奄美大島だけで見られる赤いカミキリ
6月の終わり、奄美大島の深い森の細い木を囲んで大人たちがひざまずいている。
彼らが御神木をあがめたてまつるようにしている先にはこのお方がいた。
体長3cmほどの小さなカミキリムシである。赤い体に黒い斑点、フェリエベニボシカミキリという。皆からは「フェリベニ」と呼ばれていた。高島屋でハンドバッグを売ってるブランドのようだ。
本州には似たようなフォルムでこれまたやばいくらい鮮烈なブルーが人気のルリホシカミキリという種がいるが、同じルリホシカミキリ属のなかまである。
奄美大島のみに生息し、成虫が活動する期間も短い。この梅雨と夏の狭間に現れる貴重な森の宝石に会うために地元の生物好きは昼間の森へとやってくるのだ。
今回集まったメンバーの大半は特に約束していたわけでなく、「そろそろフェリベニかな」と山に来て偶然居合わせたのである。そんな地元のファミレスみたいなことがあるのか。
皆適度に距離を取って虫に触れないようにしている。希少種につき県の条例で捕獲が禁止されているのだ。
このカミキリウォークに連れていってくれたのは、2月に企画した真冬のハブ探しでお世話になった認定ガイドの西真弘さんである。
しかしこのフェリベニを見つけたのは山の中を3時間ほど徘徊した帰り道だった。それまでに別のうれしい出会いがあったのでまあ見てやってください。
こうして私はまた奄美を目指した
「いつも夜に歩いていますがこんどは昼間に森に入りませんか?この時期にしか見られないカミキリに会えるかもしれません」
西さんからのメッセージを受け取り、祝日のない6月の疲労感に耐えかねていた私は「よっしゃ月末に行きますよ」と朝9時30分に奄美空港に勢いよく降り立った。出勤じゃねえか。
ひたすら谷をくだり、光るヤスデを見る
「成虫が見られるのはだいたい7月から1ヶ月足らず、森の深いところの立ち枯れ木によく集まるんですが、個体数は多くないので見つけるのがなかなかむずかしいです」
近年よくフェリベニが来ているポイントを回るのだがそこで見られるかはわからない。
「奄美は降水量も多く湿度が高いので枯木が朽ちるのも早いです。去年までいい感じだった立ち枯れ木が倒れてボロボロになってしまったり、コンディションが変わりやすいのでそうなるとまた探さなければいけないんです」

