特集 2021年2月19日

米軍統治下に建築された沖縄の銀行

2020年12月、沖縄のオフィス街の中心である那覇市久茂地(くもじ)にあった琉球銀行本店ビルが老朽化に伴う建て替えのため営業を終えた。

地上5階、地下1階の建物で、建設されたのは1966年の沖縄が米軍統治下の最中。

米国民政府と沖縄米国陸軍工兵隊の監理の下でアメリカの設計事務所が設計し、地元の建設業者が施工。

当時のアメリカの先進技術が詰まった建造だった。取り壊し前に内覧会が催されたので参加してきた。

大阪出身。沖縄に流れ着いて10年ぐらい。「ぱちめかす」という沖縄方言が、やることと響きのギャップがあって好き。

前の記事:いつもの景色でビンゴ!沖縄で移動式ビンゴを作った


沖縄に伝わるアメリカ様式

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沖縄といえば赤瓦の家に屋根の上にはシーサーという光景を思い浮かべがちだが、沖縄は1945年から1972年5月15日の沖縄本土復帰に至るまで27年間アメリカに統治されていた時代がある。

なので、街のあちこちにはまだ米軍基地関係の軍人やその家族のために建てられたアメリカ様式の外人住宅と呼ばれる建物が残っていたりもする。

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これは外人住宅

今回の琉球銀行ビルも、昔に建てられた沖縄の建築物だが、ただノスタルジックなだけでなく、アメリカ様式が入っていることが戦後の沖縄史を語る上で重要な建物だった。

琉球銀行 BANK OF THE RYUKYUS

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琉球銀行を英語表記すると「BANK OF THE RYUKYUS」。
普通に表記すると「BANK OF RYUKYU」のはずなのにTHE RYUKYUS

これも建物と同じく歴史的な背景があり、RYUKYUSは琉球列島を意味しているそう。

現在は沖縄県の地方銀行である琉球銀行だが、もともとは1948年に米国民政府によって戦後のインフレ抑制と沖縄経済を支える特殊銀行として設立された。

1966年に本店ビルが久茂地に建設される前は、戦争で焼け残った他銀行跡を緊急補修することで開業している。

琉球銀行のサイトによると「設立初期の業務内容は、米国軍政府資金の預託機能や一般銀行業務に加え、通貨発行権、金融機関の監督統制権、加盟銀行に対する援助、不動産債券の発行権など、中央銀行的色彩がきわめて強いもの」だったようだ。

沖縄が本土復帰した1972年に普通銀行になるが、英語表記に残る名前には復帰前の沖縄を支えてきた気概のようなものを感じることができる。

琉球銀行本店ビル内覧会

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本店ビルが解体される前の2020年11月14日に「琉球銀行本店ビル内覧会」が催され、事前予約した50名限定で銀行内部を見られる機会が作られた。

ただしそのときはまだ本店ビルとして銀行が営業中だったこともあり、撮影できる場所も限定され、写真をネットでの公開することも禁止。

現在は営業を終えて取り壊しに入ったので琉球銀行から許可を得て、当日のようすをレポートさせていただきたい。

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50名の中からグループが作られ10名ほどが1組となり、まず案内されたのは2020年夏頃まで使用されていたという地下にあるメイン金庫。

この金庫は落成当初から現金や重要書類が保管されていたそう。

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めちゃくちゃ重そうな扉。

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扉だけで重量約800キロ、厚さは30センチあるそうだ。

開け閉めしてみていいよと言われたので触らせてもらったが、腰から力を入れて踏ん張らないとビクともしなかった。

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アメリカ・モスラー社製らしい。
期待したが、金庫の中身は空っぽだった。

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金庫の後ろは人がひとり通れるぐらいの細い螺旋階段。

銀行強盗対策だろうか、大勢の人が一気にこの場所に来れないようにしているらしい。

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今は映画でしかみないようなエレベーターもあった。

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ボタンがシンプルすぎる。

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アメリカ様式が残る建物内

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地下から移動して1階奥。停電に備えた自家発電機。

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落成当時から営業終了前まで50年以上、現役で稼働し続けたそう。

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3階の応接室。

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アーチ状の窓と青いガラスが特徴。
窓は全て密閉されていて、1966年当時では画期的な全館冷暖房完備の建物だった。

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窓と一体にデザインされた空調ダクト。

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外から見ても特徴的な青いガラスは、新しく立て替える本店ビルでも使用を検討しているそう。

興味深かったのが、もともとは3階建てだったのに、4階、5階は2年後に増築されたとか。
もともと計画していたらいしが、継ぎ目も違和感もない増築すごい。

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設計図も見せてもらえた。
青焼き手書き図で、寸法はフィートやインチが使われ、英文で記載されていた。

業務中とのことで写真には写せなかったのだが、業務スペースには柱や梁がなく、広くオープンなスペースになっていた。

これは沖縄の民間建築物では初めて採用された「プレストレス工法」という工法で、あらかじめスラブに高強度の鋼線を引っ張る力を加えて床を固定していたそう。

またすでに使用されていないとのことだったがが、エアシューター(「吹き矢」の原理でカプセルに入れた書類を離れた部屋に飛ばせる)など最新の仕組みも採用されていた。

施工は沖縄の建設事業者が行なったため、琉球銀行本店建設がアメリカの多くの最新技術を沖縄の業者が取り入れるきかっけになり、その後の沖縄の建設技術を飛躍させることにもなったそう。

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こちらももう使われていないが、建物側面には「ドライブインバンキング」の窓口跡。

車を横付けして、マイクを通じて行員とやりとりをし、現金を受け取れる機能があったそうだ。 

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ATMのはしりである。


建て替え工事はじまる

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2020年12月に営業は終了。あとは建て替えを待つのみに

そして2021年1月頃の琉球銀行旧本店。
本店営業部、那覇ローンセンター出張所等は昨年12月に仮本店ビルへ一時移転した。

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新しい本店ビルはホテル機能も持った地上13階建てで、2025年に完成予定とのこと。
50年以上にわたって那覇の代表的な建物だった琉球銀行旧本店ビルがなくなるのは寂しいが、新しいビルに青いガラス窓などが引き継がれて使われていたら、こみあげるものがありそう。

多くの沖縄県民に親しまれていた琉球銀行旧本店。
さようなら、今までありがとうございました!

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