいいのだが、これがなかなか難しい。さっきまで海中に沈んでいたテトラポッドに生えているノリなので濡れているのだ。
ノリは濡れた状態だと、つまんでも滑ってしまって全然取れない。そこで、お日様に当てられて、半乾きになったところを下側からペリペリと剥がしていく。うまく剥がれると、とても気持ちいい。
この楽しさ、たとえるのならば、テトラポッドいっぱいにできたカサブタを剥がしていく感じだ。これは夢中になる。
ノリは濡れていると掴めないし、乾ききってしまっても取れない。Kさん曰く、「ノリを摘みながら、常に太陽の位置を計算に入れろ!」という事らしい。奥が深い。
地元のじいちゃんに話を聞いた
ノリ摘みをしながら、近くでアサリを掘っていたじいちゃんと世間話をしていたら、なんと昔、この海で海苔作りをしていたのだという。
このあたりの海はだいぶ前に、開発のため漁師達は漁業権を放棄しているので、もうほとんど海苔養殖はおこなわれていないのだが、じいちゃんが子供の頃はみんな海苔養殖をしていて、それは羽振りがよかったそうだ。
このじいちゃんの話がおもしろかったので書き留めておく。
- 海苔にアオサが混ざることを「青が飛ぶ」という。
- もうアオサが生えているから、時期がちょっと遅い。
- 青が飛んだ海苔は、味はいいけれど見た目が良くないから売り物にはならない。
- 海苔は天気のいい日に一日で干さないと「おかめ」といって、不格好な海苔になってしまう。
- 海苔は当時のお金で一枚10円で売れた。
- 海苔をつくるのは10円札をつくるのと同じなので、海苔屋は造幣局と呼ばれていた。
- 海苔の収穫時期は、家族みんなが朝3時に起きて働いていた。
- その時期は、晴れたら誰も学校なんかいっていなかった。
- 雨が降ると、子供達は学校へタクシーで通った。
- 俺だったらおまえの10倍はノリを摘む。
- ノリよりアサリを捕れ。
はい、アサリ捕ります。こんな話を、森繁久彌がべらんめえ調になったような口調で、ぶっきらぼうに聞かせてくれた。こういう話は文字にしたところで大しておもしろくないけれど、本人から聞くとものすごくおもしろいのだ。
収穫終了
潮が満ちてくる前にノリ摘み終了。めでたくコンビニのビニール袋一つ分のノリが収穫できた。ところで、これは海苔にすると何枚分なのだろう。
さあ、こいつで海苔をつくってみよう。
まずはノリを洗う
数日後、今日一日天気がいいことを確認したところで、海苔作りのスタートだ。海苔を干すのはもちろん天日に決まっているので、天気がとても重要なのだ。
ちなみにここから先の海苔作りに関する記述は、Kさんに聞いた方法と、海で会ったじいちゃんの話などを参考に、私が適当に試したやり方なので、正しいかどうかは知りません。
まずは大鍋に水を入れて、収穫してきたノリを洗おう。
さらにザブザブと洗う
大鍋でざっと洗った後、少量ずつ目の細かいザルにとって、さらにザブザブと洗い、細かい砂まで綺麗に落とす。
とても面倒くさい作業だが、これをやらないと、きっと砂抜きしなかったアサリみたいに、「ジャリっていう海苔」となってしまう。それは困る。
みじん切りにして水と混ぜる
よく洗ったノリを、今度はみじん切りにする。どのくらい細かく刻めばいいのかがよくわからないのだが、まあ適当にザクザク切る。台所がとても磯臭い。
おみそ汁とか佃煮にする分は、刻まないで取っておく。せっかくなので、いろいろと料理してみるつもりなのだ。
刻んだノリを、水をたっぷり張った大鍋に移す。ドロドロのノリウォーター、パックとかに使ったらお肌によさそうだ。
海苔の形にする
この刻んだ海苔を四角い形にするには、いろいろと専門の道具が必要らしいのだが、そんなものは持っていないので、100円ショップで買ってきた道具でどうにかする。
海苔巻き用の巻き簀と、ざるそば用のザルの底をぶち抜いて作った木枠でいってみよう。
ザルの上に巻き簀を置いて、その上に木枠を置き、計量カップに掬ったノリウォーターをムラにならないようにかけていく。
あり合わせの道具で適当にやっている割には、なんだか正しいことをしている気がしてきた。
あとは干したら完成だ
巻き簀の上で四角くまとまったノリをベランダで干して、完全に乾いたら海苔の完成だ。工程は多いけれど、火を使わないのでそれほど大変な作業ではなかった。
さて困った。刻んだ海苔がまだ大量にあるのだ。
しかし巻き簀がもうない。なんだか下準備に時間がかかってしまって、もう日が暮れかかっている。海苔が乾いたら次の海苔を干すなんていう悠長なことをやっている余裕はない。
仕方がないので、また100円ショップにいってくるか。