特集 2021年7月5日

ニラを遮光すれば黄ニラになるのか

ニラのグラデーションができました。

ぼんやりテレビを見ていたら、岡山県で黄ニラを育てている農家さんが紹介されていた。黄色くて柔らかいニラだ。

その育て方はシンプルで、まず普通のニラをしっかり育てて、刈り取ってから生えてくるニラを遮光するだけらしい。太陽の下なら緑の新芽が伸びてくるけど、太陽光が届かない状況だと黄色く伸びるのだ。黄ニラはニラのモヤシっ子だったのか。

ニラなら畑に生えているの試してみたところ、とても簡単に黄ニラが収穫できた。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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黄ニラを育ててみよう

母親がやっている家庭菜園にはニラがモサモサと生えている。多年草なので一度しっかり生えてしまえば、家で食べる程度ならその後の世話は特に不要。

葉の部分を収穫をしても、またオートマチックに生えてくる便利な存在だ。ありがとう、太陽と大地。

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いつ種を植えたのかすら謎のニラ。
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ほったらかしのため、市販のニラよりはだいぶ固い。

黄ニラを育てるような方法を「軟白栽培」というそうだ。小学生の頃、ヒマワリの芽に太陽を当てないで育てるという実験をしたことがあるので理屈はわかるけれど、素人が適当にやっても黄色いニラが育つのだろうか。

モヤシのように栄養が詰まった種からではなく切株からの成長だ。太陽の光なしで伸びるのならば、根っこにノビルとかタマネギみたいなふくらみがあるはずだと掘ってみたが、ラッキョウよりも頼りない。黄ニラを生み出すほどの栄養を蓄えているのだろうか。やっぱり特別な栽培方法があるのでは。

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ニラの根っこ部分。細いネギのようだ。

五月中旬、とりあえずやってみるかと収穫したニラの上から適当な段ボールを被せて、雨避けのビニール袋で覆ってみた。

イギリスの昔話「三匹のこぶた」だったら、オオカミに一発で飛ばされる手抜き建築である。

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普通にニラを収穫。残り1センチだけど大丈夫かな。もう少し上から切ればよかったか。
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まだ台風はこなそうなので、太陽の光と雨風を防ぐ最低限の装備で実験開始。

収穫したニラはスタッフが美味しくいただきました。

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ほったらかしで育てたニラはちょっと硬いので、みじん切りにして豚ひき肉と餃子にした。
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揚げ餃子風の焼き餃子。水分が少なくて香りの強い具がミチっと詰まっているんですよ。

黄緑色のニラが生えてきた!

遮光状態におけるニラの成長速度はどんなものだろう。2週間もすれば多少は育っているかなと、畑に設置した段ボールを持ち上げて驚いた。

もう黄ニラが段ボールの高さまで達しているじゃないか。いや遮光が段ボールだったので純粋な黄ニラとはいえないが、明らかに普通のニラとは違う色白具合だ。

名づけるなら黄緑ニラか。これぞ緑黄色野菜ならぬ黄緑色野菜である。

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二週間後。とりあえず建物は無事だった。
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画像処理アプリで少しだけ色調をいじれば黄ニラと呼べそうだ。
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しなやかな柔らかさ。ちょっと細いけど適当にやったにしては十分な成果だ。

段ボールを被せるだけでぜんぜん違う野菜になるなんて、植物っておもしろいな。

本来なら収穫した後、少し太陽に当てるとさらに黄色くなるらしいが、せっかくここまで色白に育てたのに、日に焼けて緑になってしまいそうで怖くてできなかった。

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黄緑のニラを食べてみる

普通のニラと黄緑のニラを並べて、まるで違う環境で育った双子の物語みたいにまったく違う。いや立場的には双子ではなく兄弟なのかな。地上に出てからの日数が全然違う。

ここまで固さが違うと、同じ調理法では黄緑ニラの持ち味を生かせないだろう。さてどう料理しようかなーと考えるこの瞬間が楽しいんですよ。

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ほらほら全然違うでしょ。

とりあえず油でサッと炒めて、塩だけで食べ比べてみたのだが、黄緑ニラを食べて驚いた。これ本当に同じ出身地のニラなのか。

太くて白い上等なネギの中心部みたいに、柔らかくて甘くてクセがない。なるほど、農家さんがわざわざ手間暇かけて黄ニラを育てる理由はこれか。見た目通り、いや見た目以上に、ニラとはまったく別の野菜である。

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黄緑ニラの柔らかさが伝わるでしょうか。

この柔らかさをどうやって生かすか迷ったが、シンプルなラーメンに生のまま乗せて、スープの熱だけで穏やかに加熱するというのはどうだろう。さらに熱した胡麻油を上からジュっと垂らしたら、黄緑ニラのラーメンが完成だ。

略して黄緑ニラーメン(声に出して読もう)。

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自家製の卵麺とあっさり鶏ガラ醤油スープ。

これがなかなかのものだった。プツっとした歯切れのよい卵麺を邪魔しない柔らかさだからこそ奏でる、麺とニラのハーモニー。

具というよりはもう一つの麺かもしれない。そして普通のニラよりも穏やかな香りと辛味が、控えめだが効果的なアクセントになっている。

やるじゃないか、黄緑ニラ。

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僅かに火が入ったニラと卵麺が口の中で仲良く踊るんですよ。

こんなに柔らかいのなら、いっそ生でもいいのでは。

ニラを細かく刻んでアツアツのご飯に乗せて、めんつゆに漬けた卵黄と鰹節をトッピングして、生ニラ玉丼なんてどうだろう。

またの名を黄味黄緑ニライス(声に出して読もう)。

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お好み焼きの焼く前みたいですがキャベツじゃなくてニラです。

