駆除根絶は非常に難しい
というわけで沖縄本島に潜む外来ヘビについて駆け足でお話ししました。
外来種!しかも毒ヘビもいるのか!と聞くとすぐに『駆除』というワードが浮かぶかもしれないが、そう簡単な話ではない。
タイワンハブやタイワンスジオに限らず、ヘビは隠れ忍ぶことに関しては極めて優秀。
一度定着してしまうと駆除を始めても根絶は非常に困難です。
今後、新たな外来ヘビが侵入しないよう願うばかりです。
頼むからもう変なヘビ持ち込むなよな……。
現在、日本にはざっくり分類して25種ほどの在来ヘビが分布している(ウミヘビ除く)。そしてそのうちの7種が沖縄本島に生息する。あの小さな島に実に全体の3割以上、すごいヘビ濃度である。
そして、近年ではさらに4種の外来ヘビ、つまり本来は沖縄本島にいなかったはずのヘビまでが侵入、定着しているという。これ以上増やしてどうするのか。
コンプリートを目指して観察に行ってきた。
沖縄といえばハブ!というイメージをお持ちの方も多いことと思う。
しかし、ハブ以外にも沖縄産のヘビというのはバリエーションに富んでいる。
ウミヘビまで含めるとえらい種数になってしまう。
だが、外来ヘビたちも負けず劣らず個性的である。
まずはいきなり変わり種からいってみよう。『ブラーミニメクラヘビ』という名前からして異国情緒溢れまくりな外来ヘビだ。
おそらく沖縄県で一番個体数が多いヘビだが、意識して探さないとなかなかお目にかかれない種である。
そのヘビが人目につきにくい理由は二つ。まず、小さい。
日本原産ではないのだけれど、現時点で日本に分布しているヘビの中ではぶっちぎりで最小。大きな個体でも体長は15センチほど。太さはそばかひやむぎくらいしかないのだ。いても見落とす。
次に、基本的に表に出ない引きこもり体質であること。地中、石や落ち葉の下、朽木の中に潜ってシロアリなどの小さな虫を食べているヘビであるから、観察するには意図してそういう場所を探さないといけない。あるいは雨後の夜間に路上や排水溝に迷い出ているところを見つける方法もあるが、それこそ意識しないと絶対スルーする。
スルーするといえば、本種よくヘビではなくミミズに間違われる。僕もはじめて遭遇した時は「黒くてめっちゃのたうちまわるミミズおるやん!」と思った。騙された。
手にとってみて、はじめてヘビだとわかったのだった。これもこのヘビがヘビと認識されない理由の一つと言える。
ちなみに実はブラーミニメクラヘビの原産地はハッキリしていない。インドあたりではないか?とは言われているが、どうやら気づいた時にはすでに世界各地の熱帯・亜熱帯に広がってしまったあとだったということらしい。
ブラーミニメクラヘビは作物の用土などにダンゴムシやミミズのように紛れて侵入するため、こういう「いつのまにかいました…」が起きてしまうのだ。この手の生物はけっこう多い。
コツさえつかめば探し出すのはそんなに難しくない。秋冬や春など地面が熱くならない時期に農地近くの石や倒木を起こしてみるとけっこう見つかる。夏は地表の熱を避けて深く潜るようで、地表の冷えた深夜に畑周りの排水溝を覗くと効率が良い。
なお、沖縄本島では北から南までまんべんなく見られる、八重山諸島など離島にも多い。この手の生き物は拡散力がハンパないのだ。
ブラーミニメクラヘビに関しては土壌に暮らす小動物への影響はあるだろうが、人間や家畜に直接的な害は無い。だからこそ気にも留められないのだが。
しかし、それが毒ヘビとなれば話は別。新顔であろうと生息地における周知と認識は急速に進む。
台湾からやってきた『タイワンハブ』はまさにそれ。沖縄に元からいるハブ(便宜上以下『本ハブ』)よりずっと小型で模様も違うが、タイワンハブが定着しているエリアの農家さんなどはほとんど皆、その名前と特徴をきちんと把握している。
現在ではかなりの数が定着しているようで、今回の取材でも現場入りしてすぐにその姿を見ることができた。残念ながらできてしまった。
タイワンハブが出没するのは読谷村や名護市といった沖縄本島の真ん中よりちょい北側。国立公園指定された『やんばる』の手前である。これがマズい。このまま北上していくと、毒ヘビだから危険!という点以外にもう一つ大きな問題が生じる。
タイワンハブは小型の哺乳類や鳥類だけでなく、カエルやトカゲ、あるいは他のヘビなども捕食する。
さらなる分布拡大を許してしまうと、クロイワトカゲモドキやイシカワガエル、ヤンバルクイナといった希少な種が食害を受ける可能性がある。
あるいは本ハブをはじめとするその他の在来ヘビが駆逐されるケースも考えられる。そういう人間外目線の思考も大事だとおじさんは思うよ!
