黄ニラ作り、実験としてはすごく簡単だが、農作業としては少々面倒臭いので、普通のニラに比べて黄ニラが高級な理由もよくわかった。
まだ黄ニラを食べたことがない人は、畑にニラを植えて遮光しろとはいわないので(畑に生えていたらやってほしいが)、買って食べてみるといいと思う。ニラとはまったく別の食べ物なのだ。

ぼんやりテレビを見ていたら、岡山県で黄ニラを育てている農家さんが紹介されていた。黄色くて柔らかいニラだ。
その育て方はシンプルで、まず普通のニラをしっかり育てて、刈り取ってから生えてくるニラを遮光するだけらしい。太陽の下なら緑の新芽が伸びてくるけど、太陽光が届かない状況だと黄色く伸びるのだ。黄ニラはニラのモヤシっ子だったのか。
ニラなら畑に生えているの試してみたところ、とても簡単に黄ニラが収穫できた。
母親がやっている家庭菜園にはニラがモサモサと生えている。多年草なので一度しっかり生えてしまえば、家で食べる程度ならその後の世話は特に不要。
葉の部分を収穫をしても、またオートマチックに生えてくる便利な存在だ。ありがとう、太陽と大地。
黄ニラを育てるような方法を「軟白栽培」というそうだ。小学生の頃、ヒマワリの芽に太陽を当てないで育てるという実験をしたことがあるので理屈はわかるけれど、素人が適当にやっても黄色いニラが育つのだろうか。
モヤシのように栄養が詰まった種からではなく切株からの成長だ。太陽の光なしで伸びるのならば、根っこにノビルとかタマネギみたいなふくらみがあるはずだと掘ってみたが、ラッキョウよりも頼りない。黄ニラを生み出すほどの栄養を蓄えているのだろうか。やっぱり特別な栽培方法があるのでは。
五月中旬、とりあえずやってみるかと収穫したニラの上から適当な段ボールを被せて、雨避けのビニール袋で覆ってみた。
イギリスの昔話「三匹のこぶた」だったら、オオカミに一発で飛ばされる手抜き建築である。
収穫したニラはスタッフが美味しくいただきました。
遮光状態におけるニラの成長速度はどんなものだろう。2週間もすれば多少は育っているかなと、畑に設置した段ボールを持ち上げて驚いた。
もう黄ニラが段ボールの高さまで達しているじゃないか。いや遮光が段ボールだったので純粋な黄ニラとはいえないが、明らかに普通のニラとは違う色白具合だ。
名づけるなら黄緑ニラか。これぞ緑黄色野菜ならぬ黄緑色野菜である。
段ボールを被せるだけでぜんぜん違う野菜になるなんて、植物っておもしろいな。
本来なら収穫した後、少し太陽に当てるとさらに黄色くなるらしいが、せっかくここまで色白に育てたのに、日に焼けて緑になってしまいそうで怖くてできなかった。
普通のニラと黄緑のニラを並べて、まるで違う環境で育った双子の物語みたいにまったく違う。いや立場的には双子ではなく兄弟なのかな。地上に出てからの日数が全然違う。
ここまで固さが違うと、同じ調理法では黄緑ニラの持ち味を生かせないだろう。さてどう料理しようかなーと考えるこの瞬間が楽しいんですよ。
とりあえず油でサッと炒めて、塩だけで食べ比べてみたのだが、黄緑ニラを食べて驚いた。これ本当に同じ出身地のニラなのか。
太くて白い上等なネギの中心部みたいに、柔らかくて甘くてクセがない。なるほど、農家さんがわざわざ手間暇かけて黄ニラを育てる理由はこれか。見た目通り、いや見た目以上に、ニラとはまったく別の野菜である。
この柔らかさをどうやって生かすか迷ったが、シンプルなラーメンに生のまま乗せて、スープの熱だけで穏やかに加熱するというのはどうだろう。さらに熱した胡麻油を上からジュっと垂らしたら、黄緑ニラのラーメンが完成だ。
略して黄緑ニラーメン(声に出して読もう)。
これがなかなかのものだった。プツっとした歯切れのよい卵麺を邪魔しない柔らかさだからこそ奏でる、麺とニラのハーモニー。
具というよりはもう一つの麺かもしれない。そして普通のニラよりも穏やかな香りと辛味が、控えめだが効果的なアクセントになっている。
やるじゃないか、黄緑ニラ。