これはおそらく説明しなくても伝わるであろう美味しさだ。

不完全な遮光なので特有の辛さが多少あるのだが、熱いご飯と混ざることで僅かに入る熱だけで、ちょうどよく角が取れてくれる。それが黄味のコクに包まれることで輝きを増すのだ。

普通のニラでもネギでもなく、柔らかいニラだからこそできる仕事がここにある。

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うまい。

このようにニラの軟白栽培にある程度成功したのだが、遮光性をアップさせればもっと黄色くできるのではと欲が出てきた。遮光せずに育てた若いニラとの差も気になる。

ニラは畑にまだいっぱい生えているので、第二回黄ニラ栽培実験をやってみることにした。私は暇なのだろうか。

しっかり遮光してみよう

今度は段ボールを被せた上から、懐かしの黒いビニール袋(昔のゴミ袋は黒かったんですよ)で覆い、さらに雨避けとして透明の大きな袋を掛けてみた。

そしてその隣は日除けをしない状態にしておき、さらに前回の段ボールと透明ビニール版も用意しておく。

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ニラを刈った右側半分だけ日除けをしてある。
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刈り取ったニラはニラ玉にしたのだが、適当に作ったらニラ入り卵焼きの中華餡がけになった。レシピに間違いが5つぐらいありそうだ。

そして5日後、さすがにまだ早いだろうと思いつつ様子を見に行くと、遮光しなかったニラが、早くも20センチほどに伸びていた。えー。

今まで育ちっぱなしのゴワゴワしたニラを食べていたが(これはこれでうまいけど)、刈り取ってからすぐのニラならこんなに柔らかいのか。これは良いことを知った。

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五日後。
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まだちょっと小さいけれど、この柔らかさは貴重である。

もしかして遮光した側のニラも同じくらい成長しているのかなと段ボールを持ち上げてみると、狙い通りの黄色いニラに育っていた。前回よりもちゃんと黄色い。白い絵の具にちょっと黄色を混ぜた色。

黒いビニール袋による温室効果なのか、太陽の下よりも大きく育っているようだ。市販のビシっとしつつも色白の黄ニラと比べたらまだまだだが、ご自宅用なら十分だろう。

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黄色い。触らなくてもわかる柔らかさだ。

こうして育ちの違う4種類のニラが収穫された。

生えっぱなしの深緑ニラ、刈り取ったあとに生えた緑ニラ、適当に遮光した黄緑ニラ、しっかり遮光した黄ニラである。

並べるとその差は歴然である。美しいニラのグラデーションが見られてとても満足だ。

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右の三つは同じタイミングで刈り取った後に育った三つ子のニラ。
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黄ニラが甘くて驚いた

品種も生産地も同じなのに、味も香りも食感も違うであろう4種類のニラ。この四兄弟をどう料理しようかなーと考える瞬間がすごく楽しいんですよ。

固さにあわせて茹で時間を10秒から40秒まで調節し、塩茹でにして味を確認してみたところ、見た目だけでなく味も見事なグラデーションになってくれて感動した。これは楽しい食材だ。

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左上が40秒茹での深緑ニラ、左下が30秒茹での緑ニラ、右下が20秒茹での黄緑ニラ、右上が10秒茹での黄ニラ。

深緑はジャッキジャキ。ちょうどギリギリ噛み切れる繊維の強さで粘りがある。これぞニラのストロングスタイル。

緑はジャキジャキ。歯ごたえとしてはこれがベストかな。ニラっぽい辛さを持ちつつ旨味を強く感じる。

黄緑はシャッキシャキ。ニラの風味よりも甘さが前面に出てくる。こうなるとニラとは別の野菜である。

黄はシャキシャキ。この甘さはもはやフルーツの域かも。そりゃ黄ニラという商品が生まれる訳だ。

ニラ版の枕草子か。これを踏まえて各ニラを調理していく。

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深緑レバニラ炒め。別々に炒めると加熱具合をコントロールしやすい。固くて香りの強いニラと豚レバーが合うんですよ。この料理はしっかり育ったニラでこそ。
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緑ニラカキ炒め。カキとバランスがいいのは緑ニラだ。
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緑ニラ焼きそば。小麦粉を捏ねて伸ばして切って蒸して茹でて焼いたシンプルな麺を緑ニラがアシストしてくれる。
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黄緑ニラとエビの炒め物。エビくらいの食感と味の濃さだと、邪魔をしない黄緑ニラの独壇場となる。噛んでいるとエビとニラが同時に消える絶妙のバランスなんですよ。
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黄ニラのお浸し。やっぱりシンプルに甘さを楽しみたい。すごく贅沢な味がする。生産地である岡山ではお寿司のネタにもするそうだ。
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黄味黄ニライス。前回は黄緑ニラで作ったが今回は黄ニラで。どっちもうまいが今回はさらに上品な仕上がり。なんといっても語呂がいいじゃないですか、キミキニライス。ギブミーギブミーシェイクみたいで。

畑にいつも生えているので収穫を後回しにしてしまい、あまり活用していなかったニラだが、育て方で色と食感と香りをコントロールするという遊びを覚えたので、今後は食べる機会が増えそうだ。といいつつ面倒なので普通にニラとして食べそうだけど。

丈夫に育ったニラもうまいし、軟白に育てたニラもうまい。みんな違ってみんないい。ニラだもの。


黄ニラ作り、実験としてはすごく簡単だが、農作業としては少々面倒臭いので、普通のニラに比べて黄ニラが高級な理由もよくわかった。

まだ黄ニラを食べたことがない人は、畑にニラを植えて遮光しろとはいわないので(畑に生えていたらやってほしいが)、買って食べてみるといいと思う。ニラとはまったく別の食べ物なのだ。

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夏になると収穫できるニラの蕾も好き。詳しくはブログでどうぞ。

 

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