特集 2019年3月19日

尻から油を出さずにバラムツを食べたい

バラムツを食べると体質や摂取量によっては健康被害を引き起こす可能性があります。真似しないでください。

『バラムツ』という魚がいる。7年前にも当サイトで取り上げたことがあるが、こいつを食べると色々あってお尻から油がダダ漏れになるのである。

でも味はいい。

漏らしにくい食べ方はないものか。あるいは敢えて揚げ物やコンフィといったより脂ギッシュさを増す料理にするとどうなるのか。チャレンジしてみた。

1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

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駿河湾漁師流の食べ方は

そもそも表題のバラムツという魚、とにかく身に脂が乗りまくっており味自体は悪くない。僕も個人的には大好きである。

バラムツはいわゆる深海魚で、日中は水深500mだとか1000mだとかに潜んでいる。しかし夜になると餌を求めて水深100m近くの浅い層へ浮上する生態を持つ(『日周鉛直移動』という)。

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釣り上げられたバラムツ。水深750mより。

この魚は英名を『オイルフィッシュ』というほど全身に大量の脂肪分を蓄えていることで知られる。

これには理由があって、脂肪は水より比重が小さいだろう。つまり海水中で浮力を得るための、いわばうきぶくろ代わりとして機能しているである。これが普通の魚のように空気の詰まった浮き袋だと、深場から浅場へ急浮上した際に圧力の急減でバコンと膨張して死んでしまうのだ。

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バラムツはうきぶくろを持たないため、水面直下でも姿勢を保って泳ぐことができる。

 しかし、その脂が人間には消化吸収できない類のもの(ワックスエステル)であるため、食べるとお尻から油がマウストゥエイナスで流れ出るという恐ろしい特性を持つ。

それだけならまだしも多量に食べると下痢などといった健康被害を引き起こすため、食品衛生法により市場への流通が禁じられているのである。

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バラムツの身。脂で真っ白に濁っている。

しかしそんな法律ができたのもここ数十年の話であり、駿河湾や大東島などバラムツが採れる海域ではかつて食用に供されていたのだ。

現在でも駿河湾の漁師さんなどは出荷こそできないまでも、何かの拍子にバラムツが採れると持ち帰って自家消費すると聞く。

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近縁のアブラソコムツという魚も同様の特性を持ち。取引が規制されている。

バラムツは刺身もうまいが、脂をフルに摂取することになるためあまり量を食べることができない。そこで漁師さんたちは煮るなり焼くなりして余分な脂を落とす調理法でおかずにしているらしい。

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バラムツの刺身。危険な白さ。

では果たして決壊事故を避ける、あるいはその被害を最小限に抑えるためにもっとも効果的な調理法はどんなものなのだろう。

セルフ人体実験してみた。

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実験にあたっては各料理ごとに200g分のバラムツを使用。これを一日で食べきる(昼・夕二食に分割)。200gといえば刺身で食べればまず油漏れが起こる量である。ここで日和って量を減らしては実験の意味がない。

西京焼き

駿河湾で漁師さんにバラムツのおいしい食べ方について聴き取りを行ったところ、以外にも『味噌漬け』もしくは『西京漬け』という答えが返ってきた。焼き物である。

西京漬けにはサワラやギンダラなどやはり脂が乗った魚がよく用いられる。ならばバラムツがそれに合うというのは納得できる話だ。試してみよう。

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西京味噌と酒、みりんに漬け込んで焼く。

網で焼くと脂が火に落ちまくって煙がえらいことになりそうだったのでフライパンで焼いてみた。賃貸なので無茶はできない。

テフロン加工が施された鍋底に油をひかずに西京漬を並べて焼く。すると、焦げ目がつくより先に身から油をタプタプ染み出す。

西京焼きというより西京ソテーにガラパコス的進化を遂げようとするバラムツ。そうはさせまいと油をキッチンペーパーでぬぐいながら焼き上げる。

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バラムツの西京焼き。皮は身崩れを防ぐためにあえて残してあるが、トゲ状のウロコに覆われていて食べられない。バラムツという名はこのウロコを薔薇のトゲになぞらえてつけられたものなのだ。

食べてみると、溶かし絞ったとはいえまだまだ脂はしっかり感じる。そんなにがっつり抜けている気はしない。
味は…とりあえず美味い。西京焼きで言えばサワラとギンダラの中間と言った味わい。

ただ油が強すぎるためか、両者に比べるともうちょっと品に欠ける感はある。味が良くも悪くもダイナミックになりすぎているのだ。

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うまい!さすが漁師さんのオススメ。

食感はサワラやギンダラよりもやや硬く、噛みごたえがある。噛みしめると肉汁…もとい油が滲み出てくる。

悪くはない。事情を知らない人に黙って食べさせたら、大抵の場合は美味い美味いと喜ぶだろう。こってり系の魚が絶対ダメって人でなければ。

そして気になる翌日の経過は「出るには出るが生食ほど多量ではない」といったところであった。食べる量を半分に抑えていたら無事で済んでいたかもしれない。やはり加熱による脱脂は確実に効果があるようだ。