こんなに柔らかいのなら、いっそ生でもいいのでは。
ニラを細かく刻んでアツアツのご飯に乗せて、めんつゆに漬けた卵黄と鰹節をトッピングして、生ニラ玉丼なんてどうだろう。
またの名を黄味黄緑ニライス(声に出して読もう)。
これはおそらく説明しなくても伝わるであろう美味しさだ。
不完全な遮光なので特有の辛さが多少あるのだが、熱いご飯と混ざることで僅かに入る熱だけで、ちょうどよく角が取れてくれる。それが黄味のコクに包まれることで輝きを増すのだ。
普通のニラでもネギでもなく、柔らかいニラだからこそできる仕事がここにある。
このようにニラの軟白栽培にある程度成功したのだが、遮光性をアップさせればもっと黄色くできるのではと欲が出てきた。遮光せずに育てた若いニラとの差も気になる。
ニラは畑にまだいっぱい生えているので、第二回黄ニラ栽培実験をやってみることにした。私は暇なのだろうか。
今度は段ボールを被せた上から、懐かしの黒いビニール袋(昔のゴミ袋は黒かったんですよ)で覆い、さらに雨避けとして透明の大きな袋を掛けてみた。
そしてその隣は日除けをしない状態にしておき、さらに前回の段ボールと透明ビニール版も用意しておく。
そして5日後、さすがにまだ早いだろうと思いつつ様子を見に行くと、遮光しなかったニラが、早くも20センチほどに伸びていた。えー。
今まで育ちっぱなしのゴワゴワしたニラを食べていたが(これはこれでうまいけど)、刈り取ってからすぐのニラならこんなに柔らかいのか。これは良いことを知った。
もしかして遮光した側のニラも同じくらい成長しているのかなと段ボールを持ち上げてみると、狙い通りの黄色いニラに育っていた。前回よりもちゃんと黄色い。白い絵の具にちょっと黄色を混ぜた色。
黒いビニール袋による温室効果なのか、太陽の下よりも大きく育っているようだ。市販のビシっとしつつも色白の黄ニラと比べたらまだまだだが、ご自宅用なら十分だろう。
こうして育ちの違う4種類のニラが収穫された。
生えっぱなしの深緑ニラ、刈り取ったあとに生えた緑ニラ、適当に遮光した黄緑ニラ、しっかり遮光した黄ニラである。
並べるとその差は歴然である。美しいニラのグラデーションが見られてとても満足だ。
品種も生産地も同じなのに、味も香りも食感も違うであろう4種類のニラ。この四兄弟をどう料理しようかなーと考える瞬間がすごく楽しいんですよ。
固さにあわせて茹で時間を10秒から40秒まで調節し、塩茹でにして味を確認してみたところ、見た目だけでなく味も見事なグラデーションになってくれて感動した。これは楽しい食材だ。
深緑はジャッキジャキ。ちょうどギリギリ噛み切れる繊維の強さで粘りがある。これぞニラのストロングスタイル。
緑はジャキジャキ。歯ごたえとしてはこれがベストかな。ニラっぽい辛さを持ちつつ旨味を強く感じる。
黄緑はシャッキシャキ。ニラの風味よりも甘さが前面に出てくる。こうなるとニラとは別の野菜である。
黄はシャキシャキ。この甘さはもはやフルーツの域かも。そりゃ黄ニラという商品が生まれる訳だ。
ニラ版の枕草子か。これを踏まえて各ニラを調理していく。
畑にいつも生えているので収穫を後回しにしてしまい、あまり活用していなかったニラだが、育て方で色と食感と香りをコントロールするという遊びを覚えたので、今後は食べる機会が増えそうだ。といいつつ面倒なので普通にニラとして食べそうだけど。
丈夫に育ったニラもうまいし、軟白に育てたニラもうまい。みんな違ってみんないい。ニラだもの。
黄ニラ作り、実験としてはすごく簡単だが、農作業としては少々面倒臭いので、普通のニラに比べて黄ニラが高級な理由もよくわかった。
まだ黄ニラを食べたことがない人は、畑にニラを植えて遮光しろとはいわないので(畑に生えていたらやってほしいが)、買って食べてみるといいと思う。ニラとはまったく別の食べ物なのだ。
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