石川県発祥の地、美川
はじめて北陸新幹線に乗ったのだが、なにこれ?もう長野なの?といった感じで、乗換案内で時間は把握していたものの、想定をはるかに超えたスピード感があった。あっという間に金沢である。
金沢から北陸本線に乗り南西へ20分ほど揺られると今回の目的地である美川駅に着く。
美川(現在は白山市美川町)は白山を源流として日本海にそそぐ手取川の河口にある港町で、町並みはコンパクトながら碁盤の目のように整然として、洗練された印象を受ける。
ここがかつて石川県の始まりだったという由緒が醸し出す雰囲気だろうか。
醸し出す雰囲気だろうか、じゃなくてもう少しちゃんと言うと、もともと美川は本吉という地で、江戸時代には大阪〜北海道間を日本海回りで行き来する商船「北前船(きたまえぶね)」の寄港地として活況を呈していた。
明治に入り、1871年に本吉は合併で美川町となる。さらに廃藩置県で加賀や能登は金沢県となり金沢に県庁が置かれたが、そこで北部の能登半島が切り離され七尾県となった。そうなると金沢の位置は北に寄りすぎてバランス悪くね?となり(諸説あり)1872年、県の中央にある美川に県庁が置かれ、石川県となった。石川県が誕生した時の県庁は美川だったのだ。
しかし、結局能登半島がまた石川県に編入されると「じゃあやっぱ金沢がいいじゃん」ということで翌1873年には金沢に県庁が移動される。度重なる県域改変の狭間で、美川が県庁だったのはわずか1年足らずの間だった。なんというか、現場はめっちゃ忙しかったろうなあというサラリーマン的イマジネーションと共に思いを馳せ散策したのだった。
奇跡の発酵食「ふぐの子」
そんな美川の伝統的な民家や家並みが点在する町中をぶらついていると、ときおり目に入ってくるのがかわいいフグの看板である。
これらの店で手に入るのは美川の特産品、フグの卵巣(ふぐの子)のぬか漬けだ。猛毒テトロドトキシンを持つフグの卵巣をぬか漬けにして美味しくいただいてしまうという、石川県だけで許されている驚愕の珍味で、美川では現在5店舗が取り扱っている。今回は江戸時代から続く老舗「あら与」を訪れた。
あら与の創業は天保元年(1830年)、現在の荒木敏明社長で7代目となる。
「美川の港には北前船が入って、北海道から昆布やニシンとかの海産物を運んできていて、それでうちも海産物の問屋をしていました。明治に入って北前船が衰退していく中で3代目か4代目ぐらいの時やったと思うが、ぬか漬け専門に変わっていきました」(荒木社長)
ふぐの子のぬか漬けがいつごろから作られていたのか正確にはわかっていない。
「幕末の安政5年(1858年)に北前船が佐渡で積んだフグの子を美川で降ろしたと書かれたものがあって、それが私の知る限り一番古い記録で、それ以外はなかなか出てこない」
基本はぬかを落とし、薄く輪切りにしてそのままいただく。パッケージを開けた瞬間、ぬかくささが鼻をつく。おおいに発酵しとるな、やっとるなという感じだ。
口にすると強い塩気と共にさまざまな味が凝縮した濃厚なうまみがじわりと広がる。ぬったりとして、くせになる味わいだ。
魚卵の粒だちがしっかりしていてプチプチした食感も楽しめる。卵を取り出してごはんにかけたり、茶漬けにしてもめちゃめちゃうまい。
個人的にはパスタに絡める食べ方にはまった。バター醤油の和風パスタなどいろいろやってみたが薄味のペペロンチーノとの相性が至高だった。