バラムツ大根

西京漬けと並んで漁師さんの推しが多かったのが煮魚である。たしかにブリのあら煮なんかを考えるといい具合に油脂分が煮汁に溶け出てくれそうではある。
よし、ならばぶり大根ならぬバラムツ大根にしてみよう。

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煮崩れを防ぐために皮をつけたまま煮ると形こそ整いやすいがアクが出たり、尖ったウロコが煮汁や身の上に散ったりして面倒だった。皮は剥いてから煮るべきだったろう。
 

火にかけると油がすさまじい勢いで煮汁に浮いてくる。

しっかりと煮るとほどよく脂の抜けた肉がキュッとしまり、元ネタであるブリに近い食感に。ブリよりはちょい固いかな。味も……想像以上にブリそっくりだな。うまい。

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バラムツ大根

これならぶり大根の代用にもなりそうではある。…戦後の闇市でまともな酒の代用としてメチル焼酎を飲む、みたいな話なのでオススメはしないが。

バラムツよりブリの方がはるかに入手しやすいし、代用を強いられるシチュエーションも国内ではほとんどなかろう。お尻を濡らす危険もないし。おとなしくブリ食べよ。

なお、やはり洗った中骨を一緒に煮てやると煮汁の味が深くなった。いくらかダシも出るようだ。

なお、お尻関連のアレはかなり少なく、下着を汚すことはなかった。しかし、完全にセーフというわけではなく、便意やガスの予兆を感じたらすぐさまトイレに駆け込む必要はあった。

煮汁に脂が溶け出すことでギリギリのラインで踏みとどまったのだろう。この日は体調がすこぶる良かったというのも関係ありそうだ。

そぼろにしてパスタに

また、焼き物の応用でひたすら炒めて油を絞り出し、その出がらしであるそぼろを食べるという手はどうか。

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フライパンの上に切り身を直に並べて加熱
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細かくほぐしていくとより効率よく油が抜けていく
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みるみるうちにフライパンに油が溜まっていく。放っておくと身が揚がってしまうほど。

肉を炒めてそぼろ状にし、油をよく切ったら他の具と調味料を加えてスパゲティを絡めてみる。
まあ美味い。美味いよ。

が、思ったよりも脂が抜けておらず少々くどい気もする。いや、この手放しでおいしい!と言えない気持ちの原因は脂のくどさではなく、暴発への恐怖だろう。

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バラムツのパスタ

本当は二皿目にいきたいのになかなかいけない。人としての尊厳が脳をジャックし。おかわりを阻止しようとする。

それでもなんとか1日で完食した結果、翌日はやはりいくらかの漏洩が見られた。たっぷり油が出たように見えて思いのほか残っていたようだ。炒めるのではなくほぐしながら水煮にしてやる方がまだ良かったように思われる。でも生よりはだいぶマシ。

あと、アサリは余計であった。見栄えを求めて投入してしまったが、ダシが強すぎてバラムツの味がわかりにくくなってしまった。凡ミスだ。

バラムツの沖縄天ぷら

加熱すると油が抜けて翌日のアフターケアが楽になることは確認できた。

だがしかし!油で揚げたらどうなるだろう?油と油がタッグを組んで攻めてくるのか、あるいは油と油がお互いを抑え込み合うのか。…まぁ恐らくは前者だろう。そんな都合のいい話はない。

が、焼き物煮物炒め物ときたら揚げ物をはずすわけにはいかない。フリットのように厚い衣が特徴の沖縄天ぷらを作ってみる。

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バラムツの沖縄風天ぷら

カラッとふわっと、我ながらいい感じに揚がった。サクッと歯を立てた瞬間噛、ジュワワワワァッ!!と肉汁が溢れ出す。ジューシー!!

……いや、なんか違うぞコレ。こりゃ油だ。肉汁と呼ぶにはこのリキッドには水分が足りていない。ほぼ100%ピュア油。こういうのはジューシーではなくオイリーというのだ。

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う、うまいけどクドい…!