で、このタイワンハブとよく似た事態が沖縄本島南部でも起きつつある。
糸満市など本島南部にはややこしいことに同じ沖縄県内の離島である八重山諸島からやって来た『サキシマハブ』というハブが繁殖しているのだ。
サキシマハブもやはりクロイワトカゲモドキなどの希少種を食べる。また、サキシマハブが増えた地域(一晩で数十個体も見つかることがあるほど密度が高い)では本ハブの姿がほとんど見られなくなったと地元のハブ捕り師も証言していた。すでに生態系へ何かしらの影響は出つつあるようだ。
こういう日本国内での移動であっても本来生息していない地域に持ち込まれた生物は『国内外来種』と呼ばれる。
しかし、こうした国内外来種は『なんか説明しづれえから』『国内なのに外来種とかややこしいから』という作り手側の都合でテレビをはじめとするメディアでは取り上げられる機会が少ない。だから今日この機会に覚えておいてください。
沖縄本島に定着している4種の外来ヘビ、ここまでは割とポンポンと見つけることができた。しかし、残る一種で恐ろしい苦労を強いられることになった。
最後のターゲットの名は『タイワンスジオ』。やはり台湾原産のヘビで、毒はない。
しかしデカい。大きなものは体長2メートルに達し、体色も黄色のまだら模様がド派手で非常に目立つ。
また、生態も特徴的で他の沖縄産ヘビたちがことごとく夜行性であるのに対してタイワンスジオは昼行性。日中に活動する。しかも獲物を求めてせわしなく動き回るタイプだという。
そしてさらに!このヘビを沖縄の人々にとって良くも悪くもスペシャルたらしめているのが『値段』。
なんとこのタイワンスジオ、定期的に沖縄県が買い取り事業(研究目的)を展開しているのだ。この時(2018年秋)は1匹あたり5000円の値がついていた。
研究目的とあっては今回の取材中に捕獲したものを買い取っていただくのもやぶさかではない。ウヘヘ、一攫千金だぜ。あくまで研究のためな!
しかしそんなに目立つヘビならすぐ見つかるだろう!五千円いただき!…と踏んでいたのだがだが、目撃情報の多い場所を4日間、朝から日が落ちるまで探しても全然見つからない。
しかし、試行錯誤の末に5日目の朝にようやく見つけたのがこの子!!
農地の路上にベロンと落ちていた全長2メートルに達する立派な(沖縄で立派にならないでほしいんだが)タイワンスジオ!
たいへん美しいヘビで、見つけた瞬間に目から背筋にバチっと電流が走ったような思いであった。惜しむらくはここが本来の生息地ではないことだが。
捕まえたタイワンスジオはなかなか活発で、隙あらば噛みつかんという意気込みをイヤというほど見せてくれた。このヘビは毒こそないが、顎の力は強いため噛まれれば出血はまぬがれないし、細かいガラス状の歯が皮膚の下に折れて残り炎症を起こすこともある。噛まれないよう気をつけるにこしたことはない。
さて、その後冷凍したタイワンスジオを研究機関に持って行った(※タイワンスジオを買い取ってもらうには事前の登録が必要)。
まずお金を受け取る前に研究員さんと面談。「発見した日時と場所をできるだけ詳しく教えてください」「発見時、体勢や行動などスジオの状態はどうでしたか?」など、なんだか取り調べ感あふれる聞き取り調査に応じる。
さて、全ての工程を終えると「ご協力ありがとうございました。お疲れ様でした。」という労いの言葉とともに封筒が渡される。もちろん中には五千円!!
……しかし、ざっと計算しても捕獲に要した時間は32時間ほど。つまり時給換算するとわずか156円 /時!お安い!!
しかも、取材期間中は連日真夏日でドリンク代もかさんだしタイワンスジオを求めて徘徊するためのガソリン代もバカにならない。つまり大赤字だ。
でもまあお金のために捕まえたわけじゃないし、これで沖縄の生態系を守る研究の役に立つんだからいいんだ。これでいいんだ。むしろ副産物としてお金もらえて超ラッキーなくらいだ。
……時給156円かぁ。
というわけで沖縄本島に潜む外来ヘビについて駆け足でお話ししました。
外来種!しかも毒ヘビもいるのか!と聞くとすぐに『駆除』というワードが浮かぶかもしれないが、そう簡単な話ではない。
タイワンハブやタイワンスジオに限らず、ヘビは隠れ忍ぶことに関しては極めて優秀。
一度定着してしまうと駆除を始めても根絶は非常に困難です。
今後、新たな外来ヘビが侵入しないよう願うばかりです。
頼むからもう変なヘビ持ち込むなよな……。
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