翌日はもちろん出た。 刺身の場合と遜色ない、実にたのもしい量と持続時間であった。

この辺りで消化器系とお尻と精神の健康が心配になり数日間のインターバルを挟んだ。久しぶりに実家の両親と電話で話した。

「仕事が忙しいのでは」と心配してくれていたが、まさか尻から油を出す仕事に追われているとは夢にも思うまい。

バラムツのコンフィ

さぁ、復帰戦は揚げ物のさらに上をいくであろう油料理、『コンフィ』だ。

コンフィとは肉や魚を低温の油で煮込む料理である。油で包み込んで加熱するため、食材の旨みがミチっと閉じ込められる。

脂を油で!一番バラムツに対して行なってはならない調理のような気がするが、このマッチングに興味を抱かずにはいられない。気づくとオリーブオイルへローズマリーやローリエ、ニンニクとともにバラムツを投入していた。

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ジップロックに密封して炊飯器へ。60℃で二時間保温して完成。

…かたや低コレステロール!ヘルシーヘルシー!ともてはやされる健康志向なオリーブオイル。かたや食品衛生法で「お前は有害!」と公にNG出されちゃってるアンヘルシーなバラムツワックス。両極端な二者のマリアージュだが、思いのほか悪くない。そりゃそうだ。ワックスエステルとはいえ、味は紛れもなく魚脂。オイルサーディンが美味いのと同じ道理である。

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バラムツのコンフィ

油脂×油脂の危険なハーモニー。間違いなくおいしい。…しかし、なんせクドいのよね。油脂×油脂のハーモニーは危険だからね…。二食に分けるとはいえ200gを完食したのちは胃がもたれて仕方がなかった。仕事が残っていたが、いつのまにか布団で横になっていた。

で、結果。意外に煮込んでいる間にワックスとオリーブオイルが置き換わってまさかのセーフ!という展開もあるのでは…。と期待していたが、やはりダメ。もう尻油シャバダバ出ちゃってまったく。刺身や天ぷらと同等。胃もたれはそれ以上。

刻んで洗ってバラメンチ

油に油は無理があることはよくわかった。だが最後にもう一つ、本命ともいうべき調理法を試したい。
バラムツの肉を細かく刻んで、ひたすら洗うのだ。

ふざけているようだが、これは実際にバラムツの可食化を目的として研究開発された技術である。もちろん、ここで紹介するものよりはるかに大規模で高精度な実験だが、論文にもなっていたように記憶している。

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細かく細かく叩いてミンチにし…
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ひたすら水洗いする。罪悪感と背徳感に苛まれる作業だ。
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上澄みが透き通ってくるまで洗い続ける。

今回はこの磨きバラムツをメンチカツにしてみようと思う。洗浄によって失われたであろう油脂分を揚げ油で補うために。

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バラムツのメンチカツ、略して『バラメンチ』

さぞボッソボソな仕上がりかと思いきや、ほんのりと油脂分が残っていい具合に仕上がっている。メンチにしたのは正解だった。

洗い流されたワックスの分をサラダオイルが補い、油とたんぱく質の塩梅が丁度いい。

魚としての旨味はかなり飛んでしまっているのは残念だが、仕方がない。なんせ水洗いしてるからな……。

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合わせた具はタマネギ。中はふんわり。なかなかいける。何より尻と誇りが無事で済む。

でもアリかナシかで言えば思いっきりアリだ。おいしいよ、意外と。

そしてついに!翌日も油漏れゼロを達成したのである。
試行錯誤の末、ようやく「ゴリ押しでワックスを洗い流す」という正解にたどり着いたのだ。感慨深い。

海外では流通している

今回はまとめて200gも食べているので漏らすケースも多いが、量と調理法さえ間違わなければバラムツを無事に食べることは十分可能なのである。

その証拠に、海外ではごく普通に販売されている国が多く存在している。東南アジア諸国をはじめ北欧、アメリカでも食用に流通することがある。

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たとえばタイ王国のマックスバリュ
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ここには冷凍魚介売り場のストッカーにバラムツやアブラソコムツの切り身が積まれている。あちらで買える魚としてはかなり高価。高級魚の部類だ。

無論、そうした国の人々が平気な顔して油を垂れ流しているわけもなく、正しい調理法と食べ方を心得ているものと考えられる。

思うに、一番ダイレクトに影響が出る刺身などの生食文化があったことも日本では扱いが厳しくなった理由なのではないだろうか。となると容認されている国にはそういう食文化がなかったからこそ食材として定着したのだろうが、和食ブームの昨今である。密かに決壊事故も起きているやも知れない。


真似しないで!気になる人はアブラボウズを

こういう変わった食材の食レポ記事を読むと、「何これ!食べてみたい!」と思ってしまう方も多いと思う。
しかし、バラムツはやめといた方がいい。曲がりなりにも国が流通を規制するようなものであり、たとえ量を絞っても体にいいものではないのだから。

たしかに脂が乗っていておいしいのだけど、だったら味の系統が近しい『アブラボウズ』を買って食べることをオススメする。負けじと脂が乗っているし、なんならこちらの方が上品でよりおいしいとまで言える。ちょっと高いけどね。
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同じく脂の多い深海魚だけれど、市場に出回るアブラボウズ。詳しくはこちらの記事をどうぞ。